超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
2037年 北極海
極低温により時期を問わず猛烈な吹雪と濃霧が海上を覆い尽くす北極海において、一条の光が海面を滑るように動いた。
北洋方面艦隊第一巡航艦隊に所属する駆逐艦、Z36は彼女が出し得る最大戦速でもって荒れ狂う極北の白波をかき分けながら一直線に進んでいた。
この海域は北洋方面艦隊による警戒ラインより数段内側の海域であり、通常であれば彼女のような一線級の艦隊駆逐艦が配備されるような海域ではない。
ではなぜ彼女が焦りすら感ぜられるほどに荒い航行を続けているのか。
その理由は数刻前に展開していた北洋方面艦隊全てに届けられた悲鳴の様な緊急電だった。
その内容は、北洋方面艦隊の支配海域内を絶え間なく航行し各艦隊に補給を行う補給艦の一隻が攻撃を受けたというものだった。
件の補給艦から最も近くに展開していたZ36は巡航モードに入れていた重力子機関の出力をメーターが振り切れんばかりに跳ね上げ、配備当初に想定されていた
数分後、海域に到着したZ36の観測デバイスが捉えたものは海面を覆うように広がる銀砂――ナノマテリアルと波の狭間で揺れる補給艦の残骸のみであった。
そして、これ以降北洋方面艦隊の支配海域内で同様の事案が相次ぐこととなる。
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同年 氷山港
『大海戦』での宣戦布告に端を発したレイキャビク強襲を受け予定を大幅に繰り上げて竣工した氷山港の執務室の中では、神妙な面持ちをした二人の女性が顔を突き合わせていた。
「――それで、まだ掴めないのですか」
急ピッチで完成させたために執務室と言っても簡素なものだが、眉をひそめたティルピッツの言葉はだからこそ重々しい緊張感を纏わせていた。
いや、纏っているのは緊張感というより焦燥感ではないかなどと、アドミラル・シェーアは思う。
焦燥感を纏わせ、焦燥感に駆られていた。
だが、無理もないと何処か他人事のように冷めた目で、頭を抱えるティルピッツを見下ろすシェーアは思考する。
ティルピッツが頭を悩ませるその理由こそ、普段漁船等の護衛任務に従事しているシェーアがわざわざ港から無駄に距離のある執務室へ出向いている理由でもあった。
北洋方面艦隊は――
「あぁ、だがついさっき新しい報告が入った」
「……何処ですか」
「第6戦管区だ。ナノマテリアルの輸送中だったカリエンテがやられた」
――通商破壊戦において、完全に敗北していた。
「今月に入って何隻目ですか」
「ひぃ…ふぅ……5隻目だな。そろそろここのドックも補給艦で埋まってきたぞ。キアサージの奴も大忙しだ」
正確に言えば、そろそろ、などではなく疾うの昔に被害艦はこの氷山港のキャパシティを大きく上回っていた。
整備・修理関係を取りまとめているキアサージも大忙しどころではなく、最近は見かけることすらない。
「対処の目処は?」
「残念だが……、証拠の残る実弾兵器を一切使わず、プラズマ弾による砲撃で一隻だけ沈めて消える……敵ながら惚れ惚れするな」
残されるのは緊急シャットダウンして海底に転がった補給艦のコアのみ。痕跡も、航跡すらも残さない下手人の犯行に、北洋方面艦隊は完全に振り回されていた。
「ついでに言えば、今回もいつもと同じだ」
何より問題は、攻撃が全てプラズマ弾による一撃のみにより行われているということだった。
言うまでもないが補給艦、特に北洋方面艦隊で主に運用されているシマロン級はその全長が170mに達する十分大型艦の範疇に数えられる艦である。
保有するクラインフィールドも非戦闘艦ながら相当なものであり、それを砲撃で無理やり叩き割ることができる相手となると――
「――少なくとも重巡クラスの砲火力を持っているのは間違いないんだがな。我々も総力を挙げて捜索を続けているが、いかんせん被害艦のソナーにもレーダーにも映らないとなるとな」
「……ですが、貴方がここに来たということは」
「あぁ、『対処』と言うには少し微妙だが、『捕捉』の目処は立った」
そう言ってシェーアは羽織ったロングコートの内側から一冊のファイルを取り出し、多少乱暴に机の上へ広げた。物理的なファイルなど今日日人類社会でも見かけることは少ないが、彼女がこうした物品を使用しているのは特に珍しいことでもなく、漁船の護衛部隊として北洋方面艦隊の中でも関わりが頭一つ抜けて多い彼女はこのようなある種旧世代的な品物をいつの間にか愛用するようになっていた。
乱雑に扱う様子をどこか細い目で眺めていたティルピッツがそれを手に取り、パラパラとページを繰ると、一枚の地図が目に止まった。
北極点を中心とした北洋方面艦隊の支配海域上に、赤と黒の点が入れられている。それらの点は大西洋側に集中しており、太平洋側は綺麗なままだった。
前後の文に目を通して概ねの内容を把握した上で、確認するようにシェーアへと問う。
「物理媒体を使用するならもう少し丁寧に扱ってください……これは?」
「タシュケントを呼び寄せて行った長期広域深度探査の記録だ。赤点が襲撃を受けた座標になっている。……あぁ、さっきのカリエンテの被害は記入していない。その地図で言うと……この辺だな」
ファイルをちらりとも見ずに淡々と説明したところを見るに、ティルピッツがその地図に目を留めることは予想済みだったのだろう。もう一枚同じ地図の画像を懐から取り出してとある地点を指でコツコツと叩いた。
「……で、黒の点は?」
「それはな、タシュケントの観測機器が軽度の次元震を観測した地点だ」
ファイル内の地図に執務机の端に置いていたペンでその地点を書き込んだティルピッツが訝しげに言うと、待ってましたとばかりに口端を釣り上げたシェーアがその口端を下ろすことなく答えた。
次元震、などという聞き馴染みのない単語に一瞬困惑するが、言葉のニュアンスから言って自然的に発生する事象ではないのだろう。次元的な揺れ、というと超戦艦クラスが装備しているミラーリングシステムが真っ先に思い浮かぶ。エネルギー波を別次元へと飛ばすことで超重力砲すら無力化するかの兵装は、その構造上使用後の海域に小さくない次元の揺らぎを引き起こす。
「つまり、今回の襲撃者はミラーリングシステムか、それに類するなにかを保有している。と貴方は見ているわけですか」
もしそれが真実であれば極東の島国で遊び呆けている旗艦を呼び戻すことすら視野に入れなければならない重大事態だ。何を隠そうあの兵装はグローサーや総旗艦、それにムサシといった超戦艦のみが持つものであり、言うまでもないが演算能力の観点から言っても今回想定されている重巡洋艦程度が運用できる代物ではない。
であるならば、先程挙げたような超戦艦群が何らかの形で関わっているのは間違いない。折の悪いことにグローサー以外の二隻は『大海戦』前後からきな臭い動きが多く、ヤマトに至っては霧の総旗艦の役割を放棄して失踪する始末だ。
彼女らが直接的な形で関わっているのだとすれば、戦力規模に見合わない隠匿能力にも一応説明がつくが、同時に北洋方面艦隊の勢力圏内に敵対勢力の最大戦力が何の痛痒もなく侵入していると同義であり、グローサーから北洋方面艦隊の管理を一任されているティルピッツからすれば断じて認めたくない事案でもあった。
「いや、あんな大それたものじゃない。精々次元裂傷が一つか二つできる程度だ。それにできたところで数分と持たないだろう」
それだって十分な高出力を必要とする現象ではあるが、確かにミラーリングシステムの様な文字通り異次元の兵装に比べれば格は落ちる。となれば逆に、何のためにそんなわざわざ探知されるリスクを増やすような真似をするのか理解できない―――
「――まさか」
数分の沈黙を経て、ティルピッツが地図から視線を外し愕然とした表情でシェーアへと縋り付くような、間違っていてほしいというティルピッツにしては珍しい感情が込められた声を漏らした。
「――し、しかし、そんなことが可能なのですか?」
「キアサージ曰く『適した艦から超重砲を除く通常兵装と最低限度のクラインフィールド以外の設備を取っ払った上で艦体への負荷を考えなければ可能』だそうだ」
艦体への負荷を考えない、つまりいつ兵装が暴走を起こして大規模な事象を引き起こすか分からないという訳だ。もし本当にそうだとすれば、霧の艦隊が敵対勢力である北洋方面艦隊内部へとその艦を送り込むのは理にかなっていると言える。なにせ
「……貴方はどう考えているのですか」
「可能だ。と、ウチのメカニックが言ったのなら、信じない道理はなかろう。貴殿の
キアサージが陣頭指揮を執り鋭意調整中であるティルピッツの旗艦装備はその元来の機能から一部ズレており、調整が終了すれば北洋方面艦隊内でも初の『霧によって作られた旗艦装備』になるだろう。
このことからも分かる通り、霧のメカニズムに対する彼女の理解度は群を抜いており、次は完全に自作の特殊兵装を作ってみせると息巻いていた。
もっとも、件の襲撃者のお陰で現在彼女のキャパシティは忙殺されているために調整作業をはじめとして受け持っていた業務はすべてストップしてしまっているのだが。
「というか、消去法的に言っても一番可能性が高い仮説じゃないか?」
「もし仮に
「無いこともない。黒点の横に記入した時刻を見てくれ」
そう言われたティルピッツが再び視線を下に落として地図を邪魔しないように黒点の左右に分かれて記入されている時刻が目に入る。
その間隔は常に一定であり、次元震が何者かによって意図的に引き起こされたものであるという作為性をより強く思わせるものだった。
「一時間毎……これが相手の
「加えて言えば、移動速度も極めて遅い。最終観測地点からそう広くない範囲に網を投げれば捕まえられる……かもしれない」
黒点同士の距離は霧の艦の移動速度基準から言うと短く、頻繁に
そこでふと、何か思い出したかのようにシェーアは口を開いた。
「そういえば、対外諜報に出しているUボートの報告は受け取ったか?」
北洋方面艦隊では、比較的小型のM級を内部哨戒に、比較的大型のK型やUボートⅨ型などを対外諜報にあてていた。彼女らの持ち帰る情報はそのほとんどが欧州・北米方面艦隊の移動記録であり、それらは北洋方面艦隊の安全確保の面において多大な貢献を果たしていた。
今回は襲撃の一件もあり、両艦隊から不自然に消えた艦がいないかという点に絞って調査を行っている。
「ええ、丁度これから確認するところでしたが」
「結果から言うとな、
「…は?」
シェーアの口から飛び出た言葉はティルピッツの予測とは全く逆であり、欧州方面艦隊の重巡以上の艦船に目立った移動は見られなかったという。北米艦隊も同様に定期航路を律儀に守り続けているそうだ。
「……そもそも、その情報は一体どこから――」
「U-173の奴とちょっとな。今頃、港でパンでも食べてるんじゃないか?」
「………」
眉を抑えたティルピッツの表情は伺いしれないが、とりあえず次に彼女がこの執務室に呼び出す相手は決まったようだった。
「そして…これらを合わせて考えると、襲撃者の姿も見えてくる」
「……潜水艦……ですか」
「あぁ、それも極めて特殊なタイプのやつだ」
潜水艦の砲火力といえば通常極めて貧弱であるか、水中性能に重点を置いてそもそも搭載していない艦がほとんどである。その中で重巡と同程度の砲火力を持つとなると、なるほど確かに特殊、もしくは異端の潜水艦と言えるだろう。
「そこでだ。単刀直入に聞こう、今、どれだけ出せる」
その言葉に主語はなかったが、シェーアが鉄鯨狩りの猟具を求めていることは明らかだった。
「……どれほど必要ですか」
「まずタシュケントは欲しい。それに、
「改装用のドックは?」
「キアサージとアーク・ロイヤルから許可は取ってある」
「――許可します。叩き潰しなさい」
その言葉を言い切らないうちにシェーアは踵を返すと蹴破るような轟音を立てて執務室の扉を開け、軽快な足音で廊下の先へと消えていった。
結果から言えば、シェーアとティルピッツのこの動きは徒労に終わることとなる。
駆逐艦群の対潜改装を行い始めた直後から襲撃がパタリと途絶え、北洋方面艦隊の補給路には平穏が戻ったのだ。
タシュケントにより再び行われた広域探査でもそれまでのような不自然な反応が観測されることもなく、逆に言えば先の次元震が闖入者によるものであると証明された形になるのだが、とりあえずはこれ以上の被害が補給艦と氷山港のドックを襲わなかったことに安堵することしかできなかった。
その後改装を終えた駆逐艦群は数カ月に渡って海域を走り回り下手人を探し求めたが、見つかることはなく、ただ白い航跡を海面に残すのみであった。
遅れてスマヌ……
今回の艦は珍しく構想当初から出す予定だった艦だったりする
ところで特別計画艦Ⅷ期実装が予告されましたね
個人的にウースター、ネフスキーあたりの軽巡DRが来ると予想しています。というか来ないとそろそろプリマスが過労死する。
GK……はないにしても、純粋な戦艦DRってFDGしかきてないからそのあたりも追加ありそう。ヴァマントとか
潜水艦は……経験値稼ぎクソめんどくさそう
ジャン・バールを前倒しして出した結果玉突き事故的に一つ役が余ってしまって……
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史実艦で埋め合わせ(多分アラバマになる)
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史実IF(例ツェッペリン完成)
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wowsから持ってくる