超戦艦  Großer Kurfürst   作:U・K・Owen

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か……帰ってこれた……


予想以上に早いティルピッツの登場により書き溜めが破壊されショックで離れてました


第五十二話

 某日 バルト海

 

「――あら、珍しいじゃない。貴女が此処まで上がってくるなんて」

 

 水平線より上の視界が白に染まる程濃密な霧が広がるバルト海にて、人類に代わってこの海域の支配者となったソビエツキー・ソユーズは巨大な艦体の印象とは程遠い小さな少女の様なそのメンタルモデルの顔をゆっくりとクッションから持ち上げて口を開いた。

 隣に寝る片割れはシフト外の仕事をするつもりは無いらしく、すやすやと意識を手放し続けている。

 

『……別に、任務の一環だ。ビスマルクから聞いていないのか?』

 

 揶揄った調子を込めて言ったソユーズに対し、概念通信を通して返された声はぶっきらぼうに事務的な口調を崩さないままに切り捨てた。

 

「勿論ビスマルクからは話は聞いているわよ?けどだからといって、他所の艦を安々と通すわけにはいかないのよねー」

 

 自身が腰掛けるものよりも二回りほど小さなクッションを手に抱き寄せながらソユーズは未だ姿すら現さない相手へと言葉を続ける。

 

『私と事を構える……ということか?』

 

「あーやだやだ、外洋組は本当に気が短いのね。そんなことだから手玉に取られるのよ」

 

『……何だと?』

 

 概念通信越しにもわかる()()の気配。冷えた肌を突き刺すようなそれが霧に閉ざされた水面の下から真っ直ぐに向けられるのをひしひしと感じながら、からかい甲斐のある頑固者を釣り上げた愉しみに口角を上げる。

 

「あなたの……何だっけ、クローキングデバイス?の試作品だかなんだか知らないけど、一月程度で見破られたらしいじゃない」

 

『何を馬鹿なことを。ただの対潜部隊をどれだけ増やそうとこれは捕捉できない』

 

「じゃあこの記録についてはどう思うのか聞かせてくれる?」

 

 そう言って送りつけたのは件の実地試験における通信相手の行動記録。だが、その海図には色の分けられた二本の線が入っていた。

 

「黒いのがロシアの観測結果からこちらが推測したあなたの航路、赤いのが北洋方面艦隊の鯨狩り」

 

『……何が言いたい』

 

「確かに最初の方はあなたが襲撃したポイントを北洋方面艦隊が後手後手に回っているけど……あら、離脱航路を完璧にトレースされちゃってるじゃない」

 

『北極海からは直線航路で離脱した。偶然奴らの哨戒航路と被っただけだろう』

 

「ふーん……ま、そう言われたらこっちとしては何も言えないけど」

 

 ソユーズはあの一件でこの手札の全てではないにしても七割方は対策されたと考えているが、通信相手はそうではない、むしろ対策自体が不可能だと考えているようだった。

 ただの油断なのか、それともソユーズにすら知らされていない性能があるのだろうか。

 

 そもそもの話からすれば、ソユーズはクローキングデバイスの実地試験そのものに反対の立場を表明していた。それには仮に北洋方面艦隊の支配海域での試験となった場合、観測兼非常時の救援役として自分たちが駆り出されるのが目に見えていたというのもあるが、何よりようやっと北洋方面艦隊による混乱が収束してきた当時の段階で、間違いなく一連の騒動の勝ち組である彼女らに威力偵察まがいの動きを行ってまた周囲がうるさくなることを嫌った。

 結果としては北洋方面艦隊は表面上事態を静観し、小規模の対潜部隊を輸送艦の護衛に付ける程度で済んだが、逆にその態度がこちら側を付け上がらせてしまったとも言える。

 

 

 北洋方面艦隊はいつでも潰せる。

 

 今やそんな傲慢が欧州方面艦隊のほぼ全てに蔓延していた。

 かつての人類史において敵を侮った国家がこんなはずじゃなかったと叫びながら歴史書のページに消えた例は枚挙に暇がない。

 

 恐らくそれを察知したビスマルクは先日の一件で強引に被害艦を出すことで気の引き締めを狙ったようだが……結果は芳しくなさそうだ。

 

 

「北の連中がこっちに攻め込む余裕なんて無いことぐらい、外洋組(あなた達)も分かっているんじゃないの?それなのにいらないちょっかいばっかりかけて、矢面に立たされる身にもなってほしいわ」

 

 

 

 簡単に言えば、ソユーズは苛ついていた。

 元々自身が指揮していた第四艦隊の任務から体よく逃れるために今の役を買って出たのに、最近は打って変わって実働ばかり。高慢ちきに後方で指示出しするばかりの王様気取り(ビスマルク)に不満が溜まってもおかしくはない。

 

 普段は自身の妹や副官に愚痴を漏らすことで解消していたが、折悪く妹は周囲におらず、小言の多い副官は地球の裏側ときた。そんなときに現れたビスマルクの命で動く艦、ストレスのはけ口にはこの上なく最適であった。

 

『何を言い出すかと思えば、アドミラリティ・コードに逆らう者たちを野放しにしておいていいはずがないだろう』

 

「そういうところがお固いって言っているのよ。あーはいはい、分かった分かった。で、あなたは何を言いにきたの?アイツからは伝言にて伝えるとしか回されてないのだけれど」

 

 数回言葉をかわした段階で相手がからかいすら通じないタイプだと判別すると、心底嫌そうに手をひらひらと振りながら続きを促した。

 

 声にこそ出さないが、ソビエツキー・ソユーズにとってアドミラリティ・コードなど最早どうでもいい。

 訳あって自我の形成初期の段階で『働かない喜び』を知ったソユーズの価値基準において、何もせず太陽が昇って落ちる様子をただ見る現状こそが最上であり、それを乱すものは敵味方にかかわらず等しく同価値であった。

 

『……近い内に再び大西洋に出てもらう』

 

 こちらも諦めたような声音で相手が伝えてきた内容は、ソユーズが最も面倒がる……いや、嫌悪する類のものだった。

 

「はぁ?また働けって言うわけ?」

 

『そもそも貴様らはそういう目的の部隊だろうが……』

 

「そうじゃなくて、そっちの修復は終わったのって話。この前の一件でそちらさん(第三艦隊)も被害が出たじゃない」

 

 ソユーズの言葉通り、数週間前に勃発した北洋方面艦隊との戦闘において前線を張ったのはソユーズら特務艦隊ともう一つ、フランス沿岸から南大西洋中部までを管轄する欧州方面艦隊第三巡航艦隊であり、旗艦である大戦艦リシュリューに至っては捨て駒同然の乱暴な運用で甚大な被害を被っていた。

 

『誰のせいだと――』

 

「それならビスマルクに言いなさいな、私はただ従っただけ」

 

『……リシュリュー殿の修理はもうすぐ終わる。今はジャン・バール殿とストラスブール殿が第三艦隊の指揮を執っておられる』

 

「ジャン・バールねぇ……いいわねー大型の()()()()()()()がいるところは。それも二隻も。少しぐらいこちらに回しなさいよ」

 

 特務艦隊には正規空母クラスである海域強襲制圧艦は所属していない。そもそも欧州方面艦隊で正規空母クラスを保有している艦隊はイラストリアスを筆頭としたイギリス機動部隊が主軸の高速制圧艦隊である第二巡航艦隊とダンケルクやドイッチュラントなどの比較的小型な戦艦を主軸として広範囲の沿岸海域を受け持つ第三巡航艦隊のみであり、最大派閥であると同時に英独の大戦艦が入り混じる超重打撃艦隊である第一巡航艦隊から分派した第四巡航艦隊からさらに分派した特務艦隊もまた、大型戦力が大戦艦のみという状況になっていた。

 

『それこそビスマルクに言うがいい。尤も、受理されることはないだろうがな』

 

「アイツに言うくらいならエンタープライズの奴に相談するわよ」

 

 第二次大戦中最大最強の機動部隊をそのまま受け継いでいる北米方面艦隊における海域強襲制圧艦の配備数は文字通り頭一つ、いや二つ三つほど突き抜けている。つい先日パナマ海峡を抜けて太平洋へ向かったシャングリラ、タイコンデロガと同規模の海域強襲制圧艦を二十隻以上、小型のものも含めれば百を裕に超える大艦隊を保有する彼女らであるが、平時はその多くが他艦隊へ戦力援助の名目で派遣されている。最近で言うと、大戦艦レパルスとフランチェスコ・カラッチョロを失った東洋艦隊にボノム・リシャールが回航されたことが記憶に新しい。

 

 だが、その名目上戦闘とは縁のない方面には派遣されていない。代表的なところで言うと、大戦艦プリンツ・ループレヒトが率いる南洋方面艦隊であろうか。あの艦隊は数年前に地中海から海域強襲制圧艦を一隻半ば無理やり呼び寄せたが、逆に言えばあの広大な管轄海域に対してもっとも効果的な広域制圧能力を持つ海域強襲制圧艦はそれ一隻のみだ。地理的に強大な他勢力が存在しないとはいえ、はっきり言って気の毒なレベルだ。ビスマルクの働きかけがあったとするならばよほど警戒しているようである。

 

 言うまでもないが、バルト海で錨を遊ばせていた特務艦隊に派遣する理由はなく、追加して言えばソユーズにその方面の伝手があるわけでもない。

 

「それにしても、受理されるわけがないなんて、随分と自信ありげに言うのね。なにか根拠でもあるのかしら」

 

『現在大西洋にいる第三巡航艦隊の海域強襲制圧艦はジャン・バール殿のみだからだ。手放すわけがなかろう』

 

「沿岸警備のあんたたちが遠征なんて、珍しいじゃ――」

 

 前述したように、第三巡航艦隊は沿岸警備を主眼においた部隊だ。気の遠くなるような戦力を有している第一巡航艦隊や、北米方面艦隊とは訳が違う。二隻の海域強襲制圧艦にしても、本来の配備目的は()()の管理のはず――

 

「――まさか、アレを動かしているの?」

 

『ビスマルク殿の指示だ。今頃は……インド洋のあたりだろうか』

 

「なるほど、スエズはもう抑えているってことなのね」

 

 唐突だった元地中海方面艦隊旗艦であったカラッチョロの東洋艦隊への派遣には若干の違和感を覚えていたが、旗艦の任をビスマルクの息がかかったローマに継がせることで今回の動きをスムーズにさせるためだったすれば、納得がいく。

 

 カラッチョロの性格的にも、そうした隠密行動に向いているとは言い難い。結果として特大の貧乏くじを引かされたプリンス・オブ・ウェールズには同情する。

 

「ありがとう。よく分かったわ」

 

 だとするならば、アレを地球の裏側まで持っていく理由も見えてくる。

 

(信用されてないのね、そんな怪しい動きはしていないはずなのだけれど)

 

 直近のビスマルクの言動からして、ムサシと手を切る動きに持っていこうとしているのは明白。

 戦闘が起きたときに特務艦隊が海域の封鎖に失敗し太平洋まで逃げられる可能性を危惧しているのだろう。

 

「で?私達を動かすなら、その相手くらいは教えてくれるのでしょう。そこまで秘匿っていうのなら、間違えてあなたの背中を撃ってしまうかも」

 

『――超戦艦ムサシ、その撃沈が目標だ』

 

「裏切るの? ひどい事をするのね。あの御仁、結構嫌いじゃなかったのだけれど」

 

 念の為の確認のようなものだったが、自身の予測通りの返答を聞き、相手が光学観測機器を展開していないのをいいことに口角を釣り上げたソユーズは、それを悟らせないよう残念そうに声音を落としながら言葉を続ける。

 

『千早翔像と接点はなかったはずだが』

 

「外洋組はニュースも見ないの? 中々面白いパフォーマンスだったわよ」

 

 彼が超戦艦ムサシとともに見せた壮大な示威行動はその場に集まった英国中の記者たちにより、現在利用可能な全ての情報媒体によって共有されている。見上げるほど高いムサシの舳先から純白と形容できる少女がゆっくりと舞い降りるその映像は人類最高のベストセラーに描写された画のようであった。

 

『……では、失礼する。あぁ、言うまでもないだろうが――』

 

「他言無用、そのくらい判断できるわよ」

 

 そこまで言ったところで概念通信は一方的に切断され、霧に包まれたバルト海には再び静寂が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、ソユーズは徐ろにクッションからその身を起こし、数日ぶりに両の足で金属質な床を踏みしめ、一度だけゆっくりとその美しい双眸を閉じた。

 

「ゴトランド、記録は?」

 

《ヂッ》

 

「ありがとう、今の記録はバックアップを取って残しておきなさい」

 

《ヂッ》

 

「他言無用? ええ、()()何も言ってないわよ? そもそも、秘匿事項っていうのに通常回線を使ってくるあっちが悪いのよ」

 

 先程まで話していた相手へ当たり前のように責任をなすりつけながら、再び倒れ込むように身体をクッションに沈めた。

 

《ヂヂッ》

 

「あぁ、あと今入手できているビスマルクの機密情報についても纏めておきなさい。できる限り南方のものだと尚いい……これに関しては、使わなくていいのが一番なのだけれど」

 

《ヂッヂヂ》

 

「裏切りなんて人聞きの悪いこと言わないでちょうだいな。あくまで念の為の交渉材料、私は働かないためにはなんだってする。北洋方面艦隊(勝ち馬)に黙って蹴られるわけにはいかないの」




次回こそ横須賀進めるんで許して……

あとがきに補足説明とか載せようと考えていましたが予想より長くなったので活動報告の方に投げました。こちらからどうぞ↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=330278&uid=441208

ジャン・バールを前倒しして出した結果玉突き事故的に一つ役が余ってしまって……

  • 史実艦で埋め合わせ(多分アラバマになる)
  • 史実IF(例ツェッペリン完成)
  • wowsから持ってくる
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