多分これ以降は絶対に触れられない五助君ェ
「――――うわあああ!? ちくわぶぅううううっ!!」
「うにゅ……、夜中にどうしたの? 勇音ちゃん。悪夢? おでんのお化けに襲われた? おねしょしてない?」
「し、してないもん! もうそんなの卒業したんだからっ! とっくの昔に!」
「あらあら……。もうちょっと静かにね~、清音ちゃんも寝てるんだから。
……この子けっこう肝が太いのかしら、全然今のでも起きないですーすー寝てるもの」
突如、寝室にて絶叫を上げて飛び起きる少女。否、少女と言うにはいささか身長が大きすぎるが、そんなオドオドとした様子の彼女、虎徹勇音は隣からかけられた声に全力で抗議した。
目をこすりながら身体を起こす
そんな彼女に、勇音は顔を赤くしながら言う。
「
護廷十三隊、お父さん以外で初だよぉ……、お兄ちゃんは鍛冶継いでるし、お姉ちゃんはアレだし……」
「お姉ちゃんをアレとか言わないのっ」
「だってぇ~。それに私の配属先って四番隊だし、しかもお父さんが尊敬してるって言ってた卯ノ花隊長から直々に指名されたんだよ? これってもう、びっくりじゃない!?」
「コネ、ではないと思うけれど、あの人も結構シビアな人だったからなぁ……。霊術院に前に来てた時とか」
笑顔が色々怖い人だったけど、と苦笑いする母親の言葉も耳に入っておらず、わーわーと小声でぶつぶつ騒いでいる勇音。
そして、ちらりと隣の
一体どうしてこうなった。ごはんだって身体が大きくなり始めてからはどんどん減らしたし、今じゃ祝い事とか以外は朝晩時々昼までほぼおかゆしか食べてないって言うのに。
「うぅぅ……、私だってお母さんみたいに可愛かったら……」
「か、かわいくないよ? えへへ……。どうしたの? お母さん相手に」
「流石にお姉ちゃんの
「まあ、お母さん相手だと言えない悩みとか、ぶつけ先がないものね。○○○とかもできないし」
「お母さん待って! 夜中だけど隠語なしで言っちゃ駄目だよ!? 横で清音が寝てるのにそのアバウトさ駄目だと思う!!?」
「大丈夫じゃないかとお母さん思うのです。ぐっすり寝てるならそれはそれで良し、起きてたとしてもこの子だって来年か再来年から霊術院だし、このテの話に耐性つけさせておかないと」
規律厳しいから基本無理やりとかは大丈夫だと思うけど、身持ちはしっかり捧げる相手以外には堅くしないと、という母親。なまじ伝え聞く伝説の
もっともそう聞けば「面倒くさい面倒くさいって言ってたから最初、てっきりウチの実家頼りになるかなってたんだけどね? あれって責任感の裏返しだったみたいで、実際すごい真面目に働いてお金も持ってきてくれて、もっと惚れ直しちゃったわ! あっはっは!」などと惚気る始末。
すーすーと寝息を立てる妹をみつつ、姉である勇音は母親に聞く。
「錫音お母さん……、ちなみになんだけど?」
「何かしら?」
「お父さん、どうやってオトしたの? お父さん優しいけど、のらりくらりって感じで全然話が進展しないと思うんだけど、普通にしてたら。『特別を持たない』ようにしてるっていうか、普通っていうのに凄いこだわりがあるって言うか」
娘の言葉に母親は、一瞬ぴしりと笑顔のまま固まり。少ししてから襖の外へと視線を向け、遠い目をして。
「…………えっと、えと、隙を見て?」
隙を見て? と意味が分からず繰り返す娘に、母親たる彼女は「あはは……」とひたすら微笑んで誤魔化しにかかっていた。
※ ※ ※
「人の家の娘を卒業と同時に人質にとるの、止めてもらせませんかね? 初代」
「あらあら人聞きの悪い。優秀な回道成績者を引き抜いただけで随分な言われよう。こんなか弱い乙女を前になんと、なんと! 心無い言い様でしょうか」
「基準を更木隊長にするの止めてもらって良いですかねぇ。下手すると大半の死神がか弱いことになってしまうのですが?」
特に卍解以降まで踏まえると、などとのたまう虎徹志道を前に、四番隊隊長・卯ノ花烈は「あらあら」と誤魔化す様に微笑んでいた。とはいえ彼からもたらされた更木剣八の卍解というフレーズは中々そそるものがあったのか、微笑む雰囲気に反し部屋中に霊圧が放射されている。上がったテンションに応じて戦意やら殺意やらが漏れ出ているのだ。
もっとも冷汗を流す志道であるが、こちらもこちらでそれ以上のリアクションを見せないあたり、外から見れば底が知れないだろう。
場所は四番隊隊舎、隊主室。志道の管理する事務室ほどではないが、最低限書類作業ができるようになっているが、とはいえそこは一般的な隊主室。隊長の趣味が出ており、多少くつろぎを感じさせる空間だ。
まあ実際は卯ノ花烈の性格からして
とはいえ現在、彼女自身は「私は剣八として死にました」と言ってはばからず、その猛威を完全に振るう機会は……、機会は…………、いやよく戦闘に出たがるし一度戦闘に出れば鎧袖一触であるのだが。やはりメンタルが蛮族の類なのかもしれな――――。
「はて、そこの。何か?」
――ふぇ!?
な、何で? こっちのことなんて視えてる訳でもねぇくせに……!?
「多分何でもないですよ」
わた、あっ、震える自分の斬魄刀を撫でる志道。その視線を彼の斬魄刀に固定し「霊圧で」威圧をかけていた彼女だったが、彼の一言に「そうですか」と少し和らげる。
きっちりしつけておきなさい、などと恐ろしいことを言う卯ノ花烈に、志道は「内心の自由くらい保証していただければと」と、男気溢れる説得姿勢。
「組み敷いた自分の
「家内もさきちゃんも組み敷かれた方の立場っぽい形なので、その類のことを言われると中々その……」
途端、痛い所を突かれたように頬が引きつる彼。
あけすけに言われても、とこれには卯ノ花の方とて苦笑いを返した。
「まあそうですね……、家庭外に何もなければ、夫婦仲が良いのは結構なことかと。
「そう言っていただけると、ありがたいですけどね。
でも、真面目にどうしてウチの勇音なんです? 成績はともかく、気質はあまり『戦医』という方向には向いていないと思うんですけど――――嗚呼なるほど、引継ぎ先がないってことですか」
「ええ。山田隊士、清之介の後を決めないとなりませんので。数年で引継ぎを終え次第、彼には新しい仕事が待っていますから」
彼も彼で少々特殊でしたので実力優先にならざるをえません、と卯ノ花は微笑む。
「山田清之介……、弟君も再来年あたり霊術院に入りますけど、どちらも回道の成績は上々と。そうなると気質も必要とはいえ、そこは鍛えられる範囲とお考えと? ――――あー、僕を基準に考えるのも参考にならないかと思いますけどね」
「いえ、貴方も中々のものですよ? 『立場によって生じた責任を果たそうとする』、生真面目というには少々軽いですが、責任感だけは強いところなどそっくりだと見ました」
でなければ院生結婚の前に大問題になっていたでしょうから、と卯ノ花。
苦笑いする志道とて、それを否定することはしなかった。
「まあ、そのあたりはなあなあということで。問い詰められてもエロい話しか出てきませんので」
「あら残念。
「僕相手にそんなこと言われましても……」
「あなたもゆめゆめ、腑抜けは過ぎないよう心得てくださいね。仮にも『剣八』だったのだから――未だに貴方が
ナチュラルにサイコパスみたいな話題と感情の切り替え方をする彼女を前に、志道の苦笑いは深まって、言葉を続ける余力がなくなった。
卯ノ花烈。またの名を卯ノ花
あまねく斬術は我が身にこそ在りと自称し、かつて剣客と言う剣客を荒らし殺し続けていた、尸魂界でも古参の大悪人が一人である。
その圧倒的な強さから、初代護廷十三隊に総隊長・山本元柳斎重國自ら勧誘に出て、それはそれは伝説級の、おそらく万人が聞いて背中に宇宙を背負って呆然とするような暴力の果てに、初代十一番隊の隊長を務めることになる。両者の戦いの結果は伝えられていないものの、彼女が就任した十一番隊はこう名乗ることになる。
曰く、最強。最強の護廷隊。
あまねく隊士は「自らが長を斬り殺せるほど」強くあらんことを欲せよ、と。
当時の彼女自身が「七度殺されようとも八度生き返るがごとく、幾度斬られようと決して死なず立ち上がるが故に、
ゆうに千年以上は生きる歴史の生き証人の一人であるが、現在の彼女は護廷十三隊の医療班ともいえる四番隊を管理する立場。それと同時に、現在も彼女は「番人」の役割を買って出ていた。
かつて自らが管理していた十一番隊、その歴代の剣八という者について。
それが「最強を名乗るにふさわしいか」を見定める立場に、彼女は立っているのだ。
「あまり強い言葉を使わない方が良いですよ?
「あら、これは失礼」
もっとも現在の立ち位置を、彼女自身は多くの者に詳らかにしていない。語らないことで隠している、というのが近いかもしれないし、それは彼女自身が「剣八として死んだ」と断言する、とある出来事に由来することかもしれないが、ともかく。
志道の「当たり前を繰り返すような」指摘を前に、しかし卯ノ花は正しくその
苦笑いを返す彼女ではあったが、しかし志道を逃がすつもりは毛頭ないらしい。霊圧の放射自体は継続しつつ、彼に向けて微笑みを向ける。
「それに大体、人質とは人聞きが悪いことを言いますが、鬼厳城剣八周りのことはかなり私が方々
「その節は本当に、その…………」
「あなたが言う所の彼の強さ、いわば『完全に掌握された軍隊としての強さ』など検討する必要すらない話ですが、まぁ
とはいえ本来ならあの子に引き継ぐべきは、あなただったのです。そのことはゆめゆめ忘れず……せいぜいあの子に楽をさせてあげてくださいね?」
「そこは喜んで」
口には出さないが、更木剣八が自分をある程度重用する環境自体が崩れることはないため、ある意味でWIN-WINの関係というやつであった。
しかし、と。霊圧の放射を止めた彼女であったが、今度は不思議そうに頭を傾げる。
「聞く程度の催眠でしたら特に問題なくあなたの卍解なら斬り払えるかと。である以上は、引き継いだ先でボロを出しそうなもの。その節がなかったのは、意外でしたね」
「何か今日、しつこくありません? 初代。痣城
「いえ、素直に評価しているのですよ。総隊長が何も言わなかったということは、気付かれていなかったということではないかと。あの人の目が節穴とは思えませんので、それを掻い潜った上でと――――」
「そういう訳ではなく、逆ですね。
こう、総隊長は『内心で何を思っていても』『ルールで規定されたことは絶対に破るつもりがない』って方向で頑固になってますから。既に隊長職として決まったものを覆すなら、それなりに理由は必要かと。例えば隊士全員で虚と結託して混乱をもたらすとか、そんなレベルなら『斬れ!』の一言で終わりでしょうけれど。隊士の1、2割がサボってるくらいじゃ、まあ、僕も現役でいましたし、ノルマと言うとおかしいですけどこなすだけこなしてましたから。
後言っちゃ悪いですけど、四十六室だってそこまで護廷十三隊に興味ないから、表面上普通に隊が運用できていれば何も言ってこない訳で」
「総隊長も、文民統制の意味をはき違えていそうですね……」
人切包丁が権力を持つことの危険性を理解しているのは正しいのでしょうが、と卯ノ花は苦笑いを浮かべるが。対面の相手は、肩をすくめるばかり。
「とはいえ薄々気付いてはいたみたいですから、本当、綱渡りだったなぁ五助君は……。
単に指摘する程の異常行動がなかっただけですかね? 運よく。多分、僕と戦った時くらいしかやってなかったんじゃないかな? うん」
「それはそれで、強さの意味をはき違えていそうですけれど。実力が向上する余地がないのでは?」
「僕が引き継いだ時点で、痣城隊長の頃に抜けた上位席官たちが多かったですし、そこから立て直すのはまあまあ大変だったのと……。直接現場で状況を理解しないなら、上から見れば状況はずっと横ばいに見えたみたいですね」
「それにしては、あの子が入ってから隊の弱さが浮き彫りになったと評判が――――」
「だから、更木隊長を基準にしたら大体のものがか弱いし腑抜けになっちゃいますから!?」
ハイこの話はこれで終わり! とばかりに両手を叩き立ち上がろうとする志道。そんな彼に、卯ノ花はにこにこと微笑みを向けるばかり。その視線に薄く込められた「さげすむような」「見下すような」、同時にどこか喜悦が入り混じった視線に、志道は頬が震える。
的確に、彼が鬼厳城のことについて追及して欲しくないのを理解した上での、この振る舞い。
おそらく彼女は勘付いているのだろう。
鬼厳城五助の「志道をどんな手を使ってでも超える」という姿勢と結果。
それらを評価するのと同時に――――彼が自らの命惜しさに鬼厳城を生贄にささげたと、そういう側面もなくはないことに。
卯ノ花はそれを直接は指摘しない。指摘することでもなく、現状は愛しき
だからこそ、彼の行動の歪さのみを咎め、確認するのみ。
「とはいえ、墓を作るのはいささか不自然では? あの子が剣八に就任するのが決まった直後ですが、あなたを剣八に復帰させて名誉回復させてはと、浮竹隊長も言っていましたし」
「やっぱり十三番隊行きたかったなぁ、この人徳は…………。いえでも、そのあたりの責任関係は全部、副隊長だった僕が引き受けた形で――」
「計算づくで上位三席に入らず四席待遇まで落ちれば周囲から何も追及がないと踏んでいた、の間違いではなくて?」
「――って、あはは…………」
微笑んだ表情のまま、志道は視線をそらす。何か重いものを背負っているような、そんな陰鬱な表情であるが、彼が為した結果をしっかり観察している彼女は、その心の機微から確信を深める。
罪悪感、そう罪悪感だ。故にこそ、真実が明るみになり
周囲から不自然に思われず、かつて隊士だった、自らを蹴落とした彼にすら慈悲をかける優しさに見せかけた、それはあくまでもポーズとしての動きであると。
彼を刳屋敷剣八の十一番隊に
彼には聞こえない程度の小声で、ぼそりと呟いた。
「楽しみですね――――あなたも普通など、到底無理な外道の類であると自覚する日が来る時が」
そんなことねぇし、とばかりに、志道の腰の斬魄刀が、カタカタと怒りに震えていた。
・初代から見た主人公:
「これは決して怒らないで欲しいのですが、落ち着いて聞いてくださいね?
人心を理解した上で駒のように自在に配置。
それを、自己保身にひたすら走り続けるため当たり前のように犠牲にし、当人には自覚させず使い潰す。
かつその上で、最も自分が楽を出来る立ち位置に居座るため再配置し、またいつでも捨てることのできる駒も調整して必要さえあれば簡単に犠牲に強いることが出来る精神性。
完全に畜生の類では?」
次回について:どの話を先に読みたい?
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卯ノ花隊長視点
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ヨン様と戯れる
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海燕殿とお仕事