超戦艦  Großer Kurfürst   作:U・K・Owen

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第三十六話

某日 太平洋北部

 

 北洋方面艦隊における双極の一つ、第二巡航艦隊旗艦大戦艦ミズーリ。

 先のコンゴウと401の戦闘において多大な影響を残した彼女は間違いなくその責任に見合った実力を持っており、メンタルモデルを持ったことによる戦略面も合わせればその戦闘能力は大戦艦という枠組みにおいてティルピッツと同じくハイエンド、一種の到達点にあると言ってよく、東洋方面艦隊、北米方面艦隊の両雄を相手にして戦力的に圧倒的に劣る北洋方面第二巡航艦隊が現在の支配海域を維持することができているのは彼女の威圧がある程度関わっているのは言うまでもないだろう。

 

 そんな彼女は現在―――

 

「あぁっもう! なんで当たらないんですか!」

 

 ――遊び呆けていた。

 

 先述の海戦でも北洋方面艦隊の旗艦であるグローサー・クルフュルストに同様の恥を晒したものの、それだけでは彼女のゲーム欲…というよりは暇を持て余す気持ちを抑えるには至らなかったようだ。

 

「――っと、もうこんな時刻ですか。そろそろアラバマとの交代ですね」

 

 だが、あの事件(?)はミズーリの心象内に小さくない跡を残したようで、以前よりも明確に、そして短い期間で交代を繰り返すようになった。

 

「えーっと…サンフランシスコからの定期連絡は――」

 

 大西洋においてピケット艦の改修が進んでいる中、太平洋方面を管轄する第二巡航艦隊もただ手をこまねいている訳ではなく、独自に索敵能力の向上に邁進していた。

 

 特殊ピケット統括型巡洋艦、サンフランシスコ。

 

 名が体を表すという言葉を文字通り体現したその艦こそが海域強襲制圧艦アマギが観測した異様な巡洋艦であり、北洋方面第二巡航艦隊の結論点の一つでもあった。

 

 大西洋の第一巡航艦隊が複数のピケット艦を個艦ごとに報告させる形を取っているのに対し、第二巡航艦隊では一定数のピケット艦を巡洋艦クラスの艦が統括して旗艦であるミズーリに報告を上げるという中間管理を挟んだ形式となっていた。

 これには統括艦が攻撃を受け無力化させられるとその方面の情報が大きく歯抜けするという致命的なデメリットこそあるが、情報処理の負担を分散させることにより艦ごとにかかる負担を大きく減らすことができた。

 

 ミズーリとてこの方式が最善とは思っていないが、現状としてはこの方式を実地試験として一時的に採用している。

 

「―――ん? 西海岸沿岸の北米方面艦隊による警戒ラインの変更……?」

 

 そうしたサンフランシスコの定例報告文の最上には大きくその文字が刻まれており、その事態の大きさが伺えた。

 

 といっても索敵能力の向上を目的とした警戒ラインの変更自体はよくある……というか定期的に起こっていることではあるが今回の件は一味違った。

 前回の警戒ラインの刷新は約2週間前であり、あまりに時間が短すぎる。

 

 そうなってくると今回の警戒ラインの変更には他に何らかの目的があると考えてよく、いつものように一通り目を通すだけでは終われなかった。

 

「改編ラインは…第二警戒ラインですか……っまさか!?」

 

 改編が行われた警戒ラインについて詳しく目を光らせていたミズーリは第二警戒ラインという一つの単語からある仮説を導き出した。

 

 霧による北米沿岸の哨戒ラインは概ね3つのラインを持って行われており、最も海岸線に近い第一警戒ラインはPTボート、所謂魚雷艇などの小型高速の艦艇が担当し、反対に最も海岸線から遠い第三警戒ラインは主にタコマ級を主としたフリゲート艦が担当していた。

 

 そして、問題は今回改編が行われた第二警戒ライン。

 そこに所属している艦艇は――

 

「大至急、アラスカに通達を入れてください!! 」

 

 白鯨と行動をともにする大型巡洋艦アラスカ、彼らが深い海の底を進む遥か北方にて、緊急事態を表す焦りを纏った言葉が吐き出された。

 

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某日 太平洋

 

「――で、本当に有効なんですか? これ」

 

 北米大陸西海岸、その沖合数十km地点にて、小さいながらもよく通る声が響く。

 

 艦の後方に多数の小型艦を並べてそう言った声の主は南洋方面艦隊派遣部隊旗艦、プリンツ・ハインリヒ。

 

 南洋方面艦隊において『覗き魔』と称されるループレヒトの副官を務める彼女ではあるが、今の彼女の周囲にループレヒトの姿は見えなかった。

 それもそのはず、先述したようにこの海域は北米大陸の西であり、彼女の所属する南洋方面艦隊の管轄海域とは大きく距離を開けている。

 

 領域の侵犯とも言えるこの海域になぜ彼女が進出しているのか、その単純な疑問にはそれに似合った極めて単純な回答が存在した。

 

 大戦艦サウスダコタから送られた要請。

 それこそが彼女がこの海域に進出、海域の哨戒を行っている理由である。

 

 発端となったのは先日の東洋方面艦隊によるイ401の撃沈作戦、その最中に海域強襲制圧艦ショウカクに対して行われた2発の砲撃。

 天から降り注ぐ光とも称せるその砲撃によって、ショウカクは撃沈さえ免れたもの重力子機関に過大な負担が流れオーバーヒート、それ以降の戦闘続行が不可能になり後方への撤退を余儀なくされた。

 

 天から注ぐ不可避の砲撃、その東洋方面艦隊から統合戦術ネットワークを通じて他艦隊へと共有されたその映像データは多くの艦に17年前のとある戦闘を想起させた。

 

『レイキャビク強襲作戦』

 

 そう呼ばれるその戦闘は霧の艦隊において数少ない文字通りの黒歴史、つまりは敗北を喫した戦闘であった。

 最も、一方的な敗北ではなく、表面上の目的であったレイキャビクの襲撃には成功したのだが、とある理由によりまともな損害を与えることができず、無人の廃墟地帯をただの瓦礫の山に変えたことに留まった。

 

 そのとある理由にして、レイキャビク強襲作戦の真の目的はそれ以前から何度か機能不全の兆候を見せていた霧の北洋方面艦隊の強行調査、場合によっては北洋方面艦隊を強制的に機能停止させること。

 

 しかしながらその目論見は強襲直前にて決定的に破綻することとなる。

 元々太平洋方面に北洋方面艦隊の主戦力を引き付けた上で大西洋方面の艦隊が攻勢を行う計画だったのだが、肝心の攻勢開始の直前に北洋方面艦隊が霧に宣戦布告を超重力砲とともに叩きつけて名実ともに完全に敵対。

 

 予期していなかった長距離砲撃が地球の裏側である太平洋に展開していた北洋方面艦隊の主力から躊躇なく放たれ、作戦行動にあたっていた欧州、北米方面艦隊の主力級大型艦を次々と刺し貫いた。

 

 その照準は寸分の違いもなく正確であり、閃光が煌めく度に1隻また1隻と波間に消えていくその様子はまさに先日のショウカクに対する攻撃そのものであり、その光の色さえ異なれど間違いなく北洋方面艦隊に関する何かであると用意に想像することができた。

 

 レイキャビク強襲の際以降、終始現状の支配維持に徹し、一度も積極的な動きを見せてこなかった北洋方面艦隊が動き出した。

 このことに北洋方面艦隊と支配海域を接する艦隊、特に大戦艦ビスマルク率いる欧州方面艦隊は敏感に反応した。

 

 大戦艦ソビエツキー・ソユーズを中核とする虎の子とも言うべき特務艦隊をほぼ全力で展開し、それに反応して戦力規模を一時的に増加させた北洋方面第一巡航艦隊と激戦を繰り広げた。

 最終的には双方少なくない手傷を負い、痛み分けのような形で終結を見たものの、17年ぶりの戦闘とう言うものはそれだけで多大な価値があり、ティルピッツの特殊装備など得るものも果てしなく大きかった。

 

 ループレヒトはこのときの欧州方面艦隊の過剰とも言える行動について『なにか隠しているような行動』だと称していたが、統合戦術ネットワークに上げられている艦隊近況を見る限りその様に隠匿するようなものは見られなかった。

 バルト海の奥深くに潜ませていた特務艦隊を出撃させてまで露見を恐れた秘密というものが霧の艦隊であれば一部の最高機密以外ほぼ無制限の閲覧権限を持つ統合戦術ネットワークに上げられているとは到底思えないが、件の最高機密というものは艦隊総旗艦である超戦艦ヤマトとその直属にしか権限のない文字通りの最高機密であり、たかが一個方面艦隊の旗艦に過ぎないビスマルクが関われるとは考えづらい。

 

 このことからも分かる通り、先の北洋海戦において注目を集めたのは北洋方面艦隊ばかりではなく、むしろ各方面艦隊の上層部は未だ艦隊全体に共有こそしていないまでも、先述のような無理矢理とも言える強硬策を取ったビスマルクへの不信感の方が大きいのではないかと考えるものも少なくなかった。

 

 そもそもビスマルクは現在欧州方面艦隊の旗艦としての職務を半ば放棄しており、超戦艦ムサシと行動をともにする千早翔像などという人間の指揮の元にいる。

 超戦艦ムサシは自身の姉であるヤマトと袂を分かっていると思われており、彼女と行動することはそれ即ち霧の総旗艦の意思から外れていると言ってよく、霧の中ではかなり微妙な立ち位置となっている。

 

 その証拠が、レパルスらによる東洋艦隊内での内乱である。

 あれは千早翔像がムサシをはじめとした自らの指揮下にある艦隊を『緋色の艦隊』と呼んだことが発端となっており、それに反発したフッドが彼らを撃滅するために関わりの深い各方面艦隊から戦力を招集、それに応じた大戦艦プリンス・オブ・ウェールズとアドミラリティ・コードに従い現海域にとどまり巡航を続けることを主張した大戦艦レパルスの間で発生した戦闘であった。

 

 だが、ここで注目すべきは艦隊招集を行ったのが欧州方面艦隊に所属する大戦艦フッドであるという点である。

 繰り返して言うまでもなく、欧州方面艦隊の旗艦は大戦艦ビスマルクである。

 そんなフッドが千早翔像の『緋色の艦隊』を撃滅、あの時点ではビスマルクとの明確な協力関係にはなかったものの、欧州で大手を振って航行するということは大西洋東海域の主とも言えるビスマルクと何らかの関わりがあると見て間違いはなく、ムサシに対して反旗を翻したという点はひいてはつまり自身の上官たるビスマルクと敵対すると言ってもよい。

 フッドがそのような行動を取ったということ自体が欧州におけるビスマルクの絶対性に疑問が持たれ始めているということの一種の証左でもあった。

 

 また、あのコンカラーが元々は欧州方面艦隊の第二巡航艦隊旗艦であったことを鑑みると、そうした上位艦種の離反に危機感を覚えるのも不自然ではない。

 

 

 

 ここで話は冒頭へと大きく巻き戻る。

 

 ハインリヒの後方に展開されているのは多数の小型艇、その大きさは彼女のすぐそばに展開する数隻の駆逐艦とは比べ物にならないほど小さく、このような沖合の海域でさえ大きな波が立っていれば航行することには不安が伴うであろう大きさであった。

 

 その艦影は戦闘艦とは到底思えないものとなっており、数世代前のタンカーの様な幅広の船体に数多くの円筒状の物体が天を睨んでその甲板上に所狭しと並べられていた。

 しかしながら船体自体は民間船のようであり、繰り返すが戦闘を念頭に置かれているとは思えない見た目をしていた。

 

 そうした様子に心做しか頼りなさを覚えたハインリヒから出たのが先程の一言ではあったのだが、この多数の小型艦艇こそがサンフランシスコ麾下のピケット艦が改編を捉えた第二警戒ラインに所属する艦艇であり、現在人類の潜水艦白鯨と行動をともにするアラスカへと緊急電を入れさせた要因であった。

 

 第一警戒ラインの魚雷艇はボートなど自身と同じ高速小型の艦艇を警戒対象とし、第三警戒ラインのフリゲートは魚雷艇では対処できない大型、強力な艦艇が出現した際にそれの撃退、もしくは主力となる巡航艦隊の到着までの遅滞戦闘をその任務とする。

 

 では、その間に挟まれた第二警戒ラインは一体何を警戒対象としていたのか、巡航艦隊主力が必要な大型強力な艦艇ではなく、魚雷艇の機動力が必要なほどに圧倒的な速度性能を持つわけでもない。

 

 この時点で大きく絞られるが、極めつけて言えばこの艦艇群がこの場所に展開していることがこの艦艇群の任務対象を如実に表していた。

 

 第二警戒ラインを構築する艦艇の任務対象、それは海中を進むゆえに速度に一定の制限がつきまとい、一定以上の霧の艦艇にかかれば一捻りで沈めることができてしまう艦種。

 

 人類の潜水艦であった。




読んでいる皆様方は一体何のことかお分かりになったでしょうか?
・魚雷艇と同じく本来大規模な艦対艦戦闘には用いない艦であり
・円筒状の物体を数多く甲板上に備え
・それらからなる圧倒的な手数を武器とする艦

…正直アルペジオ世界に合うかは微妙なところなんですけどそこのあたりは元々趣味でやってる駄文だから良いかと振り切りました。魚雷艇あるならこのぐらいありそうじゃない…?

どうでもいいですが私は結構好きな艦だったりします。

つづく…



…ここのネタもなくなってきた

ムサシ追撃戦、GKちゃんは?

  • 参加
  • 不参加(ティルピッツ主導)
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