ごすと先輩と時々俺   作:Reppu

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1日でry。
そんな3話。




目が覚めて最初に感じたのは無重力に対する不快感だった。デブリや密航者の船舶を迎撃する衛星砲を掻い潜る為、最低限の生命維持システム以外の動力は落ちている。そんな暗闇の中だといらん事に思考が向いてしまう。宇宙には良い思い出が無い。まあ今ある記憶で良いと言えるものの方が少数ではあるが、中でも宇宙関連は最悪だ。ルビコン3での仕事はどんな選択をしても最終的にこの宇宙で結末を迎えるのだが、その内容は反吐が出るものばかりだ。

 

「先輩達は無事抜けたかね?」

 

衛星砲はその火力に比例するようにあまり連射が利かない。そして突入カプセルは完全に自動制御なので、砲撃を避けられるかは正に運頼みになる。ただ、最初に検知される先頭が最も撃たれる可能性が高いので突入時のリスクが平等とは言い難い。なので先頭は俺が志願したのだが、617にすげなく却下された。

 

「しきかんせんとうはいくさばのならいだ」

 

いや何千年前の常識だよと思わず突っ込みたくなってしまったが、彼女の目を見て俺は役目を譲った。皆の先頭に立って進む、恐らくそれが彼女へご主人が与えた意味であり仕事なのだろう。それを奪うのはある意味死なせるよりも残酷な事だ。

 

「解った、でも死ぬなよ」

 

「ほう?しんぱいしてくれるのか?」

 

「アンタが死ぬとマスターが悲しむくらいは俺も解る」

 

「…そうだな」

 

617との遣り取りを思い出していると、シートへ体が押しつけられる感覚と共に機体が覚醒する。どうやら突入の最終フェーズに入ったようだ。

 

「さて」

 

『起きているな621、後10秒で逆噴射に入る。噴射後外装をパージしAC単体で地上構造物に侵入しろ』

 

「了解」

 

事務的にも聞こえるご主人の声に俺は安堵する。精神的動揺や感情の抑圧は見受けられない。つまり先輩達も無事突入に成功したのだろう。そんな風に暢気に構えていると激しい衝撃が突入カプセルを襲い、同時に緊急パージの文字がステータスモニターに表示される。僅かな振動と共に後方のブースターユニットが切り離された。うん、衛星砲が掠ったな、これ。俺は慌てず騒がず想定外の衝撃に軌道のぶれた突入カプセルの状況を確認する。しかしこのユニット、どこ製か知らんがちょっと安全面を軽視してませんかね?減速をブースターだけで行うのは百歩譲るが、突入用なんだからある程度被弾する事は想定されているだろうに。

 

「姿勢制御実行」

 

コンソールを操作し細かくブースターを点火、突入軌道を再調製する。普通こういうのは姿勢制御に複数の機構を用意して然るべきじゃないかね?まあガワも中身をも使い捨てだからそんなコストを掛けたくないというやつかもしれんが。そうこうしている内に再び突入カプセルに衝撃が走る。また掠ったか、あまり砲撃精度は良くないみたいだな。エアが操っていた時はもっと正確だったんだが。

 

「パージ」

 

コントロールスティックを握りながら音声入力で突入カプセルを排除する。その途端大気に嬲られ機体が暴れた。そういえばラスティやホンモノはアサルトブーストで器用に飛び回っていたが、あれも中々凄い技術だよな。普通に人型なんて空を飛ぶのには全く向いていないACでよくもまあと言いたい。というかあの長時間噴かし続けられるブースターとジェネレーターって何積んでんだ?

 

『621いいぞ、そのまま前方の構造物に侵入しろ』

 

侵入と言うか墜落に近いっすけどね、ご主人。

 

「了解」

 

返事をしながら俺は殆ど減速せずに構造物へと突っ込む。接触前に一度ステータスモニターを見て、機体が通常モードになっているのを改めて確認する。通常モード、ACには幾つかの設定パターンがあるが、特に有名なのはこの通常モードと戦闘モードだろう。ACに使われている装甲はエネルギー転換装甲と呼ばれる特殊なもので、供給されるエネルギーによって防御力が変動する様になっているのだが、通常モードはこれを装甲の上限一杯まで供給するモードだ。武器は使えないし移動速度も極端に低下するが、その分防御力は折り紙付きだ。まあそれでも宇宙戦艦の装甲をぶち抜く様な衛星砲やらには耐えられないが。巨大構造物の階層を複数突き破りつつ、それを減速機代わりにしてACが着陸する。周辺は割と酷い事になっているしAPが多少削れたが、俺の機体には傷一つ無い。うむ、密航の第一段階は成功だな。

 

『無事だな621。…予定座標から少しずれたが許容範囲内だ。移動を開始しろ』

 

しかし何度やってもここに降りるのは変わらないんだな。となるとやはり今回もあのライセンスを拾うのだろう。

 

『当該の汚染都市では数日前に企業と原住民の武装組織による戦闘が発生している。ACの投入も確認されているから、これの捜索を先ず目標とする』

 

「了解」

 

素早く機体を瓦礫の中から起こすと誘導マーカーに従って構造物内を駆け抜ける。途中無人のガードメカやMTを見かけるが殆ど無視して目的地を目指しているとご主人から通信が入った。

 

『手慣れているな621。そういえば以前も傭兵だったか』

 

そう声を掛けられ困ってしまう。強化手術のせいなのかそれともこのルビコンの記憶のせいなのかは解らないが、強化前の記憶というものが俺は酷く曖昧だ。広大な地下都市で傭兵をしていた気もするし、別の星で戦っていたような気もする。ACに似た超兵器を操っていたかもしれないし、汚染された星でやっぱり戦っていたようにも思う。うん、戦ってばっかだな。

 

「すまないマスター、覚えていない」

 

エアの事ですら幻聴扱いだったからな。こんな事を真面目に言われてもご主人も困ってしまうだろう。

 

『…そうか。621、この惑星でコーラルを手に入れれば、お前のような脳を焼かれた傭兵も人生を買い戻すだけの大金が手に入るはずだ』

 

気遣ってくれるご主人の言葉に俺は沈黙するしかなかった。はっきり言ってあやふやな過去なんて今の俺にはどうでも良いからだ。そんな俺がここに居る理由はただ一つ、この惑星に関わる巫山戯た全ての結末を台無しにするためだ。

 

「ああ」

 

短くそれだけを口にして先へと進む。

 

『その先にあるカタパルトを使え、それで帳尻が合う』

 

最早数える事すら馬鹿らしいほどの回数を重ねた手順で機体をカタパルトに接続、汚染市街へ向けて飛び立つ。眼下に広がる鈍色の世界。凡そ半世紀ほど前に起きたコーラルによる災害でルビコン3の環境は滅茶苦茶になっているそうだ。暫くするとそんな景色の向こうに都市が見え始める。そして通信が一気に騒がしくなった。

 

『あったー』

 

『照会する。企業所属は足が着く、それは駄目だ619』

 

『ウォルター、見つけた』

 

『…独立傭兵モンキー・ゴード。ランク圏外だ、目当てのものではない』

 

『むー』

 

『ますたー、これはどうだ?』

 

『少し待て』

 

『適当な独立傭兵を襲撃した方が早くない、マスター?』

 

618が何気に冴えた案を出しているが、残念ながらこのルビコンでは通用しない。何せここに居る独立傭兵はどいつもこいつも問題を抱えた奴ばかりだからだ。現地犯罪者集団の一員だったり、借金を重ねまくり企業やご同業から賞金首扱いされていたり、はたまた裏で暗躍する組織の紐付きだったりだ。ホント碌な奴が居ないな!?

 

『それは最終手段だ、618。到着したな621、お前の近くにACの残骸反応がある。調べられるか?』

 

「了解」

 

やはり今回も同じ位置に捨てられていたACの残骸へと近付くと、俺はハッキングを開始する。

 

『登録番号、Rb23。傭兵ランク圏内。登録名は――』

 

そんなご主人の声を聞いていると、いつも通り封鎖機構の武装ヘリがこちらへ向かってくる。

 

『所属不明機体に告ぐ、直ちに武装解除し投降せよ』

 

お決まりの台詞が言い渡されるが当然そんな話が聞ける訳がない。案の定ご主人から過激な質問が飛んできた。

 

『今ならお前と特定される事はない、排除できるか?』

 

「了解」

 

当然すぎる質問に俺は短くそう返す。そして、さっさとぶった切ろうかと思った矢先の事である。

 

『620!618!!』

 

『ん』

 

『了解』

 

俺へ向けて照準を定めていた武装ヘリの横面にライフルの弾が連続して突き刺さる。その攻撃にヘリの乗員は咄嗟にそちらへ機首を向けてしまった。

 

『しろうとめ』

 

その瞬間、俺の後方からアサルトブーストで617が強襲を仕掛ける。手にしたガトリングを連射しつつ接近すると、シールドを展開して急制動を掛け、至近距離から肩の散弾バズーカを放った。

 

『619!』

 

武装ヘリの衝撃耐性はヘリの構造上どうしても低くなる。連続しての攻撃に駄目押しのバズーカを食らった武装ヘリは呆気なく姿勢制御許容限界――所謂スタッガーと呼ばれる状況だ――を引き起こしその場で停止してしまう。そして動きを止めた奴に更なる悪夢が飛来する。

 

『やー』

 

気の抜けた返事とも掛け声ともつかない619の声と共に彼女の発射したミサイルが武装ヘリへと襲いかかる。ファーロン製の垂直発射ミサイル、その名の通り上空へ打ち上げられ頭上から襲ってくるこのミサイルは実のところAC相手にはあまり良い装備ではない。何故なら人型であるACは頭上からが最も被弾面積が小さくなり、またブースターの配置上前後左右への高速移動が容易だからだ。如何に威力があろうとも当たらなければ意味がない。だから独立傭兵でこの装備を愛用しているのは少数派だ。

しかし619はその前提が違う。何故なら彼女は一人ではない、優秀な前衛が敵の注意を引き付けるだけでなく、動きまで拘束してしまう。彼女は最も理想的な射点に陣取り持ちうる火力を発揮すれば良い。尤もその必要なときに最大火力を発揮出来るという事が彼女もまた非凡な才能の持ち主である証左なのだが。彼女の機体の両肩から発射された合計24発のミサイルが正に雨のごとく降り注ぐ。そこへ更にレーザーライフルの光がコックピットを襲い、プラズマミサイルがスタブウィングに設けられたミサイルランチャーを巻き込んで派手な爆発を起こす。ほんの数秒前まで元気良く飛んでいた奴は、見るも無惨なぼろ雑巾の様な姿に変わり果て、赤い炎と黒煙を噴き出しながらそれでも懸命に姿勢を立て直そうとするが、それを許すほどご主人の猟犬達は慈悲深くなかった。

 

『しまいだ』

 

ほぼ真下に着地していた617がそう呟き、再びバズーカを発射。5発の成形炸薬弾は元気よく奴の腹を食い破った。ジェネレーターにでも直撃したのだろう、その攻撃を受けて哀れな武装ヘリは地面に墜落する暇すら与えられず空中で爆発四散した。

 

『惑星封鎖機構SG、大型武装ヘリの撃墜を確認した。お前達、今日の仕事は終わりだ』

 

ライフルの一発も撃たないまま武装ヘリを撃破するという愉快な状況で、ご主人が落ち着いた声音でそう告げてくる。これが最後の反応だと言っていたし、何より惑星封鎖機構の戦力を撃破したのだ。直ぐに連中の部隊が調査にやって来るだろうからそうせざるを得ないのだろう。

 

『手に入れたライセンスの識別名を伝える。レイヴン、これがルビコンでの名義になるが…』

 

そこでご主人は一度考え込むように口を閉ざす。恐らく誰にこの名義を使わせるか考えているのだろう。

 

『とにかくご苦労だった、仮設の潜伏ポイントを表示する。全員そこへ移動しろ』

 

こうして俺達のルビコンでの活動が始まった。




うゎ、この猟犬つよぃ。
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