地に立ちて_見上げる天に_藍見えず   作:黒兎可

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後半戦
 
独自解釈超注意&後味の悪さ注意


人を求め、誰かを求め(後)

 

 

 

 

 

「――――焼き入れNa、火鑽(ひきり)

 

 抜刀術か、あるいは居合か。ともあれ抜き放たれた刃は、その剣の軌跡に沿って「鞘から炎を放射した」。

 紅の鞘の斬魄刀。火鑽と呼ばれたその刀身は変らず、しかし鞘はまるでそれが一つの蛇口か何かのように、猛烈に炎を垂れ流す。

 龍の顎から放たれる虚閃と激突したそれは、同時に接触点から漂う冷気と熱とが一気に爆発し、暗闇の世界で大きく広がる――――。

 

 危ねェ!? と海燕が叫び、先ほど突き飛ばされた妹のような少女の元へ駆ける。

 

「詠唱破棄でいけるかァ……? 縛道の八十一・断空!」

「わわわっ」

 

 少女を左の腰に抱え。右の斬魄刀――斬魄刀が変化した槍を回転させながら、鬼道を発動。

 そして正面に形成された霊力の壁に、さらに槍から生成された水を纏わせる。

 

 果たして、冷気の衝撃と爆風とはものの見事に相殺された。……相殺されたが「勢いでこっち使っちまったけどもっと番号下の奴で護れたか?」などと一人で反省会をする海燕である。そんな彼に、上目遣いで困惑する少女を、崩れ去る鬼道の壁があった場所を見やりながら、姉のような女性はほっと一息ついた。

 

「――流石に余裕なんて態度は、ストロベリィなキャンディみたいに甘いZe?

 掴もうKa、哪吒箸(なたばし)

「何……ッ」

 

 ―――― 一息ついたと同時に、そのすぐ横に刀神が現れ。先ほどと別な斬魄刀を構えた。

 

 次の瞬間、刀身が無数の帯のように裂け、分裂し、伸び、縦横無尽に女性の周囲を覆う。

 そして一気に締まり、彼女の腕や足、胴体を縛り上げ、空中に吊るした。

 

「くそ……っ、このような形で、まだ私はやるべきことが…………、っ、ちょ、ちょっと!? どこに食い込んでいるのですか、放しなさい!?」

 

「もっとヤっちゃいな~~~~()()()()()()

 でも、Hum(ンン)~。簡単な仕事だってこれで終わりにしちゃ駄目かNe? どう思う、()()()()()

「――――こっちに話振られても困る、御館(オヤカタ)サマ」

 

 ぶつぶつと言いながら、先ほど炎を放った斬魄刀を鞘ごと抜いて投げた刀神。と同時に、いつの間にか彼の隣には、ボロボロの服をまとった赤毛の少女が現れる。彼女は吊るされた女を見ながら、腕を組んで半眼になる。 

 

()()の顎を呼び出していた以上は()()で確定なんだろうけどNe。それにしては全然、厄ネタっぽい厄ネタじゃないんだよNe~。

 見たところ“七人の木こり(セヴン・セパレート・セレーヴ)”を集めてるようでもなさそうだし、これだと単体じゃ単に霊力がある(プラス)ってくらいじゃないKai? ……あっハス花ちゃんもっと足! 足広げてくれYo! って痛ぁ!!」

「セクハラ止めろ!

 後、アイツって一緒にいた魂魄とか心配してたみたいだし…………、復活が目的じゃないとか?」

「そこのところどうなってるんDai! 復活したいのKai! 復活したくないのKai! どっちなんDai、志道チャン!」

 

 両手を振り上げた後、ぐるぐるその場で回転してから、海燕たちの方にいった志道を指さす刀神。言動は完全にふざけて居るが、右手の斬魄刀も手放さず、視線は常に宙づりになった雪奈へと固定されている。

 一方の志道はといえば、海燕とその腰に抱えて守られている少女とを見て、名状しがたい風に表情を歪めていた。ギターケースを抱えた背後の絡繰腕が、所在なさげにぷらぷらと上下している。

 

「えぇ……? いや、まあ、大局には影響ない、のかな? うん。まあ付き合いが長くならなかったら、話がややこしいことにはならないで済むかな? うん、大丈夫ってことにしようか、うん。最悪僕が()()()()()()()()()良いだけだし。ここが狂うと霊界滅びるからな…………」

「何ブツブツ言ってンだ虎徹?」

「えっと、えっと、えーっと…………、すみません、さっきから一体何が?」

 

 混乱してるらしい彼女と海燕に軽く謝った後、志道は刀神に「時間稼ぎお願いします!」とだけ声をかける。

 

「時間稼ぎって一体何を――――って、えぇ!!?」

Ho(ホウ)Ho(ホウ)Ho(ホウ)、それは反則だRo()Ze()ッ!?」

 

『――――――――』

 

 両手足を拘束されている彼女は、空中を見やり。そこに向けて霊圧を貯めはじめていた。

 虚閃の類に違いはないのだろうが、それにしては先ほどと色が異なる。毒々しい紫と、虚らしい赤とが綺麗に半分半分に。その形もどこかまるで林檎か何かのような、微妙に歪んだ形で膨れ上がっていく。

 

「こいつはどうしたKa…………、メラちゃん、ちょっとハス花ちゃん持ってな!」

「えっ!? いや、別に良いけど…………」

()(はら)うYo、神砥ノ川(かみとのかわ)

 

 新たに抜刀した刀、通算で三本目になるそれを横に振り払い。それと同時に目の前の空間が斬撃の軌跡に沿って()()、物理法則を無視して上下に水の壁を形成していく。

 

 どんどんと分厚くなっていく水の壁を前に、今にも正規の対決が始まりそうな状況で。

 志道は、何一つ状況を考慮せず少女に尋ねる。

 

「あの、雪奈さんとか言ってた人。どんな人でした? 貴女の目から見て」

「えっ? うーん…………、うさぎさんみたいな人でしたね」

「「うさぎ」」

「はい。寂しがり屋で、こう、本当に普通の人なんですよ? ちょっとたまに羽根が生えたり、しっぽが生えたり、角が生えたりするだけで」

「いや全然普通じゃねェだろ!? 何だそれ意味わかんねェぞ!!? どう聞いてもバケモンじゃねェかッ」

 

 思わずツッコミを入れた海燕だったが、しかし思い直して「いや悪ィ」と謝る。病弱と言っていたか。確かにこの体格は背に反して華奢すぎるし、言葉に嘘はないのだろう。だったら気遣ってくれている相手に、その相手が知られたくないだろう何かを指摘するというのは、相手との決別を意味しているだろう。

 そんな真似が出来るはずもないと、その弱さに理解を示す海燕。

 少女は、そんな彼の顔をじっと見ている。 

 そんな状況にますます顔色を悪くする志道。彼個人に限って、状況はまさに地獄である。

 

 ちらりと志道が横を見れば、あちらは突然現れた雪原と吹雪。既に拘束は解けているらしく、先ほど海燕に抱えられている彼女が言っていた通りにか、その背には氷で出来たような翼が、尾が、頭上には「角のようなものがついた」王冠のようなものが形成されており、見た目がますます変容している。なんなら髪も結露が凝固したように、色味が「強く」白くなっており、和装の足元は割け、素足が見えていた。

 そして彼女の目の前の竜の顎の口が開き、そこから「氷の刃」が伸びる。極太の、結晶のようなそれであるにも関わらずもはやどうしようもない勢いであった。

 

 刀神は「ごめんよぉハス花ちゃ~~~~ん」などと膝を抱えて斬魄刀を慰めていたが、それはそうとして迫る氷の大剣は、メラと呼ばれた少女が口から火の放射して対応していた。

 

『――――――――』

 

「ふぅーっ! って早く何とかして、御館サマッ! ふぅーっ!」

「ふぅん、()()()()はせっかちでいけない、いけなァい。

 メラちゃんもうちょっとこらえて居てくれYo? ――叩き直Se、 猪罪子槌(いざこづち)

 

 言いながら右腰元の斬魄刀が一つ、鞘ごと姿を変化させる。青紫に染められた漆塗りの箱のようなそれに手を入れると、そこからぬるぬると音を立てて、漆黒の大槌が取り出された。

 メラの放つ炎に揺られ構える姿は、なるほど刀鍛冶らしいと言えなくもないかもしれない。もっともそんな感想を持つ余裕があるのは、志道くらいなものであるのだが。

 

「もしかして持って来た斬魄刀、全部刀神サマのヤツか……?」

「部下と言う意味ではそうみたいだね。……いや、ある意味で子供なのかな?」

「そりゃア、そうなんだろうけどよォ…………、って、よっと!」

「きゃっ」

 

 雑談しながらも、こちらに吹雪いてくる雪や礫を、捩花を回転させて斬り払い、あるいは水流の刃をもって斬り伏せる。抱えた少女には傷一つ追わせず、余裕ある態度を崩さない海燕。

 ますますその彼を見つめる少女の目に熱っぽさがこもり始めている事実に、志道はいよいよ耐え切れなくなった。

 

「……女の子といえど女性は女性、未婚なんだから触れすぎると都さんに怒られますよ?」

「は、はァ!? 虎徹お前、そりゃねェぞ本気でッ!」

 

 とりあえずその一言で、はっとした表情になる少女。どこか悲し気な雰囲気を前に密かにガッツポーズを決めた後、彼はその少女――緋真と呼ばれていた少女にまた声をかける。本当は先ほどのやり取りで全ての結論に至ってはいるが。あくまで「志波海燕への説明」という意味を兼ねて、あえて、確認する。

 

「雪奈といったあの人……、まあ人として扱いますか。あの人とはどういうご関係で?」

「…………」

「迷ってるところ申し訳ありませんが、むしろ真実を話してもらった方が、僕が説得に回りやすいと思ってください。それが必要であるなら、面倒ですが真面目にやりますんで」

「オイ、何の話だ虎徹? いやこの嬢ちゃん相手に何か事情が、あの女にもあるっつーのは分かるけどなァ。それでも…………、あの女は、西()()()なンだろ。だったら、俺達に出来ることは――――」

 

 会話の途中で「ごーん!」と、それこそギャグ漫画のごとき漫符が使われそうな勢いで、何かが叩かれたような音が鳴り響き、そちらへと向く。

 

 そこには、大槌を構えた「腰に斬魄刀と工具箱のようなもの」を吊るした刀神と……、頭を抱えて泣きわめく件の、雪奈の姿があった。

 

「痛……! いえ信じられませんよ!? こんな美女相手に何をそんな、し、し、死にかねないような一撃を!!? 普通に脳天殴りましたよね!? 氷角が砕けちゃったじゃありませんかッ! 意味わかりませんよ!」

YOIKO(良い子)はマネしちゃナッスィング!! ってねぇ!

 それより意味わかんないのはこっちSa、さっきから。何で()()()()()()()()()()()()な哪吒箸で縛られてるくせに熱系の攻撃を使えるのかって話Sa? 毒性まで付与されてちゃ、お手上げって奴Da。

 …………やっぱり本気で()()()()()やる必要があるかな?」

 

 言いながらサングラスをずらし、鋭い視線を彼女に投げかける刀神。そんな彼の視線に怯んだ彼女だったが、再び息を吸い何かをしようとしたものの、今度は何も起きず、目を見開く。霊力を練れない事実に驚く彼女を、睨みながら槌を構える刀神。

 

「ユーがどういう事情でこっちにトラベルしたかはさっぱり判らないし? わざわざ(プラス)の姿を象ってる理由も不明Sa。だけど一つだけ言えるのは――――チャン(きみ)が今振るってる力は、こんな場所にあっちゃいけないってことDa。

 ()()()()()()()()()()()()()()()ことに和尚が目を瞑っても、チャン(きみ)までここに来るのを許容しないのはそういう理屈なのSa。()のバランスってのは、漬物ストーンズを置く位置のバランス、センスでいくらでもひっくり返りかねNai。本来のチャン君がそういう存在だってのは、自覚があるだろ」

「………………」

「チャン君としては不服かもしれないけど? 魂魄の総量に影響が出ないように、ちゃん僕らもそれなりに気を遣って、色々と無茶をしなきゃいけなくなるかもしれない。少なくともチャン君を『どう作り替えたところで』、魂魄的質量の総量には変化がないからNe」

 

 槌をその場に適当に投げ出す二枚屋。サングラスを下ろし、それ越しに彼女を見つめる。

 雪奈と呼ばれた彼女は……、自らの変化した姿を解き、もとの只の女の魂魄の姿へと戻った。

 

 それを見て「聞き分けが良い子は大好きSa! ちゃん僕とHug(ハグ)して握手(シェイクハンズ)!」などと言い身振り手振りをして、すぐ後ろに控えていたメラというらしい少女に一発殴られる。

 そして再度、哪吒箸というらしい斬魄刀を構え、解放しようとする二枚屋だったが――――。

 

 その前に、海燕が捩花を構えて立ちはだかる。

 何の感慨もないように斬魄刀を向け、先ほどまで抱えていた少女を離す。雪奈の方へ走っていく緋真。そんな様子を見て、二枚屋は首を傾げた。

 

「Hou・Hou・Hou、どうしたのKai? 海燕チャン。久々に悪ガキ時代に戻ったかい? 絡みたいなら後で西洋酒(ワイン)でも持ってきて――――」

「そうじゃねェよ。少し待ってやってくれ」

Why(ホワィ)?」

「ほ、ほわ……?」

 

 何故って意味だよ志波副隊長、と、彼の横に「いつの間にか」立っていた志道はそう指摘する。

 

「お、おぉそうか。……何故って言われりゃ、な。事情を聞いちまったから、そのままハイサヨナラって感じで放置するのもどうかっつー感じでなァ」

「何を大虚(メノス)相手に絆されちゃってるのSa。志道チャンも似たような感じKai?」

「いえいえ、()()()()()()()()()()だったので。それだったらお別れの挨拶くらい、させてあげた方が良いかなあと…………(ここで死神に悪印象を抱かれると後々惣右介を止める子がいなくなっちゃいそうだし)」

「あ゛?」「Hum(フゥン)?」

 

 ぼそぼそと何事か呟いた志道の発言はともかく。刀神の言葉に答えず、何かをこらえる様に震えていた彼女は。駆けよって来た緋真を見て、目を大きく見開く。

 

「な……、何故、緋真さん……?」

「そんなの、雪奈さんこそですよ! あれだけ皆に秘密だって言っていた不思議な力を、いっぱい使ってしまって……。私、どれだけ心配したことかっ」

「心、配?」

「当たり前です」

 

 震える雪奈に、緋真は笑顔で断言する。

 どこかやるせない表情の海燕と、口元だけ微笑みながらサングラス越しに表情が見えない刀神。そして志道はぼそりと両者に聞こえない程度の声で――――「怪物なのにどうして、とか思っていてもねぇ」などと、呆れたようにつぶやいた。

 

「貴女は! ……店を転々とするときに、私が拾いましたけど。だけどすぐ仕事だって覚えるし、私よりちゃんと出来るし、体力だってあるし、胸も…………、あ、いえ、胸はその、済みません」

「緋真、何が言いたいのですか緋真!? ことと次第によってはただじゃ置きませんよ!?」

「そ、それでも! それなのに……、一人でいれば、いつでも私なんか置いてどこへだって行けるのに、それでも、ずっと一緒にいてくれまいた」

「それは……、…………」

「恩義とかそういうのとか、関係なく、貴女が優しい人だっていうのは、ちゃんとわかってます。

 だから…………でも死神様たちが、雪奈さんを、だったら、私は……!」

 

 緋真の言葉に、雪奈は最初は驚き、次に陰鬱に、そして最後は穏やかに。言葉が続くうちに、徐々に徐々に表情を変化させ、どこか気恥ずかしそうに緋真の頭を撫でた。困惑する緋真に目を閉じて、そして何かを決心したように見開く。

 

「……私の身はいかようにでも。でも、この緋真だけは、どうか何事もなく返してください」

「えっ? 雪奈さん!? 何を言って――」

「――――良いのです。緋真、ええ。私の大願までは叶いませんでしたが……、それでも、我が世界の霧は晴れました。たとえ少しだとしても、それは、貴女がいてくれたおかげなのです」

 

 雪奈の言葉に何かを言い返そうとする緋真だったが、その顔に何か液体が飛ばされる。ばしゃり、とではなく、ひと、と。たった一滴であったが、海燕は真横で動いたそれを確認し、その相手を睨んで胸倉をつかみ上げた。

 ばたり、とその場で倒れ。雪奈に抱えられた彼女の様が何を為されたかを一発で理解させられる。

 

「虎徹ゥ! 今テメェ、何やりやがった! 答えろッ!」 

震点(麻酔)、ですよ。一番軽い奴だし、ちゃんと1時間くらいで目覚める様に調整しましたから。

 いやぁ相変わらず威圧されたけど、ちゃんと貸し出してくれたし頭上がらないなぁ卯ノ花隊長は……」

 

 彼が今キャップを閉めた瓶には、液体。そしてギターケースを引っかけていない絡繰腕の一つの、刃の先端からぽつぽつと液体がこぼれていた。明らかに緋真の気絶は彼の為した事の結果であり、特に悪びれる様子もない。巫山戯んじゃねェ! と額をぶつけ、にらみつける。

 

「どういうつもりだ、今、全然納得いってなかったろ……! そっちの普通の女みてェな虚が言って、それで、俺達も説得すりゃ良かったろ、何で無理やり眠らせた!」

()()()()()()()()()()()、かな。だったら傷が浅いうちに引いた方が、お互いの為だ」

「はァ!?」

「少なくともこれで、彼女の不信感は死神全体『ではなく』僕個人になるだろうし。だからといって、事の正義がこちらにあることを理解できない程、彼女も幼くはない」

「そう言う話じゃねェだろ! お前がやっちまったことは――――」

 

「――――良いのです、そちらの、死神の方」

 

 志道を問い詰める海燕に、しかし声をかけたのは。緋真を横にして眠らせ、どこか寂し気な微笑みを浮かべる雪奈。どういうことだと、もっとまだまだ話足りないだろうがお前、と気遣う海燕の言葉に、しかし彼女は頭を左右に振る。

 

「それはとても当たり前のことで……、雪が解け春に川となるような普通のことで。それでも、だからこそ、私にはとても眩しいのです」

「何言ってやがンだ、アンタ……?」

「十は叶わずとも、三くらいは叶いましたか?」

 

 困惑する海燕の隣で、志道が当たり前のように確認する一言に。意味がやはり理解できないだろうその言葉に、しかし彼女は首肯して。

 倒れた緋真の方を向いて微笑み……、目を閉じた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 その後の事は、海燕にとって多く語れることはない。

 

土置(つちお)こうZe、四鑿(よんのみ)!』

 

 雪原はいつの間にか姿を消した世界。大きなヘラのような刀身に変化した斬魄刀を振るい、影で支配された空間の地面を使い大きな窯のようなものを()()()()()刀神。横には、まるで水桶のようなもの。刀を仕舞えば、メラが彼の隣で火を吹き、窯の中に火をともす。

 揺らめく炎に怯えながら、雪奈は目を閉じる、例の帯や布のような斬魄刀で拘束された彼女をめがけ、地面に置かれたままだった大槌を振構えた刀神は。

 

『心配いらないSa。多少は痛くとも「受け入れるなら」すぐ収まる。……罪子ちゃん、忘れさせてあげな』

 

 そこから続く所業は、とても「人の形をした存在」相手に見られたものではない。

 にもかかわらず、虎徹志道と志波海燕とは、並んでそれを見ていた。

 

 志道は特に興味もなさそうに。海燕は顔をしかめ、歯を食いしばり。しかし二人とも、そこから目を逸らすことはなかった。

 もはや人の形を失い、槌で打たれ、水で冷やされ、尖れ、また炉に放り込まれる彼女を見ながら。海燕は肩に担いだ緋真が起きても見えないように、決して見せないように、背に頭が来るように持ち上げていた。

 

「見たくないなら、見なくて良いと思うのに」

「……話せなくても、せめて顛末だけでも見届けてから言ってやらなきゃ、誰も彼も示しがつかねェだろ」

「真面目だなあ。僕が代わりに後の説明をやって、憎まれ役くらいなら引き受けるって言うのに」

「それじゃ駄目だろ。心ってのは、人と人との間に生まれるモンだ。だったら、最後の言葉をちゃんと教えて、見届けてやらなきゃならねェ」

 

 ――――貴女に会えて、私は幸運でした。

 ――――貴女に慈しまれて、とても嬉しかったのですから。

 ――――だからそれだけで、私も、人の幸せのほんの少しでも感じることが出来たのですから。

 

 そう言って、姿を失う前に。緋真を見やった彼女の顔が、海燕の脳裏には酷く焼き付いて離れない。

 なおも続く、まるで刀を作るようなその刀神の所業。否、本当に刀でも作っているのだろうか。時折、志道に先ほど投げたギターケースから取り出した粉のようなものをふりかけ、練磨し、研ぎ、そしてまた熱してを繰り返している。

 

 そんな海燕の様子を気にせず、志道は話し続ける。

 

「もともと、外部の魂魄として。(こっち)の法則性と違うとはいえ本来は置換されて、それなりに不都合が起きないようになるのだけれど。彼女、あるいは彼の場合は魂魄の在りようを切り分けてたせいで、そこに色々トラブルが起きた。

 藍染隊長が西(あっち)に行ってるのも、その影響で東側から何か悪影響が流れていないかの調査名目ってことらしいね」

「…………」

「基本、法則性、あるいは名前の範囲を逸脱した場合、()()()()()()()()()()()()()()()らしいけど、名付けた際の影響が大きいなら別な形・名前に成型して影響を逃がすっていうのが、一つの回避策として使われていたらしい」

「…………」

「わかりにくければ、簡単に言うと…………、彼女を浅打(斬魄刀)に加工することで、本来の強大な、こちらの定義で決着をつけられない異常な存在にするのを防ぐという意図がある、みたいなところなんだろうね。まあ、浅打になる以上は……、どれくらい本人がそれに、事情に、納得するかどうかは別として。

 多分だけど、斬魄刀との対話みたいなことも、ああやってる間に行われてるんだと思うんだけれど――――」

「虎徹、お前よォ」

「ん?」

 

 特に何ら感慨もなさそうな志道は、あえて海燕の表情を見ず。

 海燕もまた、志道の顔を見ることはなく。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前」

「…………………………………………」

「俺は…………、お前のそう言う所は、嫌いだぜ」

「…………うん。だったら、君はずっとそのままであってください。志波海燕。心の在りように対するその嫌悪は、きっとそれが、()()()()()()君を救うことに繋がるはずだ」

 

 

 

 何だそりゃ、と。志道の言葉に、海燕は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。

 そこには、先ほどの言葉に含まれていた棘はもう無かったのだが。

 

「…………人とふれあい幸せになりたかった、は……、王子様でもいないと難しいですよ? 白雪姫(スノーホワイト)

 

 ただそれでも、志道は海燕の表情を見ることが出来なかった。見る気に、なれなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

「……やはりよくわかりませんよ、平子隊長」

 

 英国のバーにて、管楽器やギターで演奏されるジャズ音楽を一人聞きながら。義骸に洋装姿の藍染惣右介は、無表情に紅色のカクテルを少しだけ口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

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