『ミッション開始だ。惑星封鎖機構が設置している迎撃砲台、これを破壊する』
通信越しにご主人の声が響く。廃棄処分予定だった俺を買い込んでACに乗せるための処置までしてくれた奇特な男。彼の言葉に従い俺達は輸送ヘリから荒野へと飛び出す。
『621、お前は初陣だ。友軍機のサポートに回れ』
その言葉に先行する味方のマーカーを確認する。それぞれには617と619、そして620のナンバーが振られていた。どうやら欠けた618の代わりが俺という事らしい。…それにしても友軍機の支援とは、ご主人も随分と眠たい命令をしてくれる。
「了解、支援する」
そう返事をするのと同時に俺はアサルトブーストを実行、迎撃を警戒し地面を滑走していた味方機を一気に追い抜いた。
『621!?』
心配するなご主人、アンタの大事な飼い犬は俺が全員連れ帰る。アラートが鳴り響き、不格好な砲台から極太のエネルギーが放たれた、だが俺はそれをクイックブーストで避ける。余裕を持って動いたつもりだったがビームの残滓が僅かに装甲を掠めた。ちっ、旧式のジェネレーターとブースターは久しぶりすぎて移動距離を見誤った。
『無茶をするな、621!』
いきなり被弾しかけた俺を心配したご主人がそんな通信を飛ばしてくる。無茶をするな?そいつは先輩方に言ってくれ。攻略用に重武装を施した彼等のACは俺の機体よりも明らかに動きが鈍い。砲台に狙われたら終わりだ、絶対に避けられない。
『動力反応!』
617と記載されたウインドウからそう警告が発せられるのと同時に、着地した俺の前で地面が爆発する。厳密には下に隠れていた大型のMTが土砂を撥ね除けて飛び出してきたのだ。
『っ!特務機体だと!?』
ブリーフィングでは伝えられていなかった機体の出現にご主人も驚愕している様子だ。恐らく依頼を受けた際に伝えられていなかったのだろう。なに、独立傭兵相手の依頼なら良くある事だ。寧ろ施設の襲撃を依頼されたらそれが偽の依頼でACが5機も待ち構えていた、なんて状況に比べれば可愛い方だろう。何よりコイツは弱いしな。
『惑星封鎖機構の特務機体、カタフラクト――』
ご主人が親切にも機体紹介をしてくれようとしていたが、残念ながら悠長に聞いている暇は無い。この構成も使い慣れてはいるが、如何せん頼りになるのがパルスブレードだけなのだ。グレネードランチャーの一本も担いでいれば解説を聞いている間くらい生かしておいてやる事も出来たが、この装備では悠長な事をしていると先輩方に被害が出てしまうかもしれない。飛び出してきたカタフラクトに向かって俺は躊躇無く再びアサルトブーストで接近すると機体をぶつける。凄まじい衝撃に揺さぶられつつも俺は素早く機体を操作し、どう見ても狙ってくださいと言っているような制御ユニットらしきMTを蹴り飛ばす。そして僅かに距離が離れた瞬間、ブレードを振るって切りつけてやる。
『なんだ!?このACは!?』
傍受していた相手の通信からそんな困惑した声がした。特務機体なんて大層な名前を付けられるだけあって、向こうのパイロットは自分の機体に自信があったのだろう。だが悪いな、こっちはお前より厄介な連中を嫌になるくらい相手にしてきたんだ。機体構成が本調子でなくても負ける事は無い。
『データベース未登録!?馬鹿なっ、こんな腕利きが!?』
連続でライフルの弾が当たった敵機の頭部が拉げてもげる。センサーを失ったのが効いたのか、カタフラクトはその動きを止めてしまう。こちらの攻撃による衝撃の累積が機体の姿勢制御能力を上回ったのだ。俗にスタッガーと呼ばれる無防備な状態に陥ったカタフラクトに素早く接近し、俺は再びパルスブレードを振るった。
『コード18っ!不明機体の情報を送し――』
お務めご苦労さん、あんたらに恨みは無いがご主人と俺達の生活の為に死んでくれ。パルスブレードによって切り裂かれた装甲の隙間にライフルをねじ込み連射、敵機はまるで痙攣したかのようにその巨体を震わせると静かに脱力する。
『…特務機体、カタフラクトの撃破を確認。引き続き砲台を攻略しろ』
ご主人がそう言うが、もう趨勢は決まったようなものである。なにせ俺がカタフラクトを相手取っている間に先輩方が防衛ラインを突破しているのだ。あの砲台は強力だがその分射角は限定されている、台座まで接近してしまえば後はなぶり者にするだけだ。事実程なくして青白い放電を纏った爆炎が上がり砲台は沈黙した。
『目標の撃破を確認。皆よくやった』
少し柔らかいご主人の声を聞きつつ、俺は口角を吊り上げた。
それが俺の記憶なのか、それとも別の誰かの物なのか。そもそもこれは記憶なのかすらはっきりしない。ただ解るのはその誰かはいつも621と呼ばれていて、数えるのすら馬鹿らしくなるほどあの星、ルビコン3で死んだという事だ。密航早々に惑星封鎖機構の馬鹿でかいヘリコプターに蜂の巣にされ、現地勢力の運用していた改造採掘艦のビームに撃ち抜かれ、敵の要塞に乗り込めば巨大な戦車モドキにひき殺される。そこを超えても繰り返される死・死・死。その先に待っていたのは奇妙な出会いとご主人の本当の目的、そして残酷な選択だった。おかしい、俺は真面目に仕事をしていただけなのに、いつの間にか大規模災害の首謀者にされていたり、命を拾ってくれた恩人達を裏切って星を救ってみたり、挙げ句銀河に途轍もなくヤバイ戦闘民族な生命体を解き放ってしまったりともう滅茶苦茶である。仕事が終われば纏まった金が手に入って、人生をやり直せるんじゃなかったんですか!?
閑話休題。
ともかく俺の頭の中にはそんな情報が溺れるほど詰まっていて、おかげで新人の身でありながらACを手足のように扱える。まあ主観的に言えば数百年に渡って戦い続けているのだ、その位は出来ても不思議ではない。
「戻ったか」
輸送船のハンガーに機体を固定して這い出すと、ご主人がキャットウォークから声を掛けてくる。飼い犬思いの彼の事だ、初陣で無茶をした俺のことが心配になったのかもしれない。
「心配するなマスター、俺は平気だ」
ぶっちゃけカタフラクトなんぞ封鎖機構の機体の中では雑魚である。撃破依頼なんか来た日には嬉々として装備のカタログなんぞを開いてしまうくらいだ。だがそんな俺の気持ちは伝わらなかったようで、ご主人は苦しそうな顔をする。そしてそれを黙って見ていない者がいた。
「ちょうしにのるな、しんいり」
後ろからした声に振り返ると一人の少女がこちらを睨んでいた。
「ずいぶんとうでにじしんがあるようだが、そのまんしんでえーしーのりはかんたんにしぬぞ」
パイロットスーツを着込み、胸元にはハンドラー・ウォルターの部下を示すハウンズのエンブレムに617の文字。どうやら彼女が俺の先輩の一人らしい。
「マスター、これは?」
実は今回が初任務である上に、俺はギリギリにねじ込まれたから先輩方と生身で顔を合わせるのは初めてだったりする。通信でも高くて舌足らずなしゃべり方だとは思っていたが、何せ強化人間はその辺りが全く信用出来ない。個人の特定を避ける為なのか通信画面は基本的にエンブレムだし、声だって声帯が機能していない奴が適当なボイスデータを使っている場合もあるのだ。まあ、極希に目の前の先輩のように本物の場合もあるのだが。
「…お前の僚機の617だ。暫定ではあるがハウンズのリーダーも務めて貰っている」
その言葉に俺は嫌な予感を覚える。AC乗りなどというのは基本的に粗野で自己中心的な奴が多い。まあ銃をぶっ放して人殺しで飯を食おうなんて連中なのだからある意味当然とも言えるが、そんな連中だからこそ実力と同じくらい容姿も重要だ。端的に言えば儚げな美少女なんて人種は無条件でなめられてしまうのである。だから能力があろうと大抵リーダーなんかにはされない。
「ウォルター、お腹すいた」
「ごはんー」
俺の想像を肯定するかのように、617の後ろからこれまた美少女が現れる。アルビノのような白い肌にプラチナブロンド、光の加減で色を変える光彩が更に彼女達を幻想的な存在へと引き立てる。尤もその口から出た言葉は年相応の欠食児童のそれであったが。
「おまえたち!」
「619、620もご苦労だった。食事はダイニングに用意してある」
「ますたーも!」
成る程、ご主人は人が良いだけで無く致命的な買い物下手なようだ。どうせ彼女達もご主人が買わなければ変態趣味の玩具か部品取りにでもされていたのだろう。あと617は苦労人だ、間違いない。
「マスター、行ってくる」
そんな風に納得していると俺達と入れ替わるようにまた似たような少女がハンガーに現れた。胸元のナンバーは618、その数字に強い不快感が込み上げてくる。
「ごす…マスター、彼女は?」
「彼女は618だ」
「ん、ヨロシク新入り」
眠たげな表情で手を差し出してくる618。その時俺の脳内ではある会話がリフレインしていた。
(619と20はどうした?死んだか?)
(私が殺ったのは何番だったか…)
更に別の記憶が流れ出す。
(私が殺ったのは…、618だったか?)
(アレも悪くは無かったが――)
「マスター、618はこれから仕事か?」
手を握ったまま離さない俺に618は首をかしげるが、気にせずそう問いかける。すると少し困惑した声音でご主人が口を開いた。
「そうだ、ある友人からの私的な依頼だが――」
聞き覚えのあるフレーズに俺は確信した。ここで行かせれば彼女は死ぬ。
「俺も行く」
「駄目だ、お前は休め」
ご主人は考える素振りすら見せずにそう拒絶した。だがその返事は予想通りだ、何せこれはご主人が抱える本当の仕事に関わる作戦なのだ。戦力として把握しきれていない俺を送り込む事にリスクを感じているのだろう。だから俺はご主人の情に訴える事にした。
「人生を買い戻すには幾らかかる?俺は稼げるだけ稼ぎたい」
「…しかし」
「2機なら単純に手数は倍だ、仕事も簡単になる」
「それは新入りが足手纏いでなければだけど」
言ってくれるね。
「大丈夫だ、お前が危なかったら助けてやる」
俺の言葉に618が目を細め手に力を込める。第4世代の強化人間は身体能力も強化されているから、少女にしては中々の握力だ。尤も同様の処置を受けている俺には無意味だ。
「マスター、新人を教育する」
「待て618」
「大丈夫、ちゃんと死なない様に持って帰ってくる」
「同行者もこう言ってる。マスター」
上手く焚き付けられた事に内心ほくそ笑みながら俺は口を開いた。するとご主人は深く眉間に皺を刻み、大きく溜息を吐く。そして苦々しい声音で告げてきた。
「解った、行け」
続きません。