超戦艦  Großer Kurfürst   作:U・K・Owen

51 / 65
何書いてたっけ……


第三十九話

某日 旧銚子港

 

 地球温暖化の加速に端を発した海面上昇に伴って内陸に移設されたものの霧の海上封鎖によって使用されなくなった銚子港。

 

 錆はともかくそれ以外は新造同然のクレーンをはじめとした各種設備が立ち並ぶその港は平時とは異なり、物々しいい雰囲気を醸し出していた。

 その原因として真っ先に目に入るのはライフルとプロテクターに身を包んだ文字通り完全装備の統制軍部隊であった。

 

 先日秘密裏に行われた陸軍部隊による刑部邸襲撃にも匹敵するその展開量は、これからこの場所で行われることの重大さを如実に表していた。

 しかし、展開しているのは機械化歩兵、所謂普通科と呼ばれる部隊のみであり、陸軍の花形とも言える多脚戦車『岩蟹』を多数装備した機甲部隊は確認できず、その代わりとも言うように輸送用の大型トラックが所狭しと並んでいる。

 

 そんな只事ではない様子の埠頭の端に老人と少女が並び、その向こう側の海を見つめていた。

 傍目から見れば見た目の年齢差も相まって孫を連れる祖父のようだが、その実は先述の物々しい様子に似合ったものである。

 

「こちらのレーダーでも捉えました、御報告いただいた通り()()です」

 

「そうか」

 

 タブレット型のデバイスを操作しながら現場指揮官と思われる男が老人へと声を掛けた。

 報告を受けた老人、北良寛は了承の意を短く簡潔な言葉で示すのみでその視線を動かそうとはしなかった。

 

「告知させていただいた通り、『ズイカク』と『アカギ』。それと――『コンカラー』です」

 

 統制軍側も三隻による支援だと少女――400から報告を受けてはいたが、『アカギ』『ズイカク』はともかく、最後に挙がった『コンカラー』の名は良寛の耳にも聞き馴染みがないものであった。

 先の二隻とは異なり明らかに英語圏の艦。その上先日の402の訪問時に行われた会話の中では出なかったこともあり、良寛としては400と『コンカラー』の関係性を測りかねていた。

 だが、先程の400の口ぶりからしていまいち良好とは言いきれない関係性のようだ。

 

「これから私が彼女達をエスコートします。近辺の海底地形は把握しておりますので」

 

 そう言って400は軽い音を立ててコンクリート製の地面を蹴ると海の中へと消えていった。

 その軌道は生身の人間が描けるものではなく、見ていた者に彼女が人知を超越した存在であることを否応にも実感させた。

 

<<<<<>>>>>

 

「それにしても、仲の良い『ショウカク』を出せなくてすまなかったねぇ」

 

 袖の短い巫女服のようなものを身にまとった女性、海域強襲制圧艦アカギが隣に並んで航行するズイカクへ申し訳無さそうに声を飛ばした。

 ズイカクの姉妹艦である海域強襲制圧艦ショウカクもアカギをはじめとした霧の東洋方面艦隊所属の海域強襲制圧艦の例に漏れず北方の単冠湾に停泊していたが、現在はとある理由によって動くことができない状態にいた。

 

「どこかの艦隊旗艦のおかげで今ドック入りしてるんでしょ?災難なこった」

 

 その理由こそが先日太平洋で勃発したコンゴウ率いる東洋方面艦隊第一巡航艦隊と401との戦闘中に突如行われた北洋方面艦隊による超長距離攻撃。その標的となったショウカクは撃沈こそ防いだもののクラインフィールド、及び艦の心臓とも言える重力子機関に多大なダメージを負い現在はハシラジマのドックでチョウカイの監督の元オーバーホールを行っていた。

 

「な……なんかウチの旗艦がすみません…」

 

「ふ、ふむ、すまないことをしたな」

 

 所在なさ気な二つの声とともにアカギの後方の霧中から彼女を超える巨大な艨艟が姿を現した。

 彼女こそが件の艦隊旗艦、グローサー・クルフュルストが率いる北洋方面艦隊に所属する大戦艦コンカラーのメンタルモデルであった。

 

 彼女をはじめとした北洋方面艦隊所属の艦艇にとって旗艦の突飛な行動は今に始まったことではなく、何ならコンカラーは途中参加組であるので直接は知らないが、最初期の動乱を乗り越えたティルピッツなどからすれば今回の一件はまだ生易しいとすら言えるものであったが、この場にいるコンカラーからすれば肩身が狭いことに変わりはなかっった。

 

「アカギとコンカラーはこれから東京湾なんでしょ?」

 

 一方のズイカクはあまり気に留めない様子でアカギへと話題を振った。

 その口ぶりにはある種の兵器としての無関心さが表れているのかもしれない。

 

「そう、東京湾で発電所の真似事をやれってさ」

 

 アカギの言葉通り、二隻は旧銚子港で食糧援助を行った後は送電設備が整っている東京湾岸に向かい学園祭のための電力支援を行う手筈になっていた。

 これに関しても元々はアカギ単艦で行う予定だったのだが、急遽コンカラーが参入したことにより、二隻分の設備が必要になり人類側の機器設営が予定より少し遅れたのはまた別の話である。

 

 「コンカラーの助けもあって豊漁だったので助かったよ、まさか私とコンカラーの積載可能量を超えるとは思わなかった。」

 

「あんたにデータをもらってお腹の中に作ったこれ、冷蔵庫っていうの?」

 

「そうそう、生鮮品は常温だと傷みが早くなるからね、それを遅らせる装置だよ」

 

「なるほど…冷やせば分子の運動を抑えられるもんねぇ」

 

「そういうこと」

 

 アカギとショウカクの会話を後方から聞いていたコンカラーは得心がいったという風に軽く頷くが、その脳裏には同僚の一人が氷山港の積載ブロックに停泊してクレーンによってその艦内から多数のコンテナを運び出している様子が浮かんでいた。

 

「シェーアさんが積んでるコンテナも同様のものでしょうね」

 

「そうだな、私達は漁業支援に回ることがほとんどないからこのあたりのデータは新鮮だな」

 

 アドミラル・シェーアを基幹とする漁業支援部隊は北洋方面艦隊がレイキャビクを拠点として活動を行っていた際に発足された部隊の一つであり、その古参さにより氷山港の漁業従事者からは厚い信頼を得ている。

 数年前からはアドミラル・シェーアなどの所属艦に漁業用の設備と人員を積み込んでそのまま漁に出ることが日常となっている。

 

 シェーアは大西洋側でのタシュケントの護衛役も兼任しているが、現在ピケット艦の改修が進んでおり艦隊全体のタシュケントに対する依存度が急速に減少しているためそちらの業務も減っていることもシェーアの漁船化に拍車をかけている。

 護衛役も兼ねているためもちろん冷蔵コンテナのスペースは戦闘に影響ない範囲に限定されてはいるが、それでも排水量が12,000トンを超えるシェーアの積載可能量はそれまで一般的に使用されていた漁船のそれを遥かに凌駕しており、シェーアの側としてもそれまで周辺の小舟を優先しなければならなかったのが自艦のみに迎撃能力を振ることができるため双方にとってかなりの利益があることは間違いない。

 

 もっとも、他艦隊との干渉地点は危険海域に指定されているため、漁中に攻撃を受けることは無いのだが、それでもシェーアという目に見える安心感の権化がいるのといないのとでは作業効率が大きく異なる。

 

 コンカラーはその性能故に巡航艦隊に回されることが多く、縁の下とも言えるこの様な事情についてはいまいち関与していなかった。

 

「来たよ、10時の方向400だ」

 

「こちらでも捉えました、浮上してきますね」

 

「探知早いな、気付かなかった」

 

 アカギ、コンカラー両艦のソナーアレイがこちらに向かってくる400の艦影を捉え、入港とコンテナの積み下ろしの準備を開始する。

 一方で甲板に置いた椅子に腰を掛けて釣りを楽しんでいたズイカクは二艦に少し遅れて400を探知し、いそいそと釣り針の回収を開始する。

 

「戦訓を採り入れてさ、ナチのソナーアレイを参考にこの前ソナー群の配置を変えたんだよねぇ」

 

「私もソナー配置は少し変更していますから」

 

 先述のコンゴウ戦の際、最も戦況に関わり群像が最も警戒したのは霧の艦隊の中でも卓越した探知能力を誇る重巡洋艦ナチであり、オプション艦を用いた超重力砲による狙撃で主力であるコンゴウではなくナチを攻撃したことにも表れている。

 

 他方、全方位を敵対勢力に囲まれている北洋方面艦隊において勢力の維持に最も貢献したのは間違いなくタシュケントであり、影で北海の多忙な女王と呼ばれるティルピッツと合わせて太平洋と大西洋を反復横飛びして他艦隊の侵入をいち早く補足していた。

 そもそも北洋方面艦隊において最重要とされているのは攻撃能力ではなく探知能力であり、その裏には探知さえすればグローサー・クルフュルストが共有された座標に旗艦装備による不可避の狙撃を叩き込めるある種特殊な環境による影響があった。

 

 「良いなぁ、今度教えてよ」

 

「あぁ、代わりに漁とやらを教えてもらうぞ」

 

「私達はちょっと…」

 

 コンカラーからしてみれば、旗艦は勢いでOKを出しそうだが、その後にアルカイックスマイルを浮かべたティルピッツに詰められる光景が容易に想像できたためその提案には首を縦に振れなかった。

 

 そんな会話を続けていると、三隻の前方の海面が盛り上がり、それを突き破って400が浮上した。

 

「エスコートするわ、私の航路と速度をトレースして。接岸300m手前でクラインフィールドを切ります。霧は収容作業のジャマになるから消したいわ」

 

 岸を離れたときからちゃっかり服装を変えた400が一息にそう言うと彼女のクラインフィールドと共にバイナルパターンが消失した。

 

「そもそも何でこんな事しながら入港するのさ」

 

「目眩ましが要るのよ、我々が食料を供給しているのを明かすタイミングは日本政府に一任したいの」

 

「あぁ…なるほど」

 

 単純な疑問を呈したズイカクに、単純な答えで400が返すとその意図を読み取ったアカギはどこか感嘆したように声を漏らした。

 今の情勢において霧と協力していることが判明すれば日本政府は各国だけでなく国内からも反感の声を受けることになる可能性が高い。

 それを見越して日本政府がタイミングを掴むまでこの援助は秘密裏に行われることとなっている。旧銚子港の周囲には戒厳令が敷かれ、並大抵の戦力では侵入できなくなっていた。

 

 「地上からは見え辛い地形の場所を接岸地点に選んでいるわ。絶対ではないけど、これで目撃される可能性は減るでしょう。再び銚子を出る時も一緒よ?」

 

「色々考えていますなぁ」

 

「全部総旗艦の命よ」

 

「……なるほど、あの人か」

 

 そう言ってアカギは手に持った冊子に視線を落とす。

 そこにはコトノが書いたと思しきイラストと今後の予定が所狭しと書かれていた。

 冊子の表紙には総旗艦である超戦艦ヤマトのクレストが描かれており、正真正銘総旗艦からの伝達であることを示していた

 

「本来ならこんな細かい手順まで総旗艦に考えて頂きたくはないわ、現場の事ぐらい仕切れるようになりたいものね。そこの連中みたいに」

 

「連中って……まぁ私達は色々特殊ですからね」

 

 具体的に言うと旗艦が自由奔放すぎるがあまりティルピッツをはじめとした中間管理の自主性が上がったという言い方のほうが正しいが。

 それでも戦力の要となる旗艦が太平洋に出張っている中で突発的に発生した欧州方面艦隊による攻撃を現場指揮官であるティルピッツの手腕により退けたことは評価されており、コトノが密かに目標としているメンタルモデルの到達点の一つを示すものであった。

 

「そこら辺は任せるよ、細かい事は苦手だ」

 

「海域強襲制圧艦は大らかなのが多いしねぇ」

 

 コトノのそんな心情はつゆ知らず、ズイカク曰く海域強襲制圧艦にはそうした考え方を持つ艦は少ないようで、意識改革を目指すコトノの苦労はまだまだ続きそうである。

 

「大らかと言うか大雑把と言うか……極東の打撃群首席艦としては責任を感じますなぁ」

 

 アカギは多少自分なりに頭を悩ませているようだが、随伴しているズイカクがこの調子なのを察するに上手く行っていないのだろう。

 

「おしゃべりはそこまで、クラインフィールド切って」

 

 直後、三隻の甲板上からそれぞれの紋章が消えたかと思えば、眼前に広がる濃霧が海風に薙ぎ払われるように消え去り、接岸場所がくっきりと目視で確認できた。

 

「緊張するなぁ」

 

「我々のうっかりで壊れちゃう程脆いんでしょ?人類って」

 

「気を付けて接触してちょうだい、コンカラーは心配いらないと思うけど」 

 

「一応慣れてはいますしね」

 

「前と同じでいいだろう」

 

 三隻の中で人類との接触経験が最も多いのはコンカラーであり、彼女に関しては横須賀で喫茶店を営んでいたのもあって心配はしていなかったが、今回が初接触となるアカギと何をしでかすか分からないズイカクの方である。

 

「なるほど、あれが同じ星の同居人達なわけだ」

 

 当のアカギはと言うと、光学観測機器によって捉えた岸の様子をビジョンに映し出し、何事か呟いていた。

 

 

「朝露に

 にほひ染めたる秋山に

 しぐれな降りそ

 ありわたるがね」

 

「なに?それ」

 

「大昔の日本人が詠んだ歌だって、“ずっとこの光景が続きますように”って祈りがある歌さ」

 

「博識ね」

 

「旗艦様が聞けば“素晴らしいね”とか言いそうですね」

 

「あぁ、あの人はあれで大分なロマンチストだからな」

 

「いいな、それは。うん…いいよ」

 

 400達が口々に感想を言う中、強まる風とともに、岸が近づいてくる。

 

「……そうだね」

 




めっちゃ急いで書き上げたからちょっと変なとこあるかも

つづく



…の

ムサシ追撃戦、GKちゃんは?

  • 参加
  • 不参加(ティルピッツ主導)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。