転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆   作:タナゴコロ

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*6* ここは授業に出せません。

 

 五国戦記の三期目が遅れているのでその穴を埋める単発公演を観に、女性陣四人と、少し離れた場所にコーゼル家とハインツ家の護衛を配して挑んだ。

 

 今作の内容は前世時代劇で観た江戸時代の義賊と、シルクロードの魔法のランプの物語を足して割ったような独特の世界観の恋愛もの。

 

 最終的に義賊が盗んだ魔法のランプの中にいる、元は数百年前に封じられた悪辣な女魔神が、彼と行動する間に絆されて最後の願いを使って解放されて恋に落ちる。ベタだけど悪くなかった。

 

 彼が彼女に願った残りの二つは、眠るまで話をしようというものと、悪夢に魘されていたら起こしてくれというもので、何となく彼女が絆された理由が分かる。三つ目の願いが汚い私欲にまみれたものであった場合、彼女は持ち主を宝石に変えて自らを飾り立てる宝飾品にしてしまうのだ。

 

「剣舞って初めて見たけど、格好良かったわね先生。普通のダンスは最近習うのも飽きちゃったし、あれをどこかで教えてくれる人を探せないかしら?」

 

「マリアンナ様は、よっぽど剣舞がお気に召したようですわね~。わたしは目で追うだけで精一杯で。それに恋愛の部分だけでも充分楽しめましたもの~」

 

「もー、先生はのんびりしてるんだから。この劇は剣舞が一番の見所だったわよ。でもまぁ、お話も悪くはなかったんじゃない?」

 

 ツンと顎を持ち上げるマリアンナ様は素直ではないけど、思っていたよりも楽しんでくれたらしい。劇場を出てからしばらくは、魔神が改心するシーンの話で盛り上がる恋人達の姿があった。

 

「わたくし達だけ楽しんでしまって、何だか申し訳ないですわ。今日はフランツ様と……ついでにマキシム様もご一緒できれば良かったのにと思ってしまいます」

 

「お二人は年末の大舞踏会の準備にお忙しいですから。本当ならアウローラ様とマリアンナ様もそうなのですよ? 今日は毎日淑女教育に励んでおられるお二人へのご褒美ですからね。今後は早々お連れできません」

 

 私がわざと厳しい表情を作って見せるも、二人の背後でうんうんと優しげに微笑みながら頷くアグネス様につられ、すぐに笑ってしまった。

 

 本当は私もここ最近のマキシム様との勉強時間以外は、城内で意識しないでいる方が難しいランベルク公絡みのことで気が張っていたので、ちょうどいい気分転換になったのだ。

 

 ちなみに義弟はこの公演の初日挨拶を終えた翌日には、妹のいるエステルハージ領へと出立した。何でもこちらに戻ったら遊びに来るようにと手紙にあったらしい。婚約者同士仲睦まじくて良かったな……。

 

「――……の動きも痺れたわよね、ローラ?」

 

「ええとっても! あ……でも、先生はああいった動きに憧れるのは、はしたないと思われますか?」

 

 いけない、一瞬気分が飛んでいた。急に話を振られて驚いたものの、薄々分かる内容の話題を振られて良かったー。

 

「いいえ、そんなことは。剣舞というからには美しさを感じる動きになりますもの。私は棒術が専門なので剣舞のような動きはできかねますが……そうですね、演舞の真似事なら昔憧れて練習しましたわ」

 

 少し気分が飛んでいたのに教え子の嬉しそうな表情を見たせいで、うっかりそう口走ってしまって。直後にしまったと思ったものの、時すでに遅し。

 

「やってみたいわ!!」

 

「やってみたいです!!」

 

 食い気味にそう言う二人の小さな淑女を前に、ひきつる微笑みを浮かべる。しかし勿論答えは「いけませんよ」だ。領主代理を勤めるために多少武力も必要だったから憶えた私とは違い、純然たる高貴なご令嬢の二人には必要がない。

 

 将来の夫婦喧嘩に流血沙汰案件はお断りだ。確かに一方的に夫が優位な力関係よりは健全だが、フランツ様の戦闘力は低そうなので、普通に考えて飲み込みの良い教え子に武芸の心得などあっては危ない。

 

 流石にここまで苦労して折ってきたバッドエンドルートを、家庭教師の私が自ら増やすわけにはいかないだろう。いくら可愛いらしく頬を膨らませる教え子を前にしても、この思いは揺らがない。

 

 ――と……そう思っていた僅か二日後。

 

「聞いたぞベルタ。お前、武術の憶えがあるそうだな」

 

 一枠目の授業を終えたところで休憩時間を挟もうと教材をたたんだ直後、そんな言葉がマキシム様から投げかけられた。ちなみに私が登城するようになってからは、再び授業はフランツ様達とは別室であり、この会話を彼等に聞かれることがなかったのは不幸中の幸いである。

 

 しかし思わず「はい?」と疑問系で返してしまった私は悪くないはずだ。けれどこちらの困惑を無視した彼は、さらに言葉を重ねた。

 

「そんな面白い特技を何故今まで黙っていたんだ」

 

 ――……むしろ何故教えると思うのか。こっちだって一応は貴族の令嬢である。武術を嗜んでいると言ったところで、はしたない田舎者だと後ろ指を指されることはあれど、褒められることなど万が一にもない。

 

「……そこまで達者ではありませんので。それにどなたからそのようなお話を?」

 

「二日前にわたし達を置いて観劇に出かけただろう? あのあとマリアンナ嬢に劇の内容を聞いたら口を滑らせたぞ。年末の準備に日々の授業、その他諸々の鬱憤を晴らすのにメンコだけでは、そろそろ物足りないと感じていたところだ。ちょうど良い。今日から授業の休憩時間には手合わせをやるぞ」

 

 教え子に売られたわけではなくてホッとしたものの、情報元がやっぱりな上にどこも良くない。おまけに次期国王になる人間の言葉というよりは、ただの会社勤めに疲れたリーマンだ。しかしお昼のバレーボールやバスケットで汗を流そうなどもう時代遅れ。

 

 前世の昼休み風景は電子機器でのゲームが主流――って、手軽に遊べるゲームなんてこっちには私の製作したオ○ロもどきしかないな。だがここで汗だく回避を諦めてなるものか。

 

「まぁ……この格好でですか?」

 

「お前だって最初に雪遊びをする際、わたしにこの格好に防寒着を羽織った姿で付き合わせただろう。それに稽古着くらいならすぐに用意させる」

 

 痛いところを突くな小僧。憶えていたのか執念深い。しかもすぐに着替えまで用意させるつもりとか……。

 

「ああ、勿論手合わせのあとは湯浴みをしろよ。汗臭い格好で授業するのは嫌だからな。分かったらさっさと行くぞ!」

 

 そう言うや否や、こちらの答えを聞く気などなさそうな楽しげな笑みで差し出された手を振り払う選択肢など、教育者としては持てないチキンな私だった。

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