転生して魔法少女になったけど汚れ仕事ばかりです 作:タメガイ連盟員
4話のサンシャイン・ベリトッドの魔法特性の名称を変更。
サンオブアバター→アマテラスノウツシミ
以降は変更後のものになります。
第Ⅸ区の惨劇。
12年前、魔法少女が登場してから6年ほど経ったその日、当時最強を謳われていた魔法少女、ストレンジ・ロンズデーライトが魔人化した事件だ。
彼女の魔法特性〈
魔法少女としての彼女は、その魔法によって打撃の重量を増加させることで威力を高めたり、自身の体重の軽重を操作することで高速移動したりと単純ながらもその精密な魔法制御と戦闘センスで数々のマモノ、魔人を倒してきた。
その牙が、人間に向けられたのだ。
Ⅸ区に指定された政令指定都市の繁華街、その夕暮れ時――いや、逢魔が時。
おそらく、その場にいた数千人の人々は自分が死んだことにすら気づかなかったと思われる。
魔法少女――いや、魔人ストレンジ・ロンズデーライトを中心として半径約500m地上数十mの空間が圧殺された。
魔法少女だった頃の彼女にも同じことはおそらくできただろう。だがそれをやろうと言う発想は欠片もなかったはずだ。
魔法少女の持つ力は絶大だ。しかしながら彼女たちは自身の力をセーブして使用している。そうしなければ周囲の人間や建造物に被害を与えてしまうからだ。
しかし今の彼女は魔人だ。
人間を、人間の社会を、いや文明を破壊する侵略者の尖兵に他ならない。
この魔人の討伐には当時の魔法少女の8割近くが参加、そのうちの多くが命を落とした。
最終的な被害は
死者・行方不明、5785人。
重軽傷者68人。
魔法少女の死者14人。
行方不明38人。
事件後の引退19人。
負傷者が極端に少ないことを除けば大規模災害に匹敵する被害だ。
そして、マモノ関係の事件では空前の規模の惨劇。
マモノの、魔人の脅威を社会は再認識することとなった。
魔法少女がいれば大丈夫、そういう空気が社会にはあったがそれに冷や水を浴びせられたようなものだ。
そして、現在でもⅨ区は一般人の立ち入りが認められていないが、この事件以来マモノの出現は確認されていないため、〈協会〉の監視のみが継続されている。
さて。
〈協会〉、ひいては政府にとって厄介なのは魔法少女が魔人になったことだ。
不幸中の幸い、と言って良いのかどうか。この事実は表沙汰にはなっていない。目撃者はストレンジ・ロンズデーライトが皆殺しにしてしまっているからだ。
そもそも魔人の正体がストレンジ・ロンズデーライトであることが判明したのが事件後のことで戦闘に参加、生還した魔法少女の証言からだ。
本来なら真っ先に駆けつけてくるはずのストレンジ・ロンズデーライトが姿を現さなかったことと、魔人の魔法とその姿を見た魔法少女があれは彼女だった断言したこと、そして当然ながら連絡が一切つかなくなったことからそう判断された。
ここに来て、魔法少女のリスクが明らかになったのだった。
では魔法少女の運用をやめるか?
それもできない。なにしろマモノ対策は完全に魔法少女頼み、それを廃してしまうことはできない。
ならば原因を究明し、同じ事態が起きないようにするしかない。
そして、前話で述べた通りの条件が判明。既に記憶障害が起きている魔法少女は魔石を取り上げられ引退することとなった。幸いにも体内に魔石が形成されている者はいなかったが、前述の事件後に引退した魔法少女とは彼女らのことだ。
つまり、70人もの魔法少女がごっそりといなくなったのだ。
残った魔法少女で20人余りで11ある防衛地区を守らなくてはいけない(この時点ではまだⅨ区は除外されていない)。
当然ながら彼女らへの負担は大きく、ある程度魔法少女の頭数が回復してからは勧告を待たずに引退していった。中には〈協会〉の職員になった者もいたが、それはまた別の話だ。
だが〈協会〉の不安材料は残ったままだ。
事件の真相は伏せられているが、それを探ろうとする者は当然いるし、魔人化のリスクは残っている。
それらを“解決”する手段が必要だ。
真っ白な空間にいる。
椅子が二脚、学校で使用されているようなそれには僕と、僕が殺したはずの火口灯子が向き合って座っている。
夢だ。
そう直感する。
だが僕は彼女のことなんて殆ど知らない。資料で彼女の情報については知っているが、それは相手の人となりを知ったことにはならないだろう。
それに顔を合わせたのはあの戦闘のときが最初で最後だ。
だからこれは僕の都合の良い妄想だ。そうに違いない。
ふと、火口灯子以外にも何者かがいることに気づく。
僕を取り囲むように、6人。
ちょうど僕が殺してきた人と同じ数。
「ガッ……!?」
喉から短剣の切っ先が生えている。いや、短剣で後から喉を貫かれたのだ。
さらに胸、腹、腿と次々と刺し貫かれる。
たまらず椅子から転げ落ちる。
そこに剣や槍が何本も突き立てられる。どれも、僕が使った武器だ。
一瞬で全身血まみれになるが、武器が引き抜かれると傷口はすぐに塞がっていった。なにせ夢だ。何度殺されようがすぐに元に戻る。
なにか、液体がかけられている。この臭い、油?
「――!!」
そう気づいた瞬間、火がつけられる。
声にならない絶叫。当然だ、叫ぶべき器官も焼けているんだから。
全身が黒焦げになるのがすぐに再生してしまうので炎が消えることがない。終わることなく燃料が継ぎ足され、僕はただ焼き焦がされるよりほかない。
永遠にも思える時間が過ぎ、ようやく火が消える。
人影が1つ減っている。
あれでようやく1人……?
そこから、僕はありとあらゆる方法で死傷させられた。
全身を関節ごとに切り落とされたり、末端から削られたり。
火の次は水だとばかりに何かの液体に沈められたり。
マモノに似た鳥や獣に啄まれたり。
そうして、どれぐらいの時間が経ったのか。
人影は全て消え去り、最初と同じく火口灯子だけが椅子に座ったまま残っていた。
僕もよろよろと椅子に座り直す。特に意味はないのだが、そうするべきだと思った。
火口灯子は、なんというべきかひどく印象の薄い容姿をしている。一度会っても離れてしまえばすぐ忘れてしまうような。
「私は、自分の人生で、自分が主役だったことがないんだ」
……? なぜこんな話をしだすのだろう。ここにいる彼女は僕の妄想でしかないはずなのに。
「私はずっと端役で、誰にも気に留められずにいた。だから、魔法少女になれるって知って、ようやく主役になれると思った」
これはよくある話だ。
魔法少女になれる人間はごく限られている。1万人に1人程度らしいから、それになれるとなれば自分が特別な存在だと考えるのは当然だ。
ましてや、それまで何者でもなかった少女となれば。
「でも、錯覚だった」
火口灯子の隣に、後ろを向いた少女が現れる。あれは、陽向ちゃん?
「どこにでも主役はいる。私以外にね。“
フレイム・ルビーに変身した火口灯子が炎の鞭を剣のように固めて、それを陽向ちゃんに向ける。
「君にどんな責め苦を与えても大したことないでしょ? だから、君が一番嫌がることをする」
おい、待て、まさか。
フレイム・ルビーが炎の鞭、いや炎の剣を振りかぶり、陽向ちゃんの首めがけて、振り下ろす。
「やめ――!」
「――!」
意識が覚醒する。
周囲を見渡す。見慣れた、自室だ。
荒い呼吸が治まってから、体を起こす。
夢の中での出血の代わりのように、汗で全身がずぶ濡れになってしまっている。当然、寝間着や枕、布団カバーにシーツも汗を重く吸っている。
時刻は午前4時前。
昨晩は、あの後家まで送って貰って、でも陽向ちゃんと出会ってしまうかもしれないからもっと遅い時間にだ。
それから、一応寝間着に着替えはしたが、そのまま倒れるように眠った、と思う。
となると5時間ぐらい眠っていたことになるのか。
それでも倦怠感は強いから、きちんと眠れていたわけではないようだ。まあ、あんな夢を見るぐらいだ、休んだ気にならなくて当然だろう。
このままでいるわけにもいかないので、カバーやスーツを外して洗面所まで持っていく。
着ていたものもすべて脱いで一緒に洗濯かごに入れる。この時間だと他の部屋の住人の迷惑になるかもしれないから洗濯機を使うのは朝になってからにしよう。
シャワーを浴びてから替えの部屋着に着替えて、冷蔵庫からお茶を取り出してからダイニングの椅子に座り込む。
もう一度眠れそうにないから、このまま起きていよう。
ああ、そういえば、今日は陽介くんと水族館に行くんだっけ。
絶対ひどい顔になってるよな。
出かける前に化粧で誤魔化さないと。
これのおかげでずいぶん化粧になれてしまった気がする。
魔法少女になってから僕の人生は大きく変わってしまった。
もちろん、平凡な人生を送れたとは思っていなかった。
マモノという前世では存在しなかった驚異がいるし、魔法少女と言う対抗手段も万全とは言えない。
しかし、それがこの世界の日常だ。
マモノによって家族を奪われた人だって珍しいものではない。
僕だって、両親がマモノによって殺されている。
母さんは、12年前にⅨ区にいたことで遺体すら残らない形でこの世を去っている。
その日、母さんはⅨ区にあった取引先との商談に行っていたらしい。
あの事件の犠牲者のほとんどは遺体の回収もなにもできていない。誰も彼もがどこに遺体があるのかわからないほど押しつぶされてしまったからだ。
だから、母さんの死亡が確定されたのも事件からずいぶん経ってからだったらしい。
父さんは、何と言うべきか、不幸が重なった結果だ。
自動車での単独の事故を起こしてしまったところに、マモノに襲われてしまったと言う、本当に不幸としか言い様がない。
自動車に乗っているときにマモノに襲われることはあるにはあるが、光の多い場所に逃げれば撒くことができる。
……そのときに対応した魔法少女がフレイム・ルビーであったことは本当にただの偶然だ。僕だって彼女に含むところはなにもない。なにもないが。
それにしても、夢の中で火口灯子があんな行動をするなんて。
夢はその人の心理が現れるものらしい。
だとすれば、ああした夢は僕の心理の具現なのだろう。
殺した人に殺され続ける。それはつまり、僕が彼らに断罪されたいと思っていると言うことなのだろう。
僕は汚れた、罪深い人間だ。一万回死刑になっても、足りるはずがない。
だが同時にああした夢を見たことで、安堵を覚えている自分もいる。
僕はまだ人殺しすることに罪悪感を覚えているのだと。夢だから、何度殺されても実際に死ぬことはないのだと。
ああ、そういえばお腹が空いたな。
冷凍庫から陽向ちゃんからもらったタッパーを取り出して、電子レンジで解凍する。
朝食用らしく、中身はおじやだ。僕があまり食べないのを考慮しているらしい。
おかしな話だが、ああした夢を見たあとは問題なく食事ができている。いや、本当におかしくなっているんじゃないだろうか。
普通、あんな夢を見たら何も喉に通らなくなるものじゃないのか。
しかし、何度か殺される夢を見ているが、陽向ちゃん? が出てきたのは初めてだ。
『だから、君が一番嫌がることをする』
ああそうだ、その通りだ、夢の中のフレイム・ルビー。
僕は自分が死ぬことより、陽向ちゃんや陽介くんが死んでしまうことの方が恐ろしい。
だから陽向ちゃんが魔法少女になっていたことには思うところがある。
現在、魔法少女の殉職率はかなり下がっているが決して0ではない。
彼女の魔法ならマモノに遅れを取ることはそうそうないだろうが、万が一と言うこともある。
それから、引退するときは何事もなく引退して欲しい。
僕が彼女をどうにかしてしまわなければならないような事態にはなって欲しくない。
いや、それまで僕が生きていられればの話だ。
首につけているチョーカーに触れる。
これはもしものときに起爆すると言ったが、正確にはこれが起爆するわけではない。
起爆するのは僕の体内にある魔石につけられている装置だ。
これは魔石のエネルギーを利用するもので、これまでの魔石の応用研究の成果と言える。これによって爆薬などを使用せずに魔石を確実に破壊することができる。
当然、魔石を破壊できるだけの爆発が体内で起きれば、僕の体が耐えられるはずもない。
チョーカーは起爆信号の受信装置だ。
そう、僕の体内には魔石が形成されている。
にも関わらず僕は魔人にならず魔法少女になっている。
いや、本当にそうなのか?
僕は人間なのか、魔人なのか、魔法少女なのか。
いったいどれなのだろう?
ああ、でも。
もし僕が魔人になったときは、きっと陽向ちゃんが、サンシャイン・ペリドットが来るはずだ。
彼女に僕を殺すなんてことはさせたくない。
だから、そうなってしまう前に、僕は。
Q:魔人になる前に対象を殺害すればいいのでは?
A:宿主の生命活動が停止を確認した魔石は不完全な状態でも魔人化を強引に完了させてしまうため、先に魔石と宿主を切り離さなければなりません。本体はあくまで魔石であり、宿主のはその外殻に過ぎません。
Q:魔石って意思があるの?
A:ある種のプログラムが設定されていて、それに沿って行動しています。
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