超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
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数十年前から急激化した海面上昇、それと同時期に各地で存在が確認され出した霧の艦隊。
その2つにより急速に人気がなくなった港区画、そのなかでも特に閑散としたコンテナ区画には四人の人影が存在していた。
「へぇ、私の艦体をねぇ…」
「えぇ、戦力はいるに越したことはないから」
特になんの説明もなく400に連れられてこのコンテナ区画に連れてこられたタカオは今に至ってその理由を聞いた。
確かにあの雰囲気で生きているような気分屋の超戦艦がやってくるのならばどれだけ備えをしていても足りないくらいだろう。
「で、」
400の説明を聞いたタカオは簡潔に言葉を切ると、勢いよく振り返って未だ口を開かない二人に顔を向ける。
「アンタたちは何しに来たワケ?」
「えっと…私達も同じっていうかその……」
「要するに、私達も迎えに来たの!」
視線の先の少女――イブキはタカオのような強い語気で話しかけられることに慣れていないのかしどろもどろになりながら返そうとするが、それを見かねたクラマがすかさずフォローに入った。
その様子から推測するに、学園でのイブキはかなり無理、というか虚勢を張っていたのだろう。
それはともかく、クラマの「迎えに来た」という発言に困惑したように事情を知っているであろう400の方を見れば、彼女もまた普段は滅多に見ることの出来ない驚いた顔を晒していた。
「400、あんたは…知ってたわけじゃなさそうね」
「そりゃそうだろうね、私達も知らされたのはついさっきのことだし」
「だから
予想外…と言ってもあれの性格を考えるとあながち違和感のない話を聞いて不思議と納得した気分になるが、だからといって聞き捨てならない部分は変わらない。
『あの超戦艦が来る』
数日前に402から伝えられたその情報はできれば誤報のたぐいであると思いたいものであったが、実際にアレの部下であるイブキたちがこうして迎えに来るということは信じたくないことに情報が誤報でもなんでもなかったことを示していた。
「それはそれとして、なんでアンタたちが?」
ヤマト艦上で見たアレの話しぶりから思うに迎えのような礼節をあまり重んじる性格ではないと思っていたタカオはその疑問を新たにクラマへと問いかけた。
最初以降全く会話に介入しなかったイブキは最早会話に参加することは諦めて近くの適当な段差に腰掛けて静かにコーヒー缶のプルタブを引いていた。
「私達もよく分からないんだけど…なんかサプライズがあるとか何とか…」
「サプライズ? なにか嫌な予感がするわね…」
面白そうなどというふざけた理由で本人曰く大戦艦クラス相手に同等の戦闘を繰り広げたらしい潜水艦U-2501を太平洋側へ招き入れる存在だ。そのサプライズとやらもどうせ碌な事じゃないと考えるのは自然なことだろう。
横須賀港外縁に建設された防護壁を無理やり突き破って現れても不思議ではない。
能天気にそんなことを考えていると突然に400の纏う雰囲気が剣呑なものへ変化した。
「……ッ!?」
「400、どうしたの?」
「……貴女の新しい艦体のコントロールが……奪取された」
「は!?」
苦虫を噛み潰すような表情をした400の口から飛び出したのはタカオの新しい体が何者かに奪われたことをこれ以上ないほど端的に表していた。
たかが巡航潜水艦ではあるが、総旗艦ヤマトの直属部隊として索敵能力、つまりは遠距離まで演算能力を飛ばしてコントロールすることには一家言ある400からコントロールを奪ったということはタカオから見ても紛れもなく格上、ズイカクに匹敵するかそれを遥かに上回る存在であることを示している。
「それで、どこに向かってるわけ? まさかロストしたってワケでもないでしょ?」
「それが……進路を変えずにこちらへ向かってきている」
「じゃあ問題…大アリじゃない!?」
タカオより格上、ということはここにいる誰よりも格上である正体不明の艦の先鋒となった重巡クラスの武装を積んだ物体がこちらに向かってきている。
どう考えても非常事態だ。
タカオが慌ててズイカクに即応の連絡を入れようとした直後、背後から待ったがかかる。
「多分それ、私達の旗艦だと思います…」
声を上げたのは先程からタカオが担いできたラブレターの袋詰に興味津々で覗き込むクラマ…ではなくちょうど手に持っていたコーヒー缶を飲み干したイブキであった。
イブキはコーヒーのおかげでいつもの調子を取り戻したのか学園と変わらないふうに喋りだす。
「今新しく通信が入ったんですけど…えぇと、そのまま読み上げますね。『予定通りタクシー拾ったから早めに着く』…らしいです」
読み上げとともにタカオと400の眼前に飛ばされたウィンドウに表示された文字を見るにイブキの想像は間違いないだろう。
おまけと言わんばかりに添付された画像の端には見覚えのある武装が映り込んでいた。
間違いなくタカオの艦体のものだろう。
「正直予想はできてたけど…私の体をタクシー扱いってどうゆうことなのよ…」
「ま…まぁ…あの人のことですからちゃんと返してはくれると思いますよ…?」
「そうそう、それにあぁいうのはいつものことだしね」
「加速している…? もうここまで来るぞ!」
当たり前のように自身の身体を都合の良いタクシー扱いされ、言葉に表しきれないショックを受けているタカオにイブキと早くもラブレターへの興味を失ったクラマがフォローを回していたその時、しばらく沈黙を守っていた400が大声を上げ邂逅の時が近づいていることを伝えた。
「加速…?」
「あぁ、もうここまで…伏せろッ!!」
反射的に聞き返したタカオに答えていた400の言葉が途中で途切れ、危機感を嫌でも感じ取れる裂帛の叫びへと変わった。
その直後、四人の眼の前の海面が突き上がり、タカオの元の艦体色であった赤色ではなくどこかで見たような葵色に染まったタカオの艦体が姿を現した。
その最上部、艦橋部分にこれまた見覚えのある少女の姿が見えた。
「久し振りだね、タカオ」
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「おはよー!」
港での騒動からしばらくして、私はコトノの住む一軒家へとやってきていた。
あの後?
とりあえずタカオに艦体を返して400と学園祭について少し話した後そのままイブキたちが暮らす元自宅へと赴いてそこで一泊した。
まさかあんなにも綺麗になっているとは思わなかった、一応二年程度放置していたから埃が積もり積もっていると思っていたのだが……
「久し振り、やっぱり楽しみ? 学園祭」
久し振り、というほどの間は離れていなかった気がするが、まぁ形式上というやつだろう。
現在時刻は午前十時。イブキやクラマ、それにコトノと同じこの屋根の下で暮らしているアタゴなどの学生組は学園で講義を受けている真っ最中のはずだ。
コンカラーの喫茶店には先程行ってきたのだが、割と洒落にならないやらかしが発覚したので少なからずそれに頭を抱えている状態だ。
なんと最近黒いスーツを着こなしたやけに目付きの悪い男が多く来店するようになったらしい。
……何やってるんですか上陰さぁん!?
度重なるストレスで参っているのだろうか。
今度会うときは育毛剤でも渡してあげよう。
それにしても、学園祭か……
「もちろん、そこで
「……それは言えないかな…」
「だろうね、せいぜい楽しみにさせてもらうよ」
やっぱり、ここで明かす気はなさそうだ。
本格的に全てが明らかになるのは学園祭の最中、事件と私達以外の全てのメンタルモデルのルーツにつながる第四施設事件の現場でのことだろう。
そして第四施設の案件が近づいていると言うことは同時にあることを示している。
私の記憶が意味を失う時が近いということだ。
それはつまり、ズイカクのようなある種先手を打った対応ができなくなるということだ。
その上先日のソビエツキー・ソユーズのような例外要素も散見できる。
言うまでもなくこの私もそれに含まれる。
原作の都合上401と群像くんが生きていればとりあえずは物語としての終わりを迎えることができるかもしれないが、それがハッピーエンドかどうかは別問題だ。
私は特別ハッピーエンド至上主義者というわけではないが、最悪でも私以外は生きていてほしいと思う。
コトノが何を考えているのか知能的には凡人の域を出られない私には予想することすら出来ないが、それが彼女の演算能力に頼って実行するものだとすれば、それと同じことは私にもできる。
もし彼女が映画版と同じく意識と引き換えにことを為そうとするのならば、そのときは―――
いやいや、まだそうと決まったわけでもないし、何よりこんな雰囲気は私には似合わない。
「そういえばエレちゃん、コレ…何?」
そう言ってコトノが差し出してきたのは一枚の画像。
画像の中心には海に浮かぶ一隻の艦が写っていた。
「東洋方面艦隊で北方警戒を担当している海域強襲制圧艦アマギの撮影画像なんだけど…」
しかしてその艦影は通常の艦船とは異なり、艦橋部分から枝葉が伸びるように鉄柵のような影が四方八方に伸びていた。
「間違いなくそっちの艦…だよね?」
「うん……多分ミズーリの所の試験艦だと思うんだけど…」
「聞いてないの?」
「えっと…うん」
というかなんで直属の部下のこと分かってないんだ…?
というわけではなく、多分アレはこの前話が出たタシュケントの代替となりうる改装艦だろう。
巡洋艦クラスに専用の装備を艤装したピケット艦は以前から案として出てはいたが、先日の一件で一気にそれが加速したということだろう。
一応北洋方面艦隊の最高機密にあたるものだから安易に伝えることは出来なかったが、正直やってることはナチの二番煎じなので開示しても良かったかもしれない。
「そ…それより、ムサシはどうなってるの?」
「ん? なんで突然ムサシの?」
「この前の一件ではビスマルクが直接出たわけじゃないけど、間違いなく関わってると思うからさ、そっちのムサシは大丈夫かなって」
ティルピッツ曰くあの時先制攻撃を仕掛けてきたのは欧州艦隊側らしい。
それを全面的に信じるわけではないし、なんならズイカクの事も考えると先制を行ったのはこちらかもしれないが、少なくともあそこで欧州側はティルピッツに無理やり仕掛けに行く必要はない。
リシュリューの強襲により一時的にフォーミダブルを失いこそしたが、ソユーズ側もそれと巡洋艦を中心に同等以上の被害を負い痛み分けのような形で終息することとなった。
これまで静観姿勢を基本崩すことのなかった欧州方面艦隊にして極めて異例の事態であり、それについて氷山港で当事者であるティルピッツと推論を重ねたところ、大まかではあるが一つの結論に行き着いた。
つまり、あれほどの損害を払ってでも北洋方面艦隊の大西洋部隊の戦力を一時的に麻痺させる必要があったということ。
それはなぜか?
単純にソユーズの試験というわけではないだろう、そんな物自艦隊内で事足りる。
大規模侵攻の助攻という線もない、氷山港は表に出してないとは言え、あちらも北洋方面艦隊が何らかの整備拠点を拵えていることは分かっているはずだ。
あちらの主戦力となりうるソユーズの艦隊が修復を図っている間にこちらが立ち直ったら意味がない。だからこそ一般的にこのような戦術を用いる場合は速攻を仕掛けるのだが…
現在それができる戦力は北洋方面には展開していない。
かといって全ての艦が定期の巡航航路を巡っているわけでもない。
リシュリューやシャルンホルストをはじめとした数隻だけが定期巡航航路を外れ、ジブラルタル近海に展開している。
艦隊編制から言って新たに地中海に展開しているのはムサシとビスマルクのみ。
…ビスマルク麾下の欧州艦隊がムサシに砲口を向けたらそのまま袋叩きにできる配置だ。
ムサシの戦闘能力ならジブラルタルを無理やり突っ切って脱出することも不可能ではないだろうが、間違いなく痛手を負うだろう。
そして未だ探知こそされていないがそのさらに南方にも展開している部隊があるのだろう。
そうするとムサシが取る進路は北、そこで戦力の修復中とは言え中核となるソビエツキ―級三隻には目立った損害のないバルト海の艦隊で抑えてチェックメイトとなる。
思い返してみれば原作中でもムサシと組んでいるというより両者が互いに利用しているような描写が多かったような気がする。
そうなってくるとビスマルクの目的はムサシとは異なり欧州の開放ではない可能性が高い。
だからといって彼女の真の目的が分かった訳では無いが、起こり得る可能性には備えたほうが良いだろう。
「――そう…『緋色の艦隊』が動き出すのね」
先ほどとはうってかわって冷静になったコトノの言葉が私の耳にいやに残った。
現実でも学園祭+考査のコンボが炸裂しているので少しの間更新が不定期になります。
その間は活動報告の設定とかの方が中心になると思われます…許して…
つづく…
ことはつづく…
ムサシ追撃戦、GKちゃんは?
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参加
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不参加(ティルピッツ主導)