勇者の少女たちと紡ぐ、聖剣に選ばれた剣士の物語 作:A.S マフルガ
あれから数週間後、勇者の戦いも始まっていった。
(今日は高知にある実家に戻っている。姉さんと一緒に…)
紫音はバスに揺られながら隣にいる千景に言われたことを思い返していた。
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“こんなの紫音にはさせられない”と千景は言った。
「どうしてだよ姉さん!?」
「紡木さんが仲間を失っていることから剣士の戦いはいつ命を落とすかわからない。そんな戦いを姉としてあんたにさせる訳にはいかない」
「俺だってそれはわかっている!本気なんだよ!」
紫音は反論した。
「あなたが命をかけてまでやることなの!?」
「そうだ!」
「ふざけないで!」
「ふざけてなんていない!」
「千景…」
「紫音君…」
「……」
詩織や勇者たちは二人の心配をした。
「郡千景、君の言っている通りだ。この世界は決して甘くはない。戦う者は常に命がけだ」
「…けど、剣士は詩織と紫音だけなんだ。だからこそSWORDには君の弟の力が必要なんだ。許して欲しいだなんて言わないがわかって欲しい」
陸人は千景に頭を下げてまでお願いをした。
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だが、その場では解決せず、紫音はしばらく戦うことを禁じられていた。
「はっ!はっ!はっ!」
紫音は短い木刀を二つ二刀流のように振って鍛錬をしていた。
「千景さんから止められても鍛錬は続けるんですね…」
「杏…」
紫音がいる道場に杏が差し入れを持ってやってきた。
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紫音は道場の隅で差し入れを食べた。
「私も千景さんの言っている通りだと思うよ。紫音君がもしも戦いで死ぬような事があったら…」
「……」
紫音はそのことを想像して怖がっている杏の気持ちが伝わった。
「俺は死なない。死ねないからな」
「死ねない?」
「あ、決して口だけで言ってる訳でもないよ。俺は強いし。まあ、詩織さんには敵わないけど…」
「詩織さんは大人だからね…」
「…俺にはどうしても強くならないといけない理由があるんだ。そのために本気で戦っている。正直ここで止まっているわけにはいかないんだ」
紫音は立ち上がって手のひらを握りしめた。
「えっ?」
紫音は杏に手を掴まれた。
「あ、ごめん…」
「あ、うん…」
杏は紫音から手を離した。
「………」
二人の顔は赤くなっていた。
(…まるで紫音君が紫音君じゃなくなるように聞こえた。誰かが繋ぎ止めておかないと)
杏は紫音の決意を聞いてそう思った。
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バスは高知に着き、紫音たちは実家に戻ってきた。
「あの日からこの家の中は静かね…」
「ああ…」
実家には父親どころか誰も住んでいなかった。
(あいつらが生きていた頃は特に酷かった…)
二人の父親はどうしようもないクズで妻二人にとっては母親に見捨てられて何もせずアルコールに逃げて生きていた。
「汗もかいたことだし風呂入るわよ」
「ああ」
(常に暴力の日々で男の俺があいつに殴られていた)
「いつになっても消えないのね…」
紫音の体には今も消えない傷があった。
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千景と紫音は実家を出て村を歩いていた。
「村も静かね…」
「出て来ない方がいいと思っているんだろ…」
(それにあいつらの子供だからという理由だけでこの村から否定されて生きてきた)
村の大人もその子供も二人を虐めといわんばかりの行為を行った。
(自分よりも弱い存在が欲しかったんだろうな。ただこの村の奴らはそれが強かった。自分たちこそが弱者だって気づかずにやっていた)
「あなた、私に何か隠し事してるわよね」
「……」
紫音はバレたかと黙り込んだ。
「ついて来てほしい」
紫音は千景をある場所に連れて行った。
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連れて来たのは森だった。
「ここって村の大人が謎の死を遂げたっていう…」
「ああ…」
その場所には少しだけ血のあとが残っている。
「どうして剣士をやりたいか姉さんに隠していること全て話すよ」
紫音は語り始めた。
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紫音が小学生に入りたての出来事だ。
「やめて!痛いことしないで!」
紫音は村の人間に無理やり森の奥地に連れて行かれていた。
『俺は死んだと思った』
『その時だった』
メキドが村の人間を叫ぶタイミングを与えずに倒していった。
「えっ?」
紫音の足元には血溜まりが広がる。
『あいつらが死んだ』
紫音には血のヌメッとした感覚も匂いも刺激的だったが村の人間が死んでいる現実を感じることができた。
「そうなんだ…」
『なら最初からこうすれば…今ならそう思える…』
少なくとも今のメキドに迫られている紫音にはその余裕がなかった。
『でも、メキドは俺だけになった時に急に弱り出した』
『子供の俺でも簡単に捕えることができたよ』
紫音はメキドを捕まえた。
『俺はそいつを使ってあいつらを殺した』
紫音の両親が死んだのは紫音がやったことだった。
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紫音たちは洞窟にいた。
「それがこいつだ」
紫音は奥にいるメキドを指差した。
「……」
メキドは唸りをあげることなく屍のようにそこにいた。
「っ…」
千景はその光景が奇妙に見えて吐気に襲われた。
「そうして俺はあいつを使って剣士になった」
「俺は強くなりたいんだ。村のあいつらのような弱者に虐げられることがないように、大切な人を守れるように…」
それが紫音の強くなりたい理由。
はっきり言うと壊れている。
「へぇ、そいつがお前の戦う理由とやらか」
そこにデザストが現れた。
「姉さんは下がっていて」
「…」
千景は紫音の腕を掴んだ。
「姉さん…」
「なんだ弟姉ごっこか?」
「あなたは戦ったら駄目よ。あなたが居なくなったら私は一人になるの…」
「ずっと現実から目を背けてきた。ゲームとあなたに依存していたの。その結果がこれ…」
「全て知っていたよ。だからこそ姉さんは俺が化け物になっても守らないといけない」
「全て私のため…」
千景は紫音から腕を離した。
「それに姉さんには杏たち仲間がいる。犠牲になるのは俺だけで充分だ」
紫音は剣斬に変身した。
「へへ、面白い。こうでなくちゃな!」
「蘇ったところでまた倒せば同じことだ!」
剣斬とデザストは剣と剣で激しくぶつかり合った。
「お互いに戦力は互角か」
「お前やられるたびに強くなってるのか」
「どうだ?」
「面倒だけど戦いが楽しめるのなら何だっていい!」
「はぁーっ!」
剣斬とデザストは同時に剣を振り下ろした。
「ぐっ…」
「紫音!」
ダメージの限界で変身が強制的に解除された剣斬はその場に倒れた。
「また今度遊ぼうぜ…」
デザストはこの場から逃げ出して行った。
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紫音が起きると千景の背中で揺さぶられている状態だった。
「起きたのね」
「うん…」
「ごめん、姉さんとの約束を破って戦った…」
紫音は千景に謝った。
「そうね。何か罰を与えないとね。例えば帰るまでずっとゲームに付き合ってもらうとか」
「ほどほどにね…」