そんな11話。
ジャガーノートは強敵でしたね、まあMT部隊ごとソロ討伐余裕でしたが。途中友軍への誤射を恐れずにストライダーからの砲撃を始めた時は少々焦ったが、そちらも先輩達が対処してくれたことで事なきを得た。流石にAC4機に襲われては分が悪いと判断したストライダーが逃亡したのだ。いやあ、友軍が頼りになるって最高だな、腕は鈍りそうだが。
「くんれんのじかんだ、621」
ベイラムから差し入れられた甘味を囓っていたら617がドヤ顔でそんな事を言ってきた。彼女の後ろには面倒臭いと全身でアピールしている620と、それに引きずられる619、更に準備を終えて端末を弄っている618がいた。一体何が始まるんです?はい、訓練ですよね。
「アリーナに登録データがあるだろう」
「あんなうごきをとれーすしただけのでくでれんしゅうになるものか!」
先日の壁越えが評価され、先輩達も晴れてランク圏内へ昇格した。そのおかげで傭兵支援システムの提供しているアリーナと呼ばれるサービスも受けられるようになったのだが、617は非常に不満のようだった。アリーナはシミュレーション上で登録されている傭兵と戦えるシステムなのだが、確かに訓練に用いるには色々物足りないものであるのは確かだ。戦える相手は同ランク帯の相手のみだし、何よりそれは普段の戦闘データ――傭兵支援システムを利用する条件の一つとして受注したミッションのデータは全てシステムへ提出する義務がある――やアリーナでのデータを統合した仮想の相手だという事だ。動きは再現出来ても思考を再現していないから動きにアドリブが利かないし、何よりそいつが実力を普段から隠していればその低い能力で再現されてしまう。実際俺のフルマニュアル戦闘なんかはアリーナの俺では再現されていないらしい。まあ先輩達の技量が上がるのは歓迎すべきだろう、今後も仕事を受ける事は確定なのだから。ただ全員で重ショットガンを持ち出してこっちをスタッガーにした後蹴りまくるのは訓練と呼んでいいものだろうか?
「大丈夫、そっちが無礼プしなければ」
「あれは無礼た訳ではなくてだな」
1対4なんかしたら弾切れするのも当然だろう?勢い余ってブレードまでパージして殴りかかったのが余程腹に据えかねたようだ。
「いっそBASHOにでも乗り換えたら?」
BASHOとはMTで有名なBAWS製のACフレームだ、文字通りの格闘戦に重点を置いた設計でACの運動性能と火器が発達した現在では旧式と揶揄される機体である。くちさがない連中にはMTと大差ないなんて言う奴も居るが、それはこの機体を使いこなせるAC乗りが極めて限定されるからだ。馬鹿にしている連中は一度遮蔽物だらけの市街地でドルマヤンの爺とやり合ってみることをお勧めする。
「格闘性能は魅力的だがあのフレームは癖が強すぎる」
俺の言葉に620が笑いながら頷く。俺の構成は軽量機としては比較的重武装であるがそれでも中量級に比べればまだ速い。何よりブースターに頼らない跳躍を多用する身としては、あの鈍さは少々きつすぎる。まあ、経験上乗って乗れない事はないがあまり好みではない。
「仮想敵を御所望なら乗るが?」
「いや、あのきたいをちゃんとしまつするまではいい」
今始末とか言いませんでした?他の先輩達も頷いてるんじゃねえよ。
「訓練か」
そんな風にじゃれ合っているとご主人が顔を出す。
「621、仕事の依頼が来ている。617、お前達にもだ」
そう言ってご主人は一度溜息を吐く。
「617、お前達にはベイラムから捕虜収容施設防衛の依頼だ。そして621お前にはルビコン解放戦線から捕虜救出支援の依頼が来ている」
おっとぉ?
「つまりりょうじんえいからいらいがきたと?」
「どう受けるかはお前達が決めろ」
この圧倒的放任主義である。俺達は顔を見合わせて意見を交換する。
「ルビコン解放戦線は弱い、捕虜収容施設の護衛は楽な仕事になるな」
「ぎゃくにいえば、いらいをうければおおきくおんをうることができる」
「名指しの依頼、断るならベイラムとの関係は悪くなる」
俺達がセットなのは向こうも知っているからな。
「マスター、提示金額は?」
「ベイラムが30万、ルビコン解放戦線が25万だ」
決まりだな。
「ルビコン解放戦線の依頼を受けよう」
幾ら先輩達がランク下位とは言え足下を見すぎだ。三人で30万?ばら撒き依頼並の値段じゃないか。独立傭兵を安く使おうとすると言うのがどういう事かちゃんとベイラムには学んで貰おう。…それが今後の連中のためでもあるしな。
「解った、依頼内容を確認しておけ」
俺は頷くと端末を起動する。相変わらず悲壮感の漂う切羽詰まった声音で窓口の男が依頼内容を伝えてくる。というか輸送ヘリ単機で捕虜救出を強行するとか正気かコイツら?俺が受けなきゃ死にに行くようなもんじゃないか。
「…ばかか?」
「ざーんねーん」
依頼内容をのぞき込んだ617と619が正直すぎる感想を口にする。言うな、なんか悲しくなってきた。
「これ、621が受けるって確信してる?」
「解らん、案外壁で消耗しすぎたのかもしれない」
それもありそうだな。まだ連中のAC乗りは残っている筈だが一人は最高責任者だし、もう一人は構成が向いていない。あとはニンジャが居る筈だが、こいつもなかなか癖の強い構成をしていて捕虜救出には向いているとは言い難い。正直向いた構成に切り替えれば良いじゃないかと思うのだが、どうやら武装を変更して使うだけでも普通は負担が凄いらしい。先輩達ですら装備をアップグレードは出来ても全く別の種類を扱うには時間が掛かると言っていたから、これに関しては俺の方が異常なのだろう。
「一人は慣れている。問題ない」
寧ろMTとか随伴されたら護衛対象が増えるから勘弁して欲しい。そう言って依頼の一件は棚に上げ、俺達はシミュレーターへ向かうのだった。
『レイヴン、依頼受諾感謝するっ!』
ああ、うん。嬉しそうな声音にこいつらの先行きへ不安を感じずにはいられなかった。そもそも今回の捕虜が発生した遠因である壁の陥落は割と俺のせいなんだが、その辺りこいつらの脳ではどう処理されているんだろうか?まあ彼等的には引き受けてくれるだけで嬉しいのかもしれんが、独立傭兵に入れ込むのは止めておいた方がいいぞ?なんせ報酬次第で裏切るからな。
『ミッション開始だ。ルビコン解放戦線の輸送ヘリを護衛しつつ、障害を排除しろ』
言われた瞬間俺はアサルトブーストを実行する。輸送ヘリなんで馬鹿でかい上に静粛性も皆無だから接近した時点で見つかるのは避けられない。ならばどうするか?展開している部隊を全て到着前に撃破してしまえばいいのだ。
『AC!?』
『お仲間を助けに来た…レイヴンだと!?』
はい俺です。今晩は、死ね。
『総員起こせ!相手はレイヴンだ!!』
おいおい、どういう事だよ。そんなにビビり散らかす様なこと…したか。目の前でジャガーノート付きのMT部隊とか壊滅させてるしな。
響き渡るサイレン、次々と灯るサーチライト。捕虜収容施設は蜂の巣をつついた様な大騒ぎになる。宜しい、出てくるなら探す手間も省けると言うものだ。
「かかってこい、相手になってやる」
慌てて離陸を始めた警備部隊の輸送ヘリへミサイルを撃ち込みつつそう笑う。この状況でMTを運ぼうとか正気か?ローターを損傷したヘリが操縦不能に陥り地面と激突、吊していたMTは身動きが取れず爆発に巻き込まれた。
『クソ!これが“壁越え”か!?』
サーチライトを蹴り飛ばし、ついでに浮いていた大型ドローンにショットガンをぶっ放す。相手の動きを確認すると俺を包囲するように動き出している。よしよし、輸送ヘリのことがすっかり頭から抜け落ちているな。
『囲んで火力を集中しろ!』
『相手は軽量機だ!当てればいい!』
うむ、中々良い判断だ。俺の機体ははっきり言ってバランスが悪いので攻撃を食らえばあっという間にスタッガーに陥ってしまう。だから包囲してとにかく手数で押すと言うのは非常に有効な手段だ。数と質が揃えられればの話だが。
「足りないな、出直してこい」
MTの射撃性能ははっきり言ってACより低い。しかも射線が丸わかりのマシンガンやロックアラートが鳴るオートエイムのキャノンでは居眠りでもしていない限り当たることなどあり得ない。クイックブーストを使って包囲の最も厚い場所へ急接近すれば鳴り響いていたロックアラートが解除される、誤射防止の為にセーフティーが作動したのだ。目の前のMTをパルスブレードで両断するとすかさずその場で反転、射撃出来ずにまごついている連中へミサイルをプレゼントする。
『このっ!』
真横のMTが向けたマシンガンを垂直に跳躍してロックを外しつつ、お返しにショットガンをプレゼントする。綺麗に全弾が命中したMTは炎と黒煙を上げて爆発した。
『レイヴン、こちらは最後の回収ポイントへ向かう。そのまま敵を引き付けておいてくれ!』
あ、馬鹿!
『させんよ』
気負いを感じさせない声が通信に混じり、直後ヘリをリニアライフルの弾が貫いた。
『急速接近する反応を確認。これは…対象はACディープダウン、パイロットはG2ナイルだ』
『ミシガンのお気に入りらしいな。だがおいたが過ぎる、躾が必要だな』
そして損傷し火花を散らすヘリの前を塞ぐように着地すると、奴はそう言い放ったのだった。
まだウォッチポイントにすら届いていないだと?
じょ、冗談じゃっ!?