夏油っぽい女子生徒をブルアカに入れて先生を曇らせたいだけの話 作:かゆ、うま2世
「……成程。手始めに先生を潰そうと思ってたが、そう来たか」
目を向けるのは、目の前に立つ四人の生徒。空崎ヒナ、剣先ツルギ、美甘ネル、小鳥遊ホシノ
「君たち四人に私を任せ、自分は他の生徒を指揮してできる限り犠牲を減らす……確かに善い手だ。視認さえできれば呪霊は誰でも祓えるが、アレは歪んだ神秘そのもの……君たち生徒に完全な相性有利を持っている。彼の指揮がなければ、四級相当の呪霊にだって苦戦するだろうね」
「……一つ、言っておく」
一番最初に口を開いたのは、ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ。風紀委員は彼女のワンマンチーム、という意見があるほどの実力の持ち主。生徒の中でも上澄みだ
「貴方が何を思ってこんな事をしてるのか知らないけど、自分が誰を相手にしてるかはわかるでしょ?大人しく投降して」
「……猿共が」
「……何?」
「猿は、嫌いだ」
背後に出現させた呪霊の口から取り出したのは、赤い三節棍
「嫌いだが、殺す理由はそれじゃない。これは聖戦なんだ」
「聖戦?」
「君たち生徒を皆殺しにして、呪霊の産まれない世界を作る。呪霊とは、キヴォトスに蔓延っていた闇そのもの……奴らのせいで消えた命がどれほどあるか、君たちにはわからないだろう」
「少なくとも、テメーが殺そうとしてる人数よりは少ないだろうな」
「……このキヴォトスの中で、私が対処してもこの有様だ。もしキヴォトスの外へ呪霊が出ていってしまったら……考えたくもない」
「だから殺すと?」
「その通り。呪いを振り撒く君たちに慈悲は与えない。君たちも、全てを壊そうとする私に慈悲は与えなくていい」
呪霊操術で取り込んだ彼女を顕現させる。親友は死んだ。だとしても、確かに私の側に親友はいる
「来い」
三節棍を構え、たった一言──開戦の合図
空崎ヒナの射撃を皮切りに、射線に被らないように他の三人が距離を詰めてくる。三人は親友の射撃で時間を稼ぎ、私はヒナの銃弾を対処する
「よっと」
三節棍の中間を掴んでプロペラのように振り回し、銃弾を全て弾いた
「まずは質より量……」
青白い赤子のような呪霊を大量にヒナに差し向ける。どうせ倒せはしないだろうが、足止めくらいの役割はできるだろう
「おや、流石にしんどいか」
私の真横まで飛ばされてきた親友に一瞬目を向け、向かってくる三人に向き直る。キヴォトス最高の神秘、正義実現委員長、コールサイン00、どれも親友がタイマンで戦って怪しいぐらいの相手だ
「なら、これだな」
瞬間──三人の動きが止まった
「──!?」
「なっ──!?」
「これ、は」
三人の表情が驚愕の一色に染まり──彼女達の奥にいる、コートを着た長い髪の呪霊が口を開く
『ねぇ……私、私…きれい?』
「言っておくが、答えるまで動けないぞ」
質問に答えるまで、互いに不可侵を強制する術を使う呪霊。厄介な相手だったが、今ではもう私の手駒だ
奴が展開した術の中で動けないのは私も同じ。だから──使い方はずっと前から決めていた
「二人を頼むよ」
コートの呪霊をしまい、術式も解除──タイミングがわかっている私と彼女達とでは、動きに一瞬のアドバンテージが発生する
三節棍の端を持ち、その状態で先端を当てる──それに最も適した間合いに、美甘ネルを引き摺り込む
「がっ────!?」
動く体への困惑を残した美甘ネルの顔面に、三節棍の先端が叩き込まれた
「あー、生きてるかい?死んでてくれると助かるんだけどな」
「……お生憎様。生きてるよ」
「そ、残念」
「お友達は大丈夫か?」
「長引くとまずいかもね、相手が相手だし二対一だ。君たちがどの程度かは大体わかったし、さっさと片付けて助けに向かうとするよ」
三節棍──游雲による一撃。今までに受けたことがないような馬鹿げた威力の一撃。そう何度も食らえるようなものではない事は、美甘ネルも理解している
(……あたしの距離で、速攻決めるしかねぇ)
接近戦。それが美甘ネルの距離だ
その距離で自分に勝てる者は居ないという、積み上げられた絶対的な自信。だが、それを行うにはいくつかの障害があった
素早く、多数の呪霊を使役する夏油に対し接近戦を仕掛けることができるのか。のらりくらりと呪霊で躱されれば、ネルにとって夏油を追うことは困難だ
もう一つは、先程の動きを止める呪霊。せっかく近づいてもアレをもう一度出されればもう一度游雲を食らってしまう
(……たく、どうしたもんか…)
「……はぁ、何というか、必死なんだね君たちも。いいよ。接近戦だろう?受けて立とうじゃないか」
「!?」
美甘ネルにとっては、渡りに船の提案。直感から、夏油は嘘をついていないと判断できた
「──後悔するなよ」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
その会話を最後に、美甘ネルは駆ける
地を這うような低い体勢で一直線に。最短最速で距離を詰め、一瞬のうちに勝負を決めるつもりだ
美甘ネルの全速力。一秒とかからずに夏油の元まで辿り着き、その実力を振るう───筈だった
(────は?)
顔面に感じた、先程と同じ馬鹿げた威力の衝撃。美甘ネルの体は逆方向に、走っていた時の何倍ものスピードで吹っ飛んだ
「だから言ったんだ。後悔するなよと」
単純な話だ。夏油の方が、美甘ネルの何倍も速かった。視認できない程の速度で近づき、游雲を美甘ネルの顔面に叩きつけた
(クソ…頭……回んねえ)
視界と思考がぐにゃりと歪んでいる。うまく立てない、力が入らない、意識が保てない。敗色濃厚──だが、まだ諦めてなどいない。まだ、負けてない────
「……こんなものか」
落胆したような声と共に、一人の生徒が地に伏す。意識を失っただけではない、明確に、致命傷を受けていた
今すぐに処置をすればまだ間に合うかもしれないが、この状況でそれは無理だ。故に、美甘ネルの死亡はほぼ確定していた
(嘘…でしょ)
差し向けられた大量の呪霊を殲滅し終えた空崎ヒナは、美甘ネルが一瞬にして倒される瞬間を目にしていた。小鳥遊ホシノと剣先ツルギは彼女の親友が足止めしている。ならば、次の標的は───
「次は君だ」
空崎ヒナ以外、あり得なかった
「っ………!」
コンマ数秒の誤差もなく、空崎ヒナのデストロイヤーから放たれる拡散射撃。地上だけでなく、空中に向けても放たれたそれは、まず間違いなく回避不可。誰もにそう思わせるだけの迫力があった。しかし───
(っ…!当然のように銃弾を避ける……!)
弾幕の雨の中、夏油は涼しい顔でそれら全てを躱していた。奇跡や偶然では断じてない、確実に把握しているからこそ可能な回避運動
(その上で、尚───上がり続ける速度!)
バックステップで夏油から距離を取るが、気休めにしかならない。すぐに追いつかれて、あの三節棍が振るわれるだろう
銃弾を当てるのは最早不可能。ワンチャンスを賭けた接近戦を──あの美甘ネルを接近戦で圧倒した相手に挑むしかない
(狙ってくるのはまず間違いなく頭!目で追っちゃダメ、タイミングを見極め───!?)
空崎ヒナは失念していた
夏油本人の余りの強さに、彼女が持つ異能。呪霊操術の真髄を
「残念」
虚空から現れた、ホドの機械の触手。それが空崎ヒナの四肢を拘束した
瞬間──空崎ヒナの頭に叩き込まれる、音速を超えた游雲のラッシュ
「────────っ!!」
血が吹き出し、何かが砕ける音が響き、声にならない悲鳴が木霊する。地を転がった空崎ヒナは、そのままピクリとも動かない
「少し時間をかけすぎたと思ったんだけど……何なら優勢とは、流石親友。それじゃ……不意打ち」
戦闘中の剣先ツルギの足元から、巨大な機械の蛇──ビナーが出現。口から発射された超高音のレーザーが、彼女の腹を貫いた
「あーあ、ちょっとズレたかな。ま、充分か」
小型の雑魚を何体も群がらせておけば、いくら彼女でも死に至るだろう
「後は……アレだけかな」
チラリと視線を移す。そこには、キヴォトス最高の神秘──小鳥遊ホシノの姿があった
(……ちょっと、マズイね)
相手は自分より遥かに格上。それでも、諦めるわけにはいかなかった。後輩の為、信頼できる大人の為。必ず目の前の少女を倒す。それだけの迫力が、小鳥遊ホシノにはあった
「そうそう。君とは話したかったんだ。ほら、これあげる」
そう言って夏油が投げ渡したのは、一枚の学生証だった
「え─────」
学生証に刻まれた文字も、写真も、見間違えるはずが無かった
ユメ───死んだ先輩の学生証を、何故?
「勘違いするなよ。あの砂漠で彷徨ってた彼女を、私が取り込んだのさ」
「君も、私も、人の心に呪われたんだ」
「お前……!」
「さ、感動の再会だ。笑顔で迎えてあげなよ」
瞬間───小鳥遊ホシノの背後に現れた、余りにも悍ましい気配
『ほしのちゃん』
先輩の声、先輩の見た目。けれど、何かが決定的に違う
「──特級受肉怨霊、夢。新しい彼女の名前だよ」
呪いの拳と、游雲の一撃。親友の射撃が、同時にホシノを襲った。回避なんてできる訳もなく、小鳥遊ホシノは重傷と共にその場に倒れ伏した
「……さて」
戦闘結果、全滅
「終わらせに行こうか」
秤(アツコ)「領域展開」
いつか書きたい