転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆   作:タナゴコロ

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明けましておめでとうございます(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)


*2* 目が覚めるとそこは――。

 

 目が覚めるとそこには見知らぬ天井が広がっていた――……とかいう導入って、本当にあるのか。昨日ホーエンベルク様達と四人で飲んだことは憶えているのに、その後の記憶がない。

 

「…………嘘でしょ」

 

 前世でもお酒の失敗なんてしたことがなかった私が、転生先でお酒の失敗を? いや待て早まるな、これは夢だ。私はまだ寝惚けているだけに違いない。そう言い聞かせて諦め悪く寝返りを打ってみても、まるで知らない柄と肌触りの寝具にそんな都合のいいことは起こり得ないと教えられる。

 

 うちの屋敷の清潔な普通のリネンと違い、もう、明らかに選ばれし素材で作られたリネン。最早同じリネンくくりではなく別物だ。香りも純粋に太陽と石鹸の香りではなく、安眠作用のあるラベンダーの香が焚かれている。

 

 うっすらと目蓋を持ち上げれば、シックな色合いで統一された家具と壁紙が視界に入った。もう、疑う余地がない。

 

 ここがベッドでなく穴ならちょうど良かったのに……。

 

 前世の死ぬまでの人生も込みで、生まれて初めて外泊をしてしまった。それも深酒が原因で。教育者としてあり得ない。あと当たり前なんだけど二日酔いだ。

 

 情けなさで泣きそうな気分になりながらガンガン痛む頭を押さえ、何とかベッドから起き上がって備え付けの鏡の前に立つ。前日の服のまま寝ていたらどうしようかと思ったけれど、どうやら誰か使用人の夜着を貸してもらえたらしく、簡素だが清潔なものを着せてもらえていた。

 

 身形を整えようとしていると控えめに部屋のドアがノックされ、外から『お目覚めでしょうか、エステルハージ様。お支度のお手伝いに参りました』と知らない女性の声がして。限りなく恥で死ねそうなか細い「お願いします」を返した。

 

 そして――……他家のメイドさん達に手厚く磨かれること三十分後。

 

 爽やかな朝の日差しが差し込む食堂に相応しいよう、間違えてもお酒の臭いを髪からさせない令嬢にしてもらい、朝食をとりながら新聞を読むご当主様の前の席を勧めて頂く。

 

 当然のように、食堂内にフェルディナンド様とアグネス様の姿はない。愚か者は私だけだということか。気分的に、翌年の契約更新があるかどうかの面接時くらいの拷問だ。

 

 彼はこちらの入室直後からこちらの顔色を気にしてくれていたものの、私が正面に腰を下ろすと新聞を脇に追いやり、開口一番「大丈夫か?」と訊ねてくれた。

 

「あ、はい。大丈夫は大丈夫なのですが……ただ、ホーエンベルク様……昨夜は本当に、ご迷惑をおかけしました」

 

「いいや、あれだけ不安になる話を聞かされた直後では仕方のないことだ。そちらの屋敷には昨夜の内に連絡を入れてあるから心配ない。それよりも食事をしないで飲んだせいか、酔いが早く回っただろう。顔色が悪いが二日酔いには?」

 

「……なってます」

 

「だろうな。それでは朝は軽めのものがいいか。パンと、サラダと……飲み物は珈琲や紅茶はまだ辛いだろう。牛乳か……酸味のあるものなら、リンゴとオレンジならどちらが好みだ?」

 

「リンゴは昨夜失敗したので、オレンジでお願いします……」

 

「はは、分かった。すぐに用意させよう」

 

 そう言うと壁際に控えていた給仕にテキパキと指示を出してくれる彼に、居たたまれなさが拍車をかけた。ここが前世なら土下座して謝罪したい。通じないからしないけど、心の中ではめちゃくちゃしている。

 

「その顔色だと今日の仕事は休んだ方がいいだろう。アウローラ嬢が驚く。それにマキシム様も最近ではだいぶフランツ様と打ち解けられているから、一日程度ならこちらで一緒に授業を受けさせられると思う」

 

「本当に、もう、重ね重ね、申し訳ありません」

 

「そんなに何度も謝らなくていい。貴方は第一王子付きにいきなり抜擢されたのに、本当に良くやっている。時間外も教材を作っていただろうから、ここまでほとんど休みもなかったはずだ。何なら二日ほどしっかり休むと良い」

 

 運ばれてきた食事を口にしながら、幾つかの会話を経由してそんな話に至ったのだけれど――。

 

「いえ、流石にそこまでご面倒をかけるわけには参りません。それに休みに関してなら、ホーエンベルク様もあまり変わらないのでは?」

 

「性別もそうだが俺は元々軍隊畑だ。貴方とは基本の体力が違う」

 

「確かにそうですけれど……体調管理の失敗に性別を持ち出すのは気が引けますわ」

 

「その真面目さは貴方の美徳の一つだが、努力に性別を持ち出すのは非現実的だと思う。ベルタ嬢、貴方は本当に教師として素晴らしい人だ。俺は――、」

 

 直後、話の途中だというのにホーエンベルク様が不自然に口をつぐんだ。慌てた様子で手を宙に彷徨わせている主人に気付いているだろうに、誰もこちらに近付いて来ない。

 

 何て気遣いの行き届いた使用人達なのだろうかと感謝し、マナーが悪いとは思ったものの、咄嗟にナフキンで目許を押さえる。

 

 ただでさえ前夜から引きずっている不安と、初めてのお酒の失敗で心が張り詰めていたのに、ここでそんな言葉を不意打ちでかけられたらもう無理だわ。

 

 泣き終えた頃を見計らったように給仕が差し出してくれた蒸しハンカチと、冷たいハンカチを目蓋にあてていたら、それまでだんまりだったホーエンベルク様が空咳を一つ。

 

「あー……その……まだ少し時間が早いが、エステルハージ殿が気を揉んでいるだろう。登城ついでに馬車で送ろう」

 

 そんな風におっかなびっくりそう声をかけてくれた彼の優しさに、今度こそ私も笑って「はい」と頷けた。

 

 ――しかし。

 

 屋敷に送り届けられて出迎えてくれたのが、一睡もしていなさそうな土気色の顔をした父と、昨夜のうちに帰国していたらしいアンナと、使用人の皆の期待で輝く瞳であったのは……とても大きな誤算だったわ。




元旦なのでもう二話投稿します。
一時間おきに投稿しておきます。
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