地に立ちて_見上げる天に_藍見えず   作:黒兎可

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疲れてるのか、展開が色々暴走してる感じです…
 
一角あたりの描写は、多分次か次の次あたりで色々深堀予定


鍛冶打つは、先立ちし何か

 

 

 

 

 

「べろべろ、ばァ! 食っちまうぞォ!」

「うわ~~~~~~~~ん!?」

「止めなって一角、多分更木隊長より怖がられてるよ……」

 

 うるせェ! と怒鳴るスキンヘッドの青年に、おかっぱ頭の耳のあたりに飾り物をつけた青年はため息をつく。

 

 瀞霊廷のとある場所。隊士を始めとして在住者の多くが利用する、衣服や雑貨の店の並びに、その屋敷はある。「虎徹錬刀場」と達筆な縦書きの文字で書かれた看板の、渋い屋敷である。

 護廷十三隊御用達と書かれた見出しに従ってか、屋敷の周りにほぼ客はいない。青年たちが珍しいくらいだ。

 

 そしてそんな中、店の入り口にいる白髪の、いまだ十代には届いていないだろう少女が、一角と呼ばれたスキンヘッドの青年の顔に号泣していた。

 

「全く、志乃のヤツならこれで爆笑すんだがなぁ」

「なんだかんだ付き合いがある相手と、初対面の相手とじゃ勝手が違うだろうさ。それはそうと、更木隊長はまだ来ないのかな?」

「あの人、意外と方向音痴だからなァ……って、ん?」

 

「――――――――とーぅ! 錫ねん(ヽヽヽ)のちびっ子を虐めちゃ駄目だよ、つるりーんッ!」

 

 おわッ!? と声を上げる一角。遠方から「霊圧を爆発させて」一瞬で接近してきた桃色の髪の少女が、一角の側頭部にドロップキックをかまそうとして来ていた。

 その死覇装の膝から頭をぎりぎりで庇うように腕を盾代わりにするが、今の一撃が相当強かったらしく苦悶の表情である。「テメェ、覚えてろよ……?」という怨念めいた声に、しかし少女は一角を無視していた。

 

「大丈夫? 錫ねんの子。……お姉ちゃんのほう?」

「う、うぅ……?」

「あたしね、剣ちゃんと一緒にお店に来たんだけど、剣ちゃん何処か行っちゃったの! だから先にあたしだけ、刀取りに来たんだ~」

「えっと、えっと…………、お母さん、呼んで来る」

「うん、いってらっしゃ~い!」

 

 慌てたように店の中に走る少女。

 彼女に手を振る桃色の髪の少女に続いて、その後方からのそりのそりと長身のシルエットが歩いてくる。髪を後ろに適当になでつけた男は、片目に切り傷の跡が残った、いかにも獰猛さを感じさせる容姿をしていた。

 更木隊長、と一角や弓親と呼ばれたおかっぱの青年が頭を下げる。

 

「別にンなことしなくても良いんだがなぁ。まあ、用事が無いなら早い所入るぜ。

 なにせ志道のヤツからの紹介だ。やちるの方はもう先に預けてあるからなぁ」

「…………はい」

「はいはい」

 

 志道、という名が出た瞬間、わずかに表情をしかめる一角。そんな彼を気遣うように、肩を軽く叩いた弓親。

 るんるんるーん♪ と楽し気な少女、やちるとは正反対な青年二名であるが、それでも表情を更木……、更木剣八には悟らせなかった。

 

 戸を開けると、その向こうでは「数十の浅打」が飾られており、奥で鉄を叩く音が聞こえる。鍛冶場らしいと言えばらしいが、さきほど店内に走って来た幼い少女をあやす少女を見て、やちるは顔をぱああと明るくし、絶叫しながら飛びついた。

 

「錫ね~~~~~~んっ!」

「あら、やちるちゃんッ!」

 

 ひしっ! と。何故かお互い、長年会っていなかった古い親友と再会を果たしたかのような、妙に感情の入った抱擁である。

 その謎の挙動に、白い髪の少女は不思議そうにしており、一角たちは困惑していた。

 

 更木に関しては、我関せずとばかりにきょろきょろと周囲を見回している。

 

「おう、邪魔するぜ。志道の奴は居ねェのか」

「あ、ざざ、更木さん!? おおお、おはようございます。

 ()は、今朝方訪ねて来た藍染隊長と少し出かけていますね」

 

((お、夫!?))

 

 やちるを下ろしながら更木へと慌てて頭を下げる少女に、動揺する一角と弓親。事前に更木剣八から聞いていた二人は、その少女の物言いに驚愕をした。

 外見上は、おおよそ十代の中頃か。アレンジの入った死覇装めいた装いに、首元にスカーフ。髪はショートボブをやや長くした具合か、枯草色めいた茶髪に、頭頂部で巻いた布巾(タオル)の結び目が垂れて、どこか犬の耳のようでもある。

 体格はそれこそ現世基準で言えば150センチより少し大きいくらいで、身体的にもスレンダー。一目見て成長途中の少女という印象である。

 

 しかし、彼女の自称が正しければ。事前に更木から聞いていた通りの相手だとするのなら、その外見に騙されてはいけない。

 

 彼女が背負う「くすんだ金髪の赤子」を見て、更木はニヤリと獰猛に笑った。白髪の少女が、怯えたように彼女の背後へと回り込み様子を伺う。

 

「ガキが生まれたってのはまぁまぁ前に聞いてたが、もう首据わってンのか」

「ささ、流石にそれくらいじゃないと、私も店頭に立てませんからっ」

 

 何故か慌てたように言う少女。やちるは彼女の顔を一瞥してから、その背後に回り込む白髪の少女のすぐ横に立とうとする。もっとも幼い少女は怖がってか恥ずかしがってか、ぐるぐると更木たちの周りを走りながら逃げる。

 

「おいかけっこだー! 待ってー!」

「う、うわあああああん! びえええええんッ」

「やちるちゃん、勇音(ヽヽ)ちゃん、あんまり遠くに行かないようにね~」

「わかった~!」「お、お母さ~んッ!?」

 

 もはや泣きべそをかきながら走る少女を、やちるは楽しそうに追いかけ店の外に出てしまった。

 おいおい、と一角の頬が引きつる。そもそも今日の主目的の一つは、やちるの斬魄刀を引き取りにくることだったはずだというのに、何を遊んでいるのか。

 

 それはそうと、更木は「ガハハハ」と笑い飛ばし、一角と弓親を紹介した。

 

「そのうち、ウチの隊に入ってくる予定だ。何かと用事もあるだろうからなぁ、顔見せだ」

「ごごご、ご丁寧にですね……。

 えっと、はい。ウチは尸魂界(ソウルソサエティ)でも数少ない『斬魄刀の調整』をやっている場所になります。何か御用聞きがありましたら、交渉次第で特別価格で色々やっちゃいますよ?」

「お、おぅ……(店の宣伝、下手かこの女)」

「(落ち着きなって、一角。それにしても、ねぇ…………)」

 

 まさか「この見た目で二児の母」とは、という意外性に対して、リアクションをとりかねている弓親であった。

 

「それから、もし入隊するんでしたら夫のこともありますので、色々そのお手柔らかな感じでお願いしますといいますか、ズバッとしてブシャー! なことにならない感じで……」

「あ、あァ!? 悪ぃんですが、ちょっと何言ってるか分からないんスけど……」

「ふぇ? え、えええとあのですね、はい――――」

 

 

 

「――――済みませんね。家内の錫音ちゃん、結構あわてんぼうなもので」

 

 

 

 戸を引きのれんをくぐって、店に入ってきたのは虎徹志道。休日だというのに例のごとく死覇装姿めいた黒装束だが、腕章を今日はしていない。

 その肩にはやちるが肩車されており「ただいま、錫ね~ん」と何やらご満悦だ。

 ……そして彼の足元で、勇音と呼ばれた少女が「む~」とやちるに嫉妬している様子である。

 

 志道さん! と顔を真っ赤にした錫音は、それこそ慌てたように彼の方へと小走りで駆け寄って手を取り「ごごご、ごめんなさい、後お願いしますッ!」と言って店の奥へと逃げて行った。

 苦笑いする志道であったが、そんな彼を見て一角と弓親は何故か引いていた。

 

(……二人もガキ産ませた女、ちゃん付け呼んでンぞアイツ)

(あの見た目なら違和感はないけど…………、まあ、仲が良いということにしておこう)

 

 ちなみに志道の外見はおおよそ二十代。錫音はどう見積もっても十六か十七程度なので、外見からくる呼び方の違和感は確かに弓親の言う通り少ないのだが、それはそれとして何を年甲斐もなく、みたいな空気感の二人であった。

 

「錫ねん、あたしの刀を取りに行ってるの?」

三歩剣獣(ヽヽヽヽ)、ですかね? 少なくとも『そう言っておいた方が良い』ですよ?」

「う~~~~~ん…………、うん! わかった!」

 

 いまいち意味不明な、やちると志道とのやりとりは置いておいて。

 

「斑目一角君と、綾瀬川弓親君、かな? 来年で霊術院は卒業、志望はウチの隊、だね。

 一応自己紹介しておこうか。虎徹志道、現十一番隊第三席(ヽヽヽ)だよ。来月くらいには射場(いば)さんも書類仕事の要領をあらかた覚えてくれるだろうから、そしたらまた変わるから四席になるけど…………、まあ、よろしくね」

「「…………」」

 

 自己紹介もなしに、いきなり名指しで名前を呼ばれた青年二人は絶句。

 ガハハハハ、と少しだけ悪戯に成功したかのような笑い声をあげる更木剣八。やちるはいつの間にか姿を消しており、はっとした勇音が慌てて店の奥まで走っていった。

 

「面くらうだろうが、こういうヘンな奴だ。でも、しっかり喧嘩も出来る奴だからなぁ」

「いえあの、隊長就任直後のアレはもうこりごりというか…………、一太刀浴びせて入院になっちゃいましたし……」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。『他の奴らは誰一人』、この俺を袈裟斬りになんざ出来やしなかったろうが。

 勿体無ぇなあ、戦い以外の余計な仕事なんざなければ、もっと派手に色々やれるってのに」

「そこは前隊長の爪痕がまだまだ深いということで――――――――っと、ちょっと待ってください」

 

 そんなことを言いながら、一瞬その場から消えた彼は。次の瞬間には「もう一人」「眼鏡の隊長」を引き連れて現れた。

 否、引きつれたというよりは、首のあたりチョークスリーパーを極めながら連行して来たが正しいか。

 

 その眼鏡、藍染惣右介は、首に掛かる腕を引き気道を確保しながら、動揺しつつ志道を見上げる。

 

「は、はかったな志道…………!」

「えー、で! こちら平子前隊長……といってもご存じ無いですかね、まあ前隊長から『特に』目をかけてもらっていた有望株! 藍染惣右介君です! 普通に強いので、隊長もお気に召すと思いますよ?」

「ほぅ?」

 

 ニヤリと笑い藍染を見定める様に上から下まで観察する更木剣八に、顔を青くする藍染。

 ぼそぼそと志道に、小声で抗議の耳打ちをしていた。

 

「(店の外で更木剣八の実物を観察するのに協力してくれるのではなかったのか! この雑な(はかりごと)…………、貴様、それでも我が友かッ!)」

「(我が友である以上に我が人生設計を滅茶苦茶にした大戦犯だからなぁ……。少しくらいは痛い目を見て良いと思うよ? うん。良く言うじゃないか、生命が最も強く己に自己進化を促すときは、己の全存在の生存の危機に他ならないって)」

「(それは私が以前、君に語った持論なのだが……! このようなタイミングで引用されることを想定してはいないのだが……ッ!)」

 

 何やら仲が良いような二人の様子に、一角たちの微妙に強張っていた表情は緩み。

 なんなら弓親はともかく、一角もまた更木のごとく「へぇ?」と言いながら、藍染の全身を舐めるように、どの程度の強さなのか推しはかるように観察していた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ――――ぁぁぁああああ藍染(あいぜぇん)惣右介(そおぉぅすけ)ぇえええええええええッ!――――

 

 おや、どうやら上手く行ったようだ。

 私の斬魄刀、鏡花水月の能力の実験をかねた試みは、我が友のその絶叫を鑑みれば成功を見たと言って良い。

 

 なにせ普段なら、ルールを律義に守りこの図書館においては静かに振舞っている彼が、人の目を気にする余裕もなく私の名を、恨みがましい怒りの声で呼ぶのだから。

 

 念のために防音のための結界を準備しておいて正解だったろう。

 私と違い、彼は自らの霊術院での成績や心象を良くすることに心を砕いていない。

 

 そして走りながら現れた彼は、私服なのか黒い襦袢の下に、現世の西洋風のシャツをまとって現れた。

 

『やあ、おはよう』

『おはよう………、おはようだけど、それはそうとして一発殴らせてもらうよ惣右介』

『それは御免被りたいところだが、どうやら実験は上手く成功したらしい。ならば私もそれなりに抵抗を――――』

『卍解、無間裂詠――――――――』

『そこまで本気かッ!?』

 

 人払いをしていることを良いことに、どうやら本気の本気で私へと八つ当たりをするつもりらしい。

 とっさのことに、当時は今ほど瞬時に自らの霊圧を「平時」と「戦闘時」での切り替えが出来なかった私は、甘んじて彼の一撃を腹に喰らうことにした。

 

 致命傷を負わせることは無いと、それくらいの信頼関係は僕と彼の間には、既に存在していた。

 

 閑話休題。ある程度落ち着いた彼と共に図書館を出て、近場の茶屋へと入る。ここでも防音結界を張った上で、今度はさらに鏡花水月の催眠を重ね掛け。周囲には私と彼との会話している風景は、それとなくあたりさわりのない話題を挙げているのだと認識するように刷り込んだ。

 

『音が聞こえなくても、そうだと認識していたら疑えないってことか。……中々習熟度が上がっているようで』

『褒めても何も出ないが……、賛辞は有難く受け取って置こう。

 それで? おそらくは虎徹錫音のことだろうと推測は立つが、どうしたんだい?』

 

 虎徹錫音。私と彼が、四年生の頃に入学してきた少女だ。

 実家の関係で少しいじめられていたらしい彼女を、志道が「それとなく」手助けして、いじめを解消したのを切っ掛けに、彼へと好意を抱いていたのを私は確認している。

 

『……も、元々、私は死神の人たちとつながり…………、こねくしょん? を作るために、ここに入学したといいますか……、もも、もちろん死神になる気がまったくない訳ではなくってですね、はい!

 だからその分、不純だーって思われたみたいで……』

『僕なんて生活水準を上げるために霊術院に入ったようなものだから、そう言う意味だとこっちの方が不純だね、錫音ちゃん』

『ええええええっ!? そ、そそ、そうなんですか、先輩……』

 

 志道彼女を始めとして、同年代、後輩問わず、男女の区分なく、それなりに良く接していた。成績の良し悪しよりも、集まりがあれば必ず呼ばれる。そういった立ち位置であり、結果として私も彼と同伴する形で顔が広くなったものだ。

 無論、その中で友と心から呼べるのは彼だけではあったが……、そして斬魄刀の能力もせいもあるのだろうが。そのせいか一部の、やや院でも「尖った」異性に妙な矢印を向けられていることが多かった。

 

 小動物のように愛らしい彼女は、志道へと好意を向ける異性の中でも「まだ」まともな方だろう。時折妙に思い切りが良い部分が見受けられたが、子供の範疇といえる。

 

 だからこそ、我が友たる彼に「守るべきもの」を作らせようと考えた際。一番シンプルで、サボリ魔だが義理堅い部分もある彼からすれば逃げようがない存在として、恋人の立場を作ろうと考えた際。

 一番最初に彼へと「あてがう」存在として、彼女を選んだ。

 

 もちろん、何かしら焚きつけるのに失敗しても一番問題が起こらない相手だという判断だ。普通というのはそれくらい重要で貴重な属性であると、この時、私は彼女に目をつけた自分を自画自賛したくらいだ。

 

 その話を「あえて」遠回りに説明すると。彼が気を抜いて、私が目的を達成する前に死ぬことのないようにするために手を回したというのを説明すると。

 志道は、見たこともないくらい暗い表情で私を見て、聞いたこともないくらいの低い声で、ぼそりと呟いた。

 

『…………襲われた』

『は?』

『………… 一服、盛られた』

 

 無警戒だったのは認めようと、何とも言えない表情のまま、彼は私に説明を続けた。

 思わず呆けてしまった私を誰が責められよう。嗚呼、語られた事実の何と、げに恐ろしきか。

 

『お礼がしたいって、手料理を振舞ってくれるって言って、ここまではお弁当を作って来てくれたり、ついでに遊びに行きましょうっていって色々お店を回ったりして……、これくらいなら、たまに彼女に限らず逢引(デート)に誘われることも零ではなかったから、変な話ではなかったんだけれどね。

 まさか最後に夕方、入った店で酒を少し摘まんだ時、薬を盛られるとは……』

『君なら気づけたのではないかい?』

『デート途中で裂読が不機嫌になってふて寝して、集まる情報が激減してたし』

 

 それは、流石に私も予想外だった。…………後から知ったが、どうやら彼の斬魄刀もそれなりに「尖った」異性ではあるらしい。

 どういう種類かはともかくとして、斬魄刀すら彼に好意を抱いていたとするなら、どこの誰とも知らない少女と長時間の逢引はさぞ不機嫌になったことだろう。

 

『そのまま気が付いたら翌朝、僕の布団で同衾してるときちゃ、もう一貫のお終りだよ』

『それは…………』

『生憎と「記憶が飛ばない」程度には正気が残っていてね。言い方は悪いが「本能のまま」「勢いで」手を出したものだから、色々準備も終わっていなくってね』

 

 その割に衝動で襲ったものだから、もはや色々言い逃れが出来ない状態にされてるんだよ、と。完全に外堀を埋められたらしい彼は、乾いた笑いで私に言う。

 

『惣右介……、女の情念って怖いぞ? 君、信じられるかい? 自分で薬盛っておいたくせに、意図的に自分の長所を判断した上で誘い受けするように焦らして、嫌がってる素振りで悦んでるのが分かる程度に表現してきたりするんだよ? あの、まだまだ可愛いざかりって感じの女の子でさえ。怖くない?』

 

 まさか一夜にしてそこまで事が進むなど、それは流石に私の推測を超えていた。人間は見かけによらぬ本性を持ち合わせているとは、我がこととして理解していたことではあるが、どうやら世界とはまだまだ私の知らない形で、広く深いものであるらしい。

 このような出来事で実感するとは全く想像していなかったが。

 

『…………おそらくその手の経験を私がすることはないだろうが、なるほど。警戒に値するという事実は、一考の余地があるか』

『一考の余地があるか、じゃないよ!? どう考えても君が彼女の自重をとりはらったせいだよね!!? 朝起きて一発目から裂読使って調べたからね!?』

 

 まさかあのまともそうな少女でさえ、一皮剥けばその有様とは……。

 やはり彼の周りには、尖った異性しか集まってこないのかと、珍しく混乱している彼に笑いながら、私はそんなことを思って「まだ」軽く考えていた。

 

 

 

 そこから数か月後、卒業もまだ見えない内から「院生結婚」まで彼女が、外堀を埋めて漕ぎつけ志道を追い詰め逃げ場を失わせて責任を取らせて幸せそうにしていたあたりで、私と彼はその類のことについて考えるのを止めた。

 

 世の中には、軽々しく手を出すべきでない情念の類のものがあるのだと察した。やるのならば、慎重に慎重を重ねなければいけないと。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「わ~~~~い! 剣ちゃん、見てみて! 車輪(ヽヽ)可愛い?」

「柄も鍔も丸っこくて持ちづらそうだな」

「もう! そういうことじゃないよっ! せっかく錫ねんに外装とかいじってもらったのにっ」

 

 もーう! と怒りながら落雁を齧るやちるに、更木は困った様子である。

 彼女の手には、新調された自らの斬魄刀…………、元の浅打から比べればかなりファンシーとなった鞘や鍔やらのそれが握られている。なお、鞘に関しては身長の低さを補うためか、底部に小型の車輪がつけられており、調整者のセンスが光る。

 まぁ仕方ねぇ、と不機嫌そうな少女から視線をふり、赤子を抱える志道を見る更木。世話になったな、という一言に、「またご贔屓に」と笑顔で返す志道。婿養子だが、妻よりもかなりそつなく熟していた。

 

「一角君たちも、正式配属後に環(※尸魂界の通貨)をいっぱい支給されたら是非、当店をご贔屓に!」

「ど、どうも」「まあ検討には入れますよ。……仕事は丁寧みたいだし」

 

「じゃあ藍染、今度会ったらきちんと()ろうぜ?」

「え、えぇ……?」

 

 そんな風な商売らしいやりとりの後に、更木は床で膝と両手をついている藍染へと愉し気に笑いかける。やちるが新調した斬魄刀の外装の取り付けを間近で見ていた間、彼も彼で藍染へと自らの霊圧をぶつけたりといった「軽い」試しをしていた。

 その結果、意外と屈した様子もなかったことから、どうやらある程度はお気に召したらしい。

 

 もっとも藍染本人は不満そうであるが。

 

「で、どうだった? 惣右介」

「……普通に遊びに来た日にこんな心臓に悪い出来事は、回避してもらいたいところだったけれどもね」

「そこは、仕方ない。…………言っておくけど、アレで更木隊長って結構真面目な方だから、まだマシだよ。卯ノ花隊長(初代剣八)なんて根が『大悪人』だから、一見真面目に見えても行動の根底は結構アレだし」

「その情報を聞かなかったことに……、したところで現実は変わりないか」

 

 それでも僕は屈しないよ、と。やや声が震えている藍染に手を貸し、志道は引き上げ立ち上がらせた。

 

 

 

 ……ちなみにその後方で「男同士の友情? もしかして一線いってる? それはそれで悪くないような、そうでもないような…………、なんかちょっとイラッときた。こうなったら、もう一人くらい作ってもらおうかな」などと不穏なことを呟く虎徹錫音に、勇音は不思議そうな顔を向けていた。

 

 

 

 

 


Q.虎徹家

A.本作では尸魂界的には珍しい、現世と共通して刀鍛冶をやっている一族。刀鍛冶といっても包丁とか、尸魂界の刃物専門は存在するが、ここの家は「上」から卸された浅打の最終調整だったり、あるいは外観変更だったりもやっている。

 

Q.席次の降格についてどう思っているか

A.本音を言えば給与体系が変わるのであまりやりたくないけど、更木隊になってからは討伐数が激増するので、それに伴い特別給金が増えるからトントンではある。

 

Q.今日のヨン様

A.平子が(自分の計画で)失踪したことで空いた穴を埋めるために色々忙しくしていた愚痴がてら遊びに来た→そろそろ忙しくなりそうだから帰ると言う話で送るよ、となってついていったら生の更木剣八がいたので、せっかくだからどういった感じの相手なのか観察しよう→連 行 と言う感じ。

 どうして逃げないのかといえば、連行したのが志道だったから。

 

Q.学生結婚(院生結婚)

A.出来婚じゃないだけまだ手加減してた錫ねん……と言うわけでもない。これにより、緩く死神生活を送るつもりだった志道が真面目に仕事を考えざるを得なくなる。ヨン様の目論見通り、そういう部分は真面目だった。

 なおこのせいで、志道からヨン様へ無茶ぶりが若干増えるのと、ヨン様もこれにはちょっと罪悪感があるのか割と甘んじて受け入れるように。

 

 

 

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