転生して魔法少女になったけど汚れ仕事ばかりです   作:タメガイ連盟員

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11月20日日間10位。ありがとうございます。


第五話

 状況が大きく変わったのは人型のマモノの出現からだった。

 

 マモノの被害があるとは言っても、マモノが建物内にまで侵入することは稀だった。なにしろ光を嫌うと言う性質が早い内に広まったため、対策が容易だったためだ。

 

 マモノは夜が明ければ姿を消す。夜間、外出さえしなければマモノの被害は抑えられる。そう考えられていた。

 

 しかし、この人型のマモノ――既存のものと区別するために魔人と呼ばれるようになった存在は違った。

 

 太陽光を嫌うことは変わらないが、人工の光などものともしない。

 

 そして何より質が悪いのは、わざわざ人が集まる場所で暴れ出すこと、直前まで人と区別がつきにくいことだ。

 

 これによりマモノの被害は一気に増大。特殊指定有害生物による被害が年間死因の上位に食い込むと言う事態になっていた。

 

 そんな状況の中、まるでアイドルような格好の少女が魔人を撃破した、と言うニュースが全国を駆け巡った。

 

 そう、魔人の出現と前後するように、後に魔法少女と通称されることとなる少女たちが現れたのだった。

 

 彼女たちはこれまで倒すことが困難極まりなかったマモノを次々と打ち破っていった。

 

 だが魔人との戦いは悪戦苦闘の連続だった。1対1では勝ちきれず、多対1でようやく、と言う状況続き。

 

 はじめて魔人を倒した最初の魔法少女も変身解除直前になるまで消耗しきっての勝利だった。

 

 それでもマモノへの対抗手段ができたことには変わりなかった。

 

 諸々の法的・政治的問題を一応解決させた政府は魔法少女の支援・管理組織である〈協会〉を設置、実働させた。

 

 また、マモノが残す魔石や魔法少女自身への研究も開始、魔石が持つ莫大なエネルギーはこの国のエネルギー問題の解決の一助になるのではないかと期待された。

 

 まるでこれまでの状況が好転したかのように思われた。

 

 少なくとも、12年前までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレイム・ルビーとの距離を詰めつつ、鍵束からボウガンを取り出す。

 

 飛び道具なら鉄砲でもいいのだが、僕は鉄砲の構造と言うか仕組みがよくわからないため作ることができなかった。ボウガンなら資料を見ればなんとか理解できたので作ることができた。まあ、飛び道具なら他にもあるんだが、これが一番しっくりくる。

 

 狙いをフレイム・ルビーの背中、その中央やや上に定める。そこに形成されかかっている魔石があるはずだ。

 

 魔石さえ破壊できればかなりやりやすくなる。僕の魔法特性なしでも彼女を。

 

 ボウガンの引き金を――

 

「ッ!?」

 

 引いた瞬間、彼女が横に飛ぶ。当然ボウガンの矢は虚しく地面に刺さる。

 

「“燃え尽きろ(バーンアウト)”」

 

 魔石を握りしめると言う工程をすっ飛ばして彼女の全身が炎に包まれ、さきほどと同じ魔法少女の姿に変わる。

 

 なんて判断の早さ。

 

 こっちは隠蔽状態だって言うのに攻撃を察知した時点での回避。そして即座の変身。戦い慣れている証拠だ。

 

 しかし、いくら魔法少女でも変身していなければ普通の人間とほとんど変わらない。特別彼女が勘の鋭さを持っていたとしても、今のを回避することなどできないはずだ。

 

 もう、かなり進行していると考えるしかない。

 

 さっきの陽向ちゃんの話からすると、彼女はしばらくマモノ退治には参加していない。〈協会〉が彼女の状態を把握できた時期と考えると、さっきの変身が後押しになってしまったようだ。

 

 僕からするとかなり都合が悪い状況だ。〈協会〉はまだ多少の余裕があると見ていたがここで確実に、短時間で仕留めなければならない。

 

 ボウガンを捨て、処刑剣を取り出す。これで鍵は5本目。ここまでに使いすぎたか? よく考えて使わないと。

 

 フレイム・ルビーが炎の鞭でこちらを迎え撃つ。

 

 武器としては珍しいタイプだが、僕には関係ない。

 

 複雑な軌道で迫る鞭を処刑剣でなぎ払い、懐に一気に潜り込む。

 

 ライトニング・トパーズのときとまったく同じ展開だ。

 

 なぜこうなるかと言えば、それは僕の魔法特性にある。

 

 〈人狩り(マンハント)〉。

 

 相手が人間である場合に限り、相手を大幅に弱体化させ、僕自身は大幅に強化されると言う魔法だ。

 

 効果は魔法少女であっても例外ではない。

 

 魔法少女の姿はアバターのようなものだと言ったが、より厳密に言えば魔石を分解しそれを纏った状態が魔法少女と言うわけだ。

 

 それができるのが魔法少女と言っても過言ではない。

 

 だが僕の魔法は人間にしか効果を発揮しない。魔法少女が本来戦うべき相手であるマモノには何の意味もなさない。

 

 僕は、ハントレス・オニキスは魔法少女としては弱い。どうしようもなく弱い。下手をするとサポートメインの魔法少女よりも。

 

 だから本来戦うべき相手であるマモノには苦戦する。もっともポピュラーなオオカミ型でさえ1対1でようやく勝てると言う程度でしかない。

 

 だが相手が魔法少女なら絶対に負けない。かつて最強を -おそらく現状でも -誇っていたストレンジ・ロンズデーライトですら例外ではない。

 

 僕が先日、魔法に主神級の名を冠するライトニング・トパーズにあっさり勝てたカラクリと言うわけだ。

 

 こんな奇妙な魔法を持っているのは後にも先にも僕ぐらいだろう。なぜこんな魔法なのか、なぜこんなにも弱いのかは〈協会〉もわかっていないし、当然僕にもわからない。おそらく、僕がこの体の本来の持ち主ではないからだと思うが、生まれ変わりなんて再現性のない事象を説明したところで意味は無い。

 

 フレイム・ルビーの右上腕に向けて処刑剣を振りかぶる。今回はライトニング・トパーズのように後を考慮しなくていいからだ。

 

 ……ああクソ、言い訳を考えるな。これから、これから腕を切り落とすなんてことよりひどいことをするのに、躊躇うな躊躇うな躊躇うなためらうなためらうな。

 

「がぁっ」

 

 フレイム・ルビーの右腕が、鞭ごと宙に舞い、落下する。

 

 仮面の奥で歯を食いしばる。腕を両断した感覚で頭の奥がチリチリする。震えそうになる手足をなんとか抑える。

 

 まだだ、まだ変身は解除されない。解除まで追い込まないと。

 

 攻撃を続ける。急所を狙う。損傷が大きくなれば変身は解除される。

 

 フレイム・ルビーのドレスが煤のようになって消えていく。切り落とした右腕はそのままだ。ある程度のダメージはドレスが肩代わりすると言っても、人体の欠損まではカバーしてくれない。

 

 フレイム・ルビー、いや火口灯子(ひぐちとうこ)は右腕を押さえて呻きながら蹲っている。

 

 だがこれで終わりじゃない。彼女から魔石を引き離さないといけない。

 

 本来なら変身解除された段階で手元に戻るが、彼女の場合は体内にある。だからそれを引きずり出さないといけない。

 

 火口灯子を仰向けにして、コの字型の杭で四肢を地面に固定する。そしてその上に馬乗りになる。

 

 彼女の表情は虚ろで、僅かな呻きを漏らしているだけだ。抵抗のそぶりすら見せないとなると、急がないといけない。

 

 短剣で上着を裂き、胸に切っ先を突きつける。

 

 ……魔法で作った短剣だ、切れ味は既製品とは比べものにならない。骨も肉もバターのように切り分けられる。

 

 できる限り魔石は回収しないといけない。そのまま破壊した方が楽だが、そうもいかない。魔法少女が使用する魔石は基本的に〈協会〉が所有しているものだ。だから引退勧告を受けたら返却する必要がある。それに、魔法少女になれるだけのエネルギーを持つ魔石は貴重品だ。

 

 だからこうして。

 

「……ッ!」

 

 短剣が吸い込まれるように火口灯子の胸に沈んでいく。そしてそれを腹へ向けて一気に引き裂く。

 

「ああああああああああッ!!!」

 

 流石に無視できない痛みだったのか火口灯子から絶叫が上がる。努めて意識しないようにして、切り開いた胸に両手を突っ込む。

 

 ……? なんだろう、体内だから体温があるのは当然のはずだが、人体の発する熱とは思えないほど熱い。

 

 いや、まさか。

 

「!?」

 

 そう思った瞬間、左腕が激痛で覆われる。わずかに遅れて感じたものは熱。

 

 そこには切り落としたはずの火口灯子の右腕が炎によって形成され、僕の左腕を掴んでいた。

 

 まずい、まずいまずいまずいまずい!

 

 肉体変容が始まっている、魔人になるまでもう殆ど時間がない!

 

 左腕のドレスが高熱によって溶かされていくが構っていられない。

 

 魔人になってしまったら僕ではもう対処できなくなる。僕の魔法は人間にしか効果がない、だから当然魔人には効かない。

 

 一度魔人が出現すればその地区の魔法少女全員に強制招集がかかる。これに加え、近隣3地区へも出動要請が行われ、最大40人近い動員されることになる。魔人とはそれだけ脅威なのだ。

 

 そして、彼女たちが到着するまで僕は生きていないだろう。

 

「ぐぅぅぅぅうぅ」 

 

 肉と骨と血を掻き分け、体内の魔石に手をかけようとする。

 

 火口灯子の変容はさらに加速している。拘束用の杭は意味をなしていない。体のあちこちが焼かれていく。

 

 急げ急げ急げ、魔人になる前にこっちに変身が解除されたらそれでも終わりなんだ。

 

「あああああああああああああ!!!」

 

 魔石に触れた。全力で掴み引きずり出す。

 

 体内の魔石は内臓や血管と強く癒着している。これを引き剥がそうとすれば当然それらの器官は致命的な損傷を受けることになる。

 

 だから、ここまで状態が進んでしまった場合、魔石を取り上げることは、相手の命を奪うことに他ならない。

 

 魔石を体外まで摘出し、未だに繋がっている血管を短剣で切断する。

 

「ァ……ァァ……」

 

 エネルギー源である魔石との接続が絶たれたことで、魔人になりかけていた火口灯子の活動が停止していく。肉体変容も止まる。ギリギリなんとかなったらしい。

 

「ハァ……あぁ……」

 

 体を横に転がして仰向けに倒れる。

 

 と同時に変身が解除されてしまう。ドレスが肩代わりできなかった負傷の痛みが一気に襲ってくる。歯を食いしばって耐える。

 

 少し痛みが和らいで来たので、エマさんに連絡を……あ、ダメだ、スマホはさっきの熱で壊れてしまったらしい。まあ、僕の位置は追っていたはずだからそのうちこちらに来るはずだ。

 

 息を吸って、夜空を見上げる。

 

 曇り空だから、何も見えない。いや、僕にはお似合いかな。

 

 まあ、なんのことはない。

 

 魔人と言うのはマモノと人間が融合した存在だ。

 

 マモノに襲われて死傷した人は適合しなかった人、襲われたのにマモノが姿を消したと言う人は融合が始まっているってことだ。

 

 マモノは自身の魔石を一度分解し、対象の体内で再形成する。形成が完了すれば魔人のできあがりってわけだ。

 

 ただ形成が終わったらすぐ暴れ出すわけではない。わざわざ人の多いところを狙って暴れ出す。だからこそ魔人による被害は甚大なものになる。

 

 なぜマモノにそんな判断ができるかと言うと、融合と共にマモノは対象の記憶を食らう。食われた記憶は当然消滅するから、記憶障害と言う形で現れる。

 

 記憶を全て食らったマモノは対象に成り代わる。食らった記憶がマモノのものになるからだ。

 

 そうして成り代わったマモノは活動に最適な場所を選び出す。地獄が現出する。

 

 一度出現したマモノを取りこぼしなしに倒さなくてはいけないのはこのためだ。

 

 魔法少女の引退時期の目安がこの記憶障害の有無だ。

 

 魔法少女は魔石を制御することができるから融合を阻止してしまえる。微妙な言い方をすれば、魔石を隷属させられるわけだ。

 

 しかし魔法少女の制御能力もだんだんと低下していく。そうなれば魔石は魔法少女との融合を図る。

 

 初期の段階ならライトニング・トパーズのように魔石を取り上げるだけで済ませることができる。彼女の場合、引退を拒否することが予想されていたので少々強引な手段を取ったと言うわけだ。

 

 今回のフレイム・ルビーは、運が悪かったのだろう。定期検診をしていてもすり抜けてしまう場合がある。

 

 そして記憶がどんどん食われていってしまい、後輩である陽向ちゃんのことも忘れてしまっていったのだ。

 

 そんな状態でも魔法少女に変身できるのは、やはり魔石に由来するものだからだろう。

 

 融合も初期の段階なら命を奪わずになんとかできる。記憶はどうにもならないが。

 

 魔石が体内に形成されるところまで行ってしまえばどうにもならない。魔石と共に命を奪うしかない。

 

 命を奪う。

 

 右手に握っている魔石と隣の、ああ、死体を見る。

 

 僕が殺した。

 

 殺したんだ。

 

 言い訳なんてするな。

 

 魔人化が進んでいて、手遅れだったから。

 

 魔人になったら大変なことになるから。

 

 そんなこと関係ないんだ。

 

 真実は、僕が殺したと言うことだけだ。

 

 僕は人殺しだ。

 




「火」口「灯」子

炎。

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