転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆   作:タナゴコロ

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*15* 小エビで鯛を釣る。

 

 あのびっくりな幕引きを見せた初公演から約二週間。

 

 あれから小さな舞台演劇を中心に記事を書く出版社や新聞社から、細々としたインタビューを受けたせいで、雇主であるコーゼル侯爵にこの試みがバレてしまったことが悔やまれる。

 

 けれどすでに彼等が口出しをできる規模ではなくなっていたし、元より私個人の自由を奪える契約はしていないので、副業については特に何のお咎めもなし。

 

 ホーエンベルク様から要請のあったロイヤル版や、アグネス様の要請があった女性向けの方も、テストプレイを頼んだ顧客達からの評価は上々。どちらも来年の春頃には商品化ができるだろう。

 

 むしろ気になるのは、最近やけにご機嫌で授業の休憩時間を覗きに来るコーゼル侯爵だ。娘の成長を喜ぶというよりも、何を企んでいるのかと深読みしてしまうのは、彼のこれまでの行いのせいだと思う。

 

 教え子の方も疑っているようで、何かしら以前までの父親に対する怯えよりは、早めの思春期のような反応を見せていた。要するに“お父さん気持ち悪い症候群”だ。親子の溝は深まるばかりである。

 

 多少我が家の子煩悩が炸裂してスクラップブックを量産する父を見習って欲しい。写真がない世界でああまで同じ【娘達の活躍録】という背表紙が並ぶのは凄いぞ? そう広くない王都の屋敷で場所を取る困った趣味ではあるけど。

 

 ――で、何はともあれ本日は社交シーズン最終日。

 

 そして現在目の前では領地へ戻る馬車の手配が整うまで、我が家にて今回の社交シーズン最後の一戦中だった。

 

「あ、ちょい待ってヴィー。その手を使われるとオレの国が終わる」

 

「終わらせるために打つ手を止めようとするな。大体さっきは一度待ってやっただろう。二度目はない」

 

「あの、フェルディナンド様、資金援助が必要ですか?」

 

「いやー……お姫様から借りるとあとが怖いから止めとく。貸し剥がしの鬼だから」

 

「でもフェルディナンドさん、いまここで彼女の援助を断ると詰みますよ。それとも僕がお貸ししましょうか?」

 

「似たり寄ったりのことになりそうだから遠慮しとくよ。本当に二人とも双方の先生に似ていい性格だよねー」

 

 盤上でホーエンベルク様の手により早くも亡国状態に持ち込まれ、八方塞がりになったフェルディナンド様が、ルドとアウローラに板挟みに合って憎まれ口を叩く。毎回派手な外交を好む彼は序盤のうちに国庫を空にする癖があるので、大抵こうして一番最初の脱落者になるのだ。

 

 舞台が社交シーズンの終了二週間前の公演開始だったがために、こうして少しでも暇ができれば遊戯盤を囲む仲になれたのは良かった。まぁ……ルドを連れてくるホーエンベルク様の疲れた見た目がやや気になるけど。

 

「というわけでベルタ先生、お金貸して?」

 

「うふふ、お断りしますわ。前回の返済がまだです。一度焦げ付かせると信頼が回復するのに八ターンは必要かしら」

 

「それだけ待ったらオレの国滅んでるよー。家庭教師仲間として何卒お慈悲を」

 

「だったらその金遣いの荒らさを見直せエリオット」

 

 ……というような賑やかなやり取りを挟んで一時間半後。

 

 大敗を喫したフェルディナンド様を励ます教え子達と、呆れた様子で話しかけているホーエンベルク様の姿を眺めていたら、廊下に呼び出されて馬車に最後の荷物を積み込めたとの報告を受けた。

 

 これであとはアンナが戻ってくるのを待つばかりだと思っていたら、いつの間に廊下に出てきていたのか、ホーエンベルク様が背後に立っていた。

 

「あら、ホーエンベルク様。まだ妹が戻るまで時間がありますので、応接室に紅茶のお代わりを運ばせましょうか?」

 

「いや、それもありがたいが……ベルタ嬢、貴方に話したいことがある。少しだけ時間をもらえるか?」

 

 怖いくらいの真顔でそう言葉をかけられて無理ですと答えられるはずもなく、私は「では場所を変えましょうか」と応接室の隣にある部屋に彼を通すことに。

 

 しかし部屋のドアを閉めてすぐ「貴方に謝らなければならないことがある」と告げられ、目の前で直角に腰を折られた直後に思い浮かんだのは、申し訳ないことに“やっときた!”だった。実は二人の好感度が足りなくて、このまま何も教えてくれないのではないかとここ数日ハラハラしていたのだ。

 

 顔を上げた彼の苦悶に満ちた表情を見て必死に平常心を保つ。こうなる未来はルドと教え子を引き合わせた時点で考えていた。そこで深呼吸を一つ、心を穏やかに保って彼の懺悔と私の博打の結果を傾聴しようとしたのだけれど――。

 

「ルドの本当の名についてなのだが……彼はフランツ・ルドルフ・ジスクタシア。この国の第二王子だ」

 

「…………ん?」

 

 謝罪文は右の耳から入って左の耳から抜けかけた。思っていたより大物すぎて思考が混線する。

 

 いや待て。流石に他にもいるでしょう、外交官とか、宰相とか、高位文官とか。このゲーム王家縛りが強すぎるでしょうが。それとも何か次世代の人材不足問題とか抱えていらっしゃる? 

 

 もしくはここまでの私の育成方向が間違ってるのか。世間一般のご令嬢のパラメーターってどんなだ。いま切実に教え子の育成パラメーターが見たい。ステータスオープンとか言ったら出てこないものだろうか。

 

 そんな詮のないことをツラツラと考えていると、気遣わしげにこちらを見下ろしていた彼が再び口を開いた。

 

「驚くのも無理はない。身分を隠すつもりはなかった。結果としてここまでギリギリになっては、ただの言い訳にしかならないと理解している。しかし俺とフランツ様は、貴方達に対等な友人として見てもらいたかった。それだけは信じて欲しい」

 

 蜘蛛の糸の如く細くて強靭な記憶の糸の先。確かにそんなキャラクターがいた。

 

 それこそスチルの一枚も、名前すら明かされないままノベル部分でチラッと隣国に遊学に行ったり、第一王子派に暗殺されたり、その逆だったりした気の毒な【第二王子】が。扱いが悪すぎて主要キャラに入ると思わなかった。

 

 もしやルートによってはただの不遇だった彼のシナリオもあり得るということか。だとしたら相変わらず地雷を埋めるのに余念がないスタイルである。

 

 ――とはいえ、ここは正念場。女は度胸だ、腹をくくれ私。

 

「ホーエンベルク様……そんな大きな秘密を私などに打ち明けて下さって、ありがとうございます。そこまで信頼して下さったこと、大変嬉しく思いますわ」

 

「貴方とアウローラ嬢を騙していたことを怒らないのか?」

 

「怒るなどとんでもない事でございます。人には他者に打ち明けにくいことの一つや二つございます。ですが友人として一つ忠告をするならば、貴男が頭を簡単に下げてはルド(・・)の立場も低く見積もられてしまいます。次回からはお気をつけ下さいませ」

 

 まだルド改めフランツ様には人の話に耳を傾ける分、脳筋第一王子よりはまだ希望がある。奴に知恵を授けるマリアンナ嬢の身柄も確保済みだ。

 

 内心の計算を悟らせまいと微笑みを浮かべた私を相手に、ホーエンベルク様は「感謝する」と憑き物が落ちたような笑みを返してくれて。彼を悩ませていたのがこの一件だったのかと思うと、身につまされる気分であった。

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