転生して魔法少女になったけど汚れ仕事ばかりです   作:タメガイ連盟員

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第二話

 日付が変わる頃になって、ようやく自宅に帰り着いた。

 

 送ってくれた運転手の人と、一緒に乗っていたエマさんに挨拶をしてから車を降りる。

 

 よくある2DKのアパート、その2階の角部屋が僕の家だ。

 

 僕はここで一人で暮らしている。

 

 と言っても最初からそうだったわけじゃない。少なくとも、2年前までは父さんと暮らしていたし、12年前までは母さんもいた。

 

 つまるところ、僕は天涯孤独の身だ。

 

 なんのことはない、どちらもこの世界特有の問題によるもので、交通事故ほどではないがよくあることだ。だからと言ってなんの慰めにもならないが。

 

 祖父母はどちらも既に他界していたし、親戚もいなかったので父が亡くなったら施設に入るしかないと思っていたのだが、アパートの大家さんが未成年後見人、と言うものになってくれたし、このまま住み続けることも許してくれた。本当にありがたかった。世の中捨てたもんじゃないと思えるのは大家さんのおかげだ。

 

 お金に関しては父の遺産、と言っても元々僕が先々進学したりするときのために貯めていたものと保険金があるので高校卒業まで贅沢をしなければ生活できるだけの額がある。それでもまとまった額だから後見人である大家さんに管理してもらっていて、毎月生活費を受け取っている。

 

 もっとも僕が魔法少女であることは大家さんには伏せている。どういう意味でも話すことができないことをしているし。魔法少女になるのは保護者の同意が必要になるのだが、僕に関して言えば、〈協会〉はエマさんを後見人とすることで解決している。後見人、別に一人じゃなくてもいいらしい。いいのか? 裁判所とか関わってくることなのに。その辺もどうにかできてしまうのが現在の〈協会〉の立場、と言うことなのだろう。

 

 自宅にあがってからまず元々父さんが使っていた部屋に入る。父さんが使っていたものは殆ど処分したのであるのは仏壇だけだ。

 

 仏壇と言っても小さなテーブルに位牌と遺影を置いただけの簡単なものだ。母さんが亡くなったときからこれだったそうだけど、このアパートの部屋では置く場所がなかっただろうし、値段もそれなりだからだと思う。僕はもう一人きりだし、できるだけ物は増やしたくないからこれでちょうどいい。

 

 伏せておいていた遺影を立てて、手を合わせる。

 

 僕が魔法少女としての仕事をするときはいつもこうしている。両親に見せられるようなことをしていないし、隠し事をしていることへの後ろめたさもある。

 

 お昼から何も食べていないので空腹だが、食べる気は起きない。仕事のあとはいつもそうだから、体重も落ちてきている。この前の健康診断で痩せすぎだって言われたぐらいだ。

 

 それにどうせ食べたところで戻してしまうのだから、意味がない。

 

 それでも冷蔵庫に入れてあるミネラルウォーターだけはなんとか飲む。

 

 こんな体になっても、生理機能は変わらないと言うのは何なのだろうか。

 

 明日も学校があるから早く休まないといけない。

 

 シャワーを浴びるために洗面所に入って服を脱ぐ。

 

 洗面所の鏡にショートカットの少女の裸身が映っている。

 

 この姿になってから4年ほど経っただろうか。そうしていればいい加減慣れてきて、裸を見ても動揺したりはしなくなった。まあ、ちょうど二次性徴期で日々女性らしくなっていくのには、なんとも言えない感情があるのだが。

 

 この姿になって、と言ったがより正確に言えば主導権を握るようになった、と言うべきか。あるいはあるべき人格が消えてから、か。

 

 僕には、違う世界で生きた記憶がある。

 

 そして、死んだこともはっきりと覚えている。

 

 死後の人間の意識がどうなるかは様々な議論があったが実際にどうなるかは死ぬときまでわからない。

 

 わからないから恐ろしい。だからそれを払拭して生きていくために人間は想像をたくましくする他なかったのだろう。

 

 生まれ変わり、と言って良いのかわからないが、自分の意識が再びあることに気づいたとき、僕は絶望した。

 

 また、あれを味わわなくてはならない、と言うことに。

 

 死は恐ろしい。

 

 何が待っているか、知っているから恐ろしい。

 

 だから僕は死にたくない。

 

 死にたくない。死にたくない。死にたくない!

 

 だが生きている限り避けられない。これが絶望でなければなんだと言うんだ。

 

 記憶が戻る前は幸せだったと思う。

 

 何も知らず、生の活力に満ちた日々。母さんは早くに亡くなってしまったが、先の大家さんをはじめ、周囲の人々は優しく、同い年の友達もいたからさみしくはなかった。

 

 僕にとってそれまでの僕、『吉郷零奈(よしごうれいな)』の記憶は記録映像で見ているかのようで、ひどく現実感に欠けていた。知ってはいるが体験はしたことがない。そんな感じだ。

 

 だから今の僕はそれまで見てきた記憶を元になんとか『吉郷零奈』を演じているようなものだ。

 

 ただまあ、それまでの『吉郷零奈』は前世の僕を元にしていたようで、ずいぶんと男の子っぽかったようだ。

 

 ……せめて、今度も男だったら、少なくとも魔法少女になんてならずに済んだかも知れなかったのに。

 

 もし仮に生まれ変わりを起こす超常的な存在がいるとしたら、ずいぶんと意地が悪いと思う。

 

 シャワーを浴び、髪を乾かしてから寝間着に着替える。

 

 父さんが買ってくれた猫を模したキャラクターがプリントされたものだ。成長期だからすぐ小さくなって着られなくなると思っていたが、まだきつくなっていない。僕がろくに成長していないと言うことだろう。

 

 自室に布団を敷いて横になる。

 

 こっちの部屋も必要最低限のものしか置いていないから殺風景だ。父さんが生きていた頃はプラモデルかなにかが飾ってあったけど、どうしたんだっけ?

 

 ……思い出せないのはよくない。ええと、ええと、ああそうだ、父さんが亡くなったときに一緒に処分したんだ。

 

 父さんと母さんのものは何枚かの写真だけ残してみんな処分したんだった。

 

 まずいな。

 

 僕もどれだけもつんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局わずかにまどろんだだけで、朝になってしまった。

 

 食欲は相変わらずない。仏壇に供えるお茶を新しいものと取り替えるついでに、自分の分も注いで飲む。茶葉から煎れたりはしていない。ペットボトルのものだ。元から急須がないから、これでいいんだと思う。

 

 身だしなみを整えて制服に着替え、仏壇に手を合わせてから家を出る。

 

 直接学校へは向かわず、大家さんの家に。

 

 そこに待っている人がいる。

 

 そこにはよく似た容姿の少年と少女が雑談をしていた。

 

 少女の方が僕に気づき、大きく手を振る。

 

「おはよう零奈ちゃん!」

 

「おはよ、零奈」

 

「おはよう、陽向ちゃん、陽介くん」

 

 太田陽向(おおたひなた)と太田陽介(ようすけ)

 

 僕の幼馴染みで、友達だ。見た目と名前が似ているから双子のように思えるが、実際は陽介くんが一つ年上で、陽向ちゃんが僕と同い年だ。

 

 更に言えば、彼らの親が大家さんに当たる。

 

 実のところ、僕があの部屋に住み続けているのは陽向の存在が大きい。

 

 僕が児童養護施設に入る、と言う話を知った陽向が猛烈に反対したのだ。

 

 もちろん、本来なら彼女の意見など聞き入れられるわけがないのだが、大家さんは子供に甘いところがあったので彼女の主張を叶えてやったと言うわけだ。

 

 母さんが大家さんの奥さんと昔からの友人だった、と言うのも無視できない要素だろう。

 

「んー、零奈ちゃん、ちゃんと朝ご飯食べてる?」

 

「食欲なくって」

 

「ダメだよ、食欲がなくても朝ご飯は食べないと。体に悪いから」

 

 言いながらフルーツが入ったタッパーを押しつけてくる。

 

「うん、ありがと」

 

「ダイエットってわけでもないんだろ?」

 

「うわー、お兄ちゃんデリカシーないなー」

 

「んだよ、今更そんなの気にする仲じゃないだろ」

 

「そういうところー」

 

 言い合いながら歩き出す二人についていく。

 

 こうしていると昨夜の出来事が夢か何かだったように思えてくる。

 

 ……いいや、現実だ。

 

 ライトニング・トパーズを切り刻んだ感触はまだ僕の手に残っている。

 

「どうした、零奈」

 

 立ち止まってしまっていた僕に陽介くんが声をかけてくれる。

 

「ううん、なんでもない」

 

 二人は太陽のようにまぶしくて。

 

 僕のような人間が、彼らの傍にいることが苦しくてならない。

 

 でも、その温もりを手放したくなくて。

 

 なんてわがままな。

 

 本当に、自分が嫌になる。

 




「よ」し「ご」う「れ」いな
で「よごれ」。
だから汚れちゃんなんですね
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