「はっ!おいおい...その綾小路って奴は、学校側が進んで退学させたいほど、危ない存在かもしれないってわけかよ...それで、俺達を利用して退学に追いやろうとなァ...」
宝泉くんの想像とは、少しだけ違うような気がするけど...清隆先輩がただの生徒じゃないって事は理解してくれたようだね!
...よし!これなら宝泉くんも七瀬ちゃんも...清隆先輩にむやみには接触したりはしないはず...
「けっ!いいぜェ...俺は是非とも、一度会って確かめてみてぇもんだぜェ!その綾小路って奴がどんな化け物なのかをよォ!」
「えっ?ちょっと...宝泉くん?」
...あれっ?なんだか、雲行きが怪しくなって来たね...
「えっ!?宝泉くん!?一夏ちゃんの話を聞いても、特別試験に参加するつもりなの?」
「それを聞いて、この俺が綾小路を恐れるとでも?上等だァ!ここは、学校側の思惑に乗ってやろうじゃねぇかァ!」
やらかしたー!!!
私の忠告が、逆に彼の中に渦巻く闘争心を煽る結果になっちゃったよ...
あ~あ...この先、宝泉くんがどうなろうが私の知った事じゃないけど...これで、清隆先輩に余計な負担がかかっちゃう事が確定しちゃったね...
「...というわけだァ。天沢ァ、お前は七瀬の説明通りに動きやがれェ!」
「はいはい、分かったよ...それで?私へのメリットはあるの?まさか、無償でこの件を受けろなんて言わないよね?」
どうせ、元の世界と同じように2000万ポイントの内の半分...1000万ポイントをやるとでも言うのかな~?
...なんて思っていたが、宝泉くんの答えは私の予想よりも斜め上のものだった。
「ふん、お前にメリットはないかもだがァ...デメリットはあるぜェ。」
「へぇ~、私にデメリットねぇ...それって、どういうものなのかな~?」
「天沢、お前...七瀬と仲が良いだろゥ?」
「それが、どうしたのかな~?今は関係なくな~い?」
「ククッ...関係はあるぜェ?お前がこれに応じないなら...七瀬に危害を加えるかもしれないぜェ?」
「はっ?」
いや、この男...今、何て言った?
(私が応じないなら、七瀬ちゃんに危害を加えるかも...だって?)
私が人の事を言える筋合いはないかもしれないけど...とても正気の沙汰とは思えない発言だよ?
七瀬ちゃんも...気まずそうな表情を浮かべて、俯いちゃってるし...
「う~ん、よく聞こえなかったな~!宝泉くん?もう一回、言ってくれないかな?」
「あァ!?何度でも言うぜェ、お前がこれに応じないなら、七瀬に危害を加...」
「ああっ!?殺すぞ?クソゴリラァァァ!!!」
ホワイトルーム生特有の殺気を放って、宝泉くんを威圧する。
宝泉くんは...ただ押し黙っただけに見えるが、一瞬だけビクッとしていたのを私は見逃していない...
「ひいっ!」
一方の七瀬ちゃんは...その場に崩れ落ちて、ビクビクと震えている...さすがに七瀬ちゃんには、申し訳ないと思っているよ。
宝泉くんも七瀬ちゃんも...まさか、私の口からこんな口汚い暴言が出てくるとは思っていなかったに違いない。
(なるほど、これが...元の世界の拓也がずっと背負っていた【憎悪】って感情なんだ...)
元の世界にて学校生活を過ごす内に...喜怒哀楽と愛の感情を一通り、会得できたとばかり思っていたけど...
まさか、怒りの感情の更なる先...【憎悪】の感情に目覚めてしまうとは思わなかったな~...
「ほぅ...お前にもそういう顔もできるとはなァ?そっちの方が、お前にはお似合いだぜェ?」
「宝泉黙れ...あんたはもう喋るな!」
今の私は...それほど、七瀬ちゃんが大事になってしまったんだろうね...
「まぁ...冗談はここまでだァ。報酬の半分の1000万をお前にくれてやる...これでどうだァ?」
「はぁ...それなら、最初からそう言いなよ...応じる事にするけど、もしも七瀬ちゃんに手を出したら...私は絶対に許さないからね?」
「...だそうだァ、七瀬...良かったなァ?天沢に愛されててよォ。...さて、用は済んだから俺は帰らせてもらう事にするぜェ...」
そう言い残すと...宝泉くんは、未だに俯いちゃってる七瀬ちゃんを放置してそのまま部屋を出ていってしまった...
「えっと...七瀬ちゃん、大丈夫?」
「あっ...天沢さん...」
私が今...やるべき事は、その場に残された七瀬ちゃんを落ち着かせる事だ。
「怖がらせちゃって...本当にごめんね!私、高校で初めてできたお友達に危害を加えられるかもと思うと、どうしても!宝泉くんが許せなかったの!」
「いいえ...天沢さんは全く悪くないので気にしないで下さい。...ですが、意外でした。出会って数日も経っていない私をあそこまで気にかけてくれていたなんて...」
困った...私は元の世界の知識で、七瀬ちゃんの事情を既に知っているだなんて言えるわけがない...
(どうしよう?七瀬ちゃんに...なんて、説明しようかな?...)
私が必死で上手い言い訳を考えていると、
「天沢さん...まるで、あの時の栄一郎君みたいです...」
「ん?七瀬ちゃん、どうしたの?」
「あっ!何でもないです!...それよりも、天沢さん?一つ...私からのお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ?何かな?」
そう言うと、七瀬ちゃんは私の手を強く握って...
「今までは、半信半疑でしたが...これからは本当のお友達として仲良くしていただけますか?その...一夏さん?」
その問いに対する答えなんか...一夏ちゃんは、とっくに決まってるよ~!
「うん!こちらこそよろしくね!翼ちゃん!」
「はいっ!よろしくお願いします!」
私の答えに七瀬ちゃんは元の世界でも清隆先輩にしか、見せなかったぐらいの満面の笑みを返してくれたよ~!
こうして、私は七瀬ちゃん...いや、翼ちゃんと本当の意味で友達になれたんだ~!
・・・・・
その日の放課後...
「お疲れ様で~す!理事長せんせ~!」
「おや、天沢さんでしたか...」
私...一夏ちゃんは理事長室にて、月城理事長代理と対面していた。
「今は、私達だけなので...お互いに素で話しましょうよ?良いですよね?」
「えぇ、構いませんよ。」
では、さっそく本題に入らせてもらおうかな?
「まず、単刀直入に言いますね~?あなたは特別試験を利用して綾小路清隆を2学期までに退学に追いやろうとしていますが...それは不可能です。」
「どういう事でしょうか?」
「私と拓也以外のメンバーが人選ミスすぎます。石上君はホワイトルーム問題に関しては基本的に中立の立場の人間...宇都宮くんは同じクラスの椿ちゃん頼みだし...宝泉くんの作戦に至ってはあまりにも杜撰すぎて、思わず笑いそうになりましたよ...」
「それはそれは...ですが、七瀬翼さんはどうでしょうか?」
それでも...月城理事長代理は表情を変えることなく、私に更なる質問を投げ掛ける。自分が用意した刺客だからか、それなりに自信でもあるのかな?
「ふ~ん、その彼女の元カレを間接的に死に追いやったあげく、その恨みの矛先を綾小路清隆に向けておいてですか...いずれは、翼ちゃんも己の判断の過ちに気づくでしょうね。」
「なるほど、そんな事までを知っていたのですか...【傲慢のホワイトルーム生】の異名は伊達じゃないみたいですね。」
「そんな事はどうでもいいんです...この際だからはっきりと言わせてもらいますね~!」
そう言って、私は月城理事長代理に近づくと...
「もしも綾小路清隆が退学する日が来るのなら...その引き金を引くのは私です。他の誰でもありませんよ...」
そう囁くと...月城理事長代理は、面白いものを見つけたような視線で私を見つめている。
「つまり?天沢さんは何が言いたいのでしょうか?」
「まだ、分からないんですか?綾小路清隆は同じホワイトルーム生としてこの私の手で退学に追い込みます。...なので、あなた方からの余計な手出しは無用なんですよ。」
「残念ながら、そういうわけにはいきませんね...私も綾小路先生から指令を受けた身、何もせずに時を待つほど愚かではありませんね。」
この様子だと...この人が無人島試験で清隆先輩に何かを仕掛けてくるのは、どうしても避けられないみたいだね...
「最後に...理事長代理に聞きたいのですが...」
「はい、何でしょうか?」
「あなたは...本気で綾小路清隆を退学に追い込むべきだと思っていますか?」
私の質問が予想外だったのか...一瞬だけ、理事長室に沈黙が走る。
それでも、この人の表情が変わらないのは流石だ。伊達に綾小路先生から、理事長代理を任されたわけではないらしい。
だけど...それも一瞬だった。
「はい、私は綾小路先生に従う身ですからね。」
「そうですか...」
元の世界の清隆先輩は私によく言っていたっけ...
『月城は、本気で俺を退学に追い込むつもりはなかったんじゃないのか。』
仮にそうだったとしても...ホワイトルーム生である私の前で言えるわけはないよね...
「以上で天沢さんのお話は終わりですか?」
「はい...わざわざお時間を頂き、ありがとうございました。」
「えぇ、こちらこそ...
「では、失礼しました...」
こうして、私は理事長室を後にした...
あっ...ちなみに残りの時間は翼ちゃんとの約束通り...二人でカラオケを楽しんだよ~!