「あー…つまんねー」
裏路地で見つけた人間を、暇つぶしに殺したが手応えを感じず怠そうな彼。
「女も飽きたしなぁ……」
彼は超能力を隠すのは止めて、私利私欲のために使い始めた。適当に捕まえた女を犯し、壊れるまで使い込む。
最初はセックスの快楽に溺れ、至る所に行っては女を犯したが、最近ではマンネリ化してつまらなくなってきた。
「どうすっかな~」
片手間に、死体に手を翳すと死体は消えた。そして彼は裏路地から出た。
「はあ…まさか死ねないとはね…」
彼が変わって以降、即座に始めたのは死ぬ事だった。自分の世界から生み出した生物の攻撃をわざと受け、傷を負い続ける。
やがては死に至る筈なのだったが、彼の体はそれを許してくれない。死にかけると傷が治り、元の、元気な状態に戻るのだ。
(親父とお袋を戻した時のと同じかね)
この現象はその時の治り方に似ていた。死んでも時間が巻き戻ったように元通りになる。
(唯一違うのは、俺の精神は変わらないって所か……)
両親は死ぬ前と戻った後で別人になったが、彼の精神は変わらず、ただ虚しいだけだ。
(地球壊しても死なないとはな〜)
面倒臭くなったので自爆をした彼。しかし、残ったのは宇宙空間で目を覚ました自分だけだった。ただでさえ、暇なのに娯楽も無くなったら怠いと。
彼は自爆を
(はあ…)
彼の物語には敵が居ない。世界中を探し回っても、対等どころか格下も居ない。そもそも自分と同じステージに立つ、役者が存在しないのだ。
(…物語の主人公は羨ましいね〜格上も対等も格下もぜーんぶ居るわ。俺もこの世界に生まれたかったなぁ…)
適当に入った本屋で、昔読んでいたマンガを立ち読みする。
どれだけ強い力を持とうとも、それを振るう相手が居なければ無いのと同じだ。
戦いは同じ領域の者でしか発生しないというが、その領域に入る、格下も居ないのはどうかと彼は思う。
「あっ、完結してたんだ…」
マンガはあれ以来読んでいなかった。楽しそうな主人公達を見ると虚しさが募り、気持ちが落ち込むからだ。
一応は好きだったマンガ。わざわざその作者を殺すのも気が引ける。
「ふーん。こんな感じで終わったんだ」
最終巻を見ると主人公は魔王を倒した所で終わった。
魔王は最後に「お前のような奴と戦えたのは幸せだった」と言った。彼もこの言葉には共感出来た。自分と対等、もしくは格上の存在。その者と命を懸けて戦うのはどれ程の喜びか。
「あれ?待てよ………そうか!その手があったか!!」
彼はあることに気が付くと、甲高い笑い声を上げた。その可怪しさに店員が近寄るが…
「お客─」
「そうだ!!この手を使えばこの虚しさも消えるかも知れない!!!!」
声を掛けようとした瞬間、彼は適当に手を振ると店員を殺害する。人を殺したというのに、彼の頭の中にはこれからの計画を進めるための準備で頭がいっぱいで、死体を歯牙にもかけない。
「五月蝿いな…」
人が考え込んでいるのにキャーキャーと喚く周囲の人間に彼は眉をひそめる。そして指を鳴らした。
すると店員は生き返り、他の客も何事も無かったかのように本を手に取る。
「俺以外に力を得ていない者ばかりならば、力を得る者を俺の手で作ればいい!!そして、争いを起こし、天然物の勇者を生み出す!!!」
「俺……いや今から
彼は機嫌よく、高笑いを上げながらその場を去っていた。道中、周りの人々が変なモノを見る目で彼を見ていたが、話の内容から、頭の可怪しい奴と分かると興味を失くした。
その日は突然訪れた。後の時代ではこう呼ばれる運命の日。悪夢の到来と。
始まりはいきなりだった。日本にて人々が行き交う活発な時間。その時に、全世界に向けて彼は無数の立体ホログラムを放ち、演説を始めた。
[我は憂鬱なる魔王。名前は人間共が統一しやすいようにカオスとでも名乗るか…]
◯えっ?何これ?
◯魔王カオスだ!草生えるわ
◯ホログラム!?
◯凄え!日本の技術ってそんなに進んでんの?
◯でっか
ホログラムに映るのは三メートルを超える巨人。その姿を見た人々は、誰しもが何かしらのイベントだと思い、本気にはしていなかった。
[お前達の国の…そうだな…3割くらいには死んでもらう事にした]
◯えっ海外でもやってんの!?
◯つまりどういうイベントなの?
◯あれ?これガチなヤツ?
◯真に受けすぎ!あり得ないっしょ!
◯海外でも騒がれてるんですが…
今の現代社会はSNSでの情報交換がしやすい。道行く者達は物珍しさにスマホを構え、動画や写真を取っている。
[ふむ。やはり信じられぬか…ならば分かりやすい方法を試してみよう…]
◯えっえっえっ?
◯怖い怖い怖い
◯あり得ない!あり得ない!
◯何か空に光が…
◯月に向かってる?
カオスは手に込めた魔力を月に向かって放つ。その速度は凄まじく速く、一瞬で月の近くまで到達した。そして…
[こんな所か…ああ…案ずるな。我の力で、月が無くなった影響は抑えた]
◯
◯
◯
◯
◯嘘だろ……
SNSに書き込んでいた人々は呆然とした。何かをコメントしようと文章を考えるが何も思い浮かばず、文章を打ち込めなかった。
[さて。話しを戻そう。先程も言った通り、私の最初の目的は、貴様等人間に危機感を与える為の蹂躙だ。軽く3割は殺す]
◯死にたくないです許して下さい
◯お願いしますお願いします
◯子供がいるんです見逃して下さい
◯すいませんすいませんすいませんすいません
◯何でこんな事するんですか
人々は恐怖を覚えた。純粋なる死への恐怖。今まではジョークと笑い飛ばしていた。しかし、月を消す程の力を持つ目の前の異形に現実を理解し、命を乞う。
[何故か。特に理由は無いな。ただ殺したいからだ]
◯ふざけんな!!!!!
◯やめろばか!!!
◯しげきしないでよ!!
◯見逃して下さい見逃して下さい見逃して下さい
◯あー…終わった…
最後にカオスはそう切り上げると世界中に出現させた、立体ホログラムを消した。
「魔王様。準備は整いました」
「良くやった。リーヴァ」
「勿体無いお言葉」
魔王城。前の名前は自分の世界か。其処に戻ると蒼い鱗を生やした異形がカオスに話し掛ける。
リーヴァ。この異形は、カオスが始めて戦ったドラゴンに人型の姿を与えたものだ。所謂リザードマンのような姿をしている。
「魔王様のお言葉だ!皆の者、面を上げよ!」
『ハッ!』
魔王軍に所属する者達はゴブリン、オーク、獣人、魔族、ありとあらゆる種族を生み出した。リーヴァの言葉に兵士達は面を上げる。
「我から言う言葉は1つ。蹂躙せよ」
『魔王様の御命令のままに!!!!!』
カオスは玉座に座りながら、兵士達にそう言うとそれぞれの国に繋がる門を開いた。
「いざ!開戦だ!!!」
『ウォォォォオオオオオ!!!!!』
リーヴァの号令に兵士達は門を潜る。これより、魔王カオス率いる魔王軍による、地球蹂躙は始まった。
「…さて、見繕った者達は?」
「はい!魔王様!報告させて戴きます!」
カオスは玉座に座ったまま人を呼び寄せる。彼女の名は黒猫。カオスが彼の時に、暇つぶしに助けた秘密結社の犠牲者の1人だ。
長い黒髪には無理矢理着けられた猫耳があり、瞳は青。可愛い顔立ちをしている。服装はロングスカートのメイド服だ。
「有用そうなのは7体ですね。これを使えば、ある程度の希望にはなるかと」
「ふむ。まあ…そんなものか」
カオスは人間側に人工勇者を潜り込ませるつもりだ。人間とは希望が無ければ生きていけない。その希望を人類に与えるのが人工勇者の役割だ。
「性格の調整も終わったか?」
「はい!完璧です!」
人工勇者には、人々に好まれそうな人格を入れている。その人工勇者達が人々に溶け込み、やがては子を成したならばそれで良しだ。
「近くに寄れ。頭を撫でてやろう」
「はい…!……にゃ〜♪」
黒猫は優秀な人材だ。面倒な事を率先して、カオスの代わりにしてくれる。黒猫もカオスを慕っているので、このご褒美はとても甘美だ。
(さて、どうか早く来てくれよ。我の勇者よ)
膝にもたれ掛かる黒猫の頭を撫でながら、カオスはまだ見ぬ勇者を待ち続ける。自分を殺し、満足させてくれる存在を。
過ぎたる力は心を壊す。彼の元々の人格は身に余る力により粉々に砕けた。
魔王カオスは彼の身体を使っているだけの別人だ。
このお話は特殊なケースだとは分かっている。しかし…こう思うのだ。過ぎたる力で身を滅ぼした者はまだ自分の意思を持てるだけマシなのではと。
…あくまで個人的な意見であるが。
彼
平凡だった、正義感の強い学生。
魔王カオス
取り返しのつかなくなった彼の名残。勇者を待ち続けている。
リーヴァ
ドラゴンが人間体になった。性別は男。彼の心を晴らせなかったのが心苦しい。
黒猫
耳は切り落とされているので無い。カオスの事を妄信している。
七魔将
七つの大罪をモチーフにした魔王軍幹部。リーヴァもその1人。
魔王軍兵士
カオスが生み出した生物達。カオスを創造主と崇め、敬意を持っている。
人々
結局、地球の総人口は半分まで削られた。中には兵士達に犯され、子供を孕んだ者も居る。しかし、その子供達が後の世代で活躍する事になるので皮肉であろう。
人工勇者
人類に希望を与えた存在。七魔将の半分を倒した事から人々には英雄と呼ばれている。多くの子孫を作った。
勇者
数百年後に生まれる天然物の勇者。彼かも知れないし、彼女かも知れない。この時のカオスの喜びようは凄かった。しかし、部下はこの勇者に嫉妬を抱いている。