超戦艦 Großer Kurfürst 作:U・K・Owen
『大海戦』より1年後 ■■■
白と灰色で構成された無機質な通路を、ややくたびれたスーツを身にまとった二人の女性が歩いていた。
そこはどこかの軍事施設のような構造であったが、その割には人が少ない。彼女たちから見える範囲にいる人影は互いのものだけである。
『大海戦』の衝撃と畏怖から各国が立ち直れずにそれぞれ軍拡や内戦などの道を歩む中、軍事施設がこれほどまでに静かであることは異常以外の何物でもない。
だが、二人はそれを気にせず、まるで当然かのようにその靴の音を通路にひびかせる。
「それにしても、アメリカ……自由州連合でしたっけ。あそこがアレをよく簡単に渡しましたね。一応、栄光の象徴ってやつなんじゃないんですか?」
扉を二つか三つほど見送った所で、一人が過去を思い返しているのか視線を右上に向けながら話し始めた。その視線の先では、天井に埋め込まれた照明がやや暴力的な光を放っている。
「何、内輪揉めしてるところなんてどこも一緒だからね。それも親との戦争の真っ只中となればなおさらさ。ちょっとした軍事援助をちらつかせればこんなものだよ。それも対価として求められたのは過去の遺物というのがふさわしいはっきり言ってガラクタ。彼らが悩むまでもない」
呆れたようにひらひらと手を降ったその声からは、共感とわずかながらの憐憫を見ることができた。
「ところで、件のソレの改装はどんな調子だい?」
「新造したばかりの第八ドック使ってやってますよ。表向きにはあなたの武装メンテナンスという体で話を通してあります。工房長は内容知ってますけど」
「彼女は何て言ってたかい」
「『私たちがどれだけエンジニアに都合のいい存在か知れた』そうですよ。この前伺ったときは排水機構の刷新と機関換装のために内部のレイアウトをどう組み換えるか青紙とにらめっこしてました」
その様子を思い出したようにしみじみと語る女性は、先ほどまでの口ぶりからしてもう一人の女性の部下であるらしい。小間使いにされることも珍しくないようで、軽く閉じた瞼の裏には当時の様子が映し出されているように見えた。
「あまり変なことをしないように言っていてくれよ?アレは一応私たちの大先輩にあたるんだからね」
「局長、自由州連合は……勝てるでしょうか」
しばらく廊下を進んでいったところで部下がぽつりとつぶやく。妙に実感のこもったその言葉は、彼女の見た目から推察できる年齢からはかけ離れた歳月を感じさせるものであった。
「うん、無理だろうね。このままだと数週間後には合衆国との戦線が崩壊してあちらさんの自動歩兵が大挙して押し寄せるだろう。そしてそれは、官民問わずあらゆるものを破壊してアメリカ自由州連合という名前をただの記録の一行へと貶めるだろうね」
局長と呼ばれた女性の口からはあっけらかんとした何でもないような口調で絶望的な未来の展望が語られた。
事実、『大海戦』直後から勃発したアメリカ内戦において、アメリカ合衆国は極地にあるアラスカを除き、各地に誕生した独立勢力を保持する潤沢な工業力に裏打ちされた軍勢で一つ一つ丁寧に潰し、開戦前の姿へとその規模を戻しつつある。
「……やはり今のタイミングで
部下はこれまでに何度か行ってきた提案を再び上司へと持ち掛けるが、その答えは以前に返されたものと同じになることは部下自身も理解していた。退却自体は行動の開始時から織り込み済みだったものであり、当時の部下は特に何も言わずにそれを了承したからだ。
今になって再三問うことは部下の主義にも些か反してはいたが、それでもヒトを自称する彼女にとって、それは残酷にすぎるように思えたのだろうか。
だからこそ、これからこの場で行われるのは数日前の焼き増しであり、本来なら無意味な会話になる――と、部下は頭の冷めた部分で考えていた。
しかしながら、その予測は振り向きざまに発された言葉によって裏切られることになる。
「――この際だから言っておくけどね。君はもう少し自分の戦術的な価値を見直した方がいい」
「はい?」
唐突に説教じみた文言を浴びせられ、部下はしばしその足を止めてしまった。
それに合わせて局長も徐々に早くなっていた足を止め、体はそのままに部下へと向き直る。
「確かにボクや第一の女王様、それにアレに比べれば君の戦闘能力は劣るだろう。それに関してはどうしようもないスペックによるものだ。けどね?君はボクにとってこれ以上ないくらいに任せられる右手なのさ。実際第二の指令権限は既に大半が君のものだ」
「えぇ、まあ、そうですけど……」
目の前の女は確かにこの場でこそ局長であるが、彼女たちがその名を初めて連ねた組織において二人の関係は少々複雑なものにある。
端的に言って、部下や先ほど名前の出た『インディペンデンス』と呼ばれる存在に対する命令権は系統上では局長にあるが、システム的な命令権を持っているのは部下の方であった。つまるところ、彼女たちの関係性は旧友と呼ばれうる何かであり、先の退却指示についても局長が指示したものに沿って部下が命令を下したというのが真相である。
「そんな君を、残り数週間で瓦解することが確定的な、それまで動きがあるとも思えない場所に縛り付けておけるわけないだろう?」
「しかしそれは……」
「うん。分かってる。これはあくまでボクの私的な理由に過ぎない。これだけじゃ君をあそこから引きはがす理由にはちょっと弱いね」
そこまで言うと、彼女はおもむろに懐から一枚の写真を取り出し、部下へと手渡した。その写真には、はるか上空から撮影されたらしいどこかの荒野が写されている。そのなかに灰色の帯がいくつか見えるところを見るに、簡易的な野戦飛行場といったところだろうか。
「……合衆国が今内戦に熱核兵器を投入する兆候がある」
続けざまに明かされた情報は、まさに爆弾と言って相違ないものであった。
「正気ですか⁉内戦中とはいえ、自国の領土ですよ?自分たちが作った街ごと吹き飛ばすつもりですか⁉」
瞠目してまくしたてる部下。彼女の脳内では自身のために他を切り捨てることはともかく、もともと手足であった存在を躊躇なく焼き払う彼女らの存在以上に合理の塊ともいうべき人類の戦争倫理は受け入れがたいものだったらしい。
それを見た局長は彼女、いや、
「あぁ、間違いなくやる。そして、それを完璧に防げるという自信はない。員数外のボクを除けばあくまで出向部隊の域を出ないからね。そうなった場合、君たちは無事だろうが、周囲の部隊、それに民間人が巻き込まれる可能性が排除できない。そもそも自由州連合との契約期間もいい具合だからねぇ、ここらが後腐れなく撤退できるいい機会さ。これ以上はかえって犠牲となる人数を増やしかねない。立場上仕方ないことだけど、嫌になってくるね。こうやって損得勘定と数の大小で人間を見るのは」
「だからって……そもそも私たちが退いたところでその行動がそのままブラフとして立ち消えになるとは思えませんが」
「確証ならある。あちらさんの国防総省がはたらきかけてきた。外務も何もかもすっ飛ばしてね、どうやら連中、何が何でも私たちを退かしたいみたいだ。まだどこの勢力かは掴めてないみたいで、周囲の国家や武装勢力に手当たり次第に通達しているそうだよ。あの系統の兵器が生み出されて百年とちょっと、結局人類はアレに正面から耐えられる実用的な兵器を作り出すには至らなかったからねぇ」
何も知らないところからしたら急に自分の国に核を使う宣言をするなんて、とうとう頭おかしくなったとか思われてそうだねぇ、とけらけら笑う。曰く、先ほどの会議もそれが主な議題だったらしい。
このような面子が絡む取引で下っ端の組織ではなく国防総省が直々に動いているとなれば、その確度も推して知れようというものだった。
だが、それでも消えない疑問がいくつかある。
「なぜ、今なのですか」
彼女たちは担当する戦域において既に何度も合衆国の大規模攻勢を無に帰しており、そうした大量破壊兵器を使用する覚悟があるのならばもうとっくに使ってきているはずなのだ。
すでに合衆国があの場で失ったものの価値は、爆弾程度では取り返せないレベルに来ているのだから。
「ふむ、そうだね。これはこの国の情報部も掴んでいない情報なんだが……秘密にしておいてくれよ?
――ガブリエル、という政治家を知っているかい?」
2054年 某日 旧第四施設跡
キリシマちゃんたちとか楓首相とかはそもそも第四施設のあれこれを知らなかったからそちらの方に驚いているのを見て正直油断していたといっても間違いではない。
海上交通が閉鎖されたこの時代において、世界とは物語の舞台となる太平洋近辺がその全てと言って差し支えないものであり、その中で最たるなぞといって過言のなかった第四施設の案件を公表したところで私は既にそれを知っているし、万が一『大海戦』について触れられたとしても、当事者として十分以上の事前知識があると自負していたからだ。
だから、私は無意識のうちにこう思っていた。
――あぁ、どうせまた謎が増えるばかりで、肝心のことは特に教えてくれないんだろうなぁ。と
そう思っていたというのに。
『――それは。41億年前からの契約だ』
「――はい?」
思わずそう漏らしてしまった私の口をあまり責めないでほしい。
いい雰囲気だったじゃん。神々しい登場の仕方をして。霧の艦隊への上位権限を用いることで格の違いを見せつけて、庶民的なイケオジこと北さんとかなり緊迫した問答をして。
謎を残して帰るのにはいい感じだったじゃん。『そもそも何のために霧などというものが存在するのか』なんて物語の核心に迫る問いかけをうまい具合に受け流してミステリアスな空気を残しながら忽然と消え失せるにはいい具合だったじゃん!
なんてことを、有り余る演算能力を駆使して限界まで遅くした時間感覚の中で考える。どれぐらいかと言えばそうだな……いま私の頭からパチンコ玉を落として地面にあたるまでに十分程度の時間に感じる。どこぞの時間断層より遅く、味方なだけの外道の薬よりは早いといった感じだ。
あーもうやだなー。この先のこととか聞きたくないんだけど。ここから広がるってなったら絶対セヴァストポリ案件じゃん。世界レベルの謎ってなったらもうそのあたりじゃん。私たちが見ないふりしてた問題掘り返すのやめてくれよ。
でも、そうも言ってられないのも十二分に分かっている。
私が正真正銘の根無し草だったならばともかく、今の私には何故だかわからないけど慕ってついてきてくれる子たちがいて、守らなければならないものだってある。正直なところとっくにこの両の腕には抱えきれないものを抱えているような気がするけど、不思議なことに今のところはまだ溢れていない。
溢れていない以上、私にはそれらが零れ落ちていかないように保持する義務がある。自分だけ満足して止まるわけにはいかない。その程度の責任感は私にだってある。
それに、今の私とは何もかも、年齢も、持っている力も、環境もすべてが違う人間たちが毅然と前を、未来を睨みつけているのだ。ここで私が退いたら一人の元人間として恥ずかしい。
だから、私は知らなければならない。
なぜ霧の艦隊は人類を
なぜ霧の艦隊の出現と同時期に、
なぜ霧の艦隊に
なぜ霧の艦隊は「艦隊」などという
ジャン・バールを前倒しして出した結果玉突き事故的に一つ役が余ってしまって……
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史実艦で埋め合わせ(多分アラバマになる)
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史実IF(例ツェッペリン完成)
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wowsから持ってくる