過ぎたる力は身を滅ぼす。身の丈に合わない力を得た者は、やがてその力に依って自分の身を滅ぼすという意味を込めた言葉だ。
……しかし、滅ぼされる。否、壊れるのは身体だけだろうか?
これはある日。身の丈に合わない力を得てしまった少年のお話。
「す、すげぇ~!」
誰も居ない空間。その場所で彼は自身に目覚めた力に驚いていた。この空間は彼が作った練習用の場所だ。
現代社会。どれだけ隠そうとも、力を振るえば誰かが目撃する。そしてその手に持つスマホで撮影し、SNSに投稿されるだろう。
そうなれば最後、ネット上にいる人々は暇つぶしに彼の居た場所、服装、年齢から推理を行い、いずれは彼の身元まで割り出す筈だ。
(流石に、俺以外の能力者も居るだろうしな~)
彼の力であれば、自分を撮影した者達を直ぐ様捉え、鎮圧する事も出来る。そして記億を少し弄ってやればそれで証拠隠滅だ。
しかし、彼は読んでいたマンガの描写から、そういう軽率な事をすれば他の能力者が自分を見つけ、危険分子として排除されると考えた。なのでこの力を手にして以来、過激な方法は取っていない。
「にしても、本当に超能力が有るなんてなぁ!」
彼は誰も居ない空間に片手を翳す。するとその手から巨大な炎球が放たれ、地面に着弾する。
「ほい!ほい!ほいー!」
氷柱が空中に現れ、地面に突き刺さる。真空の刃が、彼の作った建物を切り刻む。上空に手を翳せば落雷が降り注いだ。他にも彼は、思いつく限りの力を思う存分、自身の空間に放った。
「おいおい…!…俺、最強か!?」
何をイメージしても彼の力はそれに応えてくれる。その全能感に彼は喜びの震えが止まらない。
(おっと…いけないいけない…こうやって調子に乗る奴は早死にするんだ…)
これまたマンガの知識だが、自分の力に胡座をかいた奴は主人公に倒されるのがお約束だ。
彼は自分以外にも能力者が居ると確信している。下手をすれば自身の力は既に感知され、何処かの組織の見張りを着けられているのでは、とすら考えた。
(……怖いけど、ワクワクするな〜!!)
自分のようなガキンチョがいきなり力に目覚めたのだ。世間で噂されている秘密結社や、古くからある魔術文明。果てはクローンや戦闘用ロボットを作る科学組織。
自分と同じ力ではないとしても、この世界には不思議な事は確かに存在する筈だ。その証拠が今の自分だ。
恐怖はある。
しかしそれ以上に、今の退屈な生活を変えてくれそうな今の状況に、彼は恐怖よりも、これから起こる未知なる出来事への期待に心を躍らせていた。
(……よし!そうとなれば修行だな!)
ある程度の妄想を終えると、彼は自身の力の研鑽に戻る。今の自分は力を手に入れたばかりの新参者だ。幾ら強い力を使えるとはいえ、戦闘や力の扱い方がなっていない。
「……出ろ!」
彼は物語の中に存在する、ある生物を脳内で思い描いた。それは現代社会では会える筈もない幻想の生き物。
「グオォォオ…!!!」
「おお…!!」
その名はドラゴン。彼のイメージしたものは西洋の竜だ。全身は蒼く、硬そうな鱗に覆われている。その口からは火が漏れ出し、今にも此方にブレスを吐きそうだ。
(か、かっけぇぇぇ…!!!)
自分の想像通りの姿に彼は興奮する。その目は憧れのヒーローを見た時の少年のような輝きだ。
「グオォ!!」
「──ッ!」
(……そうだ。ぼーっとしている場合じゃねぇ…!!)
ドラゴンは彼に火のブレスを放つ。咄嗟にバリアを貼る事で彼はその攻撃を防いだ。そもそも彼がドラゴンを呼び出したのは鑑賞の為ではない。自分の戦闘経験を高める為だ。その事を思い出した彼は決意を秘めた目つきに変わる。
「行くぞ!」
「グオォォオ…!!!」
彼はそう叫ぶとドラゴンに挑みかかった。ドラゴンも自分の役割は理解しているのか、彼に全力で襲い掛かる。
「結構、俺も強くなったよなぁ……」
あれから数ヶ月。彼の実力はメキメキと上がり、自分が想像した生物では相手にならない程まで成長した。
「筋肉も…!」
そう言って彼は力瘤を作る。数ヶ月前はぷにぷにとした感触だったが、今ではカチカチだ。鍛えられた体を気に入ったのか、彼は鏡の前で様々なポーズを取る。
「早く学校行きなさい〜!」
「あっ!は~い!」
母親が下から声を掛けてくる。彼はその言葉に返事を返すと慌てて服を着て、リビングに降りる。そして両親に挨拶をすると外に出た。
「あの子…明るくなったわね…」
「そうだな…」
母親の言葉に同意する父親。別段、彼が暗かった訳ではない。ただ、平均的な学生にある、変わりのない生活への退屈さから怠けていただけだ。
だが、今の彼は生き生きとしており、体まで鍛え始めた。最初は三日坊主で終わると思っていた両親も数ヶ月も続けた筋トレに驚いたのか、ある日、質問を投げかけた。
「…何か、やりたい事でも見つけたか?」
「ん~~…………内緒!」
「……フフ。そうか…」
内緒と答えるという事は何かしらの答えが有るという事だ。それに気付いた父親は笑みを浮かべる。彼にも夢が出来て、それに向かって進んでいるのだと。
息子の成長に嬉しさと少しの寂しさを感じながらも、父親は今の、何かに熱心な彼を内心で応援していた。
「何も起きねぇ……」
公園のベンチに座りながら、彼はダルそうに呟いた。
数ヶ月の間。体と能力を鍛えて、何時でも事件に巻き込まれてもいいよう、準備をしていた彼だが何も起きない平和さに退屈していた。
「……この辺には居ないのか…?」
彼の住む町は田舎だ。そのせいで、わざわざ政府もこの近辺に組織を作らなかったのではと彼は考えた。
「そうだな…うん、こんな田舎に居ないよな…」
自分を納得させるように言い聞かせる。戦いの場とは得てして煌びやかな場所だ。敢えて田舎で戦う場合もあるが、この町は戦いの場所になるには長閑すぎる。
そうして口に出すと、そのような気がしてくるものであり彼は気分を切り替え、家に帰っていった。
「いきなり、テレポートは不味いよな……」
彼には瞬間移動能力が有る。テレビで見た場所ならば何処にでも行けるだろう。しかし、彼は悪の組織に目を付けられるのが嫌なので、家の中と自分の作った空間の中でしか試していない。
この能力を使えば日本の首都である東京までひとっ飛びだが、彼はその危険性から素直に電車で行く事にした。
幸い、学校も後少しで夏休み期間だ。その時の期間に、貯めたお小遣いで東京まで行くのが良いだろう。
「何か、最近の親父、優しいしな……」
彼が東京まで遊びに行きたいと言ったら、両親は快く承諾してくれた。何時もなら「何処かに行く暇があるなら、勉強でもしろ」と五月蝿いのに、不思議なものだなと彼は思っていた。
最近の彼は、能力を扱う為に知識が必要だと勉強をしている時が多い。両親はその姿を、夢に向かって勉強を始めたと認識していた。
故に彼の遊びも、勉強詰めの毎日からの息抜きとして快く許した。そんな事は露知らず彼は「ラッキー!」と内心で喜んでいた。
「さぁ…!とうとう始まりだ!」
東京には自分のような能力者や、それを束ねる組織達ががうようよ居るだろう。鍛えた自分の力は何処まで通じるのか、彼は期待に胸を膨らませた。