超戦艦  Großer Kurfürst   作:U・K・Owen

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何か作品評価の☆9のバーがちょっと青くなってるんですけど……ナニコレ(無知)


とりあえず、こんな作品に評価をしてくださっている方々に至上の感謝を


追記
ついでに感想も合計百件行ってました。本当にありがとうございます。


第四十六話

某日 氷山港

 

 凍てつく極北の大海原を優雅に漂う氷山港の一角。その外郭に位置する港湾ブロックの一つに1隻の艨艟が海上を滑るように侵入する。

 慣れた様子で接舷すると、甲板上のタラップがひとりでに持ち上がりコンクリートで舗装された埠頭への道を形作った。それと同時に港湾のスタッフを意味するオレンジ色のベストを羽織った数名の人影が手持ち用の誘導灯を手に持って詰め所から飛び出してくる。

 彼らの顔は皆一様に喜びと安堵に包まれており、霧の艦艇が人類の港に侵入している現状からは想像できないものであった。

 

 だが、北洋方面艦隊との友好関係を保有する第二レイキャビク――氷山港にとって、この光景は最早日常の一部となっていた。

 

 レイキャビクと名乗ってはいるものの、アイスランド本島に存在していた旧レイキャビクは十七年前の霧の欧州・北米方面艦隊によって行われた強襲攻撃によって少なくない被害を受け、今後さらなる攻撃が予想される都合上放棄されることが決定した。

 その後に北洋方面艦隊によって急ピッチで建造されたのがこの氷山港、第二レイキャビクであった。

 

 第四施設事件に前後して他艦隊からの攻撃頻度が大幅に減少したことを機に旧レイキャビクの復興作業も進んでおり、既に少なくない人数が自らの故郷へと帰還していた。未だアイスランド本島内の生産能力の多くが復旧できていない都合上、氷山港に存在するそれら設備の運営のために多くの人員が残っており、一種の出稼ぎ場のような形となっていた。

 

 そこで氷山港と旧レイキャビクを結ぶ海上の足となっているのが先程入港した大戦艦アドミラル・シェーアであり、彼女は以前から漁業護衛部隊の指揮を取っていたことから内部容積の余裕も多く運び役に抜擢されたという経緯があった。

 

 しかし、今回タラップを降りてくる人の数は常時とは比べ物にならないほど多く、アドミラル・シェーアの船倉からは絶え間なく足音が鳴り響いていた。

 

 これこそが港湾職員が浮かべていた表情の原因であり、現在超戦艦ムサシを筆頭に欧州情勢が不穏にありつつあり、大戦艦ビスマルクも動き出す兆候を見せているため、北洋方面艦隊の実質的な指揮権を持つティルピッツ主導のもと本島からの一時的な避難が行われていた。

 持ち込める荷物に制限を設けなかったためシェーアを筆頭に輸送を担当した面々は複数回の往復を覚悟していたが、レイキャビク市民も端からこのような事案が発生することを経験則的に予想していたのか、最小限の荷物のみが既にまとめられており、数回の輸送で済みそうだと伝えられたときは輸送部隊の中で軽い歓声が上がったという。

 

「シェーア、調子はどうですの?」

 

 乗員の上陸を済ませ、文字通り艦体の腹を割って内部に搭載したコンテナを積み下ろし始めたアドミラル・シェーアの舳先にて、指揮棒のような物を右手に持って軽く振る女性の耳に声が届く。

 

 ふと彼女が自身の左下を見ると、その先の地面にゴシック調の服装をその身にまとわせた少女がこちらを見上げていた。

 

「ん……?あぁ、君か。問題ない。全くもって問題はないとも。このまま行けば次で終わるだろう」

 

「それは重畳。こちらの受け入れ準備も大方完了しておりますわ」

 

 二人は旧知の中のように気軽に言葉を交わし、その言葉から女性が大戦艦アドミラル・シェーアのメンタルモデルであることと、少女がその見た目と裏腹にある種老練な空気を漂わせていることが察せられた。

 

「それにしても、今回はまた随分と急ですわね。……いえ、あの方はいつも急ですけれど」

 

「その通り。それに、これまで私達が直面した危機が、急でなかったことなど一度もないだろう?」

 

「……それもそうですわね」

 

 慣れっこだとでも言うように話すシェーアに数秒の逡巡の後に少女が言葉を返すと、その答えに満足したのかシェーアは搬出されるコンテナに視線を向け、指揮棒を持った右手を軽く振り上げた。同時に一際大きく艦体が切り開かれ、その内部に積み込まれていた残りのコンテナが一気に港へと積み上がる。

 

 空っぽになった艦体を閉じると、海面の泡立ちが強くなるとともにアドミラル・シェーアの機関低い唸り声を上げ、数刻前と同じように巨大な艦体が見た目に似つかわしくない滑らかさでもって海上を進み始めた。

 

「では、私はこれで」

 

「貴女に限ってそんなことはないでしょうれど、御無事で、とだけ言っておきますわ」

 

「そちらこそ、ここの守り手は君なのだからな」

 

 互いに軽口を叩きながら少女はアドミラル・シェーアを見送ると、その艦影が少女の小指と同じくらいの大きさになったところで踵を返し、港湾施設の出口へと足を進めた。

 

 施設の出入口であるフェンスゲートを抜けると、ふとすぐ横に建てられているアイスクリーム屋台が目に入った。このあたりは氷山港の玄関口ということもあってそうした店も多く、それ自体は特段おかしな話ではないのだが、少女の目を引いたのは屋台の裏側でかがんでいそいそと冷蔵設備の調整をしている人物の方であった。

 

「キアサージ?こんなところで何をしてるんですの?」

 

 キアサージと呼ばれた人物は少女の声に気がついたのか屋台の下に潜り込ませていた右手を取り出すと、立ち上がって笑みを浮かべながらいつの間に注いだのかチョコミントのアイスが入ったカップを少女へと差し出した。

 

「お嬢か、まだ準備中なんだけど……一つ食べてく?」

 

「……頂きますわ」

 

 少女は差し出されたカップと屋台の角にまとめられたプラスチック製の小さなスプーンを手に取り、アイスを口へと運んだ。

 

「割と美味しいですわね」

 

「そうだろ?最近暇なときはこの辺でこうやって店出してるんだ」

 

 思っていたよりも好みなその味に少女が舌鼓を打つと、キアサージは自慢げに両手を広げて自らの屋台について語る。

 確かにこのレベルなら昼休憩の港湾職員たちの退屈を満たすのには十分だろうと妙に納得しながら少女はスプーンをカップの更に奥まで差し込んだ。

 

「それはいいのですけれど……」

 

「大丈夫大丈夫、改修工事の件だろ?それについては万事問題ない。お嬢の装備の整備もちゃんとバッチリさ。今なら、あの火力馬鹿の超重力砲だって一撃は耐えられることを保証するぜ」

 

 火力馬鹿というのは現在ティルピッツとともに大西洋に展開しようとしている海域強襲制圧艦フォーミダブルのことを指しているのだろう。少女がキアサージに依頼したのはティルピッツが主導する改修計画に関するものと少女自身のメンテナンスであったのだが、キアサージの話を聞く限り彼女はその仕事を期待以上の精度でもって既に完了させていたようだ。

 

 キアサージは少女だけでなく北洋方面艦隊が保有する全ての特殊兵装のメンテナンスを一手に引き受けており、ティルピッツの旗艦装備についても彼女が大きく関わっていた。

 だからこそ先日の欧州方面艦隊との一戦においてティルピッツが行動不能になる寸前まで旗艦装備を酷使したと報告を受けたとき、その場にいた他の誰よりも怒り、声を荒らげてティルピッツに迫った。普段の人好みのする笑みとは対象的な表情でティルピッツの胸ぐらを掴み上げると、そこから先に叫ぶ言葉が見つからないというふうに口を空虚に動かした。

 しばらくして手を離し、一人にさせてくれとティルピッツが入渠しているドックに向かった彼女の顔を少女は未だ忘れられずにいた。

 

 暫く無言でアイスを口に運んでいると、少女の耳に聞き馴染みのある声音が響いた。音波ではなく量子によって届けられたその声は、少女たちの直面している危機が大きな足音を立てて一歩こちらに近づいてきたことを伝えた。

 

 

 

「―――了解しましたわ。この私の名にかけて、この方舟を守り抜いてみせましょう」

 

 そう言った少女は残ったアイスを一気にスプーンに乗せて口へ運ぶと、空になったカップを屋台の下に置かれたゴミ箱へ捨てた。

 

「悪いけど仕事の時間ですわよ、キアサージ。貴女も第一ドックへ向かいなさい、残念ですけれどここからは暇な時間などなくなりますわよ」

 

「……あぁ、外郭区画のパージも準備しておく。それじゃ、お先に失礼するよ」

 

「えぇ、幸運を祈りますわ」

 

 キアサージは準備をほぼ終わらせていた屋台を一瞬で片付けると、運転席のエンジンをかけて少女の視界の外へと消えた。

 

 

「本当に全く……いつだって急なお方ですわね」

 

 

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某日 横須賀 第四施設跡

 

 普段は人一人寄り付かない廃墟と成り果てた第四施設にて、すぐ近くで執り行われている学園祭の喧騒に紛れて小さな、しかし大きな意味を持つ戦闘が行われていた。

 

「チィ、タカオめ、面倒な物を!」

 

 高角砲を小型化したような武装から絶え間なく放たれる青色の光線を小さな身を捩って回避しながら、キリシマは苦悶の声を漏らす。

 彼女たちが忍び込んだ第四施設跡はその見た目と裏腹に要塞化されており、多くの武装がキリシマたちを撃退せんと待ち構えていた。

 第四施設へとつながるトンネルを抜けた直後に攻撃を受け、三手に分かれたキリシマらはそれぞれ別の相手から攻撃を受けていた。

 

 キリシマに向かってくる武装に刻まれている紋章を見る限り、それらを制御しているのは先日アタゴを捕縛する際に協力したタカオであろう。

 

「こっちはナノマテリアルが不足してるってのに……」

 

『こちらも状況は同じだ。恐らく……アタゴはタカオの側についたと見るべきだろう』

 

 通信の向こうでも時折爆発音が聞こえることからして、ハルナの側もキリシマと同様にアタゴからの攻撃に晒されているのだろう。

 タカオとアタゴの2隻、これで事前に判明していた総旗艦側の戦力は既に出揃った。だが、それらが向けられているのは手負いの大戦艦であるハルナとキリシマのみ。

 

『スィノプ、そっちはどうだ?』

 

『こちらも攻撃を受けています。出力からして……恐らく重巡クラス』

 

「やっぱり、タカオ達だけじゃないってことか」

 

 スィノプが送信してきた戦闘データから、前提として考えていた推測が当たってしまったことを理解したキリシマは思わず声を漏らした。

 スィノプは対北洋方面艦隊を念頭に置いて編制されている特務艦隊の所属艦である都合上、戦闘に関する能力はキリシマやハルナのそれを上回っている。そんな彼女を足止めできるような巡洋艦などキリシマには思い浮かばなかったが、スィノプが実際に妨害を受けている以上、少なくともタカオとアタゴ以外の有力な戦力が存在することは間違いなかった。

 

「タカオ!そっちの事情は知らんが、こんなボロボロの大戦艦相手にかかりっきりで良いのか!?」

 

 そこまで言ったところで、その口を閉じろと言わんばかりに複数の光線がキリシマに向かって放たれる。

 

 慣れた動きでそれを回避すると、第四施設の一角に足をかけてこちらを見るタカオの姿がキリシマの目に入る。その目はキリシマが最後に見たときにはなかった固く、深刻な決意に満ちていた。

 

「お前らに協力してるのが誰かは知らんが、生半可な連中じゃあスィノプを止めることはできんぞ!」

 

 光線が四方八方から降り注ぎ、そこらじゅうで爆発音が響き、人一人分のサイズがある瓦礫が軽々と宙を舞う。キリシマからしてみればたかだか大きなイベントごときでこの轟音を誤魔化すことができるのかは全くもって疑問でならないが、これまで特にここに近づく反応が見受けられない以上、402が中央管区政府と手を組んで講じた策は予定通りに機能しているらしい。

 

『侮っているのはそっちの方じゃないかしら?』

 

 概念通信を通じて、予想外にもタカオからの返答が届く。

 その声は万全の状態の大戦艦が侵入しているにしては妙に余裕のある態度で、スィノプに相対している存在が少なくとも戦力的な面では信頼に値することを感じさせた。

 

『スィノプとか言うやつについては知らないけど、同じ様なやつらを長い間―――十七年も退け続けた相手に、大戦艦一隻程度で足りるの?』

 

 十七年間。タカオの言葉の中にあったその単語を聞いて、キリシマはスィノプの前にいる者の正体に即座に思い至った。

 

 それは、ハルナが可能性は高いといいながら、内心ではありえないと、協力する理由が見当たらないとキリシマに漏らしていたたった一つの可能性。

 

「やっぱり……奴らがそっちにいるのか」

 

『奴ら……っていうのが何の事かは分からないけど、驚かないのね。私なんか、アレの正体を知ったときは声も出せなかったのに』

 

「アレ……?お前は、奴らに関して何を知ったんだ!?」

 

『全て……北洋方面艦隊の原点に、私は触れた』

 

 それきり、タカオの言葉は静かになった。

 その沈黙は、彼女が触れてしまったものの重大さを想像させるには十分なものだった。




先日交通機関をいくつも乗り継いで愛知県の名古屋市で行われた宇宙戦艦ヤマトコンサートに足を運びました。

最早……何も言うまい(最高でした)

ムサシ追撃戦、GKちゃんは?

  • 参加
  • 不参加(ティルピッツ主導)
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