超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
某日
大戦艦コンゴウ艦上
かつて戦闘を第一目標として設計された大型戦闘艦、その頭脳たる艦橋上部、射撃指揮所の前に足を伸ばし半ば寝そべるように座り込む言ってしまえば不似合いな女性が一人。
その美しい口元からは、これまた彼女の容姿からは想像もできないような言葉が紡がれる。
「ハルナとキリシマを失ったか…
402によると彼女らも動いている兆候がある…
…まったく、面倒くさい」
まるでウエディングドレスかのような漆黒の服を身にまとった美しい女性―大戦艦コンゴウのメンタルモデル―はさも憂鬱そうに手を延ばし、自身の失態ともいえる先の海戦についての思いを馳せていた。
横須賀でキリシマとハルナが撃沈され、その結果として401は重要な情報を持ったまま要塞港から脱出、未確認の情報ではあるが、人類の潜水艦も外海へ進出したとするものもある。
また、タカオに接触した402達によると、日本の北管区にて恐らく北洋方面艦隊と思われるメンタルモデルの痕跡を確認したらしい。
重要な情報を持って太平洋を横断しようと目論む401、表立って霧と敵対行動を起こした北洋方面艦隊、間違いなくこれらはある程度同一の結果を引き起こすだろう。これまで二年間、メンタルモデルを得る前から数えれば数十年振りに、確実に世界は動き出そうとしている。
その老練とも言える感覚にてそれを感じ取ったコンゴウであったが、だからといってはいそうですかと受け入れるわけにもいかない。
「しかし、この世界の中で我々だけが仲間外れというのも面白くないな。
こちらもアクションを起こしてみるとするか…そうだな、我々と同じように人類側も一枚岩という訳ではないのだろう。」
彼女ら霧の中にも北洋方面艦隊という裏切り者がいるように、人類も全員が401を支援しているわけではないだろう。
「現状彼らは硫黄島に滞在している…と
物は試しだ、ピケット艦を動かしてみるか。
運が良ければ人類だけでなく日本で痕跡があった彼女も動くだろう…」
その面倒くさがり故か、以前にヒュウガが401に撃沈された時も目立った行動を起こすことのなかったコンゴウが、本格的に401撃沈へと動き出した。
その最初の結果は芳しいものではなかったが、彼女は止まることなく行動を起こし続ける。
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「北代議士殿、これを」
政界の中でも陸軍との関係が一際深く、そのお陰で現在は陸軍が半ば強行的に実行した先の横須賀港でのメンタルモデルとの戦闘ともいえない蹂躙劇の後始末に追われていた。
そんな彼に後方から近づいてきた職員が二枚の紙を手渡す。
それを見た北は一瞬目を細め、渡してきた職員に問いかける。
「これはどこの、そして何時の物だ?」
「一枚目は太平洋上に展開している霧のピケット艦の現在位置の推測記録。
二枚目は今朝オホーツク海にて中央管区が保有する唯一の監視衛星『鵬』により撮影された画像です。」
「ふむ…、二枚目はともかくとして、一枚目は使えそうだな…
三峯に電話を繋げ。」
そう言いながら北は自らの執務室に入り、数分後彼の退出した執務室の彼の机に置かれた二枚目の写真には流氷の浮かぶオホーツク海を悠々と南へ向けて航行する一隻の超大型戦艦が映し出されていた。
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「ところで、あの写真についてはどう思う」
日本の分散首都の一つである中央管区の首相を務めており、先程退出した北良寛代議士の下秋津洲に乗艦し、『大海戦』を戦い抜いた経験すら持つ紛うことなき傑物である楓首相は杖を突きながらも慣れた手つきで彼の主な移動手段となっている車椅子から
「どう…とは…?」
「とぼけなくていい、あの霧は401を目的としている。
違うかい?」
彼のいう「霧」とは現在この世界の海を実質的に支配している霧の艦隊すべてを指すのではなく、『鵬』が送ってきた画像に写っていた葵色の艦を指している。
あの艦は、画像が撮影された時刻からなにも変化せずに航行し続けていた場合、すでに太平洋に入っているだろう。
太平洋といえば、現在陸軍は先の戦闘の汚名返上も兼ねて、401の拠点である硫黄島を襲撃する作戦を立てている。
仮にあの艦の目標が401だった場合、まず間違いなく干渉してくるだろう。
確かに霧に対抗できる振動弾頭の開発には成功したが、量産は叶っていない。
勿論硫黄島に向かう予定の陸軍に配備されているわけもなく、攻撃があった場合まず最低でも甚大な被害を被り撤退、最悪の場合硫黄島に着く前の海域での全滅もあり得るだろう。
北代議士は計画の続行を決断したが、それはあの艦の反応を見る目的もあったのだろう。
「えぇ、あの艦の進路から言って硫黄島、ひいては401に何かしらの目的があるのは間違いないでしょう。」
「…実はね、私の記憶が正しければ私は―いや、人類は少なくとも1度あの艦に助けられている」
海岸線沿いに建っている首相官邸の窓から見える横須賀港を見ながら楓はおもむろに口を開く。
その言葉に含まれる事実は軍務省のかなり高い地位にいる上陰でさえも知らないものであり、彼を困惑させその手に持った資料を落とさせるには十分であった。
人類が霧に助けられた―外務省に勤務する彼の伝手からもそんな話はこれまで聞いたこともなく、また想像もしなかった。
「そこまで驚くことではない。
実際、401は現状、明らかにこちらに利する行動を取っている。
それがほんの
楓の言葉が示すその事件を察した上陰は、震える口元を左手で軽く覆いながら呟く。
「17年前…まさか『大海戦』ですか?」
今からほんの17年前に人類と霧との間で勃発した実質的な最終決戦、言うまでもなくその結果は霧の圧勝であり、人類艦隊の帰還艦は半数にも満たなかった。
あの『大海戦』において霧が人類を助けたと?
馬鹿馬鹿しい、普段ならそう切って捨てる上陰であったが、今彼の眼の前でそれを語ったのは実際にその場にいた人物である。
当時新人職員であった上陰とは積んだ経験も乗り越えた場数も段違いである。
そんな楓は上陰の問いかけるような呟きを拾い、言葉を続ける。
「そう、あの地獄のような戦いにおいて、あの艦らは間違いなく人類を助け―いや、どちらかといえば間違いなく他の霧と敵対していた。」
「霧同士の内乱…というわけですか?」
「さぁ、そのあたりは私にもわからない。
結果として我々が受けた被害は霧からの第一次攻撃のみで後は順調に敗走することができた。
君も海戦資料を見たことがあるだろう?
こうは思わなかったかい?
『撤退時の被害が少なすぎる』と」
「…」
確かに資料を調査したとき自身が感じた違和感を言い当てられ、すぐさま否定の句を述べようとしたが、出来なかった。
事実、あの戦闘での被害はその殆どが海戦開始直後に集中しており、それ以降の沈没艦や落伍艦も多いが、『強力な先制攻撃を受けバラバラに潰走中』という状況を鑑みると正直言って少なすぎる。
同時期にヨーロッパ各国により行われた大西洋方面での大反抗も同じく霧の艦隊の攻撃を受け失敗したが、そちらでは帰還することができた艦は全体のわずか数%だという。
それに加え霧であるイ401拿捕という大戦果を挙げた太平洋方面は『東洋の奇跡』と称され、国外からは疑いを含んだ称賛を送られた。
霧の艦隊の基本戦術は見敵必殺であり、それは今も昔も変わらない。その中で多数の帰還者を出した太平洋方面の反抗作戦の公開されている概要はその華々しい戦果に対して不自然なほどに少なく、また当の詳細概要も最高機密に分類されてすらなく、それ以上の『そもそも存在しない情報』として扱われている。
当時の上陰がアクセスすることができたのは断片のさらに断片であったが、それだけでもその事実が異常であるということは十二分に理解できた。
「君が想像している通り、あの『大海戦』での被害艦はその殆どが初撃を受けた艦でね、逆に言えばそれ以降の攻撃で被害が原因で沈んだ艦はほとんど存在しなかった。もっと言えば、そもそも
「…?
それは一体…どういうことでしょうか?」
霧が用いる武装はその見た目に似合わない物ばかりであり、ミサイルや魚雷などの誘導兵器も勿論所有している。
彼女らの持つ他の武装のレベルから概算してもそれらの誘導能力は人類の持つそれを下回ることはないだろう。
そんな超武装を持った霧の艦隊の攻撃を、被弾しなかったと?
「どういうことも何も、そのままの意味だよ。
あの海戦において、初撃以降の攻撃を被弾した艦はほぼ存在しない。その攻撃のほとんどを、
「彼女ら…メンタルモデルですか…いや…、しかし…」
「ああ、それも君の想像通り、彼女らはあの時点ですでにメンタルモデルを持っていた、もしくはただの人間であったのかもしれないがね」
とんでもない、とも言えなかった。
つい先程首相に伝えられた事実に比べれば、彼女らが何時からメンタルモデルを持っていたかなんて正直どうでもいい。
「その彼女らは、どのようにして攻撃を防いだのですか?
現状の401の様にこちらと意思疎通して味方していたわけではないでしょう?」
それが本題だ、返答によっては人類は彼女らの内輪もめの戦闘に巻き込まれただけで彼女らが故意に人類を守護したわけではないことになる。
「あぁ、霧の太平洋方面艦隊との戦闘が開始した直後、ちょうど向こうの第一波攻撃の被害が統計されて第二波がこちらに迫っていたときだったか、六時の方向の海面から数隻の戦艦が飛び出すように浮上してきた。
その戦艦達は海面を沸騰させながらこちらへ向かうとそのまま艦隊の両側面に回り込むようにして挟み込み、対空砲火を展開して誘導兵器を撃墜し、撃ち漏らしたものを自艦を間に挟むことで盾になった艦もいた。」
その言葉は、質問をした上陰自身の想像を遥かに上回っていた。
首相の言葉が真実だとするならば、明らかに霧の一部隊が人類の味方をしている。
「その後はよく分からない、何しろ大混乱だったのでね。
私達の艦が反転して増速し始めた直後、後ろの方で爆音と閃光が起こったような気もするし、起こっていなかったような気もする。
気がついたら港に帰ってきていた、それが私の覚えている全てだよ。」
疑いたくてしょうがないが、それが本当なら、海戦の戦闘データが完膚なきまでに消去されたことも納得できる。
可能性の範囲とはいえ、『人類が敵である霧に助けられたかもしれない』なんて、各国軍の面子は丸潰れだろう。
「なにはともあれ、今回太平洋方面の霧が故意に我が国の海上封鎖を解いたのではないか…という北さんの見解は正しいだろう。」
首相官邸の窓の向こう側を眺めていた楓はおもむろに振り返り、口を開く。
「はい、ピケット艦の動きがあからさますぎます。
こんな形であってもまさか…
霧が我々にメッセージを送ってくるとは予想していませんでした。」
先程の情報による衝撃を取り繕うかのように楓の問いに答えるその言葉とともに上陰が見ている資料は、つい先程北代議士の手元に渡った1枚目の資料と同じく、硫黄島近海にて哨戒にあたっていたと思われる霧のピケット艦がこれまでの航路から大きく外れ、紀伊半島近海まで進出していることを表している。
言うまでもないことであるが、霧の海上封鎖が完成して以来、彼女らが一部とはいえ故意的にこの包囲網を解くことはなく、だからこそこの資料を受け取ったすべての人物がただ事ではないと瞬時に察知した。
『誘っている』
つまりこれはそういうことなのだ。
霧は自らが配備したピケット艦をずらし、401の拠点である硫黄島への道を開いた。
これは明らかに彼女らが意図して行ったことであり、その目的は恐らく401、もしくはそのクルーを
仮に陸軍が今回の件を成功させ、401を接収する際にクルーを何らかの形で無力化したならば、上陰の所属する軍務省内部でも騒乱が巻き起こるだろう。
最悪の場合、401が立場を急変しこちらに襲い掛かってくるやもしれない。
「どうやら、我々はいろいろな物の見方を変える時が来たようだな。」
『大海戦』での千早翔像による401拿捕、確実に世界が動いたと思われたあのときからもうすぐ18年が過ぎようとしており、国内では『戦後生まれ』などと揶揄される『大海戦』以降に生まれた者たちが今や社会だけでなく世界の命運すら握っている。
そんな情勢を認識して自然と楓首相の口から自嘲じみた言葉が零れ落ちるが、上陰から見ればそんな激動の世の中を軍から政治屋として成り上がってきた怪物のような首相がそのようなことを口にしたことは彼にとってはとても衝撃的で、強く印象に残った。
やっとこさリアルが落ち着きました…
リハビリがてらのおっさんの会話です。
決して年末から始めたArcaeaにハマっていたわけではありません。
つづく…
…ことができるか不安になってきた
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