転生して魔法少女になったけど汚れ仕事ばかりです 作:タメガイ連盟員
四半世紀ほど前のことだ。
この国の各地で、夜間、特に街灯と言った灯りのない場所で獣のようななにかに襲われる、と言う事件が起き始めた。
当初は野犬、あるいは熊によるものだと思われていたが、それも被害が増加し続けていったことで疑問に変わっていった。
被害があった地域の警察は警邏を強化することで被害を食い止めようとしたが、それが成果を上げることはなかった。
ただし、数年の間に判明したこともあった。
まず、謎の存在は特殊指定有害生物、通称マモノと呼称されることになった。
オオカミやクマ、カラスと言った生物に似た形態を持っているが、銃器や鈍器による攻撃による効果は薄く襲われた場合の対処が困難であること。
マモノは光、特に太陽光を嫌うと言うこと。
出現時間が日没後から日の出までであること、光源の多い場所には出現しないこと、光を向けられたときそれを避ける或いは逃走することからそのように推測された。
このため政府は不要不急の夜間の外出を自粛、もし外出しなければならない場合は強力な光源を持つよう呼びかけた。
無論、これで被害がなくなるわけではないが何もしないよりはマシだ。
マモノにはコアとでも呼ぶべき部位が存在していることもわかった。
偶然マモノを倒したときに、宝石のようなものが現場に残されていたためだ。
この石を解析したところ、その内部に未知のエネルギーが内包されていることがわかった。マモノはこれをエネルギー源として活動していると考えられ、これを破壊すればマモノを倒すことができる。
が、当然容易い話ではない。倒せたのもあくまで偶然でしかなく、積極的な対処法を講じられることもなく、ただ被害を増やしていくだけだった。
雑居ビルの屋上に2人の少女の姿があった。
一方は学校指定と思われるブレザー制服を校則通りに着こなしており、清潔感のある黒髪も肩あたりで切りそろえられ、いかにも優等生と言った風貌だ。
もう一方は対照的にブレザーは着ずにカーディガンを羽織り、巻いた髪を茶色に染めている。傍らに置かれた鞄にもアクセサリがいくつも飾られていて、所謂ギャルと呼ぶべきものだ。
一見すると2人に接点があるようには思えない。
「で、あげたチケット有効活用できた?」
「一応渡せてたけど……どうかなぁ」
「渡せたんだったらいいじゃん。いつ行くの?」
「明日」
「ほほう。つけようぜ」
ギャル風の少女がにやりと笑う。
「水族館だってタダじゃないじゃん。どうすんの」
「あのチケットが最後じゃないんだぜぇ?」
「じゃあ、行くしかないね」
「おうよ」
何が面白いのか笑い合う2人。
その姿に僕は僅かに嘆息する。
よりによって、陽向ちゃんがこの地域の魔法少女だったなんて。もう一人にも覚えがある。陽向ちゃんの友達だと紹介された
僕は魔法少女に変身した状態で屋上で身を隠している。
魔法少女は
この3つの要素で成り立っている。
僕の場合、武器は腰に下げた鍵束がこれに当たる。鍵束には十本前後の鍵がついていて、鍵の一本一本が異なる武装に変化する。前後、と言うのはその時々で数が変わるため。今日は九本だ。
武装と一口に言っても様々で、無貌の仮面もその一つだ。それから今は隠蔽効果のあるマントで姿を隠しているからこれでもう一本消費している。様々な武器が使えるが、一度使ってしまえば同じものを使うことはできない。つまり鍵束の数=そのとき使う武装の種類と言うことになる。今のところ使い切ったことはないが、そうなった場合の僕は非常に無力だ。魔法少女としては、あまり強くないからだ。
衣装は変身時に纏う装束のこと。見た目は種々様々だが、魔法少女の肉体を保護・強化する役割をになっている。
そして魔法。魔法特性とも言う。これが個々の魔法少女の個性だとも言える。例えば、先日のライトニング・トパーズは〈
それにしても、夕食後に彼女がなにをしているかは知らなかったけど、まさか魔法少女だったとは。
僕も魔法少女であることは伏せているから人のことは言えないのだが。そもそも魔法少女であることは基本伏せられている。個人情報保護や正体が知られた場合のデメリットを考えれば当然の処置ではある。
魔法少女登場以来、マモノによる被害は激減しているが、なくなったわけではない。その責任を魔法少女に転嫁する者もいるから情報を非公開にしなくてはならない。魔法少女はみな十代の少女だ、ただでさえ危険な仕事をさせているのだからその程度の配慮はあってしかるべきだ。それでも正体を探ろうとする者はあとを絶たない。そういった者には警告が行われたりもするが、それすら無視するのなら。僕のような存在の出番になってしまう。
「で、どうなん」
「うーん、脈がないってわけじゃないと思うんだけど、いやうーん」
「どっち」
「お兄ちゃんの方はまあ、その気あるんだけどさ、零奈ちゃんが問題なんだよね。なんかこうさ、自分が誰かから好意を持たれるのが信じられないみたいな」
「あー、自己評価が低すぎる?」
「そうそう。そんな感じ。あの調子だと告られても受け入れるかどうか……零奈ちゃんがもっと自分のことを認められればいいのに」
「それ難しいんじゃない? よそから言っても意識ってそんな変わんないっしょ」
「うん、そうなんだけどさ、わたし、零奈ちゃんには幸せになって欲しいんだ」
「……そりゃまたずいぶん」
幸せ、か。
僕には縁のない言葉だな。
陽向ちゃんはまだ昔のことを気にしているみたいだが、僕のことなんか気にしなくてもいいのに。
「おっ、来た来た!」
優姫さんが自分のスマホを陽向ちゃんに見せる。どうやらマモノの出現を感知した〈協会〉から通知が来たようだ。
マモノの出現から20年、その出現を感知するシステムが実稼働するようになっていた。これはマモノが残す宝石、通称魔石を利用したものだが魔石も数が限られるし、全国くまなく設置することもできないのだが、マモノの出現する地域が限られていることがわかってからは重点配置ができるようになっていった。ⅠからⅪの10の地域で区別され、地域ごとに〈協会〉の支部を設置、魔法少女の運用が行われている。なお、Ⅸ区は欠番となっている。
「よし、行こっか」
それぞれが自分の魔石を取り出す。陽向ちゃんのものは太陽を、優姫さんは錨を模している。
魔法少女は魔石を用いて変身する。その魔石はマモノから手に入る。つまり、敵と同じ力で戦っていると言うことだ。
2人が魔石を握りしめ、高く掲げ、唱える。
「“
「“
屋上に黄金と蒼の光が溢れ出る。一瞬の後、それが収まり、そこにはさきほどとは異なる2人の姿があった。
陽向ちゃん、サンシャイン・ペリドットは黄金の髪に黄金のウェディングドレス。動きやすさを重視しているのかスカート丈は膝下程度の長さだ。
優姫さん、オーシャン・アクアマリンは翠色の髪、蒼を基調としたダイバースーツ。その上に黒いライフジャケットに似た胸甲、手甲、脛当てが覆われている。
「いっつも思うんだけどさー、なんであたしのはこんなイカついわけ?」
オーシャン・アクアマリンは自分のドレスに不満があるらしい。ドレスのデザインはアイドルのように可愛らしいものから無骨なものまで様々だ。なので本人には不本意なものになってしまうことも少なくない。しかも改造できるわけでもないので解消のしようがないと来ている。
「だってさ、魔法少女よ? もっとキラキラ可愛いの想像するじゃん? でもなんでこれなのぉ?」
「そこはもうどうもならないって言われてるでしょ」
「モチベさがるわー」
こうして士気に関わるところなのでなかなか難しいところだ。
「そういえば、先輩って今日来るのかな」
「んー? 既読も付かないし、どうしてんだろ」
その先輩と言うのが、僕の標的であるフレイム・ルビーだ。状態がかなり進んでいるはずだから、この2人のことも認識できているかどうか。
「まー、あたしら2人でも問題なく仕事できるし、そろそろ卒業ってことなんじゃない?」
「でも、それならそれで一言ぐらいあるんじゃないかな」
通常、新人の魔法少女には〈協会〉から基礎訓練や魔法についての講習を受ける。これは引退した魔法少女が行う場合が多い。そして現役の魔法少女について実戦経験を積むことになる。2人とも魔法少女初心者とでも言う時期は終わり、一人前の魔法少女として活動できているようだ。
「今日の仕事終わったら〈協会〉で聞いてみればいいじゃん。あそこなら連絡つくでしょ」
「うーん……」
「とにかく行こうぜ、通知から出現まで少し時間があるって言っても限度があるわけだし」
オーシャン・アクアマリンが屋上の柵をひらりと飛び越える。しかし墜落することなく、宙空にその身を留めている。胸甲、手甲、脛当てが解け、それらが両足に纏われ、魚の尾の形を取っていく。その姿はまさに人魚姫のようで――
「やっぱ可愛くねええー」
――あるのだが、当の本人には極めて不評である。
「これ仕事だと思わないとやってらんないよもうもうもう! さっさと行こうぜ、サンシャイン」
「うん」
サンシャイン・ペリトッドも柵を飛び越え、オーシャン・アクアマリンの手を掴む。
オーシャン・アクアマリンが尾をはためかせ、空中を泳ぎ出す。
空中を水中の如く遊泳する、それがオーシャン・アクアマリンの
無論、魔法少女である以上その速度は尋常なものではない。その気になれば音速を――水中でのそれを超えることすらできる。もっとも街中でそんな速度で泳いでは建物に衝突して破壊してしまうため、とてもできないのだが。
触れていさえすれば、他の魔法少女もこの魔法特性の対象にできるため、目的地がどれだけ遠くても高速で移動することができるのがオーシャン・アクアマリンのギフトの最大の強みだと言って良い。
事前に2人の資料を見せてもらっているが、環境に作用する上に高速移動もできるのはかなり強力なギフトだ。
「移動開始しました。マモノの出現予想地点の状況は?」
2人が夜に消えていったのを確認してからエマさんに連絡を入れる。
『まだ歪みが生じているだけだ。2人が現地に到着する頃には外殻の形成を終えているだろう』
「了解。僕も現地へ移動します」
鍵束から鍵を引きちぎり、新たに取り出したローラーブレードに似たそれを靴に装着する。これで高速で移動することができる。そもそもの魔法少女としての力に劣る僕はこうやってウェポンで補わないといけない。真っ当な魔法少女であるオーシャン・アクアマリンがうらやましく思える。
僕のスマホに通知された地点へ向けて駆ける。車よりは速いがオーシャン・アクアマリンには到底追いつけない。それでも問題はない、僕の目的はフレイム・ルビーを補足することであってマモノを倒すことではないからだ。
人通りはほとんどない。
魔法少女が登場してからも夜間の外出自粛は継続しているし、すぐに魔法少女が駆けつけるとは言えマモノに遭遇したらタダでは済まないのだから当然と言える。
10分ほど走り続けて、郊外に出る。本来なら住宅地になるはずの場所だが、マモノの出現の影響で開発が停止したままになっている。こうした場所は全国各地にあるらしい。先日、ライトニング・トパーズを追ったのもそういう場所だった。そして開発が止まっていると言うことは街灯が整備されず光源がほとんどない、マモノが好む環境と言うことになる。
魔法少女の存在は秘匿されているわけではない。中には企業と契約してCMに出演しているような者もいる。それでもなるべく見られないようにした方が良い、と言うのが〈協会〉の考えだ。そこには野次馬が死傷することでいらぬ非難を魔法少女が受けないようにすると言う面もある。ともかく、マモノが夜間の人が少ない場所に現れると言うのは好都合というわけだ。
そこにはざっと20を越える、黒い影のようなマモノたち。このうち最も数が多いのは出現頻度の高いオオカミ型、次いでカラス型、リーダー格と思しきライオン型だ。
対する魔法少女は、3人。
サンシャイン・ベリトッド、オーシャン・アクアマリン、そしてオレンジの髪に深紅のチャイナドレス風の
「フレイム・ルビーを確認しました。現在他の2人の魔法少女と共にマモノと交戦中。戦闘終了後、フレイム・ルビーが1人になり次第、しかけます」
近くに潜みながら様子をうかがう。
夜中のはずなのに妙に明るさを感じる。それこそ昼間のように。
いや、実際に明るいのだ。サンシャイン・ペリドットを中心に、太陽の光が周囲を包み込んでいる。
これがサンシャイン・ベリトッドの
彼女が戦場に現れると言うことは、そこに太陽が出現するのと同じになる。当然太陽光を嫌うマモノにとって天敵と言える。
テレビゲーム風に言えば、対象に弱体化と継続ダメージの付与と言ったところか。
サンシャイン・ベリトッドはそれだけではない。両刃の直刀をウェポンとして振るっているし、魔法少女としての能力もかなり高水準なはずだ。
……陽向ちゃんは、魔法少女としての才能を多く持っていた、と言うことだ。
一方のオーシャン・アクアマリンも周囲を泳ぎながら銛をマモノに投げつけたり、突いたりしているが、彼女はサポートがメインのタイプなのか、むしろマモノを逃がさないような動きをしている。
そして、フレイム・ルビー。
指導役をしていただけあって、その動きは洗練されている。炎の鞭を無駄のない動きでなぎ払い、マモノの攻撃は流麗な動作で躱し、いなす。
見事なものだ。
これで引退勧告さえなければ、と思わずにはいられない。
そしてその引導を渡すのが、僕だ。
「先輩、お疲れさまです!」
特に波乱もなく戦闘は終了。
フレイム・ルビーに2人が集まる。
「取りこぼしなしです!」
マモノとの戦闘で重要なのは出現したマモノの全てを倒す点にある。取り逃がした場合、ひどく面倒なことになりかねないからだ。出現の察知することはできても、出現後のマモノ、それも個体を探し出すにはそれに適した魔法特性を持った魔法少女の支援がいるからだ。
「あの、先輩、どうでしたか、今日のわたしたち」
「……うん、よかったと思う。魔石は?」
「あたしらで回収しておきます。あと〈協会〉への報告も」
「……任せる」
普段のフレイム・ルビーがどうなのかは知らないが、いちいち考え込んでいる様子から、やはり2人が誰なのかわからなくなっていると思って良さそうだ。
「先輩、なにかあったんですか? 連絡、全然着かなかったし……」
「……なにもないよ。本当に心配するようなこと、ないから」
「先輩……」
「じゃあね」
きびすを返してその場から去ろうとするフレイム・ルビーをサンシャイン・ベリトッドは呼び止めようと右手を伸ばすが、そんなことをしても仕方がないと思ったのか何も言わずに下ろしてしまった。
「あたしらも帰ろ」
「……うん」
行きとは違い、走ってその場を去った2人が十分離れたところで、フレイム・ルビーの方へ視線を向ける。
既に変身は解いているが、灯りがほとんどない場所を少女が歩いていると言う光景はある種の異様さがある。
「始めます」
『了解、我々もそちらへ向かう』
通話を切り、深呼吸する。
僕はこれから、彼女を殺さなければならない。
彼女が人間であるうちに。
胸に右手を当てる。
既に変身しているのだからこんなことをする必要はないのだが、気持ちを切り替えるためだ。
「“
魚河岸優姫
魚・優(人偏)・姫
人魚姫
さすがに無理があるか?
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