次の日の放課後...
「一夏さん!今日はわざわざ、お招き頂きありがとうございます!」
「気にしないで~!私も翼ちゃんとおしゃべりしたからったからさ~!」
私は翼ちゃんを自分の部屋に招いていた。
だけど...今回の目的は、翼ちゃんと普通にワイワイする事ではないんだよね...
「単刀直入に言わせてもらうね?...松雄栄一郎君の仇を取りたいがために清隆先輩を退学に追い込もうと考えているなら、やめた方が良いよ?」
「なっ!?...なんでですか...なんで、一夏さんがその事を知っているのですか!?」
ごめんね...悲痛な叫びをあげる翼ちゃんには、本当に申し訳ないと思っているんだよ?
だけどね?翼ちゃんを...彼女の縛っている呪縛から解放するのが今回の目的である以上、私は容赦はしないと心に決めていたんだ...
「ねぇ、翼ちゃん?その話が本当ならさ...恨むべきなのは清隆先輩じゃなくて、ホワイトルームの大人達なんじゃないかな?それなのに...なんで、清隆先輩を恨んでるわけ?」
「.........」
私が必死に投げ掛けた、その言葉で翼ちゃんが黙り込んじゃったね...どうやら、私の言葉で自らの目的に矛盾が生まれている事にようやく気づいちゃったのかな?
「...ってますよ。」
...なんて考えていた一夏ちゃんの思考は、あまりにも楽観的過ぎたようだ...
「言われなくても分かってますよ!!!薄々は気づいていたんです...ですが、それを認めてしまえば!私の...ボクの存在意義がなくなっちゃう...ボクは...ボクは!」
私の問いかけがまずかったのか、なんと...翼ちゃんがいきなり、私に襲いかかってきた...
「ちょっ...翼ちゃん!落ち着いて!」
「ボクは!!!松雄だ!!綾小路清隆がいたからボクは死んだんだ!!!アイツのせいなんだ!!!!」
元の世界の清隆先輩から、話は聞いてはいたけど...栄一郎くんモードの翼ちゃんって結構強いんだよね...
さすがにホワイトルーム出身の私には遠く及ばないので、余裕で防いではいるんだけど...相手が相手だから、私も反撃に移る事ができないでいた。
「ボクは...絶対に綾小路清隆を退学に追い込む!」
「翼ちゃん...それはできないよ...」
「退学に追い込む!!」
「それはできない!!」
「退学に追い込むっ!!!」
「できないってば!!!」
私は翼ちゃんの攻撃を防ぎ続けながら、彼女に必死に訴えかける。
(絶対に...翼ちゃんを間違った道に進ませてはいけない!...私がなんとかしないと!)
そうして...翼ちゃんの攻撃を受け続ける内に、彼女の方も疲労のせいか...息が荒くなり、攻撃速度も落ち着いてきたようだった。
そして...攻撃が止んだ...
「ハァ...ハァ...なんで、反撃しないんだ?」
「その理由がないからだよ。翼ちゃんに反撃をする...理由がね?」
「ボクは松雄栄一郎だ!!」
「違う!あなたは七瀬翼!!私の大切なお友達の...」
「だったら、ボクはなんなんだ?ボクが松雄栄一郎である証拠なんだ!!!」
そう言って、翼ちゃんは私に目掛けて拳を振りかざす...
突然の事で...ガードが間に合わなかった私は直後に押し寄せてくるであろう、痛みを堪えようとギュッと目を瞑った...
だけど、その拳が振り下ろされる事はなかった...
「ダメッ...一夏さんを傷つけてはいけません...だって、私は...私は!!!」
どうやら、心の中で栄一郎くんの人格に対して翼ちゃんの本来の人格が抵抗しているらしい...
この数ヶ月間における、一夏ちゃんとの関わりこそが...翼ちゃんに変化をもたらしたんだろうか?
「翼ちゃん!もう、落ち着いて...あなたは無意識に松雄栄一郎の人格を作り出してるだけなんだよ?私はこれ以上、復讐心で苦しむ翼ちゃんを見たくないんだよ!」
「ふん!あなたはいいですよね!?ホワイトルームという隔離された施設で育ったがゆえに大切な存在の喪失というものを経験していない一夏さんに私の苦しみが分かる?ふざけないで下さいよ!!!」
そうだよね...私には大切な存在を失うという苦しみは理解できないのかもしれない...
だけどね?...私や清隆先輩は翼ちゃん以上の苦しみを背負っているんだよ?
「私は生まれてから...実の親の顔すら、見た事もない...いわゆる、試験管ベビーだったの...」
「えっ...」
「しかも、ホワイトルーム関係者曰く...どっかの企業の社長が遊び半分で作ったっていうね...」
私の予想だにしなかったであろう、過去を知った翼ちゃんは...先程までの怒りが一瞬で消え失せたみたいだ。
「親の愛というものを全く受けられず...半ば、強制的にホワイトルームでカリキュラムを受けさせられる毎日...失敗作と見なされれば切り捨てられ...だからといって好成績をあげても褒められる事もない...正直、私がなんのために生きているのかが分からない日々だった...」
「.........」
翼ちゃんは何も言わない...いや、口を挟めるような雰囲気ではなくなっているのだ...
「そんな私の生きがいとなってくれたのが...綾小路清隆という存在だった!彼がいなかったら...私は自ら死を選んだか、壊れた人間と化していたかのどっちかだっただろうね...」
私の感情だって...他人に良く見られたいからなどではなく、清隆先輩のために身につけたものだもの...
「私よりも高難易度のカリキュラムを受けてきた清隆先輩はもっとかわいそうな存在なんだよ!?感情を完全に失い、自分さえ勝ってれば良いという思考だけが残されたんだから...」
清隆先輩に関しては、実際に自分でどう思っていたかまでは分からないけどね...
「だからっ!どうせ、他の人間は自分の苦しみが分からないとか決めつけないで!!!私や清隆先輩の背負ってきた苦しみに比べたら...翼ちゃんの苦しみなんて、かわいい方なんだよ!!!」
「一夏さん...」
私が話し終わると...翼ちゃんはしばらくの間はうつむいていたが、やがて...顔をあげると...
「一夏さん...一夏さんや綾小路先輩は、私以上の苦しみを背負っていたのですね...それなのに勝手に決めつけてしまった私が恥ずかしいです。本当に憎むべきだったのは...ホワイトルームの大人達と復讐すべき対象を見誤った私自身でした...」
「翼ちゃん...」
どうやら、私の想いは翼ちゃんに届いてくれたみたいだった!
「翼ちゃん!私はこれから...清隆先輩に平和な学校生活を満喫してもらうと同時に...私に対する愛を芽生えさせたいと思っているの!だから...その、これからは私と清隆先輩に協力してもらえないかな?」
私がそう問いかけるて左手を差し出すと...翼ちゃんは既に答えを決めていたかのように...
「......約束します。」
そう言いながら、私の手を強く握り返してくれたんだ...