ようこそ一夏ちゃんが逆行する教室へ   作:たかきょう

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閑話.白き最高傑作の思惑 ④

 

 

2学期が始まった直後に突如として開催された満場一致特別試験。

 

 

ルールとしては学校側が出題した課題にクラスメート全員で用意された選択肢に投票する。そして、いずれかの選択肢で満場一致にならないといけないという至ってシンプルなもので、試験自体の難易度もはるかに低いものだ。

 

 

まぁ...それは、クラスの総意に背く裏切り者が現れなければの話だが...

 

 

実際に俺達のクラスは5つの課題の内の4つを無事に乗り越えていたのだが...問題は最後の課題の内容だった。

 

 

クラスメートが一人退学になる代わりにクラスポイント100を得る。

 

 

この課題において約一名が賛成の選択肢に投票をし続け、それが第11回投票まで変わらなかったのだ。

 

 

そのため、最終的にクラスポイントが300も引かれるよりは賛成の選択肢に投票をし続けている一人を退学に追い込んだ方が良いという結論に至り、最後の課題を賛成で満場一致する事になった。その結果、俺達のクラスから退学者が出る事はほぼ確定となった。

 

 

櫛田はここぞとばかりにクラスのリーダーである堀北か、賛成での満場一致を主導した俺が退学になるべきだと周囲に訴えている。

 

 

だが、俺には分かっている...ずっと賛成の選択肢に投票し続けていた裏切り者の正体はお前だと言う事を。

 

 

「......櫛田、お前だ。」

 

 

賛成の選択肢に投票し続けている裏切り者として、俺から名前を挙げられた櫛田は当然のように必死になって否定しており、普段から櫛田と親しい人間達も俺の主張を言い掛かりだと騒ぐ。

 

 

そこで、俺は櫛田の過去の話や堀北や俺の退学を狙い続けている事を合理的に説明し、トドメとして俺が櫛田から身を守るために結んだ契約の音声を暴露した結果、クラスメート達にこれまで隠し続けていた櫛田の本性が完全にバレてしまい、櫛田が退学者に選ばれる流れに傾いていった。

 

 

そんな時...堀北が口を開き、櫛田は裏切ってはいたが備え持った実力や人脈や有用性は確かのため、櫛田を退学させるべきではないと言い出したのだ。

 

 

そうなると、混乱してしまうのはクラスメート達だ。櫛田を残すとなると別に誰か一人を退学に追い込まなければならないからだ。

 

 

ちなみに俺の中では櫛田の代わりに退学者として指名する相手は決まっている。

 

 

(愛里...お前には悪いがクラスのために犠牲になってもらうぞ。)

 

 

このクラスでOAA最下位且つ、気弱で友人が少ない佐倉愛里。彼女を犠牲にするとなれば他のクラスメートからの賛成も集めやすいだろう。少なくとも、OAAの数値は同レベルでもコミュニケーション能力に長けている池を標的にするよりかは効率が良い。

 

 

その一方で愛里を可愛がっている波瑠加は俺の選択に当然激怒するだろうし、これによって綾小路グループは崩壊してしまうだろう。だが、俺は既にグループから抜けるつもりでいたのだ。特に大きなデメリットはないと見ていい。大方、堀北も俺と同じ考えだろう。

 

 

(さて、始めるか...)

 

 

とはいえ、愛里はOAAが低いというだけでクラスに対する裏切り行為を行ったわけではない。それなのに退学に追い込みでもすればクラスメート達は愛里の退学を主導した人物に不信感を抱くだろう。だったら、クラスのリーダーである堀北よりも俺が憎まれ役になった方がいい。

 

 

そう考えた俺が『佐倉愛里を退学に』と発言しようとしたその時だった。

 

 

『清隆先輩!感情についてよく知りたいなら...時には合理性や損得勘定じゃなくて、自分が思うがままの選択をしてみるのも良いかもしれませんよ!』

 

 

脳裏によぎったのはいつかのデート帰りに天沢に言われたあの一言...それと同時に俺は綾小路グループの今までを思い出していた。

 

 

去年のペーパーシャッフル試験の勉強の際に波瑠加からの提案で結成された綾小路グループ...俺も事の成り行きでグループに参加してあいつらと関わっていった。

 

 

自作自演とはいえ、掲示板に俺の噂が書き込まれた際にはあいつらは俺を庇って俺のために怒ってくれた。さらに2年生になってからは一緒に遊びに行く頻度も増えていった...

 

 

「私が退学すべきと考えるのは...佐倉愛里さんよ。」

 

 

「なっ!?」

 

 

俺が心の中でそんな事を考えている間にも話し合いは続いており、遂に堀北が愛里を退学者に指名した。当然のようにクラスメート達は困惑しており、綾小路グループのメンバー達も反論していたが堀北が愛里を退学者に指名した理由を説明すると何も言い返せずに項垂れていた。実際に愛里がOAA最下位でクラスのお荷物というのは決して間違った意見ではないからだ。

 

 

こうして、クラスメート達の雰囲気が愛里の退学へと一気に偏っていった。

 

 

「なぁ、波瑠加...」

 

 

「嫌だ!嫌だ!」

 

 

しかし、波瑠加はそれでも納得はできない様子で必死になって愛里を庇っている。とはいえ、それはあくまで感情論で意見としては弱い。愛里の今後の有用性を挙げなければ堀北も納得はしないだろう。

 

 

「ねぇ!きよぽんからも黙ってないで何とか言ってよ!?このままだと愛里が退学になっちゃうんだよ!?」

 

 

遂に波瑠加が涙を浮かべながら黙っていた俺に助けを求めてきた。愛里も俺にすがるような視線を向けてくる。

 

 

「そうだな...」

 

 

正直、愛里を見捨てても俺の中で罪悪感なんてものは芽生えないだろう。愛里レベルの人間などすぐに代わりを探しておけば問題はないし、逆に俺の今後の足枷になりかねない要素を消す事ができるならそれはメリットであるとまでいえる。

 

 

一方で愛里が退学に追い込まれれば綾小路グループの関係性に大きな亀裂を生み出す事になる。最悪の場合は綾小路グループが崩壊してしまう可能性すらあるのだ。

 

 

さっきまではグループを抜けてもいいと考えていたはずだった...だが、俺は心のどこかで綾小路グループに居心地の良さを感じてしまっていた事に今さらながら気づいた。そして、それが少しでも長く続いて欲しいと思っていたのかもしれない。

 

 

 

 

だからなのだろうか...

 

 

 

 

「堀北、俺は愛里の退学には賛成する事はできない。」

 

 

 

 

この日、俺は人生で初めて()()()()()()()()()()()全力で戦う決意を固めた。

 

 

「きよぽん!」

 

 

「清隆くん!」

 

 

俺の言葉に波瑠加と愛里は歓喜する。

 

 

「どういうつもりなのかしら?まさか、あなたは長谷部さんと似たような理由で佐倉さんを庇ったりはしないわよね?」

 

 

「あぁ、愛里自身の実績とクラスに残すにあたっての今後の有用性について説明しておこう。」

 

 

納得がいっていないであろう、堀北に教える形で俺はクラス中に語り始めた。

 

 

「去年の7月に当時のCクラスによって引き起こされた須藤の暴力事件を覚えているか?」

 

 

「えっ?あぁ、確か綾小路と堀北が審議に出廷したんだよな?」

 

 

俺からの問いに池が返答する。まぁ、普通はそこまでしか知らないだろう。

 

 

「いや、実は証人として愛里にも協力してもらっていたんだ。その場にいた堀北と須藤は知っているはずだ。」

 

 

「おっ、おう!そういえばそうだったな!」

 

 

クラスメート達の大半が知らされていなかった事実に周囲がざわめきだす。それにしても、当事者である須藤が覚えていてくれていたのは非常にありがたい。これで俺からの口からの出任せとは思われないからだ。

 

 

「愛里が持っていた当時の写真がきっかけでこちらが不利だった戦況が一気に変わり、最終的にあちら側の訴えの取り下げに持っていく事ができた。」

 

 

実際に奴らが訴えを取り下げた本当の真相を知るのは俺と一之瀬の二人だけなため、この場では何とでもいえるのだ。

 

 

「もし、あのままCクラスが勝っていた場合は須藤は最低でも停学になるのは確実。須藤にとって冤罪を被せられた挙げ句に勝てなかったというショックと怒りは計り知れないものだっただろうし、下手をすれば本人にとって一番の見せ場ともいえる体育祭でも万全のパフォーマンスができていたかも怪しい。何より、クラス自体の士気も完全に低下していただろう。当時の俺達のクラスポイントは100にも満たない状況だったというのにここまで巻き返す事ができたのは無人島試験でクラスで団結して1位になる事ができたからだ。クラスの士気が下がっている状況で全く同じ事ができたとお前達は言えるのか?」

 

 

静かになったクラスメート達を尻目に俺はさらに言葉を続ける。

 

 

「よって、愛里は当時のクラスの士気を上げているという点ではクラスに貢献している事になる。」

 

 

「待ってちょうだい。確かに佐倉さんが証人として協力したのは事実。だけど、彼女はすぐには名乗り出なかったわ。」

 

 

「当時の須藤の性格を考えれば『面倒事に巻き込まれたくなかった』という愛里の気持ちも分からんでもない。これは愛里に限らず、当時の須藤を快く思っていなかった奴らもすぐには協力しなくても不思議ではない。」

 

 

当時のクラスはお世辞にも団結できているとは言い難かった。すぐに名乗り出なかった事に関しては愛里だけを責めるのはあまりにも酷だろう。

 

 

「愛里は確かにOAAはクラス最下位で足を引っ張っていると見なされても仕方はないだろう。だが、俺が言ったようにクラスに貢献しているのも事実。優秀とはいえ、改心する保証がない裏切り者を残してまで消さなければならない人材とは言えないんじゃないか?」

 

 

「うっ、それは...」

 

 

櫛田は優秀だが、流石にこれから100%改心させて今後もクラスのために最大限のパフォーマンスをやらせるというのは難しいだろう。何せ、櫛田がクラスメート達の秘密を暴露してしまった事でクラス中の櫛田への敵愾心は高まっているだろうし、本人も自暴自棄の様子では今までのように動いてもらう事も難しい。堀北も内心ではそれが分かっているのか俺の意見には反論はできない。

 

 

「じゃあ、櫛田で良いんじゃねぇの?」

 

 

「そうよ!退学になるのは櫛田さんで良いわよ!」

 

 

これにより、再びクラス中が櫛田を退学者に選ぶ流れに偏っていった。

 

 

「......」

 

 

当の櫛田は無言だ。俺に裏切り者だとバラされたあの時点で既に自暴自棄になっていたのだ。今さら自らの退学など恐れてはいないだろう。当事者の反論もない以上、これは決まったも同然だった。

 

 

「綾小路くん...」

 

 

「堀北、文化祭については心配するな。櫛田の空いた穴を愛里は確実に補うだけの実力を持っているからな。」

 

 

現役のグラビアアイドルがメイドとして接客してくれるメイド喫茶は間違いなく大きな武器となるだろう。以前までの俺なら一般常識の無さからその事には気づけなかっただろうが天沢と何気ない会話をする内にその重要性に気づいたのだ。

 

 

また、愛里にとっては初めて己の真の実力が発揮できる舞台だ。クラスメート達も驚く事だろう。

 

 

「分かったわ。あなたの言葉に賭けてみる。だけど、その言葉...決して忘れないでちょうだい。」

 

 

「あぁ、もちろんだ。」

 

 

こうして、俺達のクラスは櫛田桔梗を退学者に指名して満場一致試験を終えたのだった。

 

 

 





清隆に人間味がありすぎな気もしますがそこは一夏ちゃんとの絡みで思うところがあったという事にしておいてください。

今後、一夏ちゃんとの絡みが見たいのは?

  • 最大のライバル!軽井沢恵
  • ヤンデレヒロイン...一之瀬帆波
  • 文学少女ヒロイン。椎名ひより
  • 負けヒロイン...佐藤麻耶
  • 愛すべきドラゴンボーイ。龍園翔
  • かませ犬?南雲雅
  • ある意味、ライバル?平田洋介
  • その他(コメント欄にて)
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