地に立ちて_見上げる天に_藍見えず   作:黒兎可

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番外編するにしても話にまとまりがない。+戯れるだけでも話が転がらない。
だったら合体すりゃ良いだろ!
 
ということで文字数またえらい増えましたが、ご了承ください汗
ヨン様と戯れながら、隊長時代の主人公の話… オリキャラさらに投入注意


その手に駒と■『構わんぞ? おんしなら上手い事やるだろうて』■■

 

 

 

 

 

「最近、四番隊・卯ノ花隊長と十一番隊・更木剣八隊長との間に隠し子がいるという大変面白おかしな噂がまことしやかにささやかれているが、君の仕業かな? 志道」

「僕というよりは、あれは副隊長が隊長の変化を感じ取ってのことかなぁ……、いや中々あれはあれで面白いことになりそうだとは思ってるけど、君の方に大した影響はないから気にしないでいいよ」

「そうかい?」

「まあ、ウチの娘の胃が大変なことになりそうってくらいかな? これくらいなら命に直接かかわらないし、経験するのも普通なことだよ」

「何故だろう、特に理由はないが君の娘さんに同情したくなったが……」

 

 勇音ちゃんといったか、と湯気で曇った眼鏡を抑え駒を動かす藍染惣右介に「人聞きが悪いなぁ」とこちらも眼鏡を曇らせた虎徹志道が、小鉢のもつ煮込みを一口食べた。

 

 場所は飲み屋である。……飲み屋と言っても色々と種類はあるだろうが、ここは瀞霊廷。顧客のタイプに応じてか、店自体は場末でもなく、それこそ貴族から護廷隊まで幅広い客層に合うような店内だ。若干華やかというか、様式が質素や地味な配色でないのは、地区の色を反映してか。

 昼間から非番の隊長と元隊長がそろって顔を突き合わせ、酒盛りにいそしんでいるのは駄目な大人の縮図かもしれない。もっとも普段からある意味で全く気が抜けない二人であるからして、わいわいがやがやとしている店の奥の座席で、将棋をしながらちびちびと呑んでいる姿は妙な倦怠感が漂っていた。

 店は流石に昼間であるが故にか人は少なく、しかしお互いそれとなく「気を遣った」会話――致命的な名称や内容を口にしない――というのは、鬼道や斬魄刀による隠蔽工作も行っていないためである。本日は本当にたまたま非番の二人が、特に理由もなくで出していたらばったり顔を合わせたため、そのまま藍染の誘いのままに店に入ったというのが事の流れ。わざわざ八番地区を選んだのは、志道が「馬鹿話するならお酒が美味しい所の方がいいかな?」と言ったため、二人そろって平子真子経由で入ったことのある店にしたためだ。

 

「しかし、店自体は華やかだが落ち着きを感じるのは妙な感覚だ」

「そこは一応、元貴族(ヽヽヽ)関係者がやってるお店みたいだしね。…………と、これで王手かな?」

「そのようだね。……フフ、彼女も(ヽヽヽ)困っているようだ」

「見てる分には楽しいけど、だったらわざわざさきちゃんに()()()()()()()()()()()()()()()()ね。囲碁だったら互角なんだし、そういうところは少し惣右介に似ている所かな?」

「止めてくれないか、人をそう負けず嫌いの癇癪持ちのように言うのは」

「ある面で間違っていて、ある面では正しい自己認識かな?」

 

 共に眼鏡を外し、ふき、再度つけ。一手一手と駒を進めながら酒を飲み、モツを喰らう。あまりにも山もオチも意味もなさそうな光景を前に、友人二人は雑にしゃべりながら遊んでいると。

 

 

 

「――――おやぁ? 誰かと思えば珍しい組み合わせじゃないの。特に()()()()()()はねぇ? すずちゃん置いてきぼりにして、悪い亭主だぁ」

 

「ッ! 京楽隊長っ」

「どうも、ご無沙汰しています」

 

 

 

 にこにこと微笑みながら店内に入ってきたのは、髭面に羽織った女物の着物が目印でもある京楽春水。護廷十三隊・八番隊隊長である。背後にいる巨漢の若い死神に被っていた笠を預け「せっかくだし、一緒にいいかい?」と右手を少し構えて、ゆする。猪口に満たした酒を震わす、軽い乾杯の仕草だ。

 一瞬驚きはしたものの、藍染は志道を見て「僕は構いませんよ」と返す。一方の志道も藍染を一瞥した後、再度京楽を見て「なるほど、一石二鳥かな? じゃあこちらに」と自分の隣へと誘導した。

 

 卓に対して、窓際左隅に京楽と若い死神が対面、志道と藍染は位置を譲った形である。

 ひたすら恐縮し続ける巨漢の死神に「辰房(たつふさ)クン、もうちょっと気を抜いて良いと思うよ~?」と揶揄う。ますます恐縮する彼を見て、藍染は小さく肩をすくめた。

 

『自分の計画に1ミリも使えさえしないって思ってるから。やっぱヨン様どこまでいってもヨン様だな、救いようがない』

(表面上だけでも普通に振舞ってれば良いんじゃないかな?)

『シドーがそうやってアレだからコイツ性格そのまんまなんじゃないのか? ……次、4八角』

(はいはい)「王手」

 

 内心で己の斬魄刀と会話しながら、駒を進める志道。窮地に追い込まれる藍染であるが、ニコニコと微笑んだまま「さて、どうする?」と誰かに問いかけるような振る舞い。

 若い死神が困惑してると、京楽が二人の様子から正解を言い当てた。もっとも、彼としても中々妙なことをしている二人に驚いているようだったが。

 

「もしかして()()()()()()将棋を打たせてるのかい? 藍染隊長」

「はい。……僕の所の彼女がどうしてもと」

「さきちゃん、売られた喧嘩は買う方だから。僕はもうちょっと落ち着いてくれると嬉しいけど、ま、このくらいは誰も死なないんで」

 

 言いながら笑う藍染と志道に、京楽は「何というか本当、仲良いんだねぇ」と笑った。そう、志道と藍染の間にある盤、その上で繰り広げられている攻防は彼らの斬魄刀、裂読と鏡花水月との真剣勝負であった。

 なお、いまだ解放できてない若い死神は困惑し続け、京楽は「ウチのお花も得意だよ? 将棋」とからから笑う。

 

「今日は時間かかりそうだけど、そのうちやらないかい?」

「構いません。彼女も己の壁を知り、さらなる高みへと向かいそうなので」

「いいですよ。でも、今日はそれ目的じゃないですよね。いえ、お酒呑みに来たのも事実と言えば事実でしょうけど」

 

 志道の一言に、京楽は「やっぱり読まれちゃってるか」と苦笑い。店主に日本酒とつまみを二人分頼んだ後、隣の志道を見て少しニヤニヤとする。

 

「いやぁ、だってホラねぇ? ()()()()()()()()()()()()君だったら、ちょっとは知ってるんじゃないかと思ってね。卯ノ花隊長と更木クンの間に隠し子がいるかもしれないって話の真相とか」

「皆それ知りたがるなぁ……」

「志道、おそらく当たり前だと思うが」

 

 今、一部の隊士の間でひそひそと騒がれている話がそれだ。何故そんな噂が出たのか、どんな理由と経緯があってそんなことになっているのかについて志道は把握こそしているが、真実対象となっている卯ノ花烈、更木剣八、草鹿やちるに関しては「あながち嘘とは言い難いからなぁ」という思いもあり、放置していたりした。

 さておき。

 

「そうだとしても京楽隊長にしたら、わざわざお仕事サボってまで聞きに来ることです?」

「そこはほらぁ、人間関係的に色々気を遣うじゃない? それに平子クンだって、生きてたらきっと一緒にこうして聞きに来てたと思うんだよねボクぁ」

 

 平子隊長なら野次馬根性でしょうけどね、と少し毒めいたことを言う藍染であるが、若干その声音が寂し気だったことを見逃す京楽ではない。真実、藍染がどう考えているかは不明であるが、少しだけ労わるような目で「こういう()()()()()、好きだったからねぇ彼」と返した。

 

 なお色々とあんまりな発言であった。若い死神は「えっ!? いえ、あの隊長!?」と驚愕の表情。どうやらサボりだとは聞かされずについて来てたらしい。

 藍染は若干ながら青年に同情しつつも、それはそうと京楽の発言で少々謎な発言があったことを反芻し、口に出す。

 

「竜王剣八、とは?」

「ん? 虎徹クンのことだよ。全然浸透しなかったけど、言い出したのは浮竹だっけ?」

「もとはと言えば雀部副隊長と西洋将棋(チェス)した時、僕が全勝してたのが切っ掛けでしたね。流石に名前負けしますよそれは。アレもハンデみたいなものですし」

 

 苦笑いする志道に京楽は微笑むばかり。店員が届けたつまみを口に入れ、徳利を自分で傾けて一口呑みながら「そうは言っても、君が前線に出てた時はほぼ詰将棋だったじゃない」と言った。

 

「浮竹から聞いたよ? まあその浮竹も人づてではあるんだけどさ」

「あー、そうかマミナ(ヽヽヽ)ちゃんか。なら仕方ないかなー」

「…………失礼ですが、その話を伺っても?」

 

 そういえば現役剣八時代、志道の武勇など一切聞いたことがなかったと思った藍染。どうせならこの場で一緒に聞いてしまおうと動けば、京楽は否とは言わず。

 志道はといえば「あんまりおもしろい話じゃないよ」と、珍しく嫌そうな顔をした。

 

 

 




 

 

 

 

 現世、時は幕末。

 異国から来訪する数々の人間に乗じ、異なる(ことわり)で動く霊的な存在もまた、船に乗り、人に憑き、来訪者として国へと入る。

 故にこそ尸魂界東梢局所属の死神たちも、日夜活動的に動いていたのだが。この日に限っては、少々勝手が異なった。 

 

 十一番隊。護廷十三隊、最強といわれる一部隊が、わざわざ尸魂界から現世に来ていたのだ。

 そして彼等を率いる主たる席官たち、隊主たる剣八のもとに集う者たちは――――。

 

 

 

「…………どんびき、です。何を任務で現世に来てるのに浮気してるんですか。頭正気ですかこの妻帯者スケコマシ野郎」

 

「ち、違うんだマミナちゃん。夢見鳥(ゆめみとり)さんが中々離してくれなくて……」

「そんな小姑みたいな十席の事など気にせず、隊長副隊長の仲を深めましょう……ね? 虎徹隊長♪」

 

 

 

 腕を組み半眼な、十代前半に見える少女の死神に文句を言われる虎徹志道は、頬が引きつったまま苦笑いを浮かべていた。対応に困っているのは誰が見ても明らかであるが、彼の性格からして完全拒否まではしないことを把握している副隊長たる女性は、彼の腕をとり抱きしめ「肉感的な」感触を味合わせ続けている。

 そして十席と呼ばれた少女は、微妙に志道の視線が彼女の胸元に行きかけるのを半眼で見つつ「どんびきです」と繰り返した。

 

 深夜の夜回り、現世の住人に紛れておおよそ50人程の死神が歩く。そんな先頭で謎の修羅場(?)が発生しているのは外から見れば中々に意味不明だが、この状況に救いをもたらす死神もいた。

 凛々しい顔に死覇装を袖までまくった、襦袢にフードのようなものがついている青年。彼は志道の腕にからみつく副隊長目掛けて、勢いよく怒鳴りつけた。

 

「小川副隊長! 何度言ったらわかるんですか、所かまわず発情するのを止めなさい! 隊長が困っているではないか!」

「あら心外……ね? 普通、妻帯者でしたら簡単に袖に出来るというのに。無理に振りほどかないのは、奥様の身体では満足できていないところがあるから……では?」

「振りほどくことに関してはそもそもその目(ヽヽヽ)で何を言ってるのか! (おおい)十席、代わりに手を引きなさい!」

「えぇ……、どんびきなんですけど」

「任務に支障が出たらどうする!」

「どうせ大丈夫ですよ妻帯者スケコマシ野郎隊長なら」

「……信頼してくれてると受け取ろうかな? それはそうとして、そろそろ時間になりそうだから夢見鳥さん引き受けてくれると助かるかな」

「ハァ、しょーがないですねぇ」

 

 ため息をついた少女の死神、覆と呼ばれた彼女は、そのまま()()()()()()()()女性の死神の腕を力業で志道から離し、その手を握り「こっちです」と誘導する。「あら残念……、ね?」などとニコニコ呟く女性に「あなたも懲りないですねアタックするにしても何もかも遅かったでしょ年代的に、せめて霊術院時代に出会っていればまだ違った話だと思いますけど副隊長」とジト目で呟く。

 

 各々、当時の十一番隊においての席官の中で、いわゆる()()()()()()()面々である。志道の趣味でもちろんその手の技能もしっかり習得させられているが、それはそうと前線で戦うのに向いている精鋭として、この場に連れて来られていた。

 

 隊長・虎徹(こてつ)剣八こと志道(しどう)以下、三名。

 

 副隊長・小川(おがわ)夢見鳥(ゆめみとり)。目隠しのようなものをした、長い黒髪が艶やか女性。

 三席・一之瀬(いちのせ)真樹(まき)。生真面目な気質がありありと現れた熱にあふれた男。

 そして十席・(おおい)真澪那(まみな)。適当に縛ったポニーテールがさらに容姿を幼く見せる少女。

 

 一貫性がない面子ではあるが、少なくとも今日この場において有用と志道に判断され、引き連れられた面々である。

 

「もう()()()()()()()()()から、後は出待ちかな? うん。……夢見鳥さん、準備」

「はぁ……い。

 黒白の羅・二十二の橋梁・六十六の冠帯――――」

 

 謡うように滑らかに口ずさむ彼女は、頭上に指先で何かを描くように動かす。反対側の手を握るマミナが見守る中、頭上に展開された複雑な模様の円を指さし、術名で締める。

 

「――――縛道の七十七・天挺(てんてい)……空羅(くうら)

 

「一ノ瀬部隊、覆部隊、作戦予定は当初から変更なし。

 一ノ瀬部隊は『は・三』の座標、覆部隊は『と・六』までそれぞれ散開」

 

 志道の命令をその場で一字一句違えずに口ずさむ夢見鳥。了解、と方々から声が上がり、一ノ瀬が前方へ走る。マミナもまた夢見鳥の手を放し、後方へ駆ける。

 そんな状況で、志道の方へとふらついた足取りで移動しながら、彼の左手を握り。

 

「これでようやく二人きりです……ね?」

「夢見鳥さん、通信してるんだから遊ばない……。

 陣形の前後それぞれに2・4の割合で、()お願い」

「はぁ……い。

 ――――――――浮かべ、房藤空木(ふさふじうつぎ)

 

 腰から、これまた危なげな手つきで引き抜いた斬魄刀を構えると。その刀身が姿を消し、彼女の周囲に6つの蕾が浮かび上がる。

 それぞれふわふわと風船のように、志道の指示した通りに前方2つ、後方4つにと流れていった。

 

 程なく、方々から咆哮音。志道は目のような波紋の斬魄刀を半ばまで抜き、じっと中空を見つめている。

 そんな彼に、しなを作った声をかけようとした夢見鳥であったが。

 

「タイミングはこれで問題ないとして……、五助君(ヽヽヽ)、お疲れ様」

「あら…………?」

 

「――――いや、だから何でいるって判るんですか隊長」

 

 ぬりぬり、と。まるで塗料が溶けるような音を立てて現れたのは、胸毛の厚い大男。全体的には肥満体系だが筋肉が無いわけではなく、志道が連れて来た面々の中ではやや老いているように見える男。

 七席、鬼厳城(きがんじょう)五助(ごすけ)である。

 

 彼は志道の視線にものすごく嫌そうな顔をして、肩をすくめた。

 

「予定通り2月で大分『仲良くなって』誘導しましたし、もう俺帰って良いですかね?」

「これからもっと大物が来る予定だから、一応、まだ帰らない方が安全かな?」

「おさぼりは駄目…………よ?」

 

 舌打ち。今にも帰りたそうに、というより「逃げたそうに」している彼に向って、志道は夢見鳥の手をとり彼の腕を握らせる。

 

「そろそろ来ると思うから、ついでに彼女も匿って」

「げェ!? な、何で俺が副隊長を!」

「…………は? ケダモノと、一緒にいさせる……と?」

「真面目に僕が斬り合わないといけなさそうだから、頼むよ五助君。通信役なんてやりたくないでしょ?」

「……へいへい。じゃ、せいぜい隠れてますよ。

 ――――取入(とりい)れ、尺南(しゃくな)

 

 深いため息とともに、再びぬりぬりと、音を立てて姿を消していく鬼厳城。彼の腕を掴んでいた夢見鳥も同様に消えていく。少なくとも外部からはそうやって来てたように見えている二人のことを、志道は「姿を消した後も」一瞥して、にこりと微笑んだ。

 

「五助君から離れると、認識が戻っちゃうからね? 夢見鳥さんは諦めてそこで待ってて。

 ……さて、測定通り(ヽヽヽヽ)来たね」

 

 周囲の咆哮音が徐々に徐々に減っていくが、先ほどから志道が見上げていた中空に亀裂が走る。黒腔(ガルガンタ)、虚たちの境界移動の際の出入り口であるが、それが開き、現れたのは黒い身体の巨人。鼻先の長い白い仮面をつけたそれは、いわゆる最下級の大虚(メノスグランデ)であった。

 

「…… 一応、王属特務案件だけど多分許可はとれるから、五助君はそう怖がらないで大丈夫だよ。

 あっそこから動かなければ余波も無いようには出来るから、大人しく逃げないでそこにいること。君のそれは完全催眠なんてものからは程遠いのだから、自分に出来る限界を見極めるのは大事だよ。うん。

 さて――――」

 

 現れた大虚は、まだ頭部が抜け出ているのみ。そっと足を境界より出して下ろそうとしている最中、志道は己の斬魄刀の刃を見ながら、つぶやいた。

 

 

 

「適当に追い返して大丈夫ですかね、和尚(ヽヽ)――――――――あっハイ。さきちゃん、ありがとうね」

 

 

 

 だから拗ねないで、と言いつつ、斬魄刀を腰に戻す志道。

 声なき声で周囲に名から抗議の言葉が飛んでいそうなものだが、特に気にした様子もない志道は大虚を見上げ。

 

「見渡せ、裂読(さきよみ)――――」

 

 刀を納刀したまま、解号。

 同時に背中を起点に出現する、四つの絡繰腕(マニュピレーター)めいたもの。()先にはそれぞれ小型の刃がついており、辛うじて自らを刀剣であると主張しているかのようだ。

 

 斬魄刀のいろはを知っているものからすれば在り得ざる光景であるかもしれないが、生憎志道もそれなりに、常識とお友達ではない。その絡繰腕めいたものを装備したまま、一歩、一歩と前進して指先を大虚へと向ける。

 

「縛道の一・(さい)

 

 足を下ろそうとした大虚の動きが、ややぎこちなくなる。

 それと同時に虚の視線が志道の方へ向いた。

 

「各隊は周辺警戒継続。大虚の対処はこっちでする。…… 一ノ瀬君とマミナちゃんは先走らないことって、言っても遅いか……」

 

 

 

「――――光華閃(こうがひらめ)け、虹霞(にじがすみ)ッ」

「――――秘めるです、千尋乱(ちとせらん)!」

 

 

 

 七色の光を放つ斬魄刀を極大化させる一ノ瀬。

 表面上は只の斬魄刀だが「その影が巨大な虎のようになっている」マミナ。

 

 両者の攻撃はそれぞれ、大虚の上半身と下半身を斬る。切断には至らないが、しかし霊的な裂傷により血ではなく、内側に秘められていた魂魄の霊的エネルギーが奔流となって飛散る。

 特に一ノ瀬の一撃が甚大だった。刀瑕は仮面にもおよび、大虚はその痛みに悲鳴を上げる。

 

 遠方で横に並ぶ彼女たちを見て、その声も聞こえないはずの志道は苦笑い。

 

「仕留めそこなったじゃないよ一ノ瀬君……、マミナちゃんはともかく君は大虚見るの初めてじゃないんだから。…………えっ? あの頃よりは強くなった?

 うん、それは僕も認めるけど、今回は特に相手が悪いよ。なにせ――――」

 

 志道が言葉を続けるよりも先に、大虚に変化が訪れる。

 切断面から仮面が砕け。内側からまた別な仮面が現れる。

 四つの縦長の眼下は騎士のヘルムを思わせるものであり、しかし頭頂部には猪の牙か、牛の角か、そういったものを思わせるものがとりつけられた面が、あらわになった。

 

 どしん、と踏み下ろされた足音と。同時に放たれた先ほどまでと比べ物にならない霊圧に、二人は目を見開き震える。

 

「――――暫定、中級大虚(アジューカス)到達前の下級(ギリアン)だからね」

 

 しっかり自我が残っちゃっててまぁ、と言いながらも、志道は瞬歩で移動。

 一ノ瀬たちの前に立ち、今にも角と角の間に霊力を集中している大虚の顎のあたりを指さしながら。

 

「破道の七十八、斬華輪(ざんげりん)

 

 彼の言葉と同時に、絡繰腕四つが同時に蠢き、それぞれの刃の先端から霊力の刃を放った。

 それぞれがそれぞれに別ベクトルに動き、一つが顎、一つが角、一つが喉、一つが集中されている霊力へと至る。切断には至らなかったが、それでも裂傷を重ねて蠢き、集中していた霊力は爆散。

 

 再び悲鳴を上げる虚を背に、志道は背後の二人を見やる。

 

「一ノ瀬君……、マミナちゃんをそそのかしちゃ駄目でしょ? まだまだ日が浅いんだから。マミナちゃん小さい女の子なんだし」

「す、済みません……」

「そ、そそのかされてないです! というか子ども扱いしないでくださいっ!」

「僕の力になりたいって気持ちはわかるけど、今の所()()()()()()()()()()から、必要じゃない無理を買ってでもする必要はないよ。

 相応に君が刃を振るう必要がある時が来るまでには、ちゃんと君の地力を上げる様に組むから。その時は頼むよ」

「わかりました……、はい!」

「あの、ちょっと隊長たち? 無視ですか、私の名誉を傷つけたまま完全スルーですか?」

「後、二人とも反省文ね」

「はいっ」

「えぇ!? ちょ……っ!!?

 むぅ…………、本当どういう性格してるんですかこの人――――って、()()()()()!?」

 

 拗ねたようにそっぽをむくマミナ。もっとも苦笑いする志道の背後に迫る、黒く巨大な拳を見て叫ぶ。思わず叫んだため「公的には」秘密な話も飛び出てしまったが、志道は特に何も言わず、斬魄刀を腰から抜いて……、鞘に納刀したまま抜いて、そのまま地面の上に置いた。

 

 彼の背後の絡繰腕が猛烈な速度で動き、拳を止めるような角度に。

 変貌した大虚から振り下ろされた拳は、刀で受け止め、そしてその威力ごと彼の斬魄刀へと伝わり、鞘を経由して地面へと逃げた。

 

 どごん、とでも漫符で表現できそうな轟音が鳴り響き。裂読の鞘を中心として、地面にやや浅いクレーターが出来る。

 

 とても人間技と思えない曲芸めいたそれを前に、一ノ瀬は片膝をついて平伏し、マミナは「えぇ……?」と困惑してた。どうやら現実が受け入れられていないらしい彼女であるが、志道は気にせずちらりと後ろを一瞥した。

 

「さきちゃん」

 

 絡繰腕が受け止めた状態から、猛烈な速度で動き、大虚の腕を切り裂く。

 それと同時に、大虚の腕はだらりと垂れ、動かなくなった。

 

 痛みに叫ぶ大虚を無視し、志道はその腕伝いに瞬歩して登っていく。

 

「あれは、何ですか……? 意味不明なんですけどあのロリコン女たらし」

「幼女趣味は絶対違うからな? 意外と落ち込むんだぞ、隊長は。

 …………おそらくだが、腕の筋を斬ったのだろう」

「筋?」

 

 マミナの疑問に答える一ノ瀬は、先ほどからぴくぴくと動きはすれど持ち上がらない大虚の腕を見て、何度も頷く。

 

「いえ、出来る訳ないですよね? 肩からだらりってしていますもの、拳の筋肉切っただけでそうなるわけが――――」

「――――隊長の裂読の真価は何か、わかるか? マミナ」

 

 一ノ瀬の問いかけに、マミナは迷わず「未来予測ですよね常識的に考えて」と答える。

 

「今日だって、仕込みは二カ月前からですけど、確実に1夜で仕事を終わらせられるように準備して、私たちの一斉攻撃で片づけられるように()()()()()計画してたわけですし、作戦も4パターンくらい決められて、その通りにしか動かないで全部片付きましたし……、あの大虚以外」

「確かに未来予知のようなそれは、とてもすごい。だがこと単純な戦闘における隊長の真価は、その情報収集と正確な実行力にある」

「情報収集?」

「例えばだが、人体で例えるなら拳の筋肉も、腕の筋肉も、肩の筋肉もすべて繋がっている。であるとするなら、その繋がった筋肉の一部に問題が生じたとき、連鎖的に他の箇所にも問題が生じる場合が、かなり確率は低いが存在する」

「……天文学的な数値ですよね常識的に考えて」

「嗚呼。だが隊長の場合は、もしそれが発生しうるのならば彼が実行しうる範囲で実現可能なのだ、と俺は思ってる」

 

 見上げる一ノ瀬の視線の先、空中に立つ彼に向けて放たれた虚閃を、彼は当たり前のように「斬り払った」。直前に絡繰腕が動き、それに重ねる様に斬魄刀を抜いて斬ったという動きであるが。その2つのモーションのみで、自分たちなど簡単に殺すだろう霊力の光線をいともたやすく無力化する。

 

「…………どんびきです」

 

 そして、そう。虚の眉間に鬼道の攻撃を一発放ったのみで、仮面にヒビを入れた虚は悲鳴を上げながら後退し、黒腔(ガルガンタ)を開けて逃げていく。そんな様を見て、彼女は引きつった笑みを浮かべた。

 

 

 




 

 

 

 

「…………大の大人が揃いも揃ってこんな昼間から何やってるんですか普通にどんびきです。というか嫁を家にほっぽり出して酒呑みとか何考えてるんですかこの絶倫四席、浮気が治ったと思ったら」

「シモの話は止めて欲しいかな。まあ……、惣右介はある意味で仲人みたいなものだし、錫音ちゃんもあんまり強くは出れないだろうしね」

 

 京楽たちと酒飲みを続け、かつての志道の戦闘記録の報告やら何やらを話していれば。噂をして影が来たのか、ポニーテールな少女の姿をした死神が、腕を組んで現れた。若干だが年をとったといっても、それでもまだ十代中ごろくらいか。

 話の通りに幼い容姿をしている彼女の登場に、京楽は「やぁ、ご無沙汰ね」と笑う。

 

「どうしたのこんな所に、お使い? お小遣い足りる?」

「子ども扱い止めてくださいです、京楽隊長。……いえ、というかお使いではありますけど、諸悪の根源は京楽隊長です」

「あらまぁ、どうしたの?」

「浮竹隊長から届け物でしたけど、隊舎についたら七緒さんが隊長いない隊長いないっておろおろしてたからこうしてわざわざ探しにきたんじゃないですかお馬鹿ですかせめて一緒につれていってあげてください私より小さいんですから」

「あ、あはは……。そうは言っても七緒ちゃんまで()()()()()化させるわけにもいかないからねぇ」

 

 参った参ったと言いながら立ち上がる京楽に、慌てて続く若い死神。勘定だけはしっかり置いていくあたり、京楽の抜け目のなさが際立つ。

 そんな彼等を一瞥し、志道ではなく藍染の方を見て驚いた顔をする少女。

 

「どうしたんだい?」

「いえ、何でもないです。……本当に友達いたんですね、このロリコン」

「手酷いなぁ……、もう()()()()には慣れた? マミナちゃん」

「御覧の通りです。では、これにて。

 …………腹上死とかは止めてくださいよ、どんびきですから。小川さんはいい気味ですけど」

「流石に錫音ちゃんもそこまでは貪欲じゃない、はず…………、……」

「志道?」

 

 若干顔を青くする志道に眼鏡を曇らせ冷や汗を流す藍染。そんな彼らを見て鼻を鳴らし、少女は駆け足で京楽たちの後を追った。

 

 少し無言のまま、モツやら追加で頼んだ冷ややっこやらザーサイやらを食べつつ、酒を飲み。先に切り出したのは藍染であった。

 

「……彼女がさっき話に上がっていた?」

「そうだね。(おおい)真澪那(まみな)。ちょっとひよ里ちゃんっぽいでしょ」

「彼女の方がもっと普通に見えるが……、いや元上官相手にあそこまで口汚く罵るのは変だね」

「昔からそうなんだよねぇ、あの子」

「昔から? …………君が隊長時代も接しやすい(フランクな)態度を心がけていたことは知っているが、あそこまであけすけに物を言う相手も珍しいね」

 

 藍染の言葉に、志道は味噌汁をすすりながら、何てことはないように言った。

 

 

 

「うん。だって妹だもの」

 

「…………は?」

「僕、吾妻(あづま)には小さい頃に養子に出されてたし。まさか再会が結婚後になるとは思ってなかったから、あの子もずーっと心中複雑なままでね」

「いや志道、その話はさすがに初耳なのだが……?」

 

 

 

 本当に大した話じゃないしね、と微笑む志道に、藍染はズレた眼鏡の位置を直しながらため息をついた。

 

 

 


・隠し子の噂:

 やちるが烈と会うたびに「れっちゃんママだ~!」と言うようになったせい。何故ママと呼ぶようになったかと言えば……、ちょっと剣ちゃんの心境の問題かもしれない。

 

・志道隊長時代の一部面々紹介(今後触れるかわからないのでざっくり):

 

小川(おがわ)夢見鳥(ゆめみとり):志道隊長時代の副隊長。藍染曰くの「尖った女性」の一人で、もれなく志道のことを好きになり、そこから霊術院を飛び級で卒業して彼の副隊長までこぎつけた。志道曰く「やっぱり女の情念は怖い」。目は盲目でなく超が付く弱視だが、ぼやけた視界に気を取られ霊力操作がおぼつかなくなるため、志道のアドバイスで目隠しをしている。

 斬魄刀は強力な精神誘導効果を持つデコイや爆弾のようなものを生成する能力。

 本編時系列においては、魂魄消失事件により失踪。

 

一之瀬(いちのせ)真樹(まき):志道隊長時代の三席。志道とは痣城隊長時代からの付き合い。当時は痣城剣八の姿勢に共感して入隊していたが、志道隊長時代は彼の人格者な部分(に一見すると見えるムーブに気付かず)を心服し、またその能力の強みを理解していた。だからこそ後に色々あって、認識がしっちゃかめっちゃかになり……。

 ご存知(?)許されざるバウント編のアニオリキャラ。斬魄刀も同様。

 本編時系列においては、1話以降はおおよそアニメ的なそれをなぞってるイメージ。

 

(おおい)真澪那(まみな):志道隊長時代の十席。吾妻に引き取られる前、志道生家の妹(※吾妻の方にも義妹がいる)。霊術院で志道が実技指導に来た際に「お兄ちゃん?」と直感し、志道とやりとりしてもそれは確認済みで、相手に対する心中は複雑。悪口はツンデレの類なのかもしれない。なお眉毛は細い。

 斬魄刀は、影に巨大な虎を出現させるもの。影の虎の動きは彼女に追従し、攻撃はそのまま現実にも影響する。

 本編時系列では十三番隊所属。十代目剣八継承以降、志道によって意図的に逃がされた。

 

・当時の十一番隊の戦い方:

 異様に規格化された軍隊のようなもの。示された最低ラインを守っていればなんだかんだ手早く仕事が終わるようお膳立てされており、大掛かりな戦闘もかなり前から全体に周知され、あとは処理するだけと言った状態に整えられている。失敗するとしたら、隊士の自己判断や感情の有無のせいといったくらいまで規格化されている。

 

・和尚:

「能力的に話せないわけもなかろうて、お互いがお互いにな。まあ、隊長就任前に一度会ってるしのぉ」

 

追記:

・チェスの勝敗:

 当然さきちゃん込み。最初は自力で挑むと言ったが、相手が本当の意味での全力で戦ってみたいと言ったため。

 

 

 

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