一日で超えてた。
そんな2話です。
ACと言う兵器はリーズナブルな兵器だ。こう評すると大抵の人間がバカを言うなと文句をつけるだろう。何せ一般人の月収が200~300COAM、対してACは安価な土木作業用でも凡そ600000COAMだ。これに武器を装備し戦闘では一発20COAMはする砲弾をばらまくのだから無理もない話である。だがそれでもACはリーズナブルなのだ。何せ、
〈メインシステム、戦闘モード起動〉
ACは人類が活動するあらゆる環境において戦闘可能な機動兵器だからだ。無論それらで戦うための兵器は別にも存在しているが、この値段と汎用性を両立している物は無い。
『ミッション開始、惑星封鎖機構のルビコン3監視拠点を襲撃する』
618に与えられた仕事、それはルビコン3のラグランジュ点に建造された監視拠点への襲撃だった。一見すればルビコン3へ密航するための障害排除だが、ブリーフィング内容がそうでは無いと物語っていた。
『目標は施設最奥に設置されたデータサーバー、その情報収集と破壊だ』
表向きこの人工衛星は数ある惑星封鎖機構の航路監視用拠点だ。しかし実はもう一つの役割として、惑星封鎖機構がルビコン3で収集した情報を本部へと送る中継施設なのだという。
『AC?何処の機体だ?』
『コード15、侵入者は2名』
『迎撃砲台を襲撃した連中か?』
何やら騒いでいるようだが、いつもの事なので気にせず接近しパルスブレードを振るう。高性能なLCやらHCなんて呼ばれている機体ならともかく、標準的なMTでは耐える事など不可能だ。案の定直撃を受けたMTは火花を散らしながら両断され、その場で爆発した。
「おお」
『へー』
互いの動きを見て俺達は素直に歓声を上げた。事前にご主人としていた会話はどこへやら、最初の攻撃を左右に分かれて回避した俺達はそれぞれ好き勝手に戦っている。たった今顔を合わせた俺達にコンビネーションなんてものが皆無と言うのもあるが、それ以前に俺達の役割がそういうものなのだ。
唐突だがご主人がハウンズに用意した機体はそれぞれ明確に役割分担がされている。617なら盾役、619は火力支援といった具合にだ。ACは機体構成、それこそフレームから組み替える事で様々な状況に最適化するなんて愉快な汎用性を持っているが、それはあくまで組み替えられる機構が許す限りという但書がつく。言ってしまえば同じ様に最適化した専用機に比べればあらゆる面で劣るのだ。その問題をカバーする為にご主人は敢えて汎用機であるACをチームで運用し、かつそれぞれを役割に特化させる事で対策したのだろう。
その中にあって俺と618の機体構成はライフルにブレード、そしてバックウェポンにはミサイルランチャーと独立傭兵のド定番と言える構成である。この構成の肝はどの距離でも攻撃手段を失わないという点であり、つまりは一般的な独立傭兵の普遍的な状況、戦場における状況に全て単独で対応しなければならないからこその構成だ。俺の方は初陣で適性が見極められていなかったからだろうが、618の方はこんな仕事を任されるだけの実績があってあの構成だ。つまりあっちは最初から単独で動く事を前提にしているのだ。
『悪くない』
「そっちもな」
軽口を叩き合いながら俺達は次々と障害を排除する。衛星自体がそれ程の広さで無かった事もあり、掃除は直ぐに終わった。
『その扉の先が目標のサーバールームだ』
ほぼ同時に扉の前へ到着すると、ご主人が落ち着いた声音でそう教えてくれる。成る程、つまり奴はこの先か。618のハッキングを受けて目の前の扉がゆっくりと開いていく、だが扉が開ききるよりも先に俺は機体を室内へと滑り込ませた。
『久しいな、ハンドラーうぉ!?』
暢気に話しかけてきた相手へ問答無用で斬りかかる。金属的な光沢を放つワインレッドに塗装されたAC、間違いなくあのウォッチポイントで何度も殺し合った相手だ。
『新しい犬か?猟犬と言うよりも狂犬だな』
強化人間C1-249、独立傭兵スッラ。正確な背景は把握していないが、ご主人と因縁浅からぬ間柄の人物だ。特にご主人と対立する事が多く、その手駒である俺達ハウンズにとっては積極的に殺しに掛かってくる厄介な死神だったりするのだが、俯瞰してみると別の側面も見えてくる。何度も対立し、手駒を殺しておきながらこの男はご主人を殺害しておらず、ご主人のルビコン3へ繋がる仕事には必ずと言って良い程妨害に現れる。その行動はまるでご主人の本当の仕事だけを妨害し、ご主人をルビコン3から遠ざけている様にすら見える。まあ、ご主人の人柄と押しつけられた仕事の仕上げを思えば無理からぬ行動にも思えるが。
「邪魔だ、死ね」
それはそれとして、ならばその為の手段が全て正当化されるわけではない。ご主人に幸せになって欲しいのは全く以て同意するが、その為に死ねと言われても困る。まあ、あくまで俺がそう思っただけで、あのひねくれた言動が本音の可能性だって十分有り得る。だからスッラよ、ご主人の幸せは俺とハウンズが何とかするので、安心してここで果てろ。
『この感じ、第4世代か?しかしっ』
蹴りをクイックブーストで避け、お返しにブレードをお見舞いする。奴の装備構成はバズーカにパルスガン、そしてプラズマミサイルにデトネイティングミサイル。基本戦術はパルスガンの連射で視界を奪いつつミサイルを放ちながら接近、蹴りとミサイルで相手の体勢を崩した所でバズーカを叩き込むというものだ。と言うかこの戦術に特化した機体構成だからこれ以外しようが無いとも言える。尤もこちらから強引に攻めればカウンターでバズーカの直撃を狙ってくるから、ブレードの攻撃力に頼るだけの素人に毛が生えた程度の傭兵では勝ち目は薄い。実際俺の中にも随分コイツに殺された記憶があるしな。
『貴様…危険だな』
『621!』
まだ無駄口を叩ける余裕があるか、流石だな。そんな事を考えていたのが悪かったのだろう、可愛らしい叫び声が通信に響くと同時にミサイルがスッラへと殺到する。ちょ、おま!?
『二対一では少々分が悪いか…。仕方ない』
そう言ったかと思うとスッラは大きく後ろへ後退しバズーカを構える。やべえ!
『失敗するにしても損害は最低限にしなければな』
言うやスッラは躊躇無く砲弾を発射する。激しいマズルフラッシュと共に飛び出したそれは部屋の中央に設置されていたデータサーバーを完膚なきまでに破壊する。
『ハンドラー・ウォルター、その猟犬は止めておけ』
捨て台詞と共にアサルトブーストを噴かしてスッラが逃げる。一瞬追撃も考えたが、ジェネレーターとブースターの事を考慮して諦める。あの無人兵器を持ち出されたら厄介だからだ。
「どうせまたやり合う事になる」
ご主人がルビコン3へ向かう以上、奴とぶつかるのは避けられない。ならばこちらの準備が整った後でも遅くはないだろう。
『…駄目だな、データの復旧は不可能だろう』
『マスター…』
沈んだご主人の声音に618が動揺した様子を見せた。まああのタイミングでミサイルではなく接近戦で対応出来ればスッラを逃さずに済んだだろうし、そうすればサーバーの破壊も免れたかもしれない。だが本来ならばここで彼女は死んでいた筈だし、そうなれば当然ご主人はデータを入手していないだろう。そう考えればこの結果はまあまあ上等と言えるのではなかろうか?
「マスター、ここの情報は絶対に必要か?」
『いや、可能ならば入手しておきたい程度のものだ。その意味ではミッション自体は成功と言える。ご苦労だったな、二人共』
俺の質問の意味を正確に悟ったご主人がそう言ってくれる。あからさまに安堵した618の漏らす吐息を通信越しに聞き、俺は満足して笑うのだった。
「監視施設と迎撃施設の機能が低下した事でルビコン3へのルートが開けた」
食堂でペースト状の何かを食べながらご主人がそう切り出す。強化人間である俺達と違って真面な味覚を持っているだろうに同じ物を食べるご主人に先輩達の忠誠心はうなぎ登りだ。無論俺の中のご主人ポイントも爆上がりである。
「知っての通りルビコン3は現在惑星封鎖機構によって封鎖されている。よって今までのように正規のルートで入る事は不可能だ」
言いながらご主人は端末を操作してディスプレイに懐かしい機材を映し出した。
「そこでお前達をそれぞれスリープ状態でACごと突入カプセルに搭乗させ、防衛網を強引に突破する。その後は現地にて身分を調達し活動を行う」
「身分を調達?」
620が疑問の声を上げ、横では眠そうな619が首を傾げた。そんな彼女達にご主人は丁寧に理由を説明してやる。
「俺達はそこそこ名が知れている。封鎖惑星で派手にやれば惑星封鎖機構に目を付けられ、今後の仕事に差し障る。故に我々には表向きの身分が必要になる」
つまりルビコン3で起こす問題の全てはそいつに押しつけるという話だな。ご主人としてもこれが最後の仕事になるならともかく、状況次第では今後も継続してコーラルを焼く可能性があるから、できる限りハンドラー・ウォルターの名前が広まるのを避けたいのだろう。
「ルビコン3内には独自の傭兵支援システムが稼働している事も確認している。よってランク内独立傭兵のライセンスを最低1つ確保する」
傭兵支援システムというのはその名の通り俺達のようなAC乗りをサポートしてくれる有り難い組織で、仕事のマッチングから装備の売買、弾薬や燃料の調達と仕事をする上で必要な事の大半を請け負ってくれるものだ。とは言えその存在は非常にピンキリで、複数の星系に跨がっている巨大なものから惑星一個だけに留まるローカルなものまで様々だ。今回のものは当然ながら後者になる。
「ぜんいんぶんはげんじつてきではないですね」
ちゃっかりご主人の横を占領している617が端末の情報を確認しつつそう言ってくる。ローカルなシステムと言う事はそれだけ規模が小さいという事でもある。当然登録している人数も少なくなるので該当するライセンスはかなり限られてしまうのだ。これが大規模な所ならランカーと呼ばれる登録者だけで100を超えるのだが。
「効率は落ちるが、一つあれば後は現地協力者として新しいライセンスを偽造可能だ」
ご主人はそう言って更にディスプレイへ情報を追加した。
「目標地点はベリウス南部、グリッド135の汚染市街だ。詳細は到着次第伝える、食事の終わった者からそれぞれ6時間の休息後ACに搭乗待機するように」
その言葉に全員が黙って頷く、俺も最後の一口を頬張りながらそれに倣った。今度こそあの悪夢を覆してやると、心に固く誓いながら。
ウォルター「コイツ(621)機能以外死んでる割には感情豊かだな?」
621「君のような勘の良いご主人は嫌い…になれねえ、やっぱしゅき」