夏油っぽい女子生徒をブルアカに入れて先生を曇らせたいだけの話 作:かゆ、うま2世
夏油は、神霊の強さをいくつかの等級に分けている
本人の中だけの区分けであるが、戦闘する上での警戒度の指標になってはいた。その点で見れば───
「っ───!」
目の前の、親友だった神霊は間違いなく最上位──特級に当てはまる
アサルトライフルと融合した右腕に目を瞑れば、その姿は親友そのもの。それでも、もし右腕がそのままだったとしても──何かが、決定的に違う
「っ、まず───」
右腕のアサルトライフルの射撃を、虹龍の体を使って防御する。防御はできた。しかし、虹龍の体に傷がつく
「飛ばせ!」
虹龍の尾で親友を吹っ飛ばし、できた時間の中で必死に思考を回す。特級の神霊……正直な話、倒すのは簡単だ。私の手持ちにはホドにビナー、グレゴリオがいる。雑にそのどれかをぶつけるだけでも勝利できるだろう
わかっている。目の前のそれは最早親友ではない。親友の魂が転じた神霊……ですらない、体を乗っ取った有象無象であるかもしれない。わかっている。わかっているのに──止めを刺せない
『げぇええとおぉうちゃあぁあああん!』
「……やめろ」
歪みに歪んだ、されど確かに親友の声
『げとぉおおうちゃあああああああんんん!』
「やめろって言ってるだろ!」
こちらに向かって来る親友を、手足にホドの触手を巻き付けて拘束。彼女に拘束を振り解く程の力は無い
『げぇとうちゃああん!』
「……やめろ。頼むから、もうやめてくれ……」
膝をつき、声を震わせながら誰へ向けているのかもわからない懇願を口にする。親友の顔をした神霊が、目の前で苦しみながらこちらに銃を向けようとする。その度に、私の中の何かが軋む
「何でいつも、私ばかり───!」
堪えていたものが溢れかえった
枯れたはずの涙は溢れ出し、口からは嗚咽が漏れ出す
倒さなければ。それに、私は神霊を取り込める。殺した事にはならない。早く、早くビナーにレーザーを撃たせないと
「……もういいよ。撃ってくれ」
───思案の結果、私は拘束を解いた
疲れたのだ。何もかもに。苦しむだけの人生なら、ここで彼女に終わらせてもらうのがいい
「………」
親友は、私の胸に銃を押し付けた。数日の思い出。今までで一番色鮮やかな思い出が、浮かんでは消えていく
生きようとする意思は無かった。引き金が引かれて、私の命は終わる。それでよかった
でも、運命はそれを許してくれなかった
『げとうちゃん』
親友の声だ。紛れもなく、私の親友の声だった。最期に聴こえたのは、呪いに満ちた声ではなく、幸せだった頃の声で───
『お願い』
たった一言。それだけで良かった
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「……あれ、アコじゃん。久しぶりだね」
「……!」
街を歩いていると、懐かしい顔を見た
私がゲヘナの風紀委員会に所属していた時の知り合い、現在は風紀委員長の補佐役をしている天雨アコだ
私を見るなり、驚き、警戒、怯え、様々な感情が入り混じった顔をしてくる
「……犯罪者じゃないですか。何か用ですか?」
「あぁ、もう伝わってたんだ。早いねぇ」
少し前、人を三人殺してきた
一般生徒にはまだ伝わっていないが、各学園の主要組織には伝わったようだ
「一応聞いておきますけど、冤罪ですか?」
「いいや?全部本当の事だよ」
「……そうですか」
限りなく少ない冤罪の可能性を聞いてくる辺り、やっぱり彼女はいい人なのだろうと思う
「では、何故?」
「
「……意味がわかりませんね」
平然としてるように見えるが、アコの手は震えている。当然だろう。私が皆殺しにする生徒の中には、天雨アコも含まれているのだから
「安心しなよ、今すぐ殺す訳じゃない。ちゃんと宣戦布告して、総力戦の上で殺すからさ」
「安心……していいのやら」
「していいとも。それじゃ、今の私は追われる身でね」
「……待ってください」
「ん?」
背を向けて去っていこうとした私の背に、アコの声が掛かる
「……私では、駄目なのですか?」
「……その枠はもう埋まってるんだ、諦めろ」
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「……説明して、夏油」
「……あぁ」
アコの元を去ってから少し、私に向けられた声は先生のもの。人殺しに向ける声にしては優しすぎる声は、彼が私に向ける感情がどういうものなのかを物語っている
「私の親友は死んだ。殺されたようなものだ」
「……どういう事」
「いじめられてたんだよ、彼女。気の弱い人だったからね、格好の的だったんだろうさ」
呪霊操術で読み取った彼女の記憶。彼女は三人のトリニティ生にいじめられていた。心霊スポットに彼女が行く羽目になったのはその一環だ
「だから殺したの?」
「恨みもあるが、どちらかと言うと目的の為の第一歩だね」
「私はね、呪霊の産まれない世界を作ることにしたんだ」
雑踏の中、先生の目には困惑の色。気にかけていた生徒の人殺し、その生徒があれだけ楽しそうに語っていた親友の死。色々と疑問は尽きないだろう
「……呪霊?」
「あぁ。神秘だとか神霊だとか、そのままの単語で呼んでたけど……あれは駄目だね。本質を捉えていない。呪霊はね、人の醜悪さの成れの果てだ」
「呪霊が産まれない世界を作るって、具体的にどうするつもりなの」
「生徒を皆殺しにする」
「!?」
先生は目を見開く。それはそうだろう、生徒を皆殺しにするなんて言う馬鹿が何処にいる。そんな先生の反応に苦笑しながら話を続ける
「終わらないマラソンをね、私はずっと続けているんだ。呪霊を消せば、私は私の人生を生きられる」
「そんな……そんな事、駄目に決まってるでしょ!?」
「なら、私は一生一人で呪霊を祓い続ければいいのかい?アレと関わり続ける限り、私はずっと自由にはなれないのに」
「っ……でも!何か他に方法が───」
「銃規制、無理なんだろう?」
「ぁ────」
先生の顔には汗が滲み、瞳孔は大きく開かれて、顔から血の気が引いていく
「そんな……事、できる訳ない。夏油一人に、そんな事出来る訳ない。できないと分かっている事を追うのは無意味だよ」
「……傲慢だな」
「……何?」
「君にならできるだろう、先生」
私が意識を向けるのは、先生──ではなく、先生が持つシッテムの箱
「意義ならあるよ。大義ですらある」
「連邦生徒会長が残したオーパーツ。どこまでできるのか知らないけど、生徒のヘイローを割るなんて事そう難しい訳じゃないんだろ」
「君は先生だから慕われているのか、慕われているから先生なのか。もし私が君になれるなら、この馬鹿げた理想も地に足がつくと思わないか」
先生の焦りは最早隠しようもない。私を止める事はできないと、理解している筈なのに──それでも、まだ諦めていない
「……夏油、私は君を止める」
「止めたいなら私を殺せ。説得は無理だ。それに、その行為には意味がある」
「っ…そんな事……」
「生き方は決めた。後は自分にできる事を精一杯やるさ」
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『あー、あー、上手く放送できているのかな?』
突如としてキヴォトス全域に流された、連邦生徒会からの生放送。キヴォトス中の混乱を気にする事なく、五条袈裟を着た少女は話を続ける
『私は夏油。私の隣にいるのは呪霊……見えない人もいるかもだけど、見える人は見えてるんじゃないかな?』
事実、少女の隣には異形の化け物が佇んでおり、視聴者にその存在を知らしめる
『学園の名前と被ってしまうけど、やっぱりこの名前しかないと思ってね』
『来たる12月24日、百鬼夜行を行う!』
百鬼夜行。その行為の説明は無かったが、見ている者には理解できた。キヴォトス全域に、呪霊を放つという事を
『私の目的は君たち生徒の皆殺し。抵抗は自由だ。生きたいのなら戦えばいい』
『さぁ、思う存分呪い合おうじゃないか』