転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆   作:タナゴコロ

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*11* (脳内の)父がそう望まれたので。

 

 無駄と知りつつ、この世界に転生させてくれちゃった神様のお言葉を待つこと体感十分。当たり前だが脳内に直接女神様の声などが届くはずもなく。

 

 言い争う声も違う場所に行ってしまったのか聞こえなくなったので、仕方なく相牢屋することになった不審者の様子を確認することにした。解けない問題を考え続けるより切り替え大事。ヒーロー不在でヒールがいる世界なら、自分で逃げ出せるモブにならねば。

 

「……と、その前にコルセット緩めるかな」

 

 こんな場所に閉じ込められてただでさえ身体が強ばっているのだから、少しでも負担を減らさねば。背中を向けている不審者はまだ目覚める気配もないし、さっきのチンピラ達もすぐには戻ってこないだろう。

 

 モタモタとしている暇はないので、羞恥心を捨ててズバッと脱ぐ。比較的着脱しやすい外出着にしておいて良かった。夜会のドレスだとこうはいかない。コルセットもボーンが少ない簡易のものだったので、一人でもパパッと取り外せた。

 

「うん。納めてるのがささやかな膨らみで幸いだと思ったのは初めてだけど、こういう時は便利ね……」

 

 外出着を着直したところでしみじみ目立たない胸元を確認して、思わず複雑な心境の独り言が溜息と一緒に零れる。取り外したコルセットはトーチカの明かりが届かない牢屋の隅っこに追いやり、今度こそ不審者に近付いて傍に膝をつく。

 

 幸い両手足はベルトのようなもので拘束されている。これなら暴れられる心配もないだろう。

 

「まぁ、普通に考えてリンチにかける相手の手足を自由にしておくはずはないか。さてさて前回も前々回も怖くてしっかり顔を見てなかったけど、人の命を狙ってくる奴はどんな顔をしてるのかなー……と」

 

 横向きだった身体を上向きにし直し、汚れてベタついた髪と、放置されている割に薄いヒゲを指先で引っかけて顔立ちを確認したのだけれど……何か思っていたのとは違った。しかもやり辛い方向に。

 

「これは……子供……ではないにしても……大人でも、ない、かな?」

 

 絶対に中年よりは若いにしても、さっきのチンピラくらいの年齢だと思っていた不審者は、白人系で年齢が分かりにくいにしても、マキシム様とフランツ様の兄弟と比較しても二十歳に届いていない年頃に見えた。たぶん十六~十八歳くらい。しかもかなり乙女ゲーム顔風では?

 

 教え子のルートが確定した後で良かった。まさかとは思うけれど、このゲームだと攻略キャラとしてあり得ないとも言い切れない。こんな危険そうな恋に憧れられたら大変だ。

 

 ――とはいえ、気付かなければ良かったことに気付いてしまった。

 

「あーもー……十六~十八歳は前世的には子供だよね……どうしよう」

 

 少し触れただけでも分かるくらい熱かった。暴行を受けたあとにろくに手当てもされていないなら当然だ。着替えもだけど、身体もたぶん水を直接かけられている程度で、洗っていない。ご飯はどうしてるんだろう? 何にしてもここは怪我人にとって最悪の環境だ。

 

 できることなら、私はすぐにでもプリズンブレイクしなければいけない。一晩帰らなかっただけで発狂しそうになるくらい心配する家族が二人もいるんだ。そのためにも余計なことに関わるのは極力避けたい。でも――。

 

「アンナと同じ年頃の子を見殺すのは寝覚めが悪いし……そもそもこの子、あのチンピラ達と雇主が違うわよね」

 

 そうでないと、貴族しかいない仮面舞踏会に紛れ込んだりできないはずだ。そしてそんなことをしてまで恨みをかっていそうな相手を、現在私は一人しか思い付かない。一つ良いことがあるとすれば、待っていても攫ったその日にここに来るような馬鹿ではなさそうな相手だということか。

 

 言い争っていた内容から察するに今日私を攫わせたのは、腰の引けた複数人の貴族っぽい。

 

 仲間割れか、単に私が気付かなかっただけで、本当に複数の貴族から殺したい奴リストに入れられていたのかは不明なものの、もうしばらくは殺す殺さないで揉めるだろう。今が何時かは分からないけれど、少なくとも一回分の食事くらいは出るはずだ。

 

「さっきはいきなりで油断してチンピラに遅れを取ってしまったけれど、次はお父様の教えを無駄にしないようにきっちりやらないとね」

 

 そうと決まればヒールを脱いで屈伸運動。自慢の髪をしっかりとした三つ編みに編んで、その時を待った。

 

 ――……数時間後。

 

 石の床を歩く音と食器が触れ合うカチャカチャという音を耳にして、柔軟運動を止め、怯えるご令嬢に見えるよう明るい場所へと身を移す。面倒くさそうにこちらに歩いて来るのは、さっきのチンピラのうちの一人だ。女だからと舐めてくれてありがとう。

 

 こちらに気付いたチンピラその壱がニヤニヤ嗤いを浮かべて近付いてきたので、精一杯心細そうに「あの人、息をしてないの」と男に訴えた。

 

 直後に嗤いを引っ込めた男が食事の乗ったトレーを床に置き、舌打ちをしながら「面倒くせぇな」と言いつつ鍵を開けると、何の身構えもせずに鉄格子の中に入ってくる。鍵をかけ直しはしたものの、鍵の隠し場所はバッチリ見た。

 

 元いた場所より奥の暗がりに押し込んだせいで目視しにくいため、男は疑いなく不審者(仮)の傍に膝をついて呼吸を確認しようとこちらに背を――……今!!!

 

 脱いだヒールを右手で振り抜き、こめかみを強襲!! 一瞬前後不覚になった男の背後に回り込み、首に固く編んだ髪を巻き付け背負うように締め上げる!!

 

 しばらくもがいた男が重たくなったところで締め上げる髪を緩め、背中から床に落とす。口許に手をやって呼吸を確認したら奥の暗がりに引きずっていき、男がつけていたベルトを抜き取って、後ろ手に拘束して転がしておく。鍵を取り上げて口の中にハンカチを詰め、ひとまずこれで一人目の準備が完了。

 

『いいかいベルタ。こめかみはあらゆる神経系の弱点の中でも分かりやすい。不意を突くのが難しいのが難点だけれど、頭に一番近い分与えられる衝撃も大きいんだ。それと首を絞めて相手を落とすのは女の子の力では無理だと思うだろうけれど、意外と背負うようにして絞めれば相手の重みで何とかなる。後片付けには父様を呼びなさい』

 

「実践は久し振りだったけど……意外と身体が憶えているものね」

 

 このまま逃げてもいいけれど、相方が帰って来ないともう一人が見に来るだろう。見張りの数が何人いるのかは知らないけれど、人数を減らしておくに越したことはない。

 

 頭の中の父が『やってしまいなさい』と言った気がしたので、この調子でもう一人もサクッと襲ってから考えましょうか。

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