「ふふっ...それは...いったい、どういう意味なのでしょうか?是非とも、教えて頂きたいものですね?」
それまでの空気が一変した、二人っきりの教室内にて...最初に口を開いたのは坂柳先輩だった...
だけど...取り繕えたその笑顔からは、さっきまではなかった筈の怒りの感情が微かに見て取れた。
(うっかりとはいえ...坂柳先輩をここまで挑発したのは、私が初めてかな?)
とはいえ、私も清隆先輩のホワイトルーム時代の後輩というプライドがある。だから、そう簡単には引き下がるつもりなんてないよ~!
この際だから、はっきりと言わせてもらうね~!
「どういう意味か?...そんなの言ったままですよ?知力は高いとはいえ、ホワイトルーム生には及ばず...運動面に関しては、論外!おまけにチェスの勝負でも月城理事長代理の助太刀がないと勝てない...人望面でも綾小路グループなる、友達グループを作り上げた上に他クラスの生徒とも交流がある清隆先輩に対して...坂柳先輩の周りにいるのは、勝ち馬に乗りたい人間か弱みを握られている人間...そして、恐怖心で無理やり従わせてる人間しかいない!それなのに清隆先輩に勝つ?笑わせないでくださいよ~!」
ゴゴゴッ!!!
私が、そう言い返した瞬間...坂柳先輩が完全に怒りのオーラに包まれたのがわかった...
「なるほど...言ってくれるではありませんか?あなたなら、彼に...綾小路君に勝てるとでも言いたいのですか?」
「確率的に言えば坂柳先輩なんかよりも、私の方が可能性がありますし...それに、私は無理に...清隆先輩に勝とうとなんて思っていないんですよ?」
「ご冗談を...私にあのような罵詈雑言を吐いておきながら、天沢さんも綾小路君には勝てないがための開き直りだなんて...見苦しくて仕方ありませんね。」
やれやれ...坂柳先輩が勝手な解釈で私を見下して、話を進めているんだけど...そんなのは無視して私の話を聞かせてやろうっと!
「はぁ...坂柳先輩?...あなたは、何かを勘違いしていませんか?」
「勘違い?この私が...ですか?」
「清隆先輩がホワイトルームを脱走して、この学校に入学するのを選んだのは...ホワイトルームでの暮らしに飽きて普通の学生生活を謳歌したいという願いがあったからなんです...坂柳先輩や私といった、強者と戦いたいからではないんですよ?...それなのに!勝手に清隆先輩をライバル視したあげく、自分の好奇心によるくだらない勝負に巻き込むのはやめてほしいんです!」
私が清隆先輩への純粋な想いを語ると...坂柳先輩は一瞬だけ、黙り込んだかと思うと...
すぐに...これまでに見た事がないくらいの怒りをあらわにしてきた。
「くだらない?...くだらない勝負!?私との勝負がくだらないとでも言うのですか!?今すぐ...今すぐ!その発言を取り消しなさい!」
「取り消しません!そもそも...坂柳先輩は一度会ったというだけで、清隆先輩の理解者気取りなのが気にくわないんですから!」
「なっ!?言わせておけばっ...」
坂柳先輩が衝動的に拳を振り上げて来たので、私は回避の体勢に入る。
まぁ...身体能力皆無の坂柳先輩から、一撃をもらったところでだよ?一夏ちゃんからしてみれば...痛くもかゆくもないんだけど、素直に殴られてあげるメリットもないからね~!
「はぁ...はぁ...」
しかし、坂柳先輩は...この場所が教室内で、しかも防犯カメラが設置されている事を寸前で思い出したらしく、その拳を私に向かって振り下ろしてくるような事はなかった...
(あわよくば...学校側に訴えた上で、プライベートポイントを強奪...同時に2年Aクラス内における、坂柳先輩の評価を落とす事で2年Aクラスに亀裂を起こして清隆先輩のクラスがAクラスに昇格するための手助けをと...考えたんだけどな~!)
元の世界において...無人島サバイバル試験と満場一致試験の結果を把握している私は2年Aクラスの教室に入った直後に...この策を思い付いたがそう簡単に引っかかってくれるほど、坂柳先輩はバカではないみたいだね...
(それに、どうせ...清隆先輩は将来的にはクラスを移籍する予定だったんだから、どっちにしろ...清隆先輩のメリットになるかは怪しいよね...)
そして...私が坂柳先輩の方に視線を戻すと、彼女は冷静さを取り戻そうとしているのか...ハァハァと荒い息をしているのが分かる。
「坂柳先輩?あなたがどれだけ、ホワイトルーム...いや、清隆先輩の事を理解していようと...超えられない壁というものがあるんです!頭脳面でも恋愛面でも私に勝つ事なんて不可能なんですから!」
「れっ...恋愛面とはどういう?」
ねぇ?それを...わざわざ、私に言わせるつもりなわけ~?
あなたが精神的なダメージを受けようと...一夏ちゃんは責任をとらないからね?
「いや...胸もない、体も小さい、一人で家事もできない、常に介助が必要、杖なしでは歩けない、その割にプライドだけは人一倍高いって...こんな女子を誰が欲しがるんですかね~?」
ピキッ!
まるで、何かが割れたような音が聞こえたような気がした...
「ましてや、清隆先輩があなたを選ぶとでもお思いですか?そのイカれた頭脳さえなければ、ゴミ同然のあなたをですよ!?」
「くっ!...いいかげんにしなさ...」
バキッ!!!
「あっ...」
怒りのあまり...杖を思いっきり、床に打ちつけたのがいけなかったのか...坂柳先輩が持っていた杖が根元から折れてしまった。
「はぁ...身体能力ないんじゃなかったんですか~?」
「うっ!...うるさいですね!とりあえず、真澄さんに連絡して迎えに来てもらいますから!」
そう言って...神室先輩に電話をかけ始めた坂柳先輩だったが、繋がらない...
さらに...橋本先輩や鬼頭先輩にも電話をかけたらしいが、こちらも繋がる様子がない。
「今日は...なんという、ついてない日なんでしょうか...」
そう呟く坂柳先輩からは...さっきまでの怒りは完全に消え失せ、ただ、落胆の表情だけが浮かんでいる。
(はぁ...これは、一夏ちゃんが骨を折らないといけないみたいだね~...)
体の不自由な先輩を置いて、自分だけ帰ったなんて...噂にでもなれば、私の評判はガタ落ちだからね...
あっ...決して!私もちょっと、言い過ぎたからね...なんて、思ったわけではないよ!?
・・・・・
「あぁ...こんなの、一生の屈辱です...」
「はいはい...こっちはわざわざ、貴女を運んであげてるんだからさ~!文句を言わないでもらえますかね~?」
そんなわけで...一夏ちゃんは坂柳先輩をお姫様抱っこしながら、女子寮へとやって来たんだよ~!
『ねぇ、見て!天沢さんが女の子を抱っこしてる!』
『あれっ?抱かれてるのって、2年Aクラスの坂柳先輩じゃない?可愛い~!』
『まるで...坂柳先輩が妹で、一夏さんの方がお姉さんみたいだよね!』
周囲のギャラリー達からの、ささやきの一つ一つが...坂柳先輩の羞恥心を高めていくものだったに違いない。
「これで、終わったなどと思わないでくださいね!この屈辱は...」
「はいはい...あんまり、暴れすぎると落ちちゃうからさ...せめて、あなたの部屋につくまでは大人しくしててくださいよ?」
「ううっ...」
私がそう言うと、坂柳先輩は抵抗しても無駄だと悟ったのか...大人しく、抱かれるがままの状態になった。
頬を膨らませて...顔を真っ赤にしている坂柳先輩がちょっとだけ、可愛いと思ったのは...些細な気の迷いってやつかな?
そして...坂柳先輩の部屋の前に着いたので、彼女を床に下ろした。
「私に...この私にここまで恥をかかせたのは...天沢さん、あなたが初めてです!いいでしょう!綾小路君の前にあなたから潰してさしあげます!覚悟しておいてくださいね!」
「はいはい...負けても、お姫様抱っこをして慰めてあげるから...」
「ふぇっ!?こっ...子供扱いをしないでください!!あんな屈辱的な事...私は二度とごめんですから!!!」
「ほんとに?実はお姫様抱っこされて、嬉しかったとか~?」
「そんなの...天地がひっくり返ってもあり得ません!!!!!」
そう言い残しながら、私を残して部屋の中に入っていった坂柳先輩からは...
70%ほどの恥ずかしさと、25%ほどの怒り...
そして、5%ほどの嬉しさの感情が混ざっているのを一夏ちゃんは感じた...