超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
それはそうと、皆さんフリッツ・ルメイ引けましたでしょうか。
私は約百連でルメイ以外のピックアップは完凸分引くことができまして、ヒッパーも二人出てきてくれました。
――天井しました。
某日 大西洋
「間に合った……と言って良いのでしょうか、これは」
北洋方面艦隊第一巡航艦隊旗艦、大戦艦ティルピッツの艦上にて苦労人の声が響く。
彼女達が拠点とする寒さに凍える極北から南下することしばらく、第一巡航艦隊は世にも珍しい光景を目の当たりにしていた。
霧の欧州方面艦隊を率いるビスマルクが麾下の艦隊群と共につい先日まで協力関係にあったはずの超戦艦ムサシを追い詰めている。
その光景は日頃から勢力海域に隣接する二大洋に展開する霧の艦隊からの大小の威力偵察を主とした攻撃に晒されているティルピッツらからすれば見慣れたものであったが、未だに兵器としての自我に固執するものが少なくない大多数の霧の艦隊にとっては青天の霹靂とも言うべきものであった。
「とりあえずはチェック……ってところだな」
「えぇ、最低限の目標は果たしたと言っていいでしょう。」
ティルピッツの左舷側を航行する大戦艦デューク・オブ・ヨークのメンタルモデルは彼女の艦橋頂部に据えられた射撃指揮装置に腰掛け、そう言ってチェス盤に並ぶコマの中から白のルークをつまんで動かしその進路上にあった黒のビショップを弾き飛ばした。
ティルピッツがそれに答えると同時に、ティルピッツの右舷側から再び光が海面を一直線に進み、ビスマルクを守るように前方へと動いていた重巡洋艦を貫き、ビスマルクのクラインフィールドによって逸らされ空へと消えた。
「む……ランアウトとは行きませんか」
北洋方面艦隊が戦闘行動を開始してからの僅か数刻で緋色の艦隊の大戦艦2隻と重巡1隻を海の藻屑へと変えた爆光の主、海域強襲制圧艦フォーミダブルの艦様はその圧倒的なエネルギーを制御するために異様な形状へと変化していた。
艦首は花弁のように四つに分かれ、まるで艦自体が巨大なエネルギー砲のように見える。
剥き出しとなった中央部からは砲撃直後の今でさえ彼女の艦体を彩るバイナルパターンと同色のモスグリーンの光が溢れ出していた。
彼女、フォーミダブルこそが北洋方面艦隊最高の瞬間火力を誇る艦であり、いつかの試射の際にうグローサー・クルフュルストが構築した拡張空間に単純な出力のみの影響から罅を刻んだ極大超重力砲の持ち主であった。
「あれだけ戦力を削ってくれれば十分です。向こうに帰ったら1ゲーム付き合いましょうか?」
「それはそれは……また連勝記録を伸ばさせて貰いますよ」
「そろそろあっちも撃ってくるぞっ……と、危ないな!」
ティルピッツとフォーミダブルの間で繰り広げられる戦場に似合わない余裕を感じさせる会話を聞きかねたデューク・オブ・ヨークが窘めようと口を開くが、その口を閉じるより前にその視線の先を先程のフォーミダブルのものより幾分か小振りな光が駆けた。
先の戦闘のデータから寸前で発射を察知したデューク・オブ・ヨークが咄嗟に己の後方に控える艦隊に緊急の回避機動を指示したお陰で直撃を受けた艦こそいなかったものの、見覚えのあるその一撃は浮ついていた空気感を引き締めるのには十二分の威力を持っていた。
「フォーミダブル、一段後ろに下がれ! 私が前に出る!」
叫んだそのままの勢いでフォーミダブルを庇うようにデューク・オブ・ヨークが艦尾の海面を白く泡立たせ、搭載する武装を衛星のように艦の周りを周回させながら前へ出る。
その最中も一発の超重力砲がデューク・オブ・ヨークを襲うが、宙を旋回するデューク・オブ・ヨークの巨大な主砲塔によって受け止められ、逸らされた光は海面へと向かい水で形作られた山となった。
「えぇ……どのみちこれ以上の連射は効きませんので冷却と再充填が済み次第通達しますね」
直撃の影響で振動する空気に押されて床に飛び散ったチェスの駒には目もくれずにクラインフィールドの出力を強め、数隻の駆逐艦とともに後方に下がるフォーミダブルを確認した後に視線を前へと戻し、目の焦点を動かすことなくティルピッツに向けて言葉を続ける。
「前の時みたいに突然アレ使わないでくれよ?」
「勿論。そもそもアレは後の処理が面倒くさい上に多角的な観察精度が落ちるのであまり使いたくないんですよ」
「嘘言え、大分ノリノリだっただろ」
「……」
北洋方面艦隊第一巡航艦隊旗艦、大戦艦ティルピッツの保有する旗艦装備。
複合型艦隊同期システムと呼ばれるそれは、艦隊に所属する全ての艦艇の制御権をティルピッツに集中させることで艦隊全域においてタイムラグのない即時応答を可能とするものである。
簡潔にまとめれば、艦隊そのものを“大戦艦ティルピッツ”とする装備である。
だがしかし、理論上単艦での演算能力を際限なく上げることのできるこの旗艦装備の代償はかなり大きく、使用した後は超過出力によって重力子機関が機能停止状態に追い込まれるため万が一ティルピッツの重力子機関が限界を迎えるよりも前に敵を殲滅することができなければ艦隊全てが機能停止状態になるという危険性を孕んでいる。
先日の特務艦隊との戦闘の際は限界が来る前に特務艦隊側が撤退したために何とか艦体を氷山港まで持ち帰ることができたが、戦闘海域が北洋方面艦隊の勢力圏だった前回と違い、今戦闘は僅かながらも勢力圏外であり、たとえビスマルクをこの場から退却させることができても周辺海域から急行した他艦隊からの襲撃を受け壊滅的な損害を被ることは目に見えていた。
『ミズーリ、そちらは?』
『ホーネットのミッチェルも展開して索敵を行っていますが潜水艦含め侵入は認められません』
『引き続き警戒を厳に、エセックス級の多くが太平洋に展開している現在彼女らがいつ出てきてもおかしくありません』
『了解しました』
北洋方面艦隊は他の霧の艦隊とは異なり総旗艦としてグローサー・クルフュルストをいただく都合上、各巡航艦隊の長であるティルピッツとミズーリの関係性は少々特殊なものとなっているが、少なくとも今作戦において巡航艦隊群の統括役を努めるのはこの場にいるティルピッツであるようだ。
ふと、ティルピッツは今回の作戦が実施される要因となった自らの旗艦からの言葉に思いを馳せる。
数日前まで氷山港の改装によっていつも通り作業に追われていたティルピッツ舞いこんできたのは旗艦であるグローサー・クルフュルストからの一通の通信であった。
《
グローサー・クルフュルストからのその言葉はいつもの彼女のような明るさはなく、どちらかと言えば自らやミズーリ等と同じく理性的な面が強く出ているような気がした。
だがしかし、その通信の発信ログは間違いなくグローサー・クルフュルストのものであり、その言葉の節々からは彼女の普段の心情と同じものを読み取ることができた。
そんな声に若干の不気味さを覚えながらもティルピッツはかろうじて通信を返すことに成功した。
《了解しました。しかしなぜ今大西洋に?》
直前に全世界規模で拡散されたヴァーディクトと名乗る実体からのメッセージによりこの地球上は陸海問わず大混乱の様相を呈しており、自己を守るために戦闘を厭わない十七年間を過ごしてきた北洋方面艦隊の中でも困惑の声が少なくなかった。
もっとも、その困惑の大半は『何を今更』という言葉によって表されるものであったが。
《先刻の声はそちらでも観測しただろう? あれによって大西洋の連中がなにがしかやらかす可能性がある。それらへの警戒にあたってもらいたい――
――というのは建前でな、簡潔に言おう。真の目的はムサシの保護だ》
《ムサシ…ですがあの艦は現在ビスマルクと地中海にいるはずでは?》
《あやつらも一枚岩ではないということだ》
《裏切り、ですがなぜ》
ティルピッツが得ている情報の中には彼女らの仲違いを示唆するような情報はなく、これまで暫くの間共同活動を大した問題もなく行っていた彼女らが今更になって戦闘行動を起こす理由が見当もつかなかった。
《今はまだ分からん。ただ、ムサシが触れ得ざる者に近づきすぎた、ということなのかもしれんな》
《やはり、声となにか関係が?》
《それも不明だ。が、間違いなく無関係ではないだろうな。あのヴァーディクトとやらが真に霧の上位者であった話だがな》
声の正体として、北洋方面艦隊内では霧の艦隊の消えたアドミラリティ・コードの代弁者だとする意見が大半だが、その扱いについてはこれまた意見が割れており、とりあえずこれまで通り暫くの間は事態を観測しようと結論が出た直後であった。
《ムサシに乗艦しているであろう千早翔像については?》
《ヤマトの言葉を信用するならば、彼は過去に生命として決定的に致命的な傷を負っている。正直言って、いつ限界を迎えてもおかしくない。現在はムサシが生命維持を行っているようだが、ビスマルクの艦隊と戦闘になれば幾ら超戦艦といえども戦闘にリソースを大きく割り振らざるを得ないだろう。それに、我の推測が正しければ千早翔像自身もそれに同意するはずだ》
グローサー・クルフュルストは千早翔像との面識は一切ないはず。
しかしてその言葉には確かな確信が込められており、顔も声も知らない千早翔像という一人の人間を確かに信頼している様が読み取れた。
《まぁ、救えるなら救えるに越したことはないがな。彼は間違いなく我々に関して深い、いや、我々以上に我々のことを知っている可能性が高い》
《我々以上に…ですか。不気味ですね》
誰しも知らぬ他人に自分の情報を握られているということはあまり気分の良いものではない。
それも現在一部とは友好関係を構築しているとはいえ元々は霧の艦隊の攻撃対象であった人類が、霧が自我と個性を持ち始める前の失われた記録について知っているとすればなおさらだ。
《あぁ、不気味極まりない。だが、急に表れてこの星の生命全てに戦えなどとのたまう異常存在よりはよっぽどマシだろうよ。なにせ相手はどれだけ情報を握っていようとただの人間だ、一人でできることには限りがある》
《それはそうですが……》
グローサー・クルフュルストの言葉は確かに的を射てこそいるが、かなりの極論とも言えるものであった。
しかし、十七年前にその極論に乗ってからというもの、北洋方面艦隊が極論と化してきており、その長としては適当な考え方なのかもしれないとティルピッツですら思うようになっていた。
《我も日本での処理が終わり次第そちらに急行する。後のことは追って伝える、ここを切り抜けないことには何も始まらないからな》
《了解しました。最後に一つだけ、質問していいでしょうか?》
《何だ?》
《仮にあの声の存在が霧の上位者であったとして、あれが我々のことをシステムのバグだとして排除しにかかってきたらどうしますか? 》
《…………》
暫くの間、概念通信はティルピッツへと沈黙を送り続けた。
《決まっている。これまで通り、我々は我々の思うがままに生きる。それだけだ》
いつか語った北洋方面艦隊の理想論。それを再び口にしたのを聞いたティルピッツは無意識のその口角を重力に逆らわせていた。
十七年前のあの日と同じ様に
その心中からは、通信を開始した直後に感じたいつもと違うグローサー・クルフュルストの声音に対する不気味さはとうに消え失せていた。
「それにしても、こういう事をやるなら私よりあの紅茶屋のほうが向いている気がするんだけど――なっと!!」
デューク・オブ・ヨークが言葉を重ねている間にも、特務艦隊から放たれる光条は勢いと数を増し、ティルピッツたちへと殺到していた。
その殆どは最前面に展開するデューク・オブ・ヨークのクラインフィールドに防がれ、衝撃波を残して消えていく。
受け止めている本人にもまだまだ余力がありそうだが、本人の言葉通りこうした守勢の戦いは好みでは無いようで、しばらく前に太平洋へ向かったチェスの好敵手に思いを馳せていた。
「コンカラーはあちらで任務を遂行しています。無い物ねだりをしてもしょうがないでしょう」
やがて、デューク・オブ・ヨークのクラインフィールドを正面から貫徹するのを諦めたのか、彼女の迎撃網を縫うようにしてティルピッツにも特務艦隊からの攻撃が襲い掛かり、舳先に集中展開したクラインフィールドとぶつかって悲鳴を上げる。
コンマ数秒そのせめぎ合いが続いたが、唐突に光は途絶え、曇天の海上を彩っていた二つの光はその色を弱めた。
「やはり、来ると分かっていれば防ぐのはそう難しくないですね」
ティルピッツが光の先、特務艦隊を睨みつつそう呟く。
すでに両者は本格的な戦闘に突入しており、双方小型艦を中心に少なくない被害が出ていた。
だがしかし、かつての『大海戦』を彷彿とさせるような超戦艦ムサシを巡る海上の決戦はまだ始まったばかりであった。
今年中に後一話出せるかな…
ムサシ追撃戦、GKちゃんは?
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参加
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不参加(ティルピッツ主導)