アレは嘘だ。
そんな5話。
『身分は手に入れた、次は実績作りだ。行くぞ、621』
そんな言葉に背を押され仮設ポイントから出撃する。依頼内容はベイラム傘下の企業、大豊MT部隊の殲滅。場所は皮肉にも俺が潜入したあのグリット135の構造物だそうだ。
「行くか」
ばら撒き依頼などと言われるだけあって任務の内容は実に簡単だ。MTを主力とする駐留戦力の撃滅などそれこそ普段の任務なら片手間で行う内容だ。
『敵襲!ACが1機!』
『恐らくアーキバスグループの雇用戦力だ、ヴェスパーでないならやりようはある!迎え撃つぞ!!』
こちらを見ても大豊のMT部隊は怯む事なく迎撃態勢を取る。統率は取れているが、個々の動きはあまり良くない。恐らく殆どが普通の人間なのだろう。
『敵は量産型のMTだ。排除しろ、621』
無慈悲な命令がご主人から下され、俺もそれに異を唱える事なく機体を操る。右腕のライフルから弾丸が、左腕のパルスブレードが青白い弧を描く度に目の前のMTが残骸へと変わる。
『このAC乗り、中々やる…!』
『攻撃を集中しろ!』
小型の戦闘ヘリがその声と同時に接近してくるが、残念ながら数が足りない。たったの5機では殺してくれと言っている様なものだ。数で対処したいなら、せめて今の4倍は居なければ話にならない。ミサイルのマルチロックで4機を、更にライフルで1機を墜とす。そこからアサルトブーストで支援射撃を行っていたMTへ接近しパルスブレードで切り裂いた。
『独立傭兵が、ここまでやるのか!?』
あっという間に前衛と僚機を失ったMTがそんな台詞を吐くが無理もない。本来ばら撒き依頼を受けるランク外の独立傭兵なんて言うのは、本当にACに乗れるだけなんて奴の方が多いのだ。機体の特性、それに合わせた武装をしているだけでもランク外なら上澄みも上澄み、全てのハードポイントを武装で埋められているだけでも稼げている勝ち組だ。まして、
『アーキバスめ、当たりを引いたか…!』
苦々しい声と共にMTが吹き飛ぶ。向けられたライフルをクイックブーストで回避し俺が蹴り飛ばしたのだ。ACよりも遙かに貧弱なブースターとジェネレーターのMTでは、この高所から落ちれば先ず助からないだろう。
クイックブーストやACの脚部を用いた攻撃は強化人間のみが扱える行動だ。瞬間的に数百キロに達する加速の中でも正確に機体を操作するなんて芸当は生身では不可能だからだ。それらを考慮するなら、今の俺はアーキバスにとって大当たりとでも評するべきだろうか?相対した彼等にとっては最悪この上ないだろうが。
『目標、残り僅かだ。…待て621、新たな敵影を確認した。排除しろ』
慌てて増援を要請したのだろうが遅すぎる。増援とやらが展開を終える頃には俺は配備されていた最後のMTを切り捨てていたからだ。
「運がないな、あんたら」
増援と言っても輸送機と兼用の中型ヘリが2機にシールドを装備した量産型MTが2機。今更増えた所でどうという事はない戦力だ。
『ミシガン総長に…報告をっ…』
最後の1機へパルスブレードを振るうと、そんな言葉と共に擱座する。…脱出装置は作動していなかった、どうやらここの連中はしっかりとした訓練を受けていなかったようだ。
『敵MT部隊の殲滅を確認した。仕事は終わりだ、帰投しろ621』
そうご主人が言ってくれるが、それは少々もったいない。被弾もしていないし弾薬も十分残っているのだ。どうせならさっさと片付けてご主人と合流したい。
「いや、マスター。折角だからもう一つの方も片付ける」
もう一つの依頼はライセンスのあった汚染市街に展開する現地武装勢力が設置した砲台の排除だった筈だ。ここからならあのカタパルトも使えるし一々戻るより手早く済む。
『暫し待て、…補給シェルパを用意した。補給後に以前使ったカタパルトから市街へ向かえ』
流石だ、何処かの黒幕とはフォローが雲泥の差だぜ。
「了解」
ご主人の愛情にキュンキュンしながら補給を済ませ、俺は喜び勇んでカタパルトへ向かうと元気よく飛び出した。ふふふ、ローダー4も喜んでいるぜ。
「さて、死ね」
そんな絶好調な俺達によって移設砲台とその護衛部隊は瞬く間に壊滅するのだった。
仕事を終えて指定された合流ポイントに向かうと、そこには見慣れた大型機が泊まっていた。これは確かカーラに打ち出された後、中央氷原でご主人が拠点として用意したものだったと思う。俺が買い込んだ装備やフレームで、それまで使っていた輸送ヘリが手狭になったからだ。開放されている格納庫へ向かいハンガーへ機体を固定すると、キャットウォークからご主人が声を掛けてきた。
「着いたか、621」
「マスター、これは?」
「複数のACを運用するとなればそれ相応の設備が必要だ」
それはそうだが、コイツは結構稼いでから手に入れたんじゃなかったか?そう考えているとご主人は笑いながら言葉を続ける。
「元々用意していた機材だ、気にしなくて良い」
…そうか、最初の予定通りならご主人は先輩達とここへ来る予定だったんだ。寧ろ俺だけしか手駒が居ないこれまでの方がご主人にとってはイレギュラーだったんだろう。
「それとお前の厚意には甘えさせて貰っている」
ACの装備やフレームの購入は傭兵支援システムから行えるのだが、ばら撒き依頼しか受ける事が出来ないランク外傭兵では武器一つ買うのも一苦労だ。加えて大抵の支援システムは功績に応じた購入制限を設けている。何がしかのコネがあれば企業から試供品が回ってきたりパトロンが購入資金を用立ててくれたりもするが、そうでなければ大抵は非合法な組織が扱っている中古品なんかを使う事になる。出所は戦場のゴミ拾いが低価格の依頼として存在するところから推して知るべしと言うヤツである。
「KRSV、造った奴は絶対馬鹿」
「ほんたいをじゅうりょうきゅうでまとめられるならしーるどはふようか?なやましいな」
「アーキバスのこれ、本当に傑作なの?企業のプロパガンダじゃない?」
「せんしゃー」
ハンガーの奥では先輩達が保管庫のリストを見てあれこれと騒いでいる。多分ご主人が受け取ったレイヴンの遺産から自分の機体を構築しているのだろう。ご主人は最初に機体を用意してくれたが、その後は一切アセンブリ、俺達が乗る機体について何一つ口出しをしてこない。一度何処まで口を出さないのかとアイスワームにニードルランチャーを持ち込まずに行った時ですら何も言わない程である。まあその621は当然のように死んだが。ともあれご主人はびっくりするくらい俺達の自主性を重んじている。多分それは俺達が人生を買い戻した後の訓練なのだろう。飼い犬ではなく一人の人間として、自分で決めて自分で進む。そんな生活を思っての事だろう。ご主人は善人だが人の機微には疎いらしい。たとえ人生を買い戻したとして、今更俺達がご主人無しの生活なんて想像すら出来ないという事に気付かないのだから。
「次の依頼は見繕ってあるが、時間はある。休んだらお前も機体の確認をしておけ」
「了解」
とは言ったものの大して疲れてもいない俺はそのまま先輩達の所へ向かう。据え付けられた端末の前で、彼女達は頻りに画面を操作し自分の機体を組み上げていた。
「おかえり、621。…なんだ、そのかおは?」
笑顔でそう迎えてくれた617に驚いていると彼女から不審そうな視線を向けられる、いや、なんというか。
「そう言われたのは初めてだ」
ご主人に戻った事を確認された事は何度もあるが、その中でも617の様に迎え入れる言葉を掛けられた覚えはない。思わずそう返すと、617は少し不機嫌そうに口を開いた。
「かぞくがかえってきたんだ、とうぜんだろう。おまえはちがうのか?」
家族、そうか、家族か。
「いや、そうだな。ただいま」
「ん、あいさつはだいじだ。あーかいぶのこしょにもそうかいてあった」
「ん?ああ、お帰り621」
「お帰り」
「おかー」
そう口にする先輩達に返事をすると俺も端末の前に並ぶ。あの機体で戦えない事はないが楽が出来るならそれに越したことはない。独立傭兵にとって戦場で勝利して帰還するよりも重要な要素など機体には存在しないのだ。そんな事を考えながら先輩達の構成を見る。
「617は大豊の重量2脚、618はベイラムの中量2脚か」
どちらも独立傭兵には好まれる構成だ。同じクラスを対立しているアーキバスも出しているが、機体安定性と実弾防御性能に勝るベイラムの方が使い勝手が良い。
「620はエルカノの軽量2脚」
「早さは力」
うん、その思想は嫌いじゃない。
「そんで619は…、タンクなんだな」
「せんしゃー」
順当に自分の役割を考慮して性能を強化したって感じか。
「ひとのあせんをみるのもいいが、おまえはどうするんだ?621」
俺はまあ、そうだな。
「使いやすい機体にする」
そう言って俺の組み上げたアセンブリを見た全員が微妙な顔をする。なんだよ、どんな機体が使いやすいかなんて人それぞれだろう!人のアセンを笑っちゃいけないってご主人に習わなかったのか!?
「まあ、うん。おまえのきたいだものな」
「621は勇者、あるいは馬鹿」
「限りなく後者な気がするけどね」
「かみひとえー」
酷い言われようである。
「証明は直ぐに出来るさ」
そう言って俺は手持ちの方の端末を操作する。新着の案件が2件、そこにはテスターAC撃破のタイトルが表示されていた。