転生して魔法少女になったけど汚れ仕事ばかりです 作:タメガイ連盟員
本来の零奈が、陽介くんと日向ちゃんをどう思っていたかは今の僕にはわからない。ただ日向ちゃんを庇ったことを考えれば、大切に思っていたのは間違いない。なら洋介くんは? よくわからない。仲が良かったのはたしかだが、異性としての感情まではわからない。いや、そもそも小学生でそうしたことを意識するものだろうか。女の子はそういうのが早いと聞くけど、やはりわからない。いや、異性を意識するようにはなっていたと思うが、同級生をそういう風に見るようになったのは中学生になってからだっただろうか。ともかく、今の僕にとって、陽介くんは仲の良い友達だ。大切な友達。
「はっ」
思わず自嘲してしまう。何を言ってるんだ。僕は零奈の振りをしているだけだ。このセカイではない、どこかから流れ着いてた亡霊。そんな僕がそんな風に思っていいわけがない。
ただ死を厭うてるだけの、それだけの存在なのに。
ああ、だけど、日向ちゃんと陽介くん、おばさんの安寧を願うことぐらいは、許して欲しい。それが、僕にできる唯一の。
陽介君と水族館に出かけてから数日後、エマさんから連絡が来た。今度は魔法少女相手ではなく、魔人化が近い人間だ。この場合、もう手遅れということだ。また、誰かを殺さないといけない。でもこれは誰かがしないといけないことで、そうしなければ、より多くの人が犠牲になる。そうしなければ、僕を生かす理由もなくなる。
いつものように対象がいる場所の近くまで車で運ばれると、そこには見慣れた少年の姿。
「なんで」
ようすけくん
なんで、なんで? なんで!?
「なんで、陽介くんなの!?」
嘘だ
うそだ
ウソダ
だが、見間違えようもない。
確かに、そこにいるのは、陽介くんだ。
魔人化の兆候は……いや、まさか、 まさか!? デートの日の朝、陽介くんと日向ちゃんの会話を思い出す。陽介くんは自分から誘ったのにデートのことを忘れていた。
あれがそうだった!? なら、あのときにはもう。
僕が、気づかないといけなかったのに、気づかなかった。気づいていれば、まだ、なんとかできた、本当にそうか? 僕は自分のことばかりで、陽介くんの異変にきづかなかったのに?
もしここで僕が陽介くんを殺さずに魔人になったら、それを倒すのは誰だ? 決まっている、日向ちゃんだ。日向ちゃんだけじゃなく、周辺地域の魔法少女の殆どが召集されるだろうけど、中心になるのは日向ちゃんになるはずだ。魔法少女としての彼女はかなり強いからきっとそうなる。つまり、日向ちゃんに陽介くんを。
ダメだ、ダメだダメだ! そんなことさせるわけにはいかない。なら、ここで、僕が、やるしかない。
どうして、こうなってしまうんだろう。これは、僕がしてきたことへの罰なのだろうか。
『だから、君が一番嫌がることをする』
脳裏に夢の中のフレイムルビーの声がよみがえる。ああ、きっとそうだ。そして、僕自身がやるしかない。
「ああああ!!」
喉が軋ませるように叫び声が漏れる。既に変身は済ませている。腰の鍵束から、一本鍵を引きちぎって、槍に変化させる。
そして、陽介くんの胸に、魔石に槍を突き立てる。魔石自体はそこまで頑丈じゃない、その一撃で石が砕け、その機能を喪失する。だけど、槍に貫かれ、内蔵と絡み合った魔石が破壊された余波を受けた陽介くんは、声を漏らすこともなく、電池が切れたおもちゃみたいに動きを止める。
「お兄ちゃん……?」
覚えのある声。その声が聞こえた方に視線を向ける、なんで、いるの。
「お兄ちゃん!?」
日向ちゃん。
それからのことはよく覚えていない。とにかく、無我夢中でそこから逃げた。
見られた、見られた、見られた!
日向ちゃんに! よりよって日向ちゃんに! 無貌の仮面を着けていたから、僕だとはわからないはずだ。だけど、陽介くんを殺したところが見られたことに変わりはない。
そんな考えが頭の中で巡り続けている。陽介くんの死は協会がうまく処理しているはずだ。今までもそうだった。魔人の出現条件は世間に公表されていない。ただ、ヒト型で強力なマモノが現れる場合がある、とだけ。公表した場合のデメリットを考えれば当然の措置だ。だから僕の仕事も表沙汰にはならない。協会の一部の人だけが知っている。彼らは僕を責めない。僕が危険な存在であると同時に有用な存在であると理解している。彼らしか知らない。誰も僕を責めない、咎めない、罰しない。
陽介くんの葬儀が行われたが僕は行かなかった、行けるわけがない。あの日からずっと部屋に閉じ籠っている僕を誰も疑わない。おばさんが食べるものを持ってきてくれているようだけど、いつも通り食べる気は起きない。そのまま飢え死を待つこともできずに、少しだけ食べた。
なんて、浅ましい。本当に自分が嫌になる。それでいて、死の恐怖からにげつづけている。なんでこんなやつに、優しくするのだろう。
「零奈ちゃん」
布団の上で蹲っていた僕に誰かが、いや、いつの間にか部屋に入ってきていた日向ちゃんが声をかけてきた。その声色は、普段の彼女からは信じられないほど硬く、嗄れていて、怒りと決意に満たされていて。
「お兄ちゃんを殺したのははぐれの魔法少女だ」
協会からそう説明されたのだろう。本当は僕が殺したのに。
「サンライズ」
太陽がそこに出現した。そんな風に勘違いしてしまいそうなほどの光が部屋を支配する。
なぜ、変身なんて。
「私が必ず捕まえて見せるから」
日向ちゃん、いや、サンシャインペリドットが宣言する。それは無関係な人間には力強く、眩いばかりだろう。けど、僕には。
「零奈ちゃんの前にひきずりだして、土下座させてやるんだから」
死刑宣告にも等しくて。
「待っててね」
どう足掻いても絶望