お久しぶりです!今回は八神くん視点の話です。
僕がその名前を知ったのは果たしていつの頃だっただろうか?一生懸命に思い出そうとしても正確な日付を思い出すのは難しい。
しかし、物心ついた時点で記憶に刻みこまれたのは確かだ。ホワイトルームで学ぶ人間でその名前を知らない者はいないだろう。
なにせ、どの期の...どの年齢の生徒よりも優れていたからに他ならない。誰も4期生である綾小路清隆を越えられなかったからだ。あの男はどんなに過酷なカリキュラムでも常に好成績を残していたのだから...結果として綾小路清隆はホワイトルームの完璧な手本として祀り上げられていた。
たった一人の子供がホワイトルーム全体に大きな影響を与えていたのだ。
そのためだろうか...僕達がどれだけ努力し、どれだけ優秀な成績を叩き出そうとも、教官達は褒めてはくれなかった。
その代わりとばかりに教官達の口から出てくる言葉はというと...
【1年前の綾小路清隆は、もっと凄かった】
...の一言ばかりだった。
同じ部屋で学ぶ者達の中にはそんな綾小路清隆に対して【崇拝】の感情を持つ人間もいたが、そういった人間達はほとんどが脱落していった...1番になるべく、教育を受けているはずの人間が1番になる事を放棄しているのだから当たり前だろう。
よって...どんな手段を使ってでも僕は絶対に綾小路清隆を越え、彼が1番ではない事をホワイトルームの大人達に証明しなければならない。そうでもしなければ僕は失敗作としてなんの価値のないまま、惨めに自らの生涯を終えてしまう事になってしまうからだ。それでは脱落していった人間達と何も変わらない...
そして、遂に千載一遇のチャンスは訪れた。
綾小路清隆が命令を破り、再開されたホワイトルームに戻らなかったのだ。そのお陰で交わる事のなかった僕が綾小路清隆と接触する機会を得た。
ーーーそう、綾小路清隆を直接葬り去る事ができる唯一無二のチャンスが僕に巡ってきたのだ。そのためには常識などという絵空事はなぐり捨ててしまう方が良いだろう。
言うなれば、殺してしまうのも...問題の解決方法の一つだ...
...なんて、彼女に出会っていなかったら僕はこんな道を歩んでいたのかもしれない。
最初の頃こそ、彼女は数多くいる同期...ホワイトルーム5期生の内の一人に過ぎなかった。
そんな一夏に対して僕が興味を持つようになったのは、忘れもしないあの日...6年前の格闘技のカリキュラムでの事だ。
まるで、人が変わったかのようについ昨日までは歯が立たなかったであろう教官達を圧倒している一夏...その時の彼女の表情は狂気に満ちていたと言っても過言ではない。実際にそれを目の当たりにした他の同期達は震え上がっていたし、辛うじて表情には出さなかったが僕自身も内心では怯えていたのだから...
それからというものの、一夏は格闘技以外の分野のカリキュラムでも今までにない好成績を叩き出し続けた。
そんな彼女を見ていつしか、ホワイトルームの大人達は一夏の事を...
【傲慢のホワイトルーム生】
だとか、
【5期生の最高傑作】
...などという異名で呼ぶようになった。
そして、遂には...
【4期生の綾小路清隆に匹敵する逸材】
...とまで呼ぶ者も現れ始めた。それを初めて聞いた時、僕は確かに一夏に嫉妬していた。
何せ、今までは僕が保持していたはずの記録を次々に塗り替えられてしまい、5期生のトップとしてのプライドをズタズタにされてしまったのだから...大人達も手の平を返すかのように僕には一切、なんの興味も示さなくなっていった。
同時にその一夏ですらも歯が立たないと評価された綾小路清隆にも良くない感情を抱いていたが、こちらはそもそも、本当に実在するかも分からなかったからその程度の認識だった。
だけど、一夏は自分が5期生のトップに立っても自らの実力を自惚れることも誇ることもなく、僕達に対してもいつも通りと変わらない友好的な態度で接してきた。そんな彼女に同期のみんなは最初こそ戸惑ったり、怖がっていたりしていた。でも、しばらくしたら以前通りの他愛のない会話を交わす関係に戻っていった。無論、その同期の中には僕も含まれている。いつの間にか、一夏に対する嫉妬の感情がなぜか消えていた。
(同じホワイトルーム生であろうと自分以外は敵でしかない...少なくとも、僕はそう思ってた。だけど、一夏は違っていたのだろうか?)
その時は、天沢一夏という少女は他の同期と何かが違う...その程度の認識に過ぎなかった。
・・・・・
そして、そんな日々が続いていたある日...
『お前達が本当に存在するのかと半信半疑であろう、ホワイトルームの最高傑作 綾小路清隆は...実在する。』
教官からその宣告を受けた時、目の前が真っ暗になったのを今でも覚えている。僕の今までの努力全てが否定された気がしてその怒りを半ば、八つ当たり同然に一夏にぶつけてしまった...
...だけど、
『ねえ、拓也?そもそも、何で私達は認められないといけないわけ?』
一夏のそんな質問に僕はすぐに答えることはできなかった。
不良品として消されるから?認められないと生きる価値がないから?答えはいくつも頭の中に浮かんでいたはずなのに...
『それは、ここの教育方針によって生み出された承認欲求に過ぎないんじゃないかな?』
一夏の発言は正論だった。思い返してみれば、ホワイトルームとはそういう施設だったからだ...
『だからさ...無理に認められようと思い詰める必要はないと思うの...私も強くはなりたいけど、別に綾小路清隆よりも強くなる気は全くないの。5期生として...彼の後輩としての名に恥じない程度の強さを持ってれば十分なんだよ。』
『それにさ!大人達は認めてくれなくても...私がいるじゃん!私はいつだって拓也の頑張りをすぐ近くで見てるし、認めているもの‼...大人達なんかの評価なんか、気にしないで拓也なりに成長していこう!ね?』
僕を抱き締めて...僕の頭を撫でながらそう言ってくれた一夏に僕は動揺しながらも、感謝の気持ちでいっぱいだった。
(一夏、ありがとう...)
もし、一夏のこの言葉がなかったとしたら...僕は憎悪に飲み込まれた挙げ句、無謀にも綾小路清隆に挑んであっさりと返り討ちにされていたに違いない。八つ当たりされてもなお、一夏は僕の心を癒してくれたのだ。
例え、僕が1番になれなくて大人達から興味を持たれなかったとしても...一夏だけは僕の努力や頑張りをずっと認めてくれるのだと実感した。
この瞬間、僕の中で感謝の気持ちと同時に...
・・・・・
それから、6年の月日が流れた。
ホワイトルームの5期生達は過酷なカリキュラムについていけずに次々と脱落していって、僕と一夏の二人っきりになっていた。
僕と一夏はお互いに支え合い、励まし合い、楽しみ合いながらどんどん難しくなっていくカリキュラムに取り組む日々を過ごしていた。
その間にカリキュラムに挑む際の無邪気な様子の一夏、自分に励ましの言葉を投げかけてくれる一夏、僕に話しかけられた時に嬉しそうに笑顔を浮かべてくれる一夏...そんな一夏を常に見ている内に僕も一夏とずっと一緒にいたいだなんて思うようになった。
ホワイトルームにいた頃はこの気持ちが何なのか分からなかったが、高度育成高等学校に入学して暫く経った今なら理解できた。
そう、これは...恋。僕は一夏の事が好きになってしまったのだと。
そんな一夏だが、実は僕が1つだけ気に入らない部分がある。
...それは彼女が綾小路清隆に恋愛感情を抱いているような気がするという点だ。
本人は単なる崇拝だと言っているのだが、僕から見たら憧れなんて軽く飛び越えて綾小路を愛しているようにしか見えないのだ。それぐらい、一夏の綾小路に対する執着は凄いと言える。
当時、綾小路と直接話した事なんてないはずなのに一夏が彼の人柄を褒めまくっていたのは何か引っ掛かったがそんな事は考えるだけ無駄だろう。
(ねぇ、一夏...何で僕じゃダメなのか?)
一夏の事が大好きな僕から見れば、当たり前だが彼女に大切な人と結ばれて幸せになってほしいと願っている。しかし、その相手が幼なじみである僕ではなく綾小路だというのは不満だ。僕は綾小路に嫉妬しているのだろうか...
正直、この僕がどれを取っても綾小路に勝てるなどとは思ってないし、ましてや彼を退学に追い込む気もない。だけど、彼と少しでも良い勝負をして【自分以外のホワイトルーム生は大した事はない】などと考えているであろう、彼の思考を上回りたい...そう、綾小路清隆と同じ施設の後輩という名に恥じない実績をあげたいと思っている。
そうすれば、一夏が自分に好意を向けてくれる可能性もあるかもしれない。
(決めた!最終的には負けてしまうだろうが、綾小路清隆と戦って少しでもかっこいいところを見せる!一夏の心が揺らがせるほどに...)
まぁ...とはいえ、最終的に一夏が心変わりなどせずに綾小路清隆を選んだという場合でも僕は口では文句を言いつつも、二人を素直に祝福してあげるつもりだ。憎悪が抜けた今の僕が一番願っているのは他でもない、彼女に幸せになってもらう事だからだ。
(綾小路清隆...あなたがホワイトルームの最高傑作と呼ばれるならば、その実力で一夏を完全に自らの女にして彼女を幸せにしてあげてください!...油断していると隙を見ていつでも僕が一夏を奪いにいきますよ?)
一夏。君に出会えて本当に良かったよ...
次回から第5章に突入!
一夏ちゃんはクラス移籍しちゃう?
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ホワイトルーム生最強のコンビ! Bクラス
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暴君と忠犬の中間管理職? Dクラス
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無難に平穏に過ごしたい! Cクラス
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クラス移籍なんてしないもん!