夏油っぽい女子生徒をブルアカに入れて先生を曇らせたいだけの話 作:かゆ、うま2世
実際は一握り残った、人を助けたいと思う善性から
誰もいなくなった市街地。それを飲み込んでいる大量の砂。砂漠化が進んだアビドス高校。その奥にある市街地のビルの屋上に、私達はいた
鳴り響く地響き、地中から顔を出した機械の蛇を見つめながら
「……へぇ、本当に来た。正直信じてなかったよ、お前のことだからね」
「クックックッ、もう少し信用してくれても構いませんよ」
「無理」
果てしなく巨大な機械の蛇、ビナー。それと対峙する、アビドス高校の生徒達……と、先生
「いやはや、本当に貴方は興味深い。神霊だけでなく、デカグラマトンまで調伏し、操るとは」
「あんたらはホドだとかグレゴリオだとかデカグラマトンだとか言ってるけど、結局は実体を得た神霊でしかない。強い神霊をありがとう。私の仕事も楽になるよ」
神霊には種類がある。いつも祓っている奴。私以外の人間は特殊な状況下じゃないと見れない
逆に、人の死体やらなんやらに憑依して実体を得た奴もいる。こういう奴は普通の人にも見える。ビナーはそういうタイプの神霊の一体な訳だ
「それじゃ、取り敢えず先生があれを弱らせるまで待つよ。危なくなったら手を出すけどね」
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「……驚いた。まさか本当にやっちゃうとはね」
「ふむ、上手く奪いましたね」
結局、生徒達と先生はビナーに勝利をもぎ取った。逃げていくビナーを、先生達の視界から消えた瞬間に術式で回収。手に収まるサイズの玉となって私の掌に収まった
「あむ…」
相変わらず酷い味だが、これでビナーは私のモノとなった。グレゴリオやホドの時と同じ、他の神霊とは格が違う。なんだか、私が凄い奴になったような気分だ
「ありがとね黒服。普通に私が戦ってたらちょっと面倒な事になってたかも」
「いえいえ、貴方の底無しさが見れただけで満足です」
「それじゃ、私はぼちぼち帰るよ。貴方は?」
「私もそうさせてもらいましょう。もうここに用はないので」
そう言って黒服は、私に背を向けて歩き出す。これ以上ここに留まる理由は無いし、私も早く帰ろう
「よっと」
先生達が引き上げたのを確認してから、地上に降りて私も帰路につく。先生達との遭遇を避ける為、彼らとは別のルートを───
『ほしのちゃん』
「え?」
聞こえた、意味のわからない明らかに人間ではない──神霊の声。反射的に声の方を向いた
「……実体を得たタイプ…しかもめちゃくちゃ強い」
恐らくは人の死体に憑依したタイプ。長い水色の髪を持つ少女の肉体は、死体が綺麗に残っていたのか、神霊にしてはかなり整った容姿をしている
「まぁ、いいよ。計算外の仕事だけど、祓ってやる」
私の背後に出現させた、白く煌めく巨大な龍──虹龍。手持ちの神霊の中では最高硬度を誇るソレを、目の前の神霊に向ける
「じゃあね」
龍は瞬時に神霊に食らいついた。そのまま近くの建物を突き破りながら上空へ飛んでいき───
「……まじか」
顎を殴られたのか、虹龍は大きく体をのけぞらせ、そのまま吹き飛ばされた
「ステゴロタイプか。それもかなり強い」
再び、神霊が姿を見せる。虚ろな死体が向ける視線が私を射抜く
「いい度胸してる」
上等だ。そっちがその気なら、こっちも遠慮しない。神霊操術。その全霊を以て、目の前の神霊を祓う。その為に
「ホド」
空中に現れた暗闇から、機械の触手が四本飛び出してくる。触手が神霊に伸びていくのと同時に、私自身が距離を詰めた
『ほしのちゃん』
「誰だよソイツ」
神霊の拳を回避し、無防備な腹に私の拳を叩き込む。機械の触手も神霊に絡みつき、行動を阻害する。この神霊の膂力を考えると、ホドの触手でも拘束できる時間はそれほど多くない。だが、それでも構わない
顔面に左ストレート。脛に蹴り。腹に肘打ち。首にチョップ。一秒にも満たない時間の中で、何度も神霊に攻撃を叩き込む。まだ拘束は解けていない
「終わり」
莫大な重さを誇る、達磨のような神霊。いきなり降ってきたそれに、少女の神霊は押し潰された
『────────』
それでも、少女の神霊は止まらない。達磨を吹き飛ばして、少なくないダメージを負った肉体で私に殴りかかってきた
「だから、無駄なんだよ」
暗闇から、ビナーの顔が姿を現し──光の奔流が、少女の神霊を飲み込んだ
脇腹から肩にかけて肉体がごっそりと消滅した少女の神霊は、誰が見ても戦闘不能。勝敗は確定した
『ほしの、ちゃ───』
本日二度目の神霊玉を生み出し、飲み込む。酷い味。慣れないけれど、そんなことを言っている場合ではない。祓う、取り込む。もっとこの術式を上手く使えるようになれば、それだけ私の仕事も楽になる
「……今度こそ帰ろ」
空は、暗くなり始めていた
──────────────────
「どうしてこうなった……」
「あはは…」
辺りは暗い、夜の時間。私は今、ベンチに二人並んで座っていた。一人は私。もう一人はあの時、一瞬だけ言葉を交わした生徒──夏油だった
「見えない所から倒したのに…何でばれたんだ…」
「それはまぁ…色々あるんだよ」
外を出歩いていた私は、さっきまで異形の化け物に襲われていた。逃げ惑う私。追う化け物。追いかけっこの終着は、別の化け物が私を追った化け物を叩きのめした事で終わった
二体目の化け物は私を襲わずどこかに消え、シッテムの箱は近くに隠れていた夏油の座標を表示してくれた。これが事の顛末だ
「……取り敢えず、助かったならさっきの事も、私の事も忘れて欲しい」
「それは、どうして?」
「あの化け物、私以外には基本見えないんだよ。先生があれを見られたのは特殊な状況下だったから。あんなのとは関わらない方がいいよ、ろくな事にならないから」
「夏油は、ずっとあれと戦ってるの?」
「そうだけど、それが何?」
「危ないんじゃ──」
「喧しい。一人でやってるんじゃなくて、一人しかいないの」
「……ごめん」
怒らせてしまったので、謝罪をする。本音を言えば危ない事はして欲しくないが、これは確かに彼女にしかできないことなのだろう。自分の無力感に腹が立つ
「謝るな、喋るな、腹が立つ」
「えぇ…」
辛辣な彼女に困惑しつつも、次にどうすべきか考える。今の彼女はまず間違いなくまずい状況だ。目も死んでるし、隈も酷い。さっきの化け物との戦いで疲弊してるのは明らかだ
「ねぇ、夏油」
「黙って。どうせ先生らしく生徒を助けようとしてるんでしょうけど、私そもそも学校行ってないし。貴方のせいで毎日余計に大変なんですよ。だから、この事は忘れて、もう関わらないで」
「え?」
関わるな。突き放すような言葉に、少し心が痛んだ
「……わかった。何かあったら頼ってね」
「………」
背中を向けて、一人歩いていく彼女の姿を呆然と見つめていた
そうして、化け物が見えるようになった