超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
某日 横須賀
「しっかし、もう学園祭か…時間の流れは速いねぇ…」
イブキたちの住む高層マンションの一室、その中のキッチンにて私―グローサー・クルフュルストはそう呟いた。
いや、マジで1ヶ月半ぐらい経ってる気がするな、実際には一週間くらいのはずなんだけど…
それもこれも毎日のように外に連れ出すコトノってやつが全部悪いんだ。
遊び相手()のアタゴが通学でいない+タカオに取られたからって毎朝九時から五時近くまで連れ回しおって…!
前世も今世もほとんど運動してない貧弱ボディにはとても辛い。もう足がパンパンになりそうだ。
そのへんの感覚演算をオフにすればいいじゃないかとも思ったが、前世と合わせて60年くらい2本の足で立ってきた身としてはそれらの感覚がなくなることに言いようのない恐怖を覚えるのだ。
幻肢痛…とはまた違うだろうけど。
もっと言えば唐突に重要な情報を出してくるのもたちが悪い。
今日だって明日に控えた学園祭を前にどこにつれていくのかと思えば徐ろに第四施設跡へと連れて行かれ例の『銀世界』をその目に焼き付けられた。
アレはなぁ……確かに幻想的だし美しいのはそうなんだけど、どことなくなんというか、生命の冒涜的な何かを感じるんだよね…この日本だと刑部博士のデザインチャイルドとか存在しちゃうからあんまり否定感がないのかもしれないけどなんだかんだそういう価値観が前世とあまり変わっていない私としてはちょっと…うん。
まぁ本人たちは無事そうだしオッケーか。
そういえば20巻最後であの場にいた人たちってメンタルモデルと政府高官連中だけだったから言い換えちゃえば倫理的なアレがちょっと怪しい人たちとデザインチャイルドについてかなり深い情報を持ってる人ばっかり*1だったよな。
もしかしなくてもあの人達がちょっと振り切れてるだけ…だよね?
「問題は
――あまり慣れないけど、自問自答でもしてみようかな」
カッコつけてそう言ってみるものの、今の私はもうすぐ帰ってくるであろうイブキたちのために港近くで買ってきた適当な青魚をエプロン姿で捌いて焼いているのでカッコよさとは無縁なのだが。
そういえば霧の海上封鎖がある割には結構海産物が出回ってるんだよな…沿岸漁業とか小規模な養殖とかなら許されてるのかね?
「まず1つ目、コンカラーを
「否、戦力は十分だし艦体を持ってきちゃってる以上今更動かすわけにも行かない。」
アレに関しては完全に私のミスなのだけれど、ショウカクたちの帰港が学園祭前であるということをすっかり忘れていた。
よくよく考えてみればアレの本来の目的って学園祭に向けた電力供給だった気がするし、それが学園祭やってから来てもどうするのって話である。
コンカラーはそのままショウカクと一緒に港に向かわせて現在は電力生産に勤しんでいるはずなんだけど…中央管区のバッテリー吹き飛んでないかな?
「2つ、イブキたちはどうする?」
「…第四施設に向かわせるつもりだけど戦闘介入は未定」
今のところ推移が原作の記憶と大して変化なかったためイブキとクラマは今回あまり関与させるつもりはなかったけど、ここで問題になってくるのが横須賀上陸直前に発見した所属不明の大戦艦である。
コトノを問い詰めてみてもはぐらかされて有用な情報はなし、間違いなく原作にはいない艦だしミズーリから回された太平洋の巡航データを見る限り不自然に艦隊から離脱した艦もなし。
つまりは南半球、もしくは大西洋から回航された部隊である可能性が高い。
そう思ってティルピッツにもデータを回してもらったがそちらにも目立った異常はなし。
だがしかし、手の出しようがない南半球はともかく大西洋には若干の気がかりがある。
ソビエツキー・ソユーズ級大戦艦3隻を擁する仮称秘匿艦隊、あそこに所属する艦ならばデータを残すことなくこちらに来ることができても何ら不思議ではない。何と言ってもそもそも先日の戦闘以前のデータがこちらには存在しないのだから。
あの艦隊は間違いなくビスマルクの麾下にあるだろうし、そう考えてみるとコトノの言葉にも納得できる。
太平洋側に来ている『緋色の艦隊』の手札は2501とゾルダン一行のみ、それに両者ともビスマルクよりムサシの方が関わりが深そうに見える。
自身の部下を追加で派遣してこちらの様子を探ろうとするのは十二分に理解できるんだけど、正直そこまでする理由が見当たらない。
いくら2501がムサシよりとはいえ、現在ムサシとビスマルクは事実上の協力関係にある。
わざわざそんな二重チェックの様な真似をする理由はないと思うのだが。
それに、『緋色の艦隊』そのものについてもいくつか気がかりがある。
いつかに言及された通り『緋色の艦隊』とはアドミラリティ・コード…上位者からの勅命を受けて行動する直属艦隊に冠せられる銘。
だがしかしムサシらに上位者…恐らくヴァーディクトと呼ばれるアレに関するものだろうが、とにかく明確な命令者がいるとは思えない。
『緋色の艦隊』、その銘が存在する以上どこかでその名前が使用された、つまりは真に上位者からの勅命を受けて行動した艦隊がいたのは間違いないだろう。
だとすればいつ、どこで、誰だったのだろうか?
このうち前後の2つは概ね推測ができている。
「いつだったのか?」
「間違いない、百年前だ。そして、そうだとすると自ずとその正体も見えてくる」
「原作開始以前、それも第二次世界大戦の時代、アドミラリティ・コードの消失に前後して起動が確認されていた艦」
「大戦艦ビスマルク、彼女で間違いないだろう」
原作知識もふんだんに使って練り上げたこの考察に大きな差異があるとは思えないが、そうなってくるとまたビスマルクの行動理由がわからない。
「なぜムサシとともに行動している」
「千早翔像の思想に感銘を受けたから?」
「否、原作とこれまでの行動からしてそれほど感情的だとは思えない」
「ムサシの目的は?」
「黒海沿岸の霧に包まれたセヴァストポリにたどり着くこと」
「そこに何がある?」
「霧の回廊、人類の科学力を超越し、霧ですら正体を掴めていない謎の――」
「――霧ですら掴めていない?」
私自身が証明している通り、この世界でそうした超科学的なにかが発生している場合大体が霧の関与によって起こっているものだ。
その霧の艦隊でも諜報、防諜部隊の実質的なトップとして最上位クラスのアクセス権限を持つであろう402ですら正体を掴みきれないなにか。
「セヴァストポリ、ヴァーディクトがそこにいるのか?」
「恐らく、そして千早翔像はそれを目指している」
「なぜビスマルクはその行動を容認し、協力している?」
「分からない。だが、行動理念に反しているのは確かだ」
上位者の直轄部隊、それは同時にセヴァストポリの護衛も兼ねているはずだ。
霧の艦隊の中でも最強クラスの戦闘能力を誇るムサシを無為に護衛対象に通すとは考えづらい。
「今後ビスマルクはどの様に行動するだろうか」
「どこかでムサシとは決別するだろう」
「ではどこで?」
「おそらくはジブラルタル海峡を抜けた先、地中海に入ってからだろう。地中海は十中八九ビスマルクの内海、袋小路に誘い込んだところで掌を返すことが狙いか」
地中海はそこに至る道がジブラルタルとかつてスエズ運河と呼ばれた巨大建造物が検問をはっていた中東海峡しか存在しない。
両者とも海面上昇の影響で横幅が大きく膨張しているとはいえ、未だに地中海は狭い海だ。
入口たる海峡を塞いでしまえば戦略規模の密室にすらなりうる。
そして、ビスマルクがそこに誘い込もうとしていると仮定すれば、当然地中海の霧の艦隊も元『緋色の艦隊』所属、少なくともビスマルクの息がかかっていると見て間違いないだろう。
「では、千早群像は、ムサシはそこで沈むだろうか?」
「否、仮の体だとはいえあの群像君の父親だ、それがあのような化け物スペックを駆っているのならたかが一個方面艦隊程度振り切ってくるだろう」
地中海艦隊は恐らくイタリア艦とフランス艦で構成されているだろう。
警戒すべきはヴィットリオ・ヴェネト級大戦艦3隻だがしかし、その程度であのヤマトの妹たるムサシを止められるとは思えない。多少の被害は負うだろうが、全速力で引き撃ちと撤退に徹したとしたらジブラルタルを抜けることは不可能ではないと見るべきだ。
「ジブラルタルを脱出した後、喜望峰を回ってインド洋へ?」
「否、単純に遠すぎる。2501がいる太平洋に向かうのは間違いないだろうが、彼らもそこまで悠長にはしていられないだろう。一刻も早くビスマルクからの追撃から逃れるように進路を取るはずだ」
そこまで考えてしまうと、もう道は限られてくる。
認めたくはないし、そんな面倒事はゴメンであるが、可能性が高いと私の優秀な演算素子が弾き出している以上、考えておく必要が出てくる。
何よりもコンゴウ戦のときのように私のエゴだけではなく、氷山港や北洋方面艦隊すらも巻き込みかねない問題なのだからなおさらだ。
「ではムサシはジブラルタルを脱出した後どこへ向かうだろうか?」
「考えるまでもない。南への道が閉ざされるとすれば残りは一つ、北しか無い」
「北…私達かぁ…」
出てしまったその結論に思わず気の抜けた声が漏れる。
横須賀での暇つぶしに作ったフォーマットを使ってみたが、思ったより使い勝手が良い。
というか、普通に私がない知恵絞って考えるより遥かに効率的な気がする。
それよりも考えるべきは大西洋方面だ。
先程のログを再精査してみても特に粗は見つからなかったし、何よりこの仮説が本当だとするならば秘匿艦隊を持ち出してきたことにも納得がいく。
要は行動のための時間稼ぎ兼ビスマルクではなく秘匿艦隊の方に注目を向かせるための囮だろう。
「とりあえず、ティルピッツに連絡だけしておくか…」
そう呟いて記録を整理し始めた直後、バタンと荒々しい音を伴って部屋の扉が開かれた。
「ただいまー!」
「ただいま」
「おかえり、今日の夜ご飯はさっき…
――焦げてる!?」
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某日 太平洋南海域
「だってよ、どうする?」
「……」
「おーい、きこえてるかー?」
霧の海上封鎖によって珍しくなくなった無人島、砂粒のように点々と浮かぶその一つに彼女らは未だに錨を下ろしていた。
そんな二人のうちの一人、大戦艦レパルスは白鯨に使者として向かわせたヴァンパイアに持たせた親書から送られてきた情報に顔を強張らせていた。
親書には小型の盗聴デバイスを仕込ませており駒城とアラスカによる会話はレパルスたちに筒抜けになっていた。
「アラスカ…北洋方面艦隊が関与しているということですか」
「北洋方面艦隊ね…久しぶりに聞く名前だ」
そう答えた彼女、フランチェスコ・カラッチョロが少し前まで所属していたのは地中海方面艦隊であり、話の中心となっている北洋方面艦隊とは関わり合いがなかった。
それに関してはマレー半島沖を主な活動海域としていたレパルスにも言えることなのだが、そのあたりは生来の生真面目さの違いとも言うべきものだろう。
「そんで、結局どうするんだ? いつまでもここで野宿しているわけにもいかないだろ?」
「それは…」
「もういっそのことあの王子サマのところにでも転がり込んだら良いじゃないのか?」
「お、王子様だなんてそんな…!?」
「ヴァンパイアのお陰で正確な場所もわかったことだし、行くなら今だと思うけど?」
「そろそろ箒を投げつけますよ?」
「ひゃ~怖い怖い」
こうしたからかい合いもあの叛乱のときからもう何十回と繰り返している。
顔を器用に赤くしたレパルスが手に持った箒を振り回し、カラッチョロが笑いながらそれを避ける光景は一種の日常と化していた。
「そんでもよ―いつまでもここにいるってわけにも行かないだろ?」
「それは…そうですが…」
「だったらやっぱり王子サマのところへ――」
そこまで言ったところで、突然脳内に飛来した一通の情報にカラッチョロは言葉を止める。
同じものがレパルスにも送られているようで、振り上げていた箒を戻して押し黙っていた。
「えーと? 何々――げ、南の連中からか。ハインリヒを北米に派遣…ねぇ」
南洋方面艦隊に属する大戦艦プリンツ・ハインリヒを北米方面艦隊への支援として派遣する。
そう書かれたその通信は統合戦術ネットワークではなく、二人に直接送られてきていた。
「私達にピンポイントで送ってきたところを見るに、焚き付けてますね」
「だけど実際アレは脅威じゃないか? いくらなんでも人類の潜水艦があれを突破できるとは思えん」
いつまで経っても行動を見せないレパルスたちへの不可視のメッセージだろう。
曰く『さっさと動け』ということらしい。
あのループレヒトのことだから今もこの様子を見ているのだろう。
「……仕方ありませんね、ウェールズの追手も怖いですし、そろそろここを発つとしましょうか」
「お、今どき素直じゃないのはモテないぞっ!?」
無言、そして最低限の極めて洗練された動きでレパルスの華奢な腕から箒がカラッチョロの額に向けて投げられた。
速度にして時速165㎞。普通に凶器である。
「変なこと言ってないで行きますよ錨あげてください」
「いった……分かったよ、重力エンジン始動、進路を北に」
太平洋の地図の南端とも言える小さな島から巨大な艨艟が2つ、重々しい機関音を周囲に轟かせながら北へと歩みを始めた。
「……ん? 画像データが添付…写ってるのはハインリヒと…こりゃ何だ? まさか連中潜水艦相手に上陸戦でも仕掛けるつもりか?」
なんか三十六話の感想で色々推測を飛ばしてくれる方が多いんですが未だに正解はいませんね…
思ってるよりもマイナーなのか、はたまた私がどっかで認識を間違っているのか…
つづく…
…このネタもう思いつかねぇ
24/11/17 追記
定期試験のため更新がしばし遅れます。スマヌ…
ムサシ追撃戦、GKちゃんは?
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参加
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不参加(ティルピッツ主導)