転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆   作:タナゴコロ

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*2* 悩むよりも、楽しもうか。

 

 運ばれてきた軽食をペロリと平らげて、紅茶のお代わりを飲むフェルディナンド様を前に、今回の試みの概要をかいつまんで説明する。

 

 教え子のことに触れて話をすると色々とボロが出そうなので、その辺は伏せて用意しておいた適当な理由を充てておいた。

 

「ふーん、新しい玩具の製作販売ね。試みとしてはなかなか面白そうだけど、うちの名前を貸すからにはそれなりのものを作って売ってもらうよ。あと売上げの取り分とかは考えてるの?」

 

 もっと突っ込んだ質問をされると思っていたけれど、どうやら平気らしい。さっき唖然とさせられたやり取りの余韻が残っていたので、こちらも深く考えずに流して会話を続けることにする。

 

「ええと……実質私の趣味のようなものですし、名義を貸して頂く身ですから、そちらが六で私が四くらいと考えておりますわ」

 

「あ、趣味なの? 実家の領地の経営が厳しいからとかじゃなくて?」

 

 今度は普通に突っ込まれた。どこに興味を持つのか分からない人だな。しかも彼の中ではいつの間にかそういうことになっていたのか。

 

 だとしたら手紙を出したときに二つ返事で名義を貸すことを了承してくれたのも、こっちの領地状況を心配してくれてのことだったのかもしれない。

 

「はい、完全なる趣味です。アウローラ様の喜ぶ顔を見ていたら、つい教材作りから発展した子供向けの知育系玩具に目覚めてしまいまして」

 

「何だ、趣味かー……。ベルタ先生って大人しい悪人顔なのに、相変わらず発想が斜め上で面白いよね。フェルディナンドの名義を借りて小さく纏まるとか無理。これ結構大がかりな遊びになるよ?」

 

 両肘をついた手の甲に顎を乗せて苦笑するその表情に、口調の軽さより心配してくれていたのだと分かる。私が曖昧に笑えば翡翠の双眸が愉快そうに弧を描いた。

 

「預けていたあの質素なものから、こちらの出来になっている時点で察しました。それよりも、大人しい悪人顔って何ですか」

 

「ははっ、悪い。でもここまで考えたならいっそもっと豪華にしてさ、貴族向けの商売にすればいいんじゃない? 子供向けにしては難易度高いし、大人でもできるよ。むしろこれで負け越したオレを前にしてよく子供向けって言えたよね」

 

 前回アウローラにこのゲームで身ぐるみを剥がされたことを、まだ根に持っているらしい。

 

 まぁ、このボードゲームはサイコロの目でマスに止まるのは運だけれど、その後の政策についてはプレイヤーの判断だから、弟子の政策は師である私の政策でもあるわけで。ごめんあそばせ?

 

「あれは初心者同士でしたから。次は簡単に勝たせては頂けないのでしょうね」 

 

「……ま、いいや。玩具の設計はそっちが出してるんだし、こっちだって遊びのつもりだ。分け前はそっちが六で、こっちが四。その代わり意匠の最終的な決定権はこちらがもらう。それで構わない?」

 

「フェルディナンド様がその内容で構わないようでしたら、こちらからは何も。むしろこちらの利が大きすぎて申し訳ありません」

 

 そう視線をテーブルの上に置かれた新遊戯盤(布製)に落とすと、彼はその美貌を輝かせて「面白ければ問題なしだ」と笑った。

 

「いまは工房に発注してるのと合わせても、まだ三種類だったっけ? ちょっと数が足りないからさ、この遊戯盤の種類も増やそう。陸だけじゃなくて海図とかから拾えばそれなりの種類になるから。あと女の子向けの玩具とかもあれば欲しいよな。家によっては兄妹ごと取り込めるぞ」

 

 彼のその発言を皮切りに、現在試作品を製作してもらっている玩具のデザインの話に移った。オ◯ロもどきには裏と表の色はそのままに、黒い面には銀で、白い面には金でそれぞれ王様っぽい人物の横顔のレリーフを刻印することに。コインっぽくて素敵だ。

 

 ◯ェンガもどきの方は元のゲームが崩した方が負けと地味なので、材質の表面に職人が一点ずつ財宝の絵を描き込んで、最終的に自分の前に財の山を作れるようにした。ゲームの根本は変わらないが、これだと見た目的に盛り上がる。

 

 女の子向けには教養系の基礎を詰め込んだ双六は、お金にあたるものを小物やドレスを描いたカードとして手に入れられるように変更。ゴールは素敵な殿方との結婚か、途中で見つけた夢を叶える二択。遊戯盤の上だけでも選択肢を選べる仕様にした。

 

「フェルディナンド様……どうしましょう」

 

「うんー?」

 

「もの凄く合理的で頼もしい上に、とっても楽しいですわ」

 

「だろ? 取り敢えずこの手のが好きそうな知り合いに声をかけてみるからさ、相手側の反応が良ければ出資しないか持ちかけてみるわ。手始めにヴィーの奴を誘いたいんだけど、今回アウローラ嬢は関係ないからいいよね?」

 

 しまった、そういう方向に行ってしまう可能性を考えていなかった。何だか上手く誘導された気がしなくもないけれど、ここまで乗り気で付き合ってくれる人材はそうはいない。

 

 何より……最初は教え子の逃走資金のためにと息巻いていた私も、段々楽しくなってきてしまっているから。

 

「勿論ですわ。私も知り合いに声をかけてみます。それとこの新しい遊戯盤を元にして、もう一枚新しいものを作って頂くことは可能でしょうか?」

 

「んー? もうノウハウは掴んだって言ってたから、こっちに来る前に一枚と言わず、見本用と販促用に三十枚は発注してきたから構わないけど。その一枚はどうするの?」

 

 おお……まだ打ち合わせくらいの体で現れたのに……仕事が早い。あまりの有能さに思わず無言で拝めば、向かいに座った彼から笑い声が上がる。それが治まってから私は白々しい彼の演技に付き合って話の続きを口にした。

 

「その一枚はフェルディナンド様がそうしようとなさっていた通り、ホーエンベルク様の教え子に。その際には“遊んでみた感想を是非お聞かせ下さい”と一筆を添えて下さいね?」

 

 そんな私の言葉を聞いて彼はニヤリと悪い顔で了承の意を告げた。あとは追々楽しんでいきましょうか。

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