おどれ、自分が性格悪ィことくらいは最初からわかっとるが。それはそうとしてまぁ、性格悪くてけったいな人間っちゅうのがこの世にはわんさかおる。
それは俺が副隊長に任命して監視しとった藍染惣右介もそうやし、その
まあ、そもそもアイツ初めて見た時からして、だいぶ変わった奴には思っとったんやがな。
『何しとんねん、惣右介』
『あっ、これは平子
霊術院出て早々、なんやかんやウチの隊に配属された藍染惣右介。当初から他の隊士みたいに気にかけとったが、そんな親しくもない、ごくごく当たり前の後輩って距離感の頃。
そんなある日に、あのメガネは大量の資料を抱えとった。
虚の目撃証言とかやなく、何や流魂街の地区なり何なりの郷土資料とか、あとは絵本とかンマー色々やなぁ。
普通に勤務中、何やってんか聞くんは普通のことや。どう見ても単なる資料整理とかに見えへんかったし。
つーか絵本に関しちゃ、マイナーもマイナー、どマイナーな題材の奴やし。誰書いたんやって話やな。そんくらい見覚えのない本や。
俺の疑問に、惣右介は苦笑いして答えた。
『今度、郛外区の東区でいくつか見回りに僕たちが行くことになりましたけど、土地の情報について僕らは何も知らない』
『ま、せやな。普通やろ。というか流魂街でええやろ、流魂街で』
『そうですか? では郛外区ではなく流魂街で。
しかしいえ、普通ではありません。僕たちは現地の人々と、何一つ認識が共有できていない。土地のならわし程度ならばともかく、文化、信仰、現世からの流入された魂のバランス、虚の討伐数、出現率の変遷、現世での事件との関連性などなど。
現状、僕らに課せられてるのは訓練の時間です。であるならば、僕くらいは知識面での訓練として動くべきかと考えました』
『妙な事考えるやっちゃなぁ。……普通そこまで気を回さんでも、出た虚を斬るっていうのが大前提やろ』
『ええ、大前提でしょう。ただ――――それを為せるものが自らの能力を「裏切るような」ことを、僕はしたくない』
えらい
『平子三席も読んでみますか? これ。逆骨の
『いらんわ。ミミハギ様やろ? 昔、親みたいやった人から色々アホほど聞かされ脅され揶揄われたわ。……てか、これとか何で絵本? ないやろどの隊舎にも』
『十一番隊にはあるそうですが、絵本……。いえ、資料がほぼなく、霊術院からわざわざ取り寄せたんですよ。個人的には中々興味深い話ですからね――――
『あー、アカン。全然わからんわ』
『知りませんか? まなこ和尚は時折、民間の伝承などに出てきますが、ええ。かつて
『そりゃ、えらい大逆やなぁ? いや全然詳細わからんけど。……御前言う割にはこの絵本やと……、妖怪か? 大蜘蛛というか』
『土蜘蛛ですね。いえ、これに関してはおそらく当時伝承をまとめていた人間が、
もしかすると真実の1割程度は描かれているかもしれませんが、とか何やえらいニコニコして絵本を指さす惣右介。普段の真面目気取って涼しい顔して、他の隊士から少し浮いて仕事しとるよりも、よっぽどガキみたいで好感が持てる表情やった。
惣右介は楽しそうに語る。御前の兄とされる
こんなん持ち出しても今の時代に信仰理解しとる奴とかおるんか? と聞けば。
『現在に見られないとしても、少なくとも土地において影響は多かれ少なかれ残っているものです。そういったことを調べまとめ真実を検証する行いこそが、先人に追いつき追い抜くために必要な工程かと』
このあたりでわかったわ。このメガネ、こういうえらい賢そうっちゅーか、小難しいこと捏ね繰り回すんが大好きなんやなっと。
ま、趣味は人それぞれやし否定するもんでもない。実際、霊術院での成績とか鑑みると普通に優秀なんやし、コイツはむしろ好きにさせとった方が伸びる奴やなと苦笑いが浮かんだ。
亡くなった朱司波隊長に代わり、ウチで面倒みとる藤丸とかまつ梨とかと違う、しっかり自分に何足りないかを理解して、自分で成長できる奴やな、ということや。才能の塊で、かつ努力家とか嫌味かっ! とツッコミ入れよう思ったりもしたが、そういや周りに合わせても少し浮いとるし、本人もアレは微笑んでるだけで感情隠しとるだけやっちゅーのも察して、せめて俺くらいは気兼ねなく接してやろうかと、そう思っとった。
――――俺の斬魄刀が、逆撫が珍しく声をかけてきたりさえせんかったら。
逆撫はエラい性格悪い斬魄刀で、基本的に話しても話しても嘘しか言わんし、そもそも周りに興味もないからな。こん時は知らんけど、後でこいつの卍解知った時なんて、完全にその周りに興味ない言う性格の最たるもんになっとったし、これは
そんな逆撫が、いきなり初対面から惣右介のことについて聞き始めた。
いや、その興味いうのも嘘かもしれんけど、少なくとも俺に付き合いがある人間でああいうリアクションとったんは初めてやった。
嘘つきで周りに興味なんてなく、それこそガキもガキの頃の俺みたいに周り全部死に晒せやッ! くらいに思ってそうなコイツが、むしろ興味津々やった。
見た目からはわからん何かがある思って、警戒するんわ当たり前や。
そっからまァ色々あって何十年か一緒に仕事して。俺が副隊長すっ飛ばして隊長になってから、
性格的に、周りから羨望集めることはあるが、惣右介は自分から踏み込んでいったりはせんかった。だからあのメガネが自分から積極的に、何かしでかすことはないと、副隊長として真面目に仕事しとんのを見てそう判断し。
だからこそ、一番監視しやすい位置に据えたっちゅー話でもあるんやがな。
逆撫も逆撫で、間近で惣右介見れて偉い
まあンなしょーもない話はさておいて。そんな風にいまいち、俺も雑に絡んだり真面目に絡んだり色々手を変え品を変え、距離感を詰めようとして探っとった時。唯一、全く気兼ねなく惣右介が話しとる奴がおった。
惣右介と違うメガネをかけた十一番隊隊長、虎徹剣八。本人は剣八がどうのとか言うと「九代目って呼んでもらえると嬉しいです」とか返してきよる、なんやフツーな奴や。前髪が少しだけ白髪なっとるくらいで、後はホンマ普通やった。
九代目とか人名やないやろって、俺個人は
就任式んことは今でも覚えとる。隊長副隊長そろって現世行っとって代理で出席したんやけど、主賓のくせに明らか嫌々来とるんが丸わかりの虎の字に、四番隊の卯ノ花サンがえらいニコニコして圧かけとった。否とは言わせんって奴やな。虎の字も山本の爺さんもえらい微妙な顔して、六番隊の響河も苦笑い。二番隊に至っちゃ隊長が笑いこらえとる始末やし、もう混沌を超えた混沌やった。終わった後で羅武とかと一緒に虎の字呑みに連れ出して、パワハラかけられとんなら相談乗るとか慰めたなぁ……。どう見ても文官って感じやったし、そもそも隊長も特例とか臨時でさせられとるし、何より本人が「御給金上がるのは良いけど隊長とか責任度が……」とか顔色悪くて、俺とかチラ見して助け求めとったからな。
ま、その後すぐにもうエラい可愛い嫁も子供もおってしかも
その虎の字相手にしてる時だけ、惣右介は明らかに気安さの次元が
『君のその昼食は、何だい?
『何って……、ネギ弁当?
『そのネギだけを串焼きにしたものと、スライスされたネギを刺身のように盛り付けたものと、色が黒ずむまでクタクタに煮込まれてへたっているネギと、ついでにその握り飯から飛び出た雑なネギは一体何なんだ!? というよりそんなものどこで売っているというのだ、食生活への冒涜ではないか!!?』
『たまには変なものも食べてみようかと思って。軽ければ何でも良いよ、たぶん今日の夜は錫音ちゃんが「朝はごめんなさいっ! お詫びに何でもしますからいっぱい食べてください、何でもしますから! 何でもしますから!」とか言って、ものすごい豪勢なことになりそうだし』
『聞く限り、精のつくものだろうと思うが……。結局得してるのは彼女だけではないのか?』
『そうだね。いや、まあ夫婦仲が良いのは普通とても良い事だと思うから、僕としては特に言うことはないかな?』
『軽々と女性のそういった情念を躱す君が恐ろしいよ……』
『正面から受けているだけだよ。ただ、あそこまでアグレッシブに好きを表現するようになったのは、大いに君のせいだと思ったけれども? 惣右介~? 君少しこっちを見ようか、ん~?』
いや、ホンマ気安す過ぎやわ。誰やねんお前、メガネ曇ってずれとるぞ。
十一番隊との合同任務の時に少し顔合わせあった時に見かけたんやが、同期で学友で普通に友達いう話ってのは聞いとったが、思った以上にヤバいくらい友達しとった。
後日、京楽隊長に呑み誘われた時に連れ出して色々雑にくっちゃべったけど、特に何かこっちには逆撫も反応せんかったし。どう考えても虎の字に対してだけ、惣右介の方がだいぶ地を出しとるみたいやった。
その時の様子だけは隠し事も嘘もなさそうで、見てて妙に笑えるわ安心出来るわ。慌てる姿を見られてたんに気付いて珍しく顔赤くしとったし、そのまま俺見て「ちょっと! 隊長からも虎徹隊長に言ってあげてください!」とかエラい生真面目に振舞っとるのとか完全に笑かしにきとったし、口調も何や普段より砕けてる感じで、思わず生暖かい目で見守ってしまうわ、あんなん。
そんな虎の字が、まァ隊長下ろされて。代わりに隊長なったんがあの
隊長格のなり代わりで最もシンプルな方法――前隊長を打倒し殺す――という所業を行い、しかも殺されんで生きたまま、そのまま隊長職を退くとか、正直何があったか意味不明やったわ。
就任時にパワハラしとった卯ノ花サンも、何となく納得いってへん感じで色々言っとったし。まァとにかくそんな感じで副隊長になった虎の字に、惣右介は怒っとった。権力争い的とかそういうことで下ろされたとか調べたりするでもなく、絶対虎の字がサボる目的やった確信しとった顔やったわ。
そうは言うても、仲良すぎて全然まともに話進展せんあたり、ホンマにアホやっとんなぁって感じやったけど。
『どうして君はそう簡単に自分の職務を手放したがるのだ。せっかく君が君に見合う立場に立てたというのに』
『惣右介にそうお墨付きをもらってもねぇ。言っただろ? アレもまた一つの強さだって』
『僕は納得できていない』
『でも、僕がどういう観点で負けを認めて、上に掛け合ったかは教えてもらいたくないだろ? 自分で見定めることが出来て初めて対等、みたいな考え方をするのが君だ』
『それはそうだが、君の方からそう指摘されると悶々とする。一方的に苛立ちが溜まっていくこの感覚をどう表現しようか……』
『何か新しい趣味とか、打ち込めることを見つけると良いんじゃないかな。君のその苛立ち、絶対僕のことだけじゃない別件が大多数だろ。
新しい趣味というと、この間ウチの息子が、具象化したみたいな感じになった浅打に肩車を――』
『待ていきなり雑に情報を投げてよこすな、浅打の具象化……? 何だそれは、見たことも聞いたこともないぞ!?』
『僕も初めて見たけど、いや中々グロテスクというか――――』
いや待て浅打の具象化とか何それめっちゃ気になるんやけど……? こっちの心境何てお構いなしに雑談しとる二人は、やっぱりエラい仲良いことだけはわかったわ。
――――だからこそ、あの時に俺は聞いた。
『あなたが今そこに倒れているのは――あなたが僕のことを何も知らないでいたせいなんですよ。志道と違ってね』
俺の不手際……、どう見てもフツーな虎の字と連んどるのを見て警戒が緩んだわけはない。傍でそれなりに仲良く、せやけど内心を探るために一定の距離を保っていた、その不手際故に引き起こされたのが今の惨状やと。
俺やひよ里を始め、何人かの隊長格副隊長格を巻き込んだその事件。やらかしたんは惣右介、いや藍染で、見抜けずヌケヌケと滅茶苦茶されたんは俺や。
『あなたは僕を監視するために副隊長にしたとおっしゃいました。しかしそれは間違いです。僕が着任拒否権を行使せず、副隊長にならないという選択肢をとらなかったのは何故か。……貴方のその、僕に対する疑念と警戒心とが。それでいて志道と共にいる姿を見せるだけで緩む、その柔らかな心根が。僕が今の立場で為そうと考え居たことを実行するに、理想的な状態だったからです。
お分かりですか? ――――あなたではなく、僕があなたを選んだんです。平子隊長』
そのまま厭味ったらしく、俺が全員に謝るべきかもしれんとか安い挑発抜かしよる。
ついこの間、虎の字の赤ん坊に眼鏡ブン捕られてぎょーさん舐めて遊ばれて、しょげてた顔とか思い出して、怒りと笑いとで内心めっちゃくちゃになる。ギャップがエラいことなっとんぞ。
せやかて感情のままに怒鳴って、身体から白い髄だして仮面が形成されかけ。どう見たって死神と虚のデキソコナイみたいな見た目なったあたりで、俺は思わず叫んだ。
『友達やったんやないんか? お前にとって虎の字は、虎徹志道は――――それを裏切るんか、お前は!』
虚化という言葉に、知る必要はないと言っとった藍染は。
それでもそこで一呼吸おいて……、ホンマにいつも通りに言ってきた。
『誤解しないでもらいたい――――
知った上で、彼は僕の友人なのだ、と。何も、何も変わらん。さっきまでみたいに嘲笑うわけでもなく、ごくごくナチュラルにそう言って来よった。
何言われたか判らんで、一瞬アホみたいなツラさらしたわ。
『ただ、そうですね。彼は友人ではあるが仲間ではない。それが答えです。積極的に敵対しないのはむしろ憐れまれているのでしょう。僕が』
『何やそれ……、知とって、裏切られとって、それでも
『ええ。
ねぇ? 平子隊長――――』
――――未だ生まれ出でていない者の、生まれていないが故の傲慢さを正す言葉を、僕は持ち合わせていないんですよ。
エラい詩的なこと言い出した藍染は、そのままいつも通りに続ける。
『彼が隊長を蹴って副隊長となり、基本的に事務職へと従事するようになった。そうでない振る舞いも可能であるにもかかわらず、
『何が、言いたいんや……?』
『彼の斬魄刀は、それこそ王敵「
だが、彼は時折寂しそうに言う――――霊界あまねく大きな事柄には、すべて霊王の意志が宿っている。多少なりとも足掻こうとも、決して、決してそれを超えることはないと』
彼には視えているのです、と。そこだけは、ホンマに藍染は寂しそうな顔しとった。
『生命が生命として自己の存在理由を世界に問うという行為が、その主体性が、創造性が、すべて否定された世界こそが、彼には視えているのです。
それは例えるなら、卵の殻の内側で一生を過ごすような……、卵から孵化せずそのまま死するようなことと、何一つ変わりはしない』
『………………』
『僕が行うことは、結果的にそれを打破することに繋がる。彼が改めて世界に向き合い、僕と「本当に」向き合うことにもつながる。それはあるいは、人のみならず、神さえも』
『お前、何言って……ッ』
『こればかりは、理解を求めていない。ただ副隊長としての僕から言える言葉は――――』
そう言って藍染は、惣右介は、らしくないくらいにこりと笑い。
『――――友達の付き合い方というのも、色々あるものなんですよ』
『…………』
ンなことお前に言われんでも普通わかっとるわいボケ、結局普通に性格悪いだけかい! とキレて。それはそれで怒りの感情で虚化が加速し更に暴走しかけたんは、流石に藍染も想定外やったらしく、少し眼鏡がズレとった。
まっ、こんな所でエエか?
というか何やねんお前、駄菓子屋言いつつ周辺の土地買い占めまくって、色々商社とやりとりしてるんどう考えても素人のソレやないやろ?
えっ何や、戦争終わったから今がかき入れ時? 絶対ロクな稼ぎ方やないやろ、あんまやると地獄落ちるで……。そっちで猫やっとる夜一サンも何か言ってやってくれや、って糠に釘かい。オマエん気もちっとわかる気ィするわ、ひよ里…………。