第1話.一夏ちゃんは過去に戻りま~す!
桜が咲き乱れる春...
「今日でここを卒業か...」
今日のこの日をもって彼...ホワイトルームの最高傑作と呼ばれた綾小路清隆は高校を卒業した。
「清隆~‼大学でもよろしくね!」
「あぁ...よろしくな、恵。」
傍らにあの忌まわしい女を抱き寄せながら彼はこの学校の門から出ようとしている。
そんな先輩を私は遠くの方から眺めていた。
...いつもと違って先輩に声をかけにいく勇気が出ないのだ。
これで彼には最低でもあと1年は会えない...いや、仮に会ったところでだ...その時にはもう私には見向きもしないだろう...
(あぁ...先輩....‼先輩...‼)
綾小路清隆に【崇拝】という感情を抱く私は当然ながら...彼には幸せになって欲しいと願っていた。
そして...最終的に彼は【愛】という感情を理解し、心から愛せる恋人を手に入れたのだ。
だから!本来なら、私も心から祝福すべき事のはずなのに‼...
(ねぇ?...どうして⁉...どうしてよ?この涙はどうして止まってくれないの⁉...)
...そもそも、これは最初から叶わない想いだったのかもしれない。
私は清隆先輩を崇拝しているとはいえ、ホワイトルームの刺客として送り込まれた身だもの...そんな相手に先輩が本気で心を許すはずがなかったんだ...
私だって薄々はその立場を自覚していた...それでも先輩の隣に立っていたかったんだもん...
(あっ...軽井沢先輩が清隆先輩に甘えてる...清隆先輩も満更じゃなさそうな...)
これ以上は無理だ。この場にいたら、悲しみを抑えられなくなって軽井沢先輩をボコボコにしちゃいそう...
(清隆先輩...さようなら...)
そんな理不尽な事をしても誰も喜ばないと理解している私は涙ながらにひっそりとその場を去っていった...
・・・・・
あれから、自分の寮に戻っても先輩の事が頭から離れない...
(私...これから、どうすればいいの...)
同期の拓也が退学になり、崇拝する先輩も卒業してしまった以上...いよいよ、私がこの学校にいる意味が分からなくなってしまった。
もしも、最初から自分をホワイトルーム生だと名乗っていたら?
もしも、回りくどい事はせずに最初から先輩を助けるためだけに動いていたら?
結果は変わっていたの?...なんて思ったところで、もう手遅れなんだけどね...
(ううっ‼...ぐすっ...‼...)
私の涙は止まるどころか、ますます溢れだしてしまっている。
学校に残るにしても綾小路先輩や高円寺先輩が卒業してしまった事で武力と知力...両方で私に勝てる人間は一人もいなくなってしまった...
普通の人間なら学校最強の人間になれた事で喜ぶんだろうけど...私には喜びの感情はちっとも芽生えない。
おまけに石上京という優秀なリーダーを抱えて、ここまでAクラスという立場を独走してきた私達のクラスは、Aクラスでの卒業がほぼ確定してしまってる。だからこそ、今後のクラス闘争にすら面白みを感じない...
そして...卒業できたからといって、私はホワイトルームから失敗作の烙印を押された身...もう帰る場所なんて残ってないし、かといってどこかに進学やどこかの企業に就職してみようとかいう意欲もない。
(はぁ...これからは退屈な日々になりそうだね...)
少し...ほんの少しだけ...落ち着いてきた私はベッドの上にゴロゴロと寝転がりながら、これからの事を考えていた。
バサッ‼
その振動のせいか、ちょうど枕元に置いておいた一冊の漫画が床に落ちた。
それは...私が後から読もうと思っていた、とある恋愛漫画だった。
(うん?これって...)
さっさとその漫画を拾い上げようとした私だったが、偶然にも床に落ちた際に開かれていたページの内容に興味を覚えた。
(過去に戻って、やり直すか...)
それは...この漫画の主人公の意識だけが過去に戻るというシーンだ。
暇潰し目的もあって...気づけば、私はその恋愛漫画を最後まで読んでしまっていた。
最終的に主人公は未来で得た知識を生かす事で、今度は無事に攻略対象と結ばれる事ができた。
(いいなぁ...私もこの子みたいにもう一度だけ、やり直せたなら‼...ううっ‼...いや、もう一度やり直したいよぉ‼...)
再び、私の目から大粒の涙がこぼれてしまう...
そのうちに...昨日、先輩の卒業式前日という事もあって緊張して眠れなかったせいか、溢れる涙とともに眠気が私を襲ってきた。
(清隆先輩...私、もう一度やり直したいよぉ...)
私は眠気によって意識が途切れるその瞬間まで...そんな事を思い続けていた...
◆◆◆◆◆
「.........夏‼...夏‼」
(...ん?)
ぼんやりとする意識の中...誰かが私を呼んでいるような声が聞こえる...空耳かな?
「ねえ、一夏⁉聞こえてる?」
「ひゃい‼...」
空耳ではなかったようだ...私は、声をかけてきた人物の方を振り向く。...と、同時に驚愕した。
(えっ⁉嘘でしょ⁉...なんで、あなたが⁉...)
私に声をかけてきた
しかも...私と彼がいる空間は、まるでホワイトルームのように一面が真っ白に包まれていて...妙な懐かしさを感じてしまう。
...という事は彼の正体は...
「えっ?拓...也?...」
「うん、そうだよ?なんで、一夏はさっきから返事をしてくれないのかな?」
「あっ‼ごっ...ごめん‼ちょっと、他の事を考えてて...上の空だったんだよね~。」
「なんだ、そうなんだ...てっきり、一夏が僕の事を嫌いになったのかと思ったよ...」
それは...私と同じくホワイトルームの5期生であり、1年生の文化祭の時に決別する事になったはずの彼...
綾小路清隆に【憎悪】の感情を抱いていた八神拓也だったからだ...
西野武子の小説と並行して執筆していこうと思います。よろしくお願いします。