超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
……モナークの専用装備どこ…ここ…?
某日 太平洋 原子力潜水艦『ハルフォード』
「全く……出来の悪い映画を見ている気分だぜ……」
静寂に包まれたCICに、一人の男の声が響く。
アメリカ海軍がその威信を賭けて送り出した最新型原子力潜水艦、オバノン級の六番艦であるこの艦の艦長を任されているその男は、憎々しげに手元のディスプレイに表示された艦影を睨みつけていた。
艦影から旧アメリカ海軍が運用していたフレッチャー級駆逐艦をモデルにしている事がわかるその霧は、周囲に上陸用の舟艇のような物を多数従えながら海面をゆっくりと移動していた。
夜の闇によってその全容は掴めないが、駆逐艦の艦首には簡素なバイナルパターンと共に三桁の数字がまるで自己の存在を高らかに宣言するように光り輝いていた。
艦番号480
フレッチャー級駆逐艦二十三番艦
『ハルフォード』
ディスプレイの画像を撮影した海上ドローンは既に破壊され、現在の海上の様子を直接的に窺い知ることは出来ないが、ドローンの破壊後にソナー員が報告する数字が徐々に減少していることからも、こちらを完全に補足していることが容易に理解できた。
数年前に突如世界中の海に出現し、手当たり次第に船を沈め続ける謎の勢力。
それらが身に纏う濃霧から霧の艦隊と名付けられた艦隊勢力による被害は今や極めて甚大なものとなっており、世界最強を誇るアメリカ海軍の屋台骨すらも危うくさせていた。
軍のお偉い方はせっせと反攻作戦の立案を行っているそうだが、男はそれがどれほどの効力を持つのかあまり期待を持てずにいた。海流に身を任せた静粛航行中の潜水艦を水平線の遥か彼方から見つけ出すような連中に通常兵器でどれだけ太刀打ちできるだろうか。加えて未確認の情報だが、奴らは着弾箇所を“消滅”させる人知を超えた兵器を運用しているらしい。
いくら世界最強といえどこの世の理を超えた軍相手に物理法則から抜け出すことの出来ない人類が対抗できるとはとても思えなかったのだ。
「艦長、どうしますか」
「……どうするもこうするもない、『ラドフォード』の連中と同じ様になりたくなけりゃあな」
ハルフォードの姉妹艦であるラドフォードは先月に定期哨戒任務に就いたきり音信不通が続いている。奇しくも今ハルフォードが航行している海域で、だ。
「奴が見つけたのがクジラかなんかだってことを全力で祈る。俺達にできることはそれだけだ。
ときに副長、普段の行いに自信はあるかね?」
「…先日実家に帰ったときに土産を買い忘れたであります」
「神様がそれを見てなきゃいいな」
空虚な冗談によってCIC内の空気が僅かに和らいだ直後、それまで静かにカウントダウンを刻むのみだったソナー員が顔をしかめて声を上げた。
「敵艦ミサイル発射!!数――まだ途切れません!!」
数秒もしないうちに、滝壺にいるような轟音がハルフォードを包み込む。
それが霧の艦隊から放たれた対潜ミサイルによるものだということは既にこの艦の全員が理解していた。
「奴さん大盤振る舞いだな! 魚雷一番から八番まで!刺し違えてでも奴を潰すぞ!!」
最早静寂を必要としなくなった艦内に男の怒号と各種警報が赤色灯の明かりとともに響き渡る。
ハルフォードが他の潜水艦より幸運だった点は霧が放った対潜ミサイルが艦体を圧し折るよりもタッチの差で魚雷の発射のほうが早かった点であろうか。
「全弾発射完了しました!!」
「ハハハ!!ザマァ見やがれ!!テメェも道連れだ!!」
直後、海中を航跡で白く染め上げるほどの対潜ミサイルがハルフォードに殺到し、仄暗い赤色の光とともに潜水艦『ハルフォード』は消滅した。
あとに残るはハルフォードがその命と引換えに発射した八発の魚雷のみだったが、一世紀前の駆逐艦程度一発で易易と粉微塵にできる破壊力を秘めたそれらは順調に駆逐艦『ハルフォード』へと向かっていた。
だが、前述したように潜水艦『ハルフォード』の幸運は魚雷の発射に成功した時点で途絶えていた。
――だからといって彼らの行動を判断ミスと責めることは出来ない。なぜなら、知らなかったのだから。
――霧が本格的に活動を開始してから間もないその時では、霧がそんな物を持っているなんて、誰も知らなかったのだから。
駆逐艦『ハルフォード』の右舷側数メートルの地点に、複数の巨大な水柱が立て続けに立ち上った。
だが、それらが着弾したのはハルフォード本体ではなく、幾何学的な模様が刻まれた光の壁であった。
潜水艦『ハルフォード』の乗組員は知る由もないが、この戦闘は霧が持つ無敵の防御機構、クラインフィールドを初めて使用した戦闘である。
水柱が時間とともに崩壊し穏やかな海面へとその姿を戻すと、ハルフォードはゆっくりとその艦首を右へ動かし、やがて海域から離脱していく。
戦闘以前まで引き連れていた舟艇は、いつの間にかハルフォードの周囲から消え去っていた。
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某日
――あれは、今思い返してみても得難い出会いであったように思う。
「え…っと、君が群像君かな? 僧君から話は聞いてるよ」
幼馴染の織部僧を通じて出会った彼女は、色々な意味で代わった人物だった。
続けてエレオノーレ・ミラ・フュルストと名乗った彼女は、欧風の顔を人懐こそうに綻ばせながら右手を差し出してきた。
彼女について僧の奴から若干内向的な研究好きと聞いていた俺はその紹介とからは想像できなかった行動に呆気にとられていると、彼女は所在なさげに視線を泳がし始めた。
「……珍しいですね、貴方がそれほど積極的になるなんて」
「せ……積極的……いや、噂の
前々から関わりのあった僧も彼女の言動に違和感を持ったのか若干面食らった様子を見せながらも声をかけてきた。少しぎこちない言葉遣いで言葉を返したエレオノーレの目線は感謝の色に満ちていた。
「学年二位って……皮肉か?」
反対に、俺の顔はかなり引き攣っていたことだろう。生憎、あの場に鏡などはなかったためにその時の自身の顔を見ることは叶わなかったが。
「いやいやいや、本当に私も僧君から紹介してもらっただけだって、それに私のほうが全然順位低いし」
「あ…あぁ……」
ともかく、普段から友人関係に頓着することがあまりなかった僧が気に入ったという言葉に偽りはなく、中々個性的な人物だった。
特に霧の艦隊に関する知識や研究に対する造詣は学園内でも随一であり、彼女自身はそれを周囲に悟らせないように動いていたようだったが、それにしては何気なしに彼女の口から飛び出す言葉が専門的に過ぎた。統制軍が開発しているらしい新型兵器――後の振動弾頭だと思われる――にも、彼女が関わった学内研究の成果が一部関わっているとさえ噂されていた。
彼女自身の運動能力も目を見張る物があったが、どちらかと問われれば彼女は間違いなく内向的な面が強く、僧や俺などの周囲の人物以外には特に自分から関わろうとしなかった。
まぁ、生来のお人好しなのか彼女は求められた助けにはほとんど応じていたので学園生からの人気はかなりの物があった。
逆に言えば、求められない限り動かない受け身的な人間のはずだった。
――だからこそ、
エレオノーレ・ミラ・フュルストは第四施設の業火の中で死んだ。
それも、顔も知らない多くの人物を助けながら。
―――その、はずだった。
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某日 ハシラジマ
「う……ん……」
401と行動するようになってからはすっかり縁の無くなったベッドの上で目を覚ます。
随分と、懐かしい夢を見ていたようだった。
「エレオノーレ……やはり君が…」
数日前、白鯨艦内に突如来訪した霧の大型巡洋艦アラスカの言葉は、数年前の俺ならば荒唐無稽と切って捨てるような物だった。霧にそんな技術があるわけ無い、と。
だが、今となってはそれを笑い飛ばす根拠を見つけ出すことが出来ずにいた。
何より、彼女がもし生きていたら。と願ってしまった。
そうすれば、
アラスカの言葉を信じるのなら、エレオノーレが霧の北洋方面艦隊の上層部に関わっているのは間違いないだろう。
霧の北洋方面艦隊
霧の艦隊の十七年前について調べようとすると、どうしてもこの単語がついて回る。学園では見ることは一切なかったが、それについてもアラスカの言う通りならば中央管区政府による情報統制ということで理由がつく。
だがしかし、それだけでは解決できない問題も多数ある。
まず、彼女と北洋方面艦隊との繋がりが不明だ。少々特徴的ではあったが一般的な学生であったはずの彼女と霧の艦隊にそこまで深い関わりがあったとは思えない。
加えて言えば、北洋方面艦隊の支配海域はその名が示す通り北極海を中心とした北の海だ。言うまでもなく、横須賀にはかすりもしていない。これに関しては直近の戦闘記録から彼女らの勢力が境界線上に構築されていた哨戒網を突破し秘密裏に南下を行っていたことが示されたが、態々見つかるリスクを払って学園に干渉する理由が思い当たらない。
次に……というかこちらのほうが大きい問題なのだが、当時の霧にそこまでの思考力はないはずだった。この事はハシラジマを管理しているチョウカイに確認を取れている。確かに霧の艦隊にメンタルモデルが実装されたのは大海戦以降のことらしい。
ならば北洋方面艦隊はなぜ叛乱なんて事を起こすことが出来たのか?
メンタルモデルを得る以前――『大海戦』の頃の霧は戦術を知らず、ただ己の持つ圧倒的な戦闘能力によって人類を押し潰すだけだった。逆に言えば人類はあらゆる策謀を弄しても霧の力押しを押し留めることが出来なかったということだが。
とにかく、あの頃の霧は本当の意味でただの機械に過ぎなかった。
メンタルモデルが実装された原因も、北洋方面艦隊との戦闘当初に手酷い損害を被ったことらしい。
だが、その事実はやはり北洋方面艦隊が叛乱を起こす以前の霧の艦隊にはメンタルモデルという存在そのものが無かったことを示している。そんな状況で北洋方面艦隊はどうやって反旗を翻したのだろうか。
「はいはい、朝ですよ」
いつの間にか部屋の扉を開けて入ってきたチョウカイがすぐ横にあったスイッチに指をかけ軽く押し込む。窓からの日光を遮っていたカーテンがするすると左右に開き、室内は朝の暖かい光に包まれた。考えてみれば、朝日とともに目を覚ますという経験も随分と久しぶりのように感じる。
「……すまない、昨夜は少し調べ込んでしまってね」
「あ〜もう、謝罪は後でいいですからとりあえず来てください。朝ご飯というものは人類にとって必要不可欠なのでしょう?」
俺がここで目を覚ましてから数日が経ち、その間の面倒は彼女に任せてしまっている。いかんせんここハシラジマは霧によって占拠された後に大小さまざまな改造が施されている上、当然この場所に人類を招くことなど想定していなかったからか、少なくとも俺が行動できる施設上層部に物理入力によって稼働する設備は殆ど残っていない。
俺の行動範囲を制限するといった意図も存在するのだろうが、幾ら何でも基地の制御系統を全て統合戦術ネットワークからの物のみにするというのは有事の際にネットワークがダウンした場合不都合が生じるのではないかと勘繰ってしまう。
元々観光施設としての側面も持っていたハシラジマの備品だったのであろう寝間着から着替えてしばらく、俺とチョウカイは屋上庭園への道を二人歩いていた。
規則正しく設置されている窓から見える外の様子は海と空を合わせて一面の蒼色で、地球という惑星の壮大さを実感させた。
「……それほど気になりますか」
「えぇ、少なくともこの状況を変え得る存在だと考えています」
「私としても話したいのは山々なのですが……何分対応に当たっている大西洋の連中があまり情報を上げてこないんですよね」
……続く問題はこれだ。現在、というか北洋方面艦隊による叛乱初期から彼女らに対し比較的積極的な行動を取っているはずの欧州方面艦隊が東洋方面艦隊を初めとしたその他の艦隊への情報共有を殆どと言っていいほど行っていない。
メンタルモデルの獲得によって霧が少しでも戦略というものを考えるようになったのであれば、敵対存在の情報というものは喉から手が出るほど欲しい存在のはずであり、その先鋒である欧州方面艦隊がその役割を放棄するとは思えない。
「……総旗艦も何も言ってきませんし……」
「………」
以前にヒュウガが言っていた通り、この件に関して霧の艦隊の総旗艦である超戦艦ヤマトは何も口にしていない。
だが、アラスカを初めとして彼女らが大手を振って動き始めたこと対してすら関わっていないことを見るに、ヤマトもヤマトで何か別の明確な目的を持っているのは間違いないだろう。
肝心のヤマトがほとんど姿を表さない以上、一気に表舞台へと躍り出た北洋方面艦隊の目的とどれほど関わっているのかは不明だ。しかし、少なくとも優先度が高いのは既に白鯨と接触している北洋方面艦隊のほうだろう。
真っ先にに目的として思い浮かんだのは401が太平洋を渡る目的である振動弾頭だが、そもそもが霧の艦隊である北洋方面艦隊に必要なものだとは思えない。人類からデータを奪って製造するよりも自前の侵食弾頭弾を用いたほうが合理的だろう。
直後、脳内に飛来した極めて単純な疑問により俺の両足はその歩みを止めた。
……まて、現在の北洋方面艦隊は
他の霧と敵対した以上通常のルートで調達することは不可能なはずだ。
主砲などから打ち出されるビームの類はともかくとして、タナトニウムを必要とする侵食弾頭兵器は重力子機関のエネルギーだけで製造することは不可能だ。
慢性的な物資不足。それが北洋方面艦隊が抱える問題だとすれば、振動弾頭に目をつける理由も自然と浮かんでくる。
当然だが振動弾頭にタナトニウムなど使用されていない。であるならば、北洋方面艦隊にとっては文字通り渡りに船と言ったところだ。
叛乱初期以降自勢力圏に引きこもり続ける不可解な行動も、武装の使用を最小限にするためのものだったのだろう。欧州方面艦隊も、適当に刺激して消費を強要し北洋方面艦隊が勝手に餓死してくれるまで必要以上の深入りはせずに静観を貫くつもりか。
だが、そうなってくるとアラスカの態度が解せない。
あのメンタルモデルは恐ろしいほどに人間臭かったが、だからこそ裏に何か抱えるような性格には見えなかった。それに、この仮説が正しかったとしてエレオノーレと北洋方面艦隊をつなぐ理由にはなり得ない。
「……? どうしたのですか?」
突然止まったことを不審に思ったのか、チョウカイがこちらに振り返って問いかけてくる。
「い…いや」
一旦そこで思考を止め、再び足を前へと進める。
今はまだ仮説に過ぎないが、これであればとりあえず多くを説明できる。
未だその全容は掴めないものの、世界は確実に大きなうねりに巻き込まれようとしていた。
真面目な話、ナノマテリアルってどこで製造してるの…?
ハシラジマでの建艦風景とかからして結構な余裕はありそうだけど……
ムサシ追撃戦、GKちゃんは?
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参加
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不参加(ティルピッツ主導)