Loose my hero   作:雨と無知使い様

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 完全見切り発車です。

 変身ヒーローもので、ダークでアポカリプスな世界観を駆け抜けたいと思い筆を取らせていただきました。

 続く場合は後付け設定など多くなり、序盤と終盤で整合性が取れなくなるおそれがあります。
 過度にズレ始めた場合は修正するつもりです。
 ネーミングは壊滅的なのでお許しください。

※タグは予定ですので実現しなさそうだったり、不足した場合は適宜修正したいです。

 とにかく陰鬱な物語ですが、熱いところは熱くしていきたいです。


ヒーローなんてお呼びじゃない

 

 バチバチと雨粒を弾く鉄板の音が、騒がしく睡眠を妨げる。

 それを鬱陶しいと感じるのはいつもの事であるが、もう10年以上も聴き続けたから慣れたというべきなのだろうか。

 今となってはこの騒音が母の子守唄に聞こえてしまう程度に感覚が狂っていた。

 

 灰と埃、瓦礫の山。環境汚染で緑に濁った雲から降り注ぐのは、汚染され切った酸の雨。

 

 10年以上続いたこの狂った世界に人間は徐々に適応しつつあるらしく、かつて環境が破滅してから外に出る事が出来なくなった人類諸君は今も元気にアナログな労働に励んでいる。

 

 今となっては貴重な嗜好品(タバコ)を咥えて、無線傍受が日課となった哀れな自分の姿を鏡越しに眺める。

 

 だらしのないヨレヨレのシャツは所々煤け、所々白髪の生えたボサボサの頭、清潔さのかけらもない無精髭、痩せこけた頬、死人を思わせる昏い瞳、そして逃れること許さないとばかりに胸元に刻まれた烙印(スティグマ)

 

 あの日(・・・)まではこんな様になるとは思わなかった

 

 今の自分を見つめるたびに、誰かが自分の首をギュゥと強く締め付けるような感覚が襲いかかってくる。

 人間何歳になっても過去の栄光に縋り付きたくなるものだ。

 幼い頃の自分は過去の栄光に縋り続ける老兵を嫌っていたが、今となっては老兵(彼ら)の気持ちがよく分かる。

 

 そして果てしなく惨めだ。

 あれほど蔑んだ老兵らと比べ、己は何も成し得ずにただ死んだように生きる屍そのものだ。

 だからと言って改善しようとも、首を括ろうともしない。

 自分の無気力さに嫌気がさす。

 

 希望に目を背けて、明日から逃げて、次は何処に?

 

 知らん、興味もない、何処でもいい。

 

 「頼むから休ませてくれ」

 

 鏡は俺の消えない過去の残影を映し出して、逃がさないとばかりに問いかけてきた。

 

 見殺しにしてしまった人々。

 救えなかった人々。

 絶望させてしまった人々。

 

 皆がこっちを見て指を指す。

 

 ───お前の、せいだ

 

 「ッ!」

 

 鏡がひび割れる。

 

 無意識のうちに拳を抜いて、うっかり殴ってしまった。

 ガラスの破片で斬ってしまったようで、拳からは血が滴る。

 

 心なしか普段と比べて呼吸が荒くなり、動悸が止まらない。

 深く呼吸をしようにも、息を吸っている間に窒息しそうな気分。

 浅い呼吸を繰り返して、自らを追い込んでしまう。

 

 いつもの発作(・・)に俺は苦しみながら、縋り付くようにしてシンクに両手をつき、肩で呼吸を繰り返す。

 

 とてもとても俺なんかには、背負いきれない。

 

 期待しないでくれ。

 見ないでくれ。

 助けてくれ、なんてやめてくれ……

 そんな目でこっちを見ないでくれ……

 

 「どうして俺なんかが……!」

 

 運命というのは残酷だ。

 

 夢は幻想である。

 その下地は血の滲むような地獄で象られていて、焦がれた者から善意で塗装された修羅の道へと送り込むように出来ている。

 

 憧れるべきではなかったんだ。

 

 ───でも、それがあなたの

 

 「……黙ってくれ」

 

 いつになく、幻聴が気に触る。

 それと同時に、ああ、またかとなって俺は立ち上がる。

 

 気分は優れないが、いつもの事だ。

 そんなことより

 

 「"アドナイ(ADONAI)"、獣が出たのか?」

 

 10年以上昔からの付き合いになる"相棒"に尋ねる。

 尤も相棒とはいったが、ソイツは人間ではなく───

 

 『探知範囲を拡大中……発見しました。15キロ先、2時の方向に3体。いずれも妄想級(Category:delusion)。救難信号は確認出来ません。()()()、出撃しますか?』

 

 向かった所で誰もいないし、意味もない。

 それでも構わないか?と俺に尋ねてきた相棒。

 ソイツは稼働し続ける10年以上前から存在する、レトロなナノマシン搭載のデバイス(・・・・)だ。

 

 最後のスーパーヒーロー"ラト"が人類の敵、"獣"に敗北して十余年が過ぎた。

 孔から姿を現した奴らはまず衛星を落として人から空を奪った。

 そしてヒーロー達を、希望を奪い、地図から街を消して、人の営みを、文明を地上から消し去った。

 

 生き残った連中は"希望(ラト)"は生きていると信じて、未だにレジスタンスを作って戦い続けている。

 

 だが"ライル()"は違う。

 

 もし仮にラトが生きていたとしても、(あれ)の相手は無理だ。

 かつて世界を守った巨人や魔法少女、戦隊に超能力者達ならば対処出来たのだろうが、ラトでは無理なんだ。

 

 希望の火はまだ灯っている?

 

 冗談はよせ、そんな儚い希望(もの)は既に絶望に覆われて風前の灯だ。

 

 「だが───」

 

 『戦えますか?』

 

 「当たり前だ」

 

 立ち止まるワケには行かない。

 

 死ぬまでに、獣共を一匹でも多く道連れにしてやる。

 

 それこそが、あの日逃げ出した俺に科せられた罰で、唯一の償いだから。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 『ライル、12時の方向です』

 

 「ああ、目視(こっち)でも確認できた」

 

 アドナイの呼びかけと同時に、視界に三つの黒い影。

 いずれも侵略型、妄想級の個体。

 面倒な支援型の姿もなく、侵略型のみの偏った編成に、最底辺個体である妄想級は通常兵装でも何とか対処できる程度に留まる。

 

 

 ───この程度なら今の俺でも(・・・・・)対処できる。

 

 「我が主よ(ADONAI)!」

 

 肩に下げていた鞄を放り投げ、名を叫ぶ。

 

 アドナイ(ADONAI)は略称だ。

 正式名称は Absolute Disaster Overcomed Necessary Affected Installation 絶望を打ち破る為の変身装置。

 

 その名の通り、奴らに対抗する唯一の術であり、"ラト"の遺産。

 

 ラトが現れる以前から存在し、魔法少女や複数人からなる戦隊、超能力者や巨人が真の力を発揮するために必要だったデバイスというワケだ。

 

 その最新式こそがアドナイ。

 

 奇しくも古い時代に信仰された神の呼び名を冠したデバイスは、この終末世界でなお錆びつく事はなく黒々と鈍い輝きを宿す。

 

 『目覚めよ、我が英雄(awake my hero.)

 

 俺の呼びかけに応じ、デバイスから黒い粒子が迸る。

 

 心臓を起点に広がったナノマシンは血管のように脈を打ちながら左腕と顔面の左半分を覆う。

 

 それ以外はただの生身。何処からどう見ても、誰でも分かるような不完全な変態。

 

 変身失敗。

 

 その原因はアドナイではなく、俺自身にあった。

 今まで戦ってきたヒーロー達に例外なく存在する超人因子(Main Actor)

 

 世界の危機と共に、一握りの人々に宿ったその因子は人々の希望によって力を生み出し、

 

 俺のソレは獣共の襲来によって澱み、破損している。

 

 結果として俺はこんな、無様な姿で戦わざるを得ない。

 不出来でアンバラスで醜い姿。

 

 英雄未満という言葉さえ褒め言葉に聞こえる程の醜態。

 それはさながら怪物のようだ。

 

 とてもとてもヒーローだなんて呼べやしない。

 

 『ライル』

 

 「なんだ?」

 

 『いけますか?』

 

 「問題ない。お前こそガタはきてないだろうな?」

 

 『ご冗談を……ではいきましょうか』

 

 「ああ」

 

 こうやってスーツを着ている時はいつもの罪悪感から、逃れられているようで心底安堵する。

 そしてそんな自分に嫌悪して、心底軽蔑してしまう。

 果てのない自己嫌悪はいつしか、憎悪になって燃え滓のような心に薪を焚べ、新たな火を灯した。

 

 「ォォォオオオォォ!!!」

 

 自らを鼓舞せんと雄叫びを上げて、渦巻く感情を遠くに置き去る。

 

 怒りに身を任せて、暴力をぶつけるのは容易い。

 だが呑まれてはいけない。

 

 そうやって手遅れになってきた奴らを俺は何人も看取ってきた。

 

 だが、今は何も考えるな。

 

 どうしようもなく正義の味方になりきれない俺は、獣共(こいつら)に怒りをぶつけて暴れるだけの浮浪者。

 

 誰にだってそういう時はある。

 

 理性(・・)本能(・・)の駆け引きは終わらない。

 

 (この感覚、まるで───)

 

 身に渦巻く初陣の時のような高揚感、そして自らを縛り律する鋼が如き経験がごちゃ混ぜになっていき、決定的なズレが生じる。

 

 『ライル!』

 

 「ッ!」

 

 アドナイの呼びかけで咄嗟に身を捩り、いつの間にか迫っていた獣の一撃を回避する。

 

 ナノマシンによって全身が強化されたとは言え、左上半身以外は生身であり、無茶動きは禁物……丁度今の回避行動のような無茶な動きは

 

 「グッ!」

 

 鉄の微生物によって守られた箇所とそうでない箇所の解離性は、不完全な変態を見れば分かる通りだ。

 

 体を超人的に動かそうとしても、肉体は生身のそれだ。

 本来は思うように動けず、行動に遅延が発生する。

 

 しかし俺の場合は例外だ。

 長年の活動の影響か、深層心理の部分でそう動けると身体が完全に信じ込んでしまった。

 

 結果、ナノマシンの鎧に包まれた箇所と、生身の箇所の境界で大きな齟齬が発生して、文字通り身体が裂けるのだ。

 

 適合手術の影響で多少肉体が強固になったからと言って、人間の体は数万トン程度の衝撃にすら耐えられない。

 

 咄嗟で加減をする余裕が無かった。

 

 身を捩りすぎて、肋骨が数本ひび割れ、内臓が破裂したのか皮膚の下で内出血を起こしている。

 

 『深刻なダメージを検知。肉体の修復に専念するため、セーフモードに移行します。』

 

 アドナイのアナウンスと共に変身が解除される。

 

 「最悪だな」

 

 体内に潜伏し、肉体の治療を始めたアドナイは暫く使えない。

 

 俺は腰に下げた護身用のアンティークな拳銃。

 

 獣達への特攻用として製造された拳銃は使えない事もないが、相棒とするには心細い。

 つまりは丸腰と何ら変わらない状況だ。

 

 それに対して獣共は変わることなく健在。

 

 「だからヒーローなんてお呼びじゃないんだよ」

 

 事態は最悪。

 だがまあ何とかなるだろう、いつもの事だしな。

 





 《設定》

 ライル……スーパーヒーロー歴13年になるベテラン。十年前の惨劇に巻き込まれた影響で超人因子が破損しており、碌な変身すら出来ない。変身するよりしない方が強い。

 アドナイ……ハイエンドにして十年以上前の骨董品。文明が崩壊してからはメンテナンスを受けることなく稼働していたため、ガタがきはじめた。

 獣……沢山いる。強い。

 人類……絶滅寸前だがレジスタンスを作って今なお生き延びているが、絶望しきっている。

 悪の組織……壊滅済み。

筆者の性癖の都合上、闇の深い世界観となっております。

  • もっと(鬱展開)ちょうだい!
  • やはり人類は愚か…-
  • お慈悲を!
  • 待て!ブロリー!
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