そんな10話。
『独立傭兵ってのは、図太ぇんだな』
「俺達に給料なんてものは無いからな」
呆れを含んだ声音で通信を入れてきたヴォルタに俺はそう返事をした。稼げる時に稼ぐ、報酬の高い方に付く。傭兵の基本である。
「G5はどうした?」
『イグアスは別働隊だ。武装採掘艦が壁の援軍に来やがったからそいつの足止めだ』
図太いと言うがそんな奴と世間話が出来るヴォルタも大概肝の太い奴だと思う。しかしそうか、ストライダーの足止めか。
「あまり向いている様には思えんが」
奴の機体構成は中近距離の射撃戦に重きを置いたものだ。それもどちらかと言えばMTやACとの戦闘を想定している様に思える。寧ろ機体構成的にはG6のレッドの方が向いているだろう。まあ、アイツはそれ以前に技量が不足しているが。
『配置に就いたな!これよりベイラム専属AC部隊レッドガンによる作戦を実施する!目標はルビコン解放戦線の防衛拠点、通称“壁”の攻略だ!行け!役立たず共!!』
形式美のようなミシガンの号令を受けMT部隊が移動を開始する。
『いくぞ!』
『おー』
別方面の攻略部隊に配置された先輩達も動き始めたようだ。さて、それじゃあ一仕事といこう。
「G4、市街地の制圧は任せる」
『あ?テメエは何するつもりだ』
そう話し掛けるとヴォルタが訝しげな声で聞いてくる。即席のコンビじゃ連携なんて望めないからな、それぞれ勝手にやる方が都合が良い。
「先にあの砲台を掃除する」
それだけ伝えると俺は機体を空中へ踊らせた。エネルギー消費効率やアサルトブーストの持続時間よりも通常時の運動性に重点を置いた俺のブースターは長距離の高速移動には向いていない。だから一気に距離を詰めるような芸当は出来ないが、そこはやりようだ。
「調子に乗れるのも今のうちだけだぞ」
壁の壁上から砲撃してくる大型の移動砲台へそう毒づきつつ素早く機体を建物の影へと隠す。砲弾が隠れた建物を粉微塵に吹き飛ばすが、それこそ望んだ状況だ。
『企業の犬め!』
爆炎と舞い上がった残骸を隠れ蓑にアサルトブーストを実行、前衛のMT部隊をミサイルで牽制しつつ一気に掘りを飛び越える。慌ててこちらに防壁上の砲台が旋回を始めるが、至近距離のACを追い切れるはずも無く砲身が向くよりも早くパルスブレードが両断した。同時にロックアラートが鳴り響き、俺は素早く市街へ飛び降りた。直後防壁上にジャガーノートの砲弾が着弾し大爆発を起こす。
『おい止めろ!砲台が損傷する!!』
まるで素人の様な台詞と共に砲撃が止む。オイオイ、そこは直ぐにMT部隊へ目標を変更する場面だろ。交差点から飛出し即座にガトリング砲台へ照準、ショットガンとミサイルで同時に2基とも破壊する。そのまま通り過ぎると後方の地面が爆ぜた。
『クソっ速い!?』
壁の外壁には対MT用の狙撃砲が並べられていて、それが撃ってきたようだ。しかし要塞化したと言う割には徹底していないな。こんな風に市街地を残していてはビルを遮蔽物に接近してくれと言っているようなものじゃないか。
『灰被りて我ら在り!死ねっ!独立傭兵!!』
叫び声と共にBAWS製の重4脚MTがビルの間から襲いかかってくる。
「嫌だね」
クイックブーストで突進を避けると、上部に装備された連装砲のマガジンへショットガンを撃ち込む。誘爆した砲弾が次々と弾け、その衝撃で連装砲も機能を停止した。これでヴォルタも少しは楽になるだろう。俺は狂ったようにガトリングをばら撒く重4脚MTを無視して壁へと跳躍、そして片端から砲台を潰していく。
『ほ、砲台が!?』
『奴を止めろ!支援砲撃無しでは前線が支えきれないぞ!?』
『何処を見ていやがる!!』
こちらの動きに釣られて浮き足だったのは致命的だった。ヴォルタのACが陸橋を突破しMT部隊へグレネードと叩き込む。そうして形成された突入口へベイラムのMT部隊が殺到した。
『突撃!』
『各機火力を集中し各個撃破!!』
落ちたな。残っていた最後の砲台を破壊しつつ俺はそう判断した。市街地に突入してしまえば壁上に陣取るジャガーノートは俯角が利かず射撃出来ないから、MT同士の殴り合いになる。ベイラムが物量に任せた作戦を前提にしていると言っても作戦に投入されるMT部隊は最低限の技量は確保されているから、碌な戦闘訓練も出来ていないルビコン解放戦線のMTでは勝ち目が無いだろう。頼みの綱である重4脚MTもヴォルタが居れば押さえ込めるだろうから、市街地に突入されてしまえばもう終わりだ。ご主人も同意見だったらしく砲台が爆発するのと同時に通信が入った。
『壁外の戦力低下を確認、残敵の掃討はMT部隊に任せろ。621、お前は壁内に侵入し壁上を目指せ』
近くの防護扉へハッキングをしかけ、俺は壁内に侵入する。同時に617から通信が入った。
『おそいぞ621、こちらもへきないのてきをはいじょしつつへきじょうへいどうちゅうだ』
無茶言うなや、こっちはソロだぞ。
『617の言う通り内部には敵が待ち構えている。閉所での戦闘を想定して動け』
そう言われてもやることは変わらない。先に見つけ、先に撃ち、先に殺す、それだけだ。
『くっ!侵入っぐあ!?』
『敵ACが侵入している!こいつ速いぞ!』
『増援要請!誰か!?』
降りた隔壁を開けて飛び込むと、思ったよりも戦力が少なかった。恐らく先行している先輩達の方へ向かったのだろう。…あっちは4機だしな。
『その近くに壁上へ繋がるリフトがあるはずだ。先の通路に補給シェルパを用意しておく』
このご主人の有能ぶりよ。てかあのシェルパ何処でも飛んでくるな、良く撃墜されないもんだ。
『最寄のゲートから壁上に出られる。行け、621』
誘導マーカーに従って近くの隔壁を開けると、突然そこへジャガーノートが突っ込んできた。噴き出しているブースターの炎が機体の装甲を舐める。てかもう戦っている?
『既に617達が交戦中だ、手伝ってやれ』
『独立傭兵共が!』
どうやら先輩達によって目の前のジャガーノートは嬲られている真っ最中らしい。折角なのでがら空きの背面をパルスブレードで切りつける。
『な!?増援だと!?』
『きたか、621』
『手間取った?お疲れ?』
左右から挟みつつ射撃を加えながら世間話の気楽さで先輩達が話し掛けてくる。閉所で戦うとしたら617の構成は非常に突破力に優れているし、万一取りこぼしても620と618がカバーするからな。そりゃ幾ら敵が少ないと言っても俺の方が遅くなると言うものだ。
『お守りが必要だったか?』
上空からプラズマミサイルを撃ち込んでいた618が横に着地しつつそう茶化してくる。要らんわい。
「さっさと片付けよう」
『はっしゃー』
俺がそう答えるのと同時にジャガーノートへミサイルが降り注ぐ。この大型機動砲台は端的に表現すれば戦車と同じだ。大火力と分厚い正面装甲は脅威だが、機動力と両立するために上面の装甲は妥協しているし、ブースター推進を採用した事で背面は全くと言って良い程防御されていない。元々の運用思想が機動砲台と言うだけあって友軍の後方から支援砲撃を行う予定だからだろう。回り込む敵は友軍に対応させるつもりだったのかもしれない。つまり奴にとって今は最悪と言える状況だ。619の放った垂直ミサイルが次々と着弾し派手な爆発を起こす。当然そんな攻撃に晒されて無事なわけもなく、ジャガーノートは瞬く間にスタッガーへと追い込まれた。うん、えげつねえな。
『何?…聞こえているか、ベイラムの偵察部隊から連絡があった。そちらへもう1機ジャガーノートが向かっている。それから連中の別働隊がストライダーの押さえ込みに失敗したらしい。後1分程でそこは奴の攻撃範囲になる』
は?
『621、お前は増援のジャガーノートを対処しろ。前衛であるこれらを失えばストライダーは後退するだろう』
ストライダー側の部隊はストライダー以外の戦力を別働隊との戦闘で失っているから単独では壁を奪還できない。つまり壁奪還の中核戦力はもう一機のジャガーノートを有する部隊だという事だ。…ん?つまりMTに護衛された奴を単独で対応しろと言われているのか?
『お守りが必要?』
「要らん」
もう一度聞いてくる618へそう言い返しつつ、俺は壁から飛び降りる。望遠モニターには派手な雪煙と共にこちらへやって来ている連中の一団が見えた。迎え撃つなら市街地前の丘陵だな。
『こちらが済み次第617達を増援に送る』
「大丈夫だ、マスター。それよりもストライダーへ圧力を掛けるべきだ」
戦略的に考えればここでストライダーを失う訳にはいかないから下がる筈だが、ルビコン解放戦線には思想活動家の様な奴も相当数見られる。特にあの艦長はその傾向が強い様に思えた。そう言う奴は利益を度外視した行動を平然と取ってくる。ならば逃げなければならない理由は用意しておくべきだ。
『解った。無理はするなよ』
ご主人の口から出る相変わらずの言葉に俺は笑みを浮かべつつ機体を加速させたのだった。
おかしい、もっとこう、駄犬がきゃっきゃうふふする話の予定だったのに…。