灰をあつめて天に撒き 風吹いて また魂燃ゆる 作:kuona
何か作法が間違っていたら申し訳ありません。
追記:銀灰の少女1〜2をまとめました。
銀灰の少女
「星と深淵を目指せ!ようこそ、冒険者協会へ」
「こんにちは」
「ああ、旅人さん。ちょうどいい所に」
「お、新しい依頼か?」
「何だろう」
璃月港の冒険者協会。
日ももうすぐ沈むかという頃。
港の街並みは茜一色で、商売人達の客引きの声や小難しい議論を交わす声、子供たちの遊び声などで賑わっている。
そんな中、何か新しい知らせはないかと偶然立ち寄った旅人とパイモンは、待ってましたとばかりにキャサリンに歓迎された。
どうやらタイミングよく新規の任務が任せられそうである。
「旅人さんたちは、往生堂の鍾離先生と知り合いでしたよね?」
「おう!」
「うん」
「それでは丁度いい依頼が来てますよ」
旅人たちが肯定すると、彼女は依頼用紙を取り出し旅人たちに見せた。
二人はひょいとそれを覗き込む。
どうやら、とある杖の作成についての任務であるらしい。
「なになに〜、『
「依頼人の名前を鍾離先生に伝えればわかるって書いてるね」
「えっと名前は〜『山本元柳斎重國』? なんか璃月の仙人みたいに長い名前だな」
「稲妻からの依頼みたいだけどね」
「この前鎖国が終わったばっかりなのにもう璃月に依頼か。よっぽど大事な杖なんだなあ」
「杖のデザインなどの詳細はこちらの紙に書いてあるそうです」
「おう」
「それと、」
キャサリンはそこで言葉を切り、控えめな笑みを浮かべて旅人とパイモンを見つめた。
二人は何だろうと目を瞬かせ見つめ返す。
「この依頼には同行人が付き添うそうです」
「同行人?」
「はい、この任務中ともに行動する冒険の仲間です」
「それって──」
「依頼を受けてくれた方でしょうか?」
不意に、幼い声が聞こえて二人は振り向いた。
「此度の依頼で同行いたします、
宜しくお願い申し上げます、と礼をする。
そこには自分の背丈より大きな刀を背負った、黒い袴の少女がいた。
夕日に反射する銀灰色の髪を耳より高い位置で両サイドに三つ編みし、彼女が頭を上げれば好奇心できらめく紅色の瞳が旅人たちを捉えた。
見た感じはモンドの西風騎士クレーと同じかそれより幼く見える。
「こ、子供? 連れ回して大丈夫か…?」
「ご心配痛み入りますが、問題ありませぬ。わっちは御二方の足でまといにならない程度の武道は修めておりますゆえ」
「お、おう。随分礼儀正しいんだな」
ちっちゃく可憐な見た目で武士のような振る舞いだった。
けれど気丈な態度とは裏腹に、強ばる肩と少し不安げに揺れた瞳を見て、旅人とパイモンはこの少女の緊張をほぐしてあげようと笑顔で声をかけた。
「オイラはパイモンだ! そんなに畏まる必要なんてないぞ。なあ旅人?」
「うん。これから一緒に冒険する仲間だからね」
そう言った二人の顔を、少女はパチパチ瞬いて見返した。
そして自分に向けられた優しい眼差しに気づくと、ポワッと頬を染めた。
緊張している事を悟られて恥ずかしかったのと、『仲間』と言って貰えたのが嬉しかったのである。
だから少女はちょっと目を伏せて、もじもじしたけれど。すぐに、林檎のようなほっぺでニコ、と可愛らしく笑ったのだ。
「ありがとうで、ございまするっ」
それを見た二人も、嬉しそうに笑って頷いた。
自己紹介もそこそこに、一行は冒険者協会からほど近い三杯酔へ向けて歩き出した。
三杯酔とは講談師のいるあの店のことである。
運が良ければ鍾離にもそこで会えるだろうという算段だが、果たして…。
「そういえば、灰理は稲妻から来たんだよな。今はひとりみたいだけど、保護者はどうしたんだ?」
「? わっちは海に出た時から一人でございまするよ?」
道すがらの雑談。
聞けば、この少女は稲妻の小さな島から璃月まで依頼のために一人で来たのだという。
それを聞き、幼い彼女がクレーのように保護者同伴だと思っていたパイモンは仰天した。
「一人で海の向こうから来たのか!? 大人は!?」
「大人が居てはダメなのです。〝はじめてのおつかい〟は一人でおつかいをやり遂げねば規律違反なのでございまする」
「稲妻にそんな規律があるのか…?」
「初めてでいきなり国外を選ぶのは大胆だね」
子供たちのおつかい事情のシビアさにパイモンが慄く(実際にそんな規律があるのかは分からない)。
その隣で旅人は、なぜお使い先を稲妻城周辺あたりに留めておかなかったのだろうかと考えていた。
「おつかいとはいえ、これもまた修行。半端なことは出来ませぬ。それに、最初の一歩は思い切って大きく踏み出した方が、いい流れを引き寄せやすいとわっちは思っておりまする」
「おお〜、なんかすごいな!」
「灰理はしっかりしてて偉い子だね」
「っ、む…」
褒められた灰理はパァッと顔を輝かせた。
しかしすぐハッとして目を逸らし、ほっぺたをむにむに触りながら小さく唸った。頑張って頬がゆるむのを阻止しようとしている様子である。
けれど努力虚しく、嬉しさがダダ漏れであったので…旅人とパイモンは何も言わずにその小さな頭を撫でてあげた。
「ムムム…」
灰理はぎゅっと目を瞑り、口を厶の形にさせて頬を紅らめた。
嫌がっている様ではないが、子供扱いが恥ずかしいのだろうか。
ここは話題を変えてあげるのが吉だろう。
「ほら、もうすぐ三杯酔だ!」
「鍾離先生いるかな」
二人はタイミングよく見えてきた店へ話題を移す。灰理も顔を上げてそちらに意識を向けた。
さらに近づいていけば、講談師のよく通る声も聞こえてくる。その向かいに見慣れた背中を見つけてパイモンは喜ぶ声をあげた。
運が良ければ会えると思っていたが、どうやら今日の旅人たちはツイているらしい。
「あ、居たぞ! あの全身黒い服を着てるのが鍾離だ」
「パイモン殿…」
「ん、なんだ?」
パイモンが灰理に呼び止められ振り返ると、彼女は立ち止まって真剣な顔でじっと鍾離を見つめていた。
どうしたのだろうと首を傾げる。
「あの御仁、只者ではないとお見受けいたす。何者でございまするか?」
「………」
「なんというか、将軍様、と似ているような…」
「………」
「(おい、さっそく勘づかれてるじゃないかよ…)」
「(これだから似非凡人は…)」
パイモンは冷や汗を流し、旅人は頭に手を当てた。
重大機密が早くもバレかけているようだ。
やはり鍾離のガバガバ凡人判定では凡人への擬態が難しかったのだろう。
現にすこぶる勘の良いらしいこの少女には王手をかけられている始末である。
「う、う〜ん。どうだったかなぁ〜…」
「…気になるなら、本人に聞いてみればいいと思う」
パイモンが後頭部を擦りながら下手くそすぎる相槌をしたところで、旅人がフォローとも呼べぬフォローをいれた。
つまるところ鍾離への丸投げである。
だって殆どバレてるようなものなのだ、下手にフォローしてもボロボロの虚像が出来上がるだけ。それならばいっそ最高責任者に丸投げしてしまった方がいいという判断だ。面倒臭くなったともいう。
一方灰理はきょと、としながらも、それもそうかなと納得した。
確かに本人を置いて他者から聞き出す理由は無いし、どうしても今すぐ知りたいという訳ではなかったからである。
ちなみに彼女は岩神の訃報を耳にしていたので、岩王帝君=鍾離という方程式は今のところ成り立っていない。
「お、おーい!
けれどそんな少女の内心を知る訳もなく、更なる追求から逃れようとパイモンは鍾離に声をかけた。少々声に恨みが篭っているのは多分気のせいだろう。
どうやら、タイミングのいい事に丁度講談が終わった後らしい。
先程まで仰々しく語っていた講談師は姿を消しており、鍾離は椅子に深く腰かけ静かに酒器を傾けているところだった。
「…お前たちか」
鍾離は旅人たちを視界に入れると、歓迎するように目を細めた。
そしてその視線はするりと、友人たちの半歩後ろで己を伺う銀灰の少女に向けられた。
飾り気のない黒い袴。
後ろに背負った刀。
それらを興味深そうに見つめて…そうして「ふむ」と小さく頷き、一先ず彼は旅人たちに視線を戻したのである。
「それで、俺に何か用か」
「ああ、実は少し変わった杖を作ってくれっていう依頼をさっき冒険者協会で受けたんだ。それで依頼人の『山本元柳斎重國』って人からの指名で、その杖に施す術を鍾離にやって欲しいらしい」
「ほう…。それで、彼女が今回の新たな冒険の仲間というわけか」
心得たような声を出して鍾離は椅子から立ち上がると、少女の前に片膝をついて目線を合わせた。
「挨拶が遅れてすまない。往生堂の客郷、名を鍾離という。宜しく頼む」
目の前に現れた琥珀の瞳に、少女は銀灰色の長いまつ毛を星のように瞬かせた。
旅人たちと会った時は慣れないことばかりで緊張してしまったが、元来彼女は人懐っこい性格であったためもう緊張してはいない。
なので、少女はあどけない表情をしながらも、行儀よくキリ、と姿勢を正して挨拶を返した。
「わっちの方こそ挨拶が遅れてすみませぬ。わっちは此度の任務の使いで稲妻からやって来た、灰理と申しまするっ」
無邪気な瞳で見つめてくる灰理に、鍾離は柔らかく笑みを浮かべた。
その笑い方は外見の割に老成していて、「おろ?」と聡い少女はちょっと首を傾げるのだが、鍾離はまさかこの段階で既に自分が非凡人だとバレているとは思ってはいなかった。
「気にする事はない。ところで、ひとつ聞きたいのだが、灰理殿は依頼人とはどのような関係なのだろうか」
「? …元柳斎先生はわっちの家族であり先生なのでありまする!」
「ふむ…、そうか」
鍾離は頷くと、立ち上がって三人を見回した。
「これから木を取りに行くのだろう? そこでなんだが、俺も同行していいだろうか」
「え、何でだ?」
「理由としてはまず、透水木自体を知る者が限られてくるため、知識のある俺が着いて行った方が良いという事と、杖作成に携わる身として、使用する木材の厳選は俺も手伝った方が良いだろうからだ」
「厳選……ウッ」
「お、おい大丈夫か旅人、しっかりしろ〜」
「ですが良いのでございまするか? 依頼内容は術をかけるだけであって…」
そこまで付き合わせてしまって良いのだろうか、と遠慮しているのだろう。
旅人が頭痛が痛いと言うように頭に手を当てている傍ら、少女は袴の胸元をちまこい手で弄りながら鍾離を見上げていた。
「もの作りの依頼を受けるのならばきちんと良い物を作りたいからな。これは仕事ではなく凝り性が高じた趣味みたいなものだ。気にする事はない…それとも、俺が居ると灰理殿に何か不都合が生じてしまうだろうか」
「え? そ、そんなことないでございまするよっ。えっと、んと…仲間はずれは良くないでございまするね! 袖振り合うも多生の縁、わっちは鍾離殿も仲間に加わってほしいでございまするっ!」
「そうか…ふむ。そういう事であれば遠慮なく仲間に入れさせて貰おうか」
すわ傷付けてしまったかと慌てる少女と、目を瞑り口に手を当てながら頷く男。
灰理からは見えていないだろうが、隠しきれていない緩く上がった鍾離の口角。あたふたする少女を微笑ましく思っているのだろう事はわかる。わかる、が…
チョロい幼子を手玉にとって微笑む大人。
この図をバッチリ見ていた旅人&パイモンは半目で鍾離を見ていた。言葉にするなら「元岩神ェ…」とか「大人はきたない」とかそんな所だろう。
「コホン、」
いつまでもこうしてはいられない、と。
切り替えるようにパイモンが咳払いをして、声をはりあげた。
「さて、メンバーも揃ったことだしさっそく透水木を取りに行こうぜ!」
「鍾離先生は場所を知ってるんだよね」
「ああ、透水木は碧水の原。水の精霊がいる場所にある」
「純水精霊の所か。ってことは望舒旅館のさらに向こうだな。ここからは結構遠いぞ」
「もう日も沈むけど灰理は行けそう? 別の日にしようか?」
「いえ、夜間の行動に支障はありませぬ。鍾離殿の都合も良ければ今から行きたいでございまする」
「ああ、俺もこれからで構わない」
「決まりだな。それじゃあさっそく杖作成チーム、木材採取へ出陣だー!」
パイモンの掛け声を合図に歩き出す。
こうして四人は夕焼けに染る璃月港を出発したのであった。
To be continued
需要なんてあるのか