超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
「うわあぁぁ!?」
視界一面を染めるほどの眩い緑色の閃光とともにマヤ艦上に響き渡ったのは艦橋にて情報を精査していた蒔絵の悲鳴とも取れる絶叫であった。
水平線の彼方に突如発生した高エネルギー反応、大戦艦の超重力砲かと見紛うほどのその超高出力反応は、探知から間髪入れずにマヤへと一直線に放たれ、観測のために空中に浮かべていた観測系デバイスの直上を掠め空の彼方へと駆け抜けていった。
「発射元は……未確認艦…何なのよアレ、こっちと同じクラスの出力じゃないわよ…」
マヤを掠めた砲撃の出力レベルは明らかに重巡洋艦のそれを超えており、その出力は探知結果と相違なく文字通り大戦艦級レベルのものであった。
しかしレーダーに写っているのは今も2隻の重巡洋艦のみであり、どう頑張ってもそれほどの出力を叩き出せるとは思えなかったし、マヤの演算結果も同様の予測を弾き出していた。
「…どうしたの?」
そこまで考えてやけに静かだなと思い至った蒔絵はこの艦のムードメーカーであるマヤのメンタルモデルが先程の砲撃以降一言も発さずに砲塔の上に立って発射元である右舷方向を睨むようにして硬直している様子を目に留める。
「この出力パターン……どこかで…」
「どこか…って、もしかしてあの2隻に心当たりがあるってこと?」
霧の艦艇はそれぞれが微妙に異なった重力子機関の出力パターンを持っており、それは極めて微弱ながらもその武装から放たれる攻撃にも反映される。
反映されると言っても繰り返しだが極めて微弱であり、人類には識別おろかその存在すらほとんど知られていないが、霧の艦艇間ではこの反応の違いを用いて個艦の識別を行っている。
これに統合戦術ネットワークを組み合わせた仕組みの関係上そもそも『未確認艦』という物自体がほとんどあり得ない状況であり、この仕組みを詳しく知らない蒔絵はともかく、マヤは最初にレーダーサイトを見たときから違和感と、それを解決するたった一つの理由について深く考えていた。
「この反応、見たことある…北洋方面艦隊……?」
メンタルモデルを持たない昔――『大海戦』と呼ばれる頃の記録であったが、それは確かにマヤの記憶領域に刻印の如く強く焼き付いていた。
17年前のあの日、ナガトの命令により当時の所属であった第二巡航艦隊から外されて北方海域にて待機命令を下されていた。
そしてあの日、突如として行われた北洋方面艦隊による宣戦布告とまるでそれを予測していたかのようなナガトによる攻撃命令の直後、マヤは
翠色の爆光が海面を舐め、それに貫かれたナガラ級軽巡洋艦が次々と薙ぎ払われてゆく光景を。
その光の根本には、船と言うには余りにも異形で、余りにも暴力的な艦影を持つ1隻の艦。
本来軍艦というものは兵器としての獰猛さとともに機能的な美しさも併せ持つものであるが、あの艦は――『ただ
それはまるで、自身の現在の旗艦であるハルナが向き合っている『感情』に由来するような――
「北洋方面艦隊って、ハルハルが言ってたやつ?」
「まぁ…そんな感じ…かな、詳しくはまた後で話すよ」
そこまで行ったところで、ようやくマヤの優秀な聴覚が自身の指揮を執る蒔絵の声を聞き取った。
それほどまでに自身が思考に熱中していたことに少なくない驚きと困惑を覚えつつ、当たり障りのない返答を蒔絵へと返す。
それは同時に、自身に言い聞かせているようでもあった。
「ふぅん…対象チャフを散布。一撃だけ精確に入れて即座に退散…慣れてるね」
対して蒔絵も、件の北洋方面艦隊については少なくない情報をハルナから聞かされていた。
曰く、『大海戦』と同時に霧に対して反旗を翻した。
曰く、大西洋を主軸に行われた初期の大規模攻勢ではその牙城を完全に崩すことは叶わず、逆に壊滅的な被害を被った。
曰く、たかだか一個方面艦隊が、それから17年もの間、他の霧を相手にその支配海域を完全に守りきっている。
少しでもその方面に明るいものならば面白い冗談だと笑いつつ次のジョークの催促をするような逸話ではあるが、そのことを蒔絵に話すときのハルナの様子はいつになく真剣なものであった。
この地球の七割…海面上昇により今や八割を越えようとしている領域を占める海を完全に支配している霧の艦隊を相手にすると言う事は、常に全方位からの攻撃に晒されるということに等しい。
もちろん、対応するための巡航艦隊は残しておく必要があるため、霧側も全戦力による無停止攻勢など不可能な話ではあるが、それを踏まえてもたかが一個方面艦隊規模の勢力が決して狭いとは言えないその支配海域を十数年もの間手出しを許さず守り抜いたという事実は明らかに異常であり、ハルナの警戒度の高さには十分に頷ける根拠であった。
「追撃…はしなくていいよね」
「そうだね、タカオの顔見せかと思ってたらとんでもない物出て来たし」
蒔絵が自身で行った通り最初は402主導のタカオの顔見せ兼威嚇だと考えていたが、当のタカオは早々に退散、挙げ句霧のデータベースにも照合する反応のない2隻の重巡洋艦による超高出力射撃。
相手とは違い何の変哲もない重巡洋艦であるマヤにとって間違いなく対処のキャパシティを超えた案件であり、その上件の未確認艦は北洋方面艦隊と関わりが深いもしくは所属艦である可能性が高いと来た。
ここまで来ると現在別行動をしているハルナとキリシマを戦力に入れてもなお不安が残る事案であり、普段は好戦的な性格を全面に発揮するマヤといえども、今回は自分から言外に撤退を提案した。
元々戦力において覆しようのないほどの優位を持つ相手に対して本格的に仕掛けようなどと微塵も考えていなかった蒔絵は珍しく消極的な様子を見せたマヤに若干驚きつつもその提案を受け入れこのまま撤退を決め込むことにした。
「観測機器収容して、チャフ撒いて隠れよう場所は…この前のビルの間で良いかな」
「うぃーッス」
突発的に始まったとはいえ、互いを始めから認識していたという条件においては17年ぶりとなる北洋方面艦隊とマヤによる戦闘は、結果だけ見れば両者損害なしというこれと言って特記すべき事案もないまま幕を閉じた。
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某日 太平洋
「…釣れませんね…」
海の上に浮かぶ森の中で、その身には似合わないほどに大きな釣り竿から糸を垂らしていた女性は誰に聞かせるでもなくそう呟く。
彼女――コンカラーの視線の先には投げてからもうかなりの時間が経っているのに一向に沈む気配を見せないウキが波に流されて揺れ動いていた。
彼女は元々横須賀にて喫茶店の2号店を開いていたが、その喫茶が中央管区政府の人間にマークされていることが発覚し、学園祭という一大イベントが控えている手前、中央管区政府の関心を下手に引きたくないという理由でグローサー・クルフュルストから一度横須賀を離れるようにとされていたが、そんなときにある通信がグローサーの耳に入り込んだ。
「そりゃぁね、そんな簡単にポンポン釣れたら面白くないよ。釣りっていうのはいつかかるか分からない緊張も楽しむもんさ」
ずっと同じ姿勢でいることに飽きてきたコンカラーが、なるべく釣り竿とその先にぶら下がる餌に下手な刺激を与えないよう少しずつもぞもぞと体制を変えようと試行錯誤していると、彼女の背後にあった草むらがガサガサと音を立てて揺れ、その中から小さな少女が顔をのぞかせた。
この少女、海域強襲制圧艦ズイカクこそが今コンカラーが腰を下ろしている森の主であり、旧大日本帝国海軍所属の空母瑞鶴を模した甲板上は、姉妹艦であるショウカクとは大きく異なり所狭しと緑が生い茂ったまさに海に浮かぶ森と形容するのが正しい見た目となっていた。
「そちらは釣れ……デカすぎないですか…?」
振り返ったコンカラーの目に飛び込んできたのは意気揚々と釣った魚を掲げながらこちらに歩いてくるズイカクの姿だった。
しかし、そのサイズは魚介に疎いコンカラーから見ても明らかに異常な大きさを誇っていた。
その全長はズイカクの身長を軽く超えており、ズイカクが手を全力で上に上げて尚尾びれの先を若干引きずっていた。
「あぁ、これ? 人類の漁業がなくなったからか、このあたりの魚は皆デカくてねぇ、正直一人で食べるには向かないんだけど……今回はとにかく量が必要らしいからね」
普段は自身の食用に魚を釣っていたが、今回は少々事情が異なる。
『人類用にとにかく沢山魚を取ってこい』
霧が大きく関わって文化祭を執り行う見返りとして402が中央管区政府に提示した条件の一つである食料品の大量供給、その調達を任されたのは以前から釣りに熱中しており、横須賀上陸に合わせて目立たないように禁漁が言い渡されていたズイカクであった。
かねてよりの禁漁で欲求不満気味だったズイカクは一も二もなく了承し、長靴を履いて家を飛び出した。
無人となっている近場の埠頭から海へ飛び込む前に用具の最終確認をしていた時、402たちとは別のコードを用いた通信がズイカクへと飛び込んだ。
『せっかく沖に釣りに行くならうちの喫茶屋も連れてってくれない?』
全く見覚えのないコードをもつコアから送られた聞き覚えのない声音にしばらく困惑したが、そこは仮にも東洋方面艦隊の最大戦力の一つである海域強襲制圧艦に分類される者、話しぶりからしてタカオが先日接触したという北洋方面艦隊の関係者であろうと当たりをつけ、とりあえず話を濁している間に並行して彼女らについては少なくとも自身より深い情報を持っているであろう402へと通信をいれる。
霧の艦隊にとって嫌な思い出の集合体とも言えるほどに話題に出すこと自体を避けられている北洋方面艦隊、自身の本来の配置である単冠湾に東洋方面艦隊所属の海域強襲制圧艦が集められている元凶とも言うべきその艦隊が現在横須賀で何やら怪しい動きをしていることは件のタカオの会話などからある程度予想はできていたが、こうしていざそれらしき存在と対峙してみるとタカオや402が確かな脅威と認識していたのも頷ける。
大まかに現状を伝えたズイカクが402から聞いたのは、それはそれは深い溜め息と諦めの混じった言葉であった。
『こちらでも確認した、高い収容能力を持つ艦をそちらに回すらしい。釣り…というか漁業についてはあまり明るくないそうだが、お前だけでは輸送できる量に限界があるからな。付け加えて言えば輸送後の電力供給にも付き合ってくれるそうだ』
402の言葉を聞く限り謎の声が話していた喫茶屋というのがその高い収容能力を持つ艦らしい。
結局あの通信の相手が誰だったのか不明のままなのが気がかりなところだが、高い収容能力を持っているということはつまりそれだけ長い間釣りに興じることができるということであり、自他ともに釣り好きを認めるズイカクからすれば願ってもない申し入れであった。
さらにその後に予定されていた電力供給の負担も一部請け負ってくれるとすれば、ズイカクが了承することは容易に予想できることであろう。
そして指定された場所で合流したのが今現在眼の前で不釣に悩んでいるメアリーと名乗る女性であった。
『一応私最高機密の一つらしいですから…』そういって自身の本名を名乗ろうとしない彼女は正直言って信用できる相手ではなかったが、こうやって釣りを真剣にやっている様子を見ているとなんだか自身の心配が杞憂なような気がしてならない。
そう考えていると、どこからか通信を受けたのかメアリーが斜め上に視線を向けながら動きを止める。
「ん…えっと…私の艦体がもうすぐこっちに着くそうです。そのときに改めて自己紹介でも」
噂をすれば影が差すとは言うが、これまで一切素性の知れなかったメアリーの正体が明かされる目処が立ったことに好奇心旺盛なズイカクは期待に目を輝かせ―――ている暇はなかった。
《ちょっとズイカク!?なんか私らの哨戒海域をバカでかい艦が通り抜けてったんだけど!?総旗艦に聞いても苦笑いで内緒って言われるし、どうなってるの!?》
悲鳴のように鳴り響くカガからの通信に、ズイカクは効果がないと知りながらも自身の両手が持っていた魚を取り落として耳元を抑えようとするのを止められなかった。
なお、当の本人である某艦隊旗艦は402の言葉に割と適当に頷いており、電力供給に参加する=学園祭前に政府の人間に姿が見られるということを
注:ただしこれからの展開は考えていないものとする
つづく…
…かどうかは文章力次第
ムサシ追撃戦、GKちゃんは?
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参加
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不参加(ティルピッツ主導)