とある傭兵のクソ映画   作:何もかんもダルい

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とある傭兵のクソ映画

「そんで? 俺に護衛してほしいってか」

「はい、どうかお願いできませんか?」

「……キヴォトスの生徒の方が強いはずなんだがねぇ。ま、いいさ。金は貰っちまったからな」

「ありがとうございます」

 

 どうせ死ぬからな。

 そう思ってた。

 

「よう、アンタが先生か?」

「貴方は?」

「ちょっとしたツテでな、アンタの護衛を頼まれた……あー、傭兵とでも呼んでくれや」

 

 名前は呪いだ。

 名前が無ければいつか忘れ去られる。

 忘れ去られたいから名前を自ら捨てた。

 

「悪ぃなお嬢ちゃん。これでもベテランでよ、そう簡単に負けるわけにゃいかねーんだわ」

「……面倒ですわね」

「そうそう、人生ってのは面倒だよなぁ……俺みたいになんなよ、狐のお嬢ちゃん」

 

名前は呼ばなかった。

覚えれば覚えただけ苦しいから。

苦しいのは人生だけで十分だ。

 

「俺を信じられねぇならそれでいいさ。でもあのお人好しの兄ちゃんだけは信じてやってくれや」

「ふぅん、何で?」

「傭兵ってのはようは金の代わりに暴力を出す商売だ。金さえあれば何だってする。そんなの信じるだけ損だろ? ……けどアイツは違ぇよ。損得勘定なんざ投げ捨てて、目の前で子供が困ってたら砂嵐の中だろうが血の池と剣山の地獄だろうが迎えにいく。要はイカれてんのさ」

「うへ、すごいね〜……」

「だろ、ドン引きだ。だが、だからこそ信じられる。『アイツは必ず来る』ってな」

 

ただひたすらに眩しかった。

金だけを求めて藻搔いていた自分がアホみたいで、目を背けた。

どうせ他人で、そして俺は大人だ。

大人なんだから自分で責任取らなきゃな。

 

「『ヘイロー偽装展開』」

「っ、傭兵!!」

「大丈夫だよ先生。責任くらい自分で取れるさ」

 

クソ大蛇を相手にして、鬼札を切った。

「天寿を全うする」……その概念を神秘と規定し、その瞬間を強引に「今」へ持ってくる絶対即死の一撃。

デメリットは言わなかった。

言ったらキレるだろうからな。

面倒だろ、そういうの。

 

「はい! アリスは傭兵をパーティに加えたいです!」

「そっかぁ、でも残念だなお嬢ちゃん。俺はもう先生のパーティに入ってんだ」

「そうなのですか? 残念です」

「そうだな、だからお嬢ちゃんが先生をパーティに加えれば俺は付いて来ざるを得ないって訳だ」

「傭兵!?」

「先生!!」

 

眩いばかりの純真さを見た。

曇らせたくないと切に願うほどの、暖かな太陽の煌めき。

関わってる間は、自分を真人間だと勘違いできた。

 

「貴方なら分かってくれると思ったのだけれど」

「悪ぃな。俺の仕事は先生の側につくことなんだわ」

「……そういうことじゃないのだけど」

「……適当こいて悪かったって。理由なんざ単純だよ。人殺しで街を救うなんて、ガキが背負っていいもんじゃあねーだろ?」

 

痛いほどの献身を見た。

報われてほしいと叫びたくなるほどの、安らかな夜景の煌めき。

敵対している間は、自分を偽善者だと勘違いできた。

 

「ん〜……」

「ここ、参考にしてみな」

「えっ……あ、分かった!」

「ヒントさえありゃ気づくのは賢い証拠だ、流石エリート」

「傭兵は頭がいいんだな」

「俺みたいな独り立ちしてる連中ってのは特にな。武器から何から手前で出来なくちゃ這い上がれねぇんだ。帳簿も得意だぜ?」

「そうなのか……大変なんだな」

「まあな、ただ俺から言わせて貰えばそっちの方が大変だぞ? 毎日毎日お行儀よくとか息が詰まって死んじまう」

「あはは……でも何事も練習ですよ」

「そういうもんかねぇ……」

「あら、そんな熱い視線を送られては……ふふ」

「変な言い方しないでよ!?」

「…………やっぱ大変そうだ」

「あはは…………」

 

穏やかな学生生活というものを見た。

誰しもが欠点を抱えていて、誰もが何かに苦しんでいる、そんな当たり前を。

子供は煩くて嫌いだと思っていたのだが、存外4人を担当して過ごす日々は悪くなかった。

 

「……やっぱ、あるんだな。紛争地区。キヴォトスにも」

「傭兵さん的には複雑だったりするのかな」

「そらそうだろ。手前の人生のアホさ加減知ってりゃ尚更────だから、だ」

 

久々にイラついた。

自分で選んだのならいい、環境に流されたのなら仕方がない。

だが、それはそれで、これはこれ。

 

「テメェからそんな道に行くんじゃねぇよ。歯ァ食い縛れアホガキ、俺は先生さんみたく甘くねぇぞ」

 

 

 

「───ブチ殺す!!!!」

 

初めて腹の底から怒りを叫んだ。

全ては虚しい? 何だそれは。傭兵(オレ)を虚仮にしているのか?

 

「忌々しい……何なのです、それは!!」

「黙れ、死ね」

 

金さえ払えば何をしてもいいとでも思っているのか。死ね。

自分の道具ならどう扱ってもいいと思っているのか。殺す。

ああ思っているんだろうな。殺すから死ね。

 

「お前のような塵に何が出来ると!? 私に跪いていれば……!」

「……気が変わった。もういいわお前」

 

いいや辞めだ、前言撤回、天寿なんぞお前には勿体無い。道半ばで転落してそのまま無様にもがけばいい。

死という救いなんざこいつには与えてやらない。

 

「『ヘイロー偽装反転』」

 

生かしてやるよ。だから苦しめ。

苦しんで苦しんで苦しんで、その果てに死ぬことすらできなくなって生きるがいい。

 

 

「全ては虚しい」

「そうだな」

「生きるって苦しいですよね……」

「ああ、まったくだ」

「なら、何故貴方は生きてるの」

「虚しいからだ」

「……? どういうこと?」

 

あまりにも純朴だった。

生きる方法を知らなかった。

生きることを知らない、ただ利用されただけの子供。兵士ですらなかった。

 

「空っぽの器を何かで埋めようと藻搔いて、今まで生きてきたってことだ」

 

生きることは苦しかった。

生きることは虚しかった。

けれど、だから生きることを諦められなかった。

『貴方の人生はただの悲劇です、あーあ。』なんて終わり方をすると思うと、耐えられなかった。

 

「誰にも悲劇だなんて言わせてなるもんか、同情されてたまるかってな。誰もがバカにしてんのかってキレる三流のクソ映画みたいなハッピーエンドで〆てやるって決めたんだ」

「……」

「生きることは苦しいさ。足掻くことは虚しいさ。けど、それで終わりにするのは耐えられない────おかしいと思うか?」

「……いや、いいや…………それは、ああ────」

 

「そうだったら、いいな」

「そうするんだよ、お前達がな」

 

彼女達は、これからなのだと。

それだけは断言できた。

 

「これでいいだろ、先生」

「あとは任せて、傭兵」

 

誰であっても、なんて無理だ。

だから、選ぶことにした。

 

「シャーレの権限において、新生アリウススクワッドをシャーレ傘下の部活として迎え入れる。顧問は君だ、傭兵」

「了解だ、まあやってみるさ」

 

これからを生きる者達へ、これまでを生きてきた者から。

初めてのことだったが、悪い気分じゃなかった。

 

 

「貴方のような大人は嫌いです」

「そうかい。俺もお前みたいなガキは嫌いだよ」

 

それだけで、だいたい分かってしまった。

キヴォトスという場所に淀んだ歪み。

 

責任を取らない大人。

 

その残酷さ。

 

「ぐっ……」

「PMCっつーからどんなもんかと思えば……昔の部下全員相手にした方がまだキツかったぞ、雑魚」

 

自分が可笑しいのだろうか。

責任とは何なのだろうか。

真面目にしていることはそんなにも気の触れた行いなのか。

 

爆薬で吹き飛ばされ、鉛玉を何度も撃ち込まれ、罵倒され。

知らず知らずのうちに、メンタルが削れていたらしい。

 

「テメェみてぇなのが大人の代表ツラしてっから俺まで割食うんだろうがァ!!!」

「ごがっ、ぼ、やめ……」

 

「そこまでだよ、傭兵」

「……どけ。殺すぞ」

「いいや退かない。生徒たちが怖がってる」

「だから何だ? こんなクソ共をいつまでもダラダラ放置してっからアイツらが苦しむんだろ」

「休むべきだ。今日まで不眠不休だろ」

「いらねぇよ。これよりもっとヤバい環境の仕事なんざいくらでもあった」

 

「休め」

「黙れ」

 

初めて、先生と真っ向から衝突した。

これ以上ないほど泥試合の殴り合いに罵り合い。キヴォトスの子供が怪物じみてるだけで、先生も先生できっちり鍛えていたのだ。

最終的に、クロスカウンターで両者共に脳を揺らして相討ちになった。

 

「どいつもこいつもクソだ。クソしかいねぇ。だから子供もそうなるしかねぇ。そんなのが一番クソだろ……なぁ先生」

「ああ…………まったくだ」

 

────

 

 

「……思い返せば、まー色々あったもんだわ」

 

崩れゆく方舟の中、独り。

その思い出をひとつひとつ確かめていく。

 

「ほんと、此処は最悪だよ。大人共は揃いも揃ってゴミしかいねぇしガキはガキでクソガキしかいやしねぇ」

 

通信機が何かを言っているが、生憎ともう何も聞こえない。

鼓膜は既に破損済み、視界もほんの今さっき潰えた。

 

「あー、わりぃ。何言ってっか分かんねーわ。もう耳から血ィドバドバ出てんの」

 

虚妄のサンクトゥム攻略戦からずっと戦い続け、偽装ヘイローも展開しっぱなしだった。

音を立てて削れていく代償、それは幸運。

()()()()()()()()()()()()()()()()()というものを捧げて、俺は一時の無敵性を得ていた。

だが、それもいい加減素寒貧らしい。

 

生きているだけで死へと向かっていく。

運悪く血管は弾け、運悪く筋肉は断裂し、運悪く骨にヒビが入り、運悪く内臓が損壊していく。

 

「バカでアホでクソだったけどよ。それでも好きだったぜ、キヴォトス」

 

ありったけの感謝を。

今も尚崩れ行く喉笛で、紡ぐ。

 

「当たり前みてぇに毎日ドンパチして、毎日騒いで、それでもお互いごめんなさいで次の日にゃ仲直りだ。そんな奇跡みてぇな日が来るなんて思いもしなかった」

 

引き金を引けばもう終わり。何もかも取り返しが付かなくて、全てが狂っていく。それが常識だった。

だから、奇跡みたいだった。

 

「なぁ、百合園のお嬢ちゃんよ。アンタはよく悲嘆してばっかだったけどよ……楽園は、ちゃんとあったんだよ」

 

ささやかで、とても小さくて、だから誰もが見落としてしまう。

当たり前だから目もくれず、失ってようやく気づいてしまう。

だから楽園は誰の目にも触れなかったのだ。

 

「お前達の生きる、その人生……ささやかな、当たり前の毎日……それがきっと、楽園なんだ」

 

意識が揺らぐ、自己が消えゆく。遂に崩壊が脳へ到達したらしい。

まだ、あと少し。あと少しだけ伝えなければ。

 

「それでも、楽園のパラドックスに悩むなら……立ち止まって、少し見渡してみろ。案外足元にちゃんとあるからよ」

 

これで終わりなのだと思うと、どうにも寂しい。

けれど、きっとこれでいいのだと思える。

 

クソッタレな悲劇を、三流のクソ映画に変えられたのだから。

ほら泣いとけ、お涙頂戴シーンだぞ? ってな。

 

「ああ…………良い、人生……だった、なぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい人生だったんだけどな」

 

言っただろ、三流のクソ映画だって。

生きてたよ、ちゃんとな。

 

どういう理屈かは知らんが、嚮導者のヤツが自分の幸運を根こそぎ無理矢理こっちに投げ渡したらしい。

おかげで奇跡的に意識不明全身損傷の重体で発見され、奇跡的に手術も処置も成功して生き残った。

 

これからどうするのかって?

 

そりゃあ、まだ仕事は継続中だからな。

いい大人が責任ほっぽり出すとか、そりゃダメだろ?




・傭兵
 連邦生徒会長に依頼され、先生の護衛として着任した。
 大人のカードの代わりに「偽装ヘイロー」を保有しており、展開中は生徒たちと同じ身体能力や耐久力、そして「着弾の瞬間を『天寿を全うした』ことにする」という絶対即死の一撃を行使可能になる。ただし、単に展開するだけでも「生存で行使される当たり前の幸運」を消耗していき結果的に寿命が縮んでいく。絶対即死を使えばさらにガリガリと削れていく。
 ヘイローを反転させることで絶対即死は反転し、命中対象が「どんな苦痛を受けても死ぬことが出来ない体」となる。

 アリウスのような陸の孤島状態の紛争地域の生まれ。生きることに絶望し、誰かを頼る事を諦め、それでもたった一人でその手を血に濡らしながら生きてきた。理由は偏に「ただの悲劇で終わってたまるか」という反骨心。
 子供が引き金を引いて戦わなければならない地獄を知っているため、逆に引き金を引いても五体満足で仲直りが出来る(=一流の悲劇をクソ映画にできる)キヴォトスに希望を見出した。

 ベアトリーチェの行いはモロに地雷。存在するだけで地雷原タップダンスしてるレベル。ブチ切れすぎて殺意が反転し永遠に生かす道を選んだレベルでバチクソにキレ散らかしていた。

 その後、行き場のないアリウススクワッドをシャーレ傘下の特殊な部活という立ち位置で引き取る。事件の当事者ということもありトリニティ、ゲヘナ双方どころかシャーレ所属の生徒達との間でかなりいざこざがあったが『文句があるなら今すぐアリウス自治区の情報さらってから同じ経験した俺を納得させる弁論してみろ』でとりあえず黙らせた。

 ちなみにこの後ミカへの過剰ないじめに再度ブチ切れ、トリニティへの殴り込みを計画している。先生が何とか止めた。

 SRT編でウサギ小隊の言葉が地味に刺さり、そこから巡り巡って責任を全うしようとしないキヴォトスの大人たちへの猜疑心と怒りを募らせる。
 結果としてとある事件でカイザーを相手にした瞬間ブチ切れ。ベアトリーチェ戦ですら見せなかったほどの出力で偽装ヘイローを大暴走させ、キヴォトス中のカイザー関係者全員に一生消えないかどうかレベルのトラウマを刻みながらカイザー本社へ凸った。

 精神的に消耗し、かなり極端な選択しか出来ない状態で先生と真っ正面から激突。生徒たちも止めることを躊躇するほどの剣幕で殴り合いの泥仕合を展開し、疲労が限界を迎えた辺りでクロスカウンター脳震盪で双方ダウンした。

 最終編ではカイザーによる掌握時点からプレナパテス決戦まで不眠不休で遊撃を続けており、その間も当然のように偽装ヘイローを展開し続けていた。
 最後の最後に色彩との接続を強引に切断するために天寿の弾丸を行使。幸運が完全に底を突き、全身が自壊して方舟と共に死んだ――――はずだった。

 プレナパテスの最後の足掻きによって幸運の全てを根こそぎ譲渡され、それによって奇跡の生還を果たす。

 その後今までに見たことのないレベルで大泣きするアリウスの姫をどうにかなだめようとする傭兵の姿があったとか無かったとか。
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