達也達から逃げ出してきた沙耶香、特別閲覧室を飛び出し、階段を降りる。このまま逃げ切る。そう思った時彼女の目の前に1人の女子生徒が立ち塞がった。
「はぁ、はぁ、だ、誰!」
「初めまして〜1年E組、千葉エリカでーす。一昨年の中学女子剣道大会準優勝の壬生沙耶香先輩ですよね?」
「それがどうかしたの?」チラッ
「いえいえ、ただ確認したかっただけです」
沙耶香は近くにあった長身の警棒を手に取り構える。
「そんなに急がなくっても、得物を取る間くらい待つのに・・・」
そう言ってエリカはこれを使えばいいのにと言わんばかりに背中に隠していた刀を沙耶香の近くに放り投げる。
「っ、そこを退きなさい、痛い目を見るわよ!」
「これで正当防衛成立ね、ま、もとよりそんな言い訳するつもり無いけど。
じゃあ、真剣勝負ってものをやりましょうか、先輩?」
エリカは警棒を構えると直ぐに沙耶香に近づき横なぎ払い、上から叩きつけ、自己加速で後ろに回り込み更に追撃、沙耶香はエリカの自己加速した先に警棒を振るうもその動きも予測されていてバックステップの自己加速で距離を取った。
「今の動き、渡辺先輩と同じっ!?」
「っ」(そういう感じか)
エリカは沙耶香に休む暇を与えず!更に追撃をしようと迫るが、右手に填めていた指輪からキャストジャミングを放たれ魔法が使えなくなってしまった。その隙を着いて沙耶香が反撃に出て、先程のお返しと言わんばかりに攻撃をする。
しかしそれでやられるエリカではない。反撃を受けたがそれを上手く跳ね除け更に硬化魔法で警棒を強化し沙耶香の持っていた警棒をへし折った。
「そこの刀を拾いなさい、そして貴女の全力を見せなさい。貴女を縛るあの女の幻影を、アタシが打ち砕いてあげる」
エリカは沙耶香の迷いの原因が分かったのか、全力を出してこいと言った。沙耶香もそれに答えるかの様に指輪を捨て、制服の上着を脱ぎ捨て、こんな物には頼らないと刀を拾いながら言う。
「私は自分の力で、その技を打ち破る。私には分かる。貴女の技は渡辺先輩と同じものだわ・・・」
「アタシの技はあの女より一味違うわよ?」
2人はお互い睨み合いその場を動かない。どのタイミングで仕掛けてくるのかよく観察し、何時でも動ける様にする為だ。しかしその勝負は一瞬で方が付いた。
ガギィン!
エリカが自己加速を最大限で使った為に沙耶香はその速度に追い付けず右腕に一撃を貰い刀を落とし、その場に片足を着いた。
「ごめん先輩、骨が折れているかもしれない」
「くっ、ヒビが入っているわね。いいわ、手加減できなかったんでしょ?」
「先輩は誇ってもいいよ、『千葉の娘』に本気を出させたんだから」
「っ!貴女、あの千葉家の人だったの?」
「そうなんだ。ちなみに渡辺摩利はうちの門下生、あの女は目録でアタシが印可、剣術の腕ならアタシの方が上だから」
「・・・・そっか、私」
そう言うと沙耶香は満足した顔でそのまま倒れた。
「これで良かった?」
「うん、ごめんね。変な役やって貰っちゃって」
上の階からエリカ達を見ていたのび太達が降りてきた。
「良いのよ。アタシも、この人と一戦やって見たかったし。よしのび太、さっさと運びなさい」
「え、僕?」
「こんなか弱い乙女に力仕事させる気?」
「・・・・」キョロキョロ
「アンタ、アタシがか弱く見えないわけ?」シャキン
「喜んで運ばせて頂きます!!」
のび太は気絶した沙耶香をお姫様抱っこして逃げるように保健室へと向かった。
保健室
それから大体1時間ほどが経ち、侵入者の大体の制圧が終わり、それと同じくらいのタイミングで沙耶香が目を覚ました。達也、深雪、のび太、摩利、真由美、十文字、エリカ、レオのメンバーがエガリテに入るまでの話を聞くことになった。
保健室の外にいる生徒と共に。
「一年以上前から司主将は魔法による差別の撤廃を訴えかけていました。主将に連れられてブランシュの支部にも行ったことがあります。お兄さんが、日本支部の代表を務めているらしくて」
「そんなに前から・・・」
「・・・私は入学してすぐの時、二科生だからという理由で差別された出来事があったんです。それで主将の話に聞き入ってしまったんだと思います」
その出来事と言うのは当時の剣術部が問題を起こして、それを対処したのが摩利だったようで、沙耶香はその剣技に感動し一手指南をお願いしたらしいのだが、あしらわれてしまったらしい。
しかし摩利も当時のことはよく覚えているようだがその時摩利は
『私では壬生の相手にならないからもっとお前の腕に見合う相手と稽古をしてくれ』
と言ったらしい。
「そりゃ、魔法を絡めれば私の方が上かもしれないが、純粋な剣の道を納めた壬生に剣技で敵う道理がない・・・」
「えっ、じ、じゃあ、私の、勘違い・・・・なんだ、私、バカみたい・・・勝手に先輩の事を誤解して、自分の事を貶めて、逆恨みで一年間も無駄にして・・・」
今まで溜め込んできた、不満、怒り、悲しみ、妬み、その全てが誤解であったことに気がついてしまった沙耶香、彼女の目から今まで溜め込んでいた物が少しづつ溢れてくるように涙がこぼれていった。
「無駄なんかじゃないですよ」
「っ、のび太君?」
「エリカちゃんから聞きました。先輩の剣技は中学の時よりも別人の様に強くなってるって、それって先輩自身が一年間、頑張ってきた証なんじゃないですか?立ち止まらないで前に進み続けたから、今の先輩がいるんですよ」
「のび太君・・・・」
「それに、先輩には時間はいっぱいあるじゃないですか、まだまだ頑張れますよ。摩利さんだって何時でも相手してくれますし!」
「何時でも、という訳にはいかないが。相手いる時なら、尤も役者不足になるがね」
「エリカちゃんだって!」
「何時でもどうぞ〜」
「レオ君は・・・・・サンドバッグやってくれます!」
「いや何やらせようとしてんだよ!?」
「あらいいじゃない、アタシのサンドバッグもやって貰おうかしら。CADの」
「竹刀はともかく警棒はさすがに怖ぇよ!」
「硬化魔法があるなら行けるでしょ?」
「気持ちの問題だわ!」
先程までの重い空気が嘘みたいに明るくなり、沙耶香の顔から笑がこぼれる。
すると1人保健室を出ようとする者がいた。
「・・・・」
「司波、どこに行くつもりだ?」
「・・・・ ブランシュの居場所を聞きに行こうかと」
「聞いてどうするつもりだ?まさか、彼らと一戦交える気かい?」
「その表現は正しくありませんね。叩き潰すんですよ」
達也の言葉に緊張が走った。相手はテロリスト、いくら魔法師である達也でもこれは学生の分を超えている。本来なら警察に任せるべきなのだろう。しかし
「そして、壬生先輩を強盗未遂で家裁送りにするんですか?」
「 ・・・・なるほど、警察の介入は好ましくない。しかし、だからと言ってこのまま放置する事も出来ない。だがな司波、相手はテロリストだ。俺も七草も渡辺も当校の生徒に命をかけろとは言えない」
「当然だと思います。まぁ、最初から委員会や部活連に頼るつもりではなかったので」
「1人で行くつもりか?」
「本来ならそうしたいのですが・・・・」
「お供致します」
「僕も行くよ」
「アタシも行くわ」
「俺もだ」
と、1年組のメンバーはついて行くつもりらしい。その事に達也は内心少し困っている。
「しかしお兄様、ブランシュのアジトの場所は・・・・」
「さっきも言ったが、知らないなら知ってる人に聞けばいいさ」
達也は保健室の備品管理室の扉を開ける。するとそこには聞き耳を立てていた小野先生が驚いた様子でオドオドとしていた。
「え、あっ、その、・・・九重先生秘蔵のお弟子さんをやり過ごそうなんて、やっぱり無理だったか」
誤魔化すのは無理だと思ったのか、小野先生はあっさりアジトの場所を教え、沙耶香の様子を見ると言い全員をベットから離す。
「場所は、町外れの放棄された工場か。車の方が良いな」
「正面突破ですか?」
「あぁ」
「車は俺が用意しよう」
「え?十文字君も行くの?」
「十師族に名を連なる者として当然の務めだ。だが、それ以上に俺もまた一校の生徒として、この事態を看過することはできない」
「ならっ」
「七草、お前はダメだ」
「この状況で生徒会長が不在なのは不味い」
「・・・・分かったわ」
真由美は渋々だが了承、しかしまだ校内に残党兵が残っている可能性があるため風紀委員長の摩利も残る事になった。
駐車場
「遅いぞ野比」
「すみません。ちょっと必要なものを取りに」
「他はもう乗っている。お前も乗れ」
「はい!」
のび太は車の扉を開ける。十文字の言っていた様に他のメンバーは既に座っていた。しかしそこに見慣れない顔が1人
「よう、邪魔してるぜ」
「あ、はい。あの、貴方は?」
「俺は2年の桐原だ」
「1年の野比のび太です」
そこに居たのは桐原と言う2年の生徒だった。一応名前だけは聞き覚えがあり、勧誘期間に問題を起こした人だった様な・・・と思い出していると
「壬生の事、ありがとな」
「え?」
突然、お礼を言われた。話を聞くとどうやら桐原と沙耶香は同じ中学出身らしく、同じく剣道をやっていたらしいが一校に入学して桐原は剣術部へ行ったのだが、暫くして沙耶香の剣技に違和感を覚え、それが段々と確信に変わり誰かが沙耶香の剣を変えた。それが許せない・・・・だから今回ついて行くことになったらしい。
「目的の場所が近いな、司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」
「はい、レオ、お前は硬化魔法で突入後、退路の確保。エリカはレオのサポートと逃げようとした者の始末」
「捕まえなくていいの?」
「余計なリスクを追う必要はない。確実に始末しろ。会頭と桐原先輩は裏口へ回ってください。俺と深雪とのび太はそのまま踏み込みます」
「分かった」
山道を進み続け、すぐ近くに廃工場の入口が見えた。達也はレオに車に硬化魔法を掛けさせ門を破った。
作戦通りレオ、エリカは車の近くで待機、十文字と桐原は裏へ回り、残った3人がそのまま進む。
工場の中に入り警戒しながら奥へと進むが誰も仕掛けてこない。まるでこちらを誘い込んでいるようだがそれでも3人は進む。奥へと続く道の先には大きな扉があり恐らくその部屋に司一がいる可能性がある。
「あの部屋かな?」
「っ・・・・・その様だな、人が大勢いる」
達也は魔法で部屋の中を見ると恐らく30人程の人がその部屋で銃を構えているのが見えた。
ゆっくりと警戒しながら部屋に入り、進んでいくと突然部屋が明るくなった。恐らく排気口を全開にして外の光が差し込んでいるのだろう。
「初めまして司波達也君、そして、そちらのお姫様は妹の深雪君かな?」
「達也君、また僕のこと見えてないらしいけど・・・」
───多分わざとだろうな・・・・
と心の中で思っているが今は目の前の事に集中する。
「お前がブランシュのリーダーか?」
「ほう、これは失敬。僕がブランシュ日本支部のリーダー司一だ」
「そうか、一応投降の勧告をしておこう。全員武器を捨て、両手を頭の後ろに組め」
「ふっははははははは!魔法が絶対的な力だと思っているなら大きな勘違いだよ?」
「そう言いながらおじさん達だって魔法使ってるじゃん、何人かCAD付けてるし、おじさんだって魔法使うでしょ?」
「まあね、手段として使わないでは無いから。そしてそれは司波達也君、君のアンティナイトを使わないキャストジャミングも非常に興味深い技術だからね。まあ、野比のび太君、君にも少し用事があったから壬生沙耶香君に最初に接触させたんだけどね」
「僕に?」
のび太に用があった?少し気になるな・・・
学校内部の事を知っているはずなのに本人には悪いが、のび太に利用価値があるとは思えないと考えていた。それもそのはず、のび太自身は風紀委員としての活躍より問題を起こす側に近いため大した功績は挙げていない。強いて言うならのび太の射撃能力だろうが、それだけでここまでのことはしないだろう。
すると司一は自分のメガネを手に取って真上に放り投げる。
「あぁそうさ、だからこそ・・・・
君達には我々の軍門に降ってもら、バキューン!ぐへぇ!!」
「「・・・・え?」」
『・・・・・え?』
「え?なんかヤバそうなことしそうだったから撃っちゃったけど・・・ダメだった?」
司が何かを仕掛けようとした瞬間、のび太のKYが発生、早撃ちで司の眉間に一発撃ち込んでしまい、周りの人達は何が起きたのか分からずポカーンとしていた。
「・・・・いや、どっちにしろ捕まえる予定だったから、追う手間が省けた」
『ッ!』ガチャ
ようやく思考が追いついてきたのか急いで達也達の方へ銃を向けるが何故か銃が分解されその場に立ち尽くした。
勝てると思わなくなったのか構成員は両手を頭の後ろに組んで跪き、どこから持ってきたのか、のび太がロープで縛り上げる。
すると彼らの後ろの扉が開き、桐原、十文字が中へ入ってくる。
「お?なんだよ、もう終わったのか」
「桐原先輩、裏口の方は終わったんですか?」
「あぁ、会頭もいたし、大した数もいなくってな。それより、そこの眉間に真っ赤な痕がついてるやつは?」
「うぅ・・・・っは!ここは?」
「目が覚めたか司一」
「司一?という事はこの男が今回の元凶か」
「何っ?コイツか・・・!」
司一の名前を聞いた瞬間桐原は魔法を発動し、日本刀に高周波ブレードを纏わせ、切りかかろうとする。が・・・
「ま、待ってくださいよ桐原先輩!」
「邪魔すんじゃねぇ!」
「1回魔法を解除して僕の話を聞いてからでも遅くは無いです!」
のび太の真剣な目を見て怒りが心の奥へ引っ込んでしまい冷静になった桐原は魔法を解除して刀を鞘に納める
「・・・・・・っち、分かったよ。んで何だ話ってのは?」
「それはですね、ゴニョニョ・・・・」
「・・・・・ほう」
「あの二人、何を話しているんでしょうか?」
「分からん、でも、悪そうな顔をしているのは確かだ」
のび太の話を聞いて滅茶苦茶悪そうな顔をする桐原。話が終わるとのび太は深雪の元へやって来てある物を取り出す。
「深雪ちゃん、これ温めてくれない?アツアツで」
「これって、冷凍の、スパゲッティ?」
のび太が懐から取り出したのは学校の食堂の機械の中にある冷凍のスパゲッティだった。何故そんなものを?と問うがこれから使うとしか言われなかったが取り敢えず食べられるくらいには魔法で温める。
「桐原先輩、出来ましたよ」
「おう、さて司一」
「な、なんだ?」
「俺はお前が許せねぇ、本当なら腕の1本でも切り落としたいところなんだが。俺は優しいからよ、これが出来たら許してやるよ」バリバリ
そう言って桐原はのび太から貰った袋を開け、器に移されたスパゲッティと開けた袋を差し出す。
「な、なんだ、これ・・・・何をさせようって言うんだ!?」
「にしし、ただ食べるだけだよ」
「ただし・・・・・・目でピーナッツを噛んで」
「鼻でスパゲッティを食べられたら、ね?」
「・・・・はぁ?!!」
「「「・・・・・」」」
袋の中身は皮を剥いたピーナッツだったが、2人はそれを目、と言うより瞼で噛めといい、更に鼻からスパゲッティを啜れと言い出したのだ。ちなみにそれを聞いて他の3人は引いている。
「そ、そんな事していいと思っているのか?!」
「そんなことってどんな事?」
「俺たちはただ飯を出してるだけだぜ?それこそ
「ぐぬぬぬ・・・・お、おい、司波達也!この2人を止めてくれ!」
「深雪、今日の夕食は?」
「今日は和食に致しましょう。デザートにどら焼きもお作りします」
「それは楽しみだな」
「無視をするなぁぁ!!じ、十文字克人!君は一校の部活連の会頭だろ!?こんな事、させていいのか!?」
「ふむ、魔法の不適正使用をしてるのであればそれを咎めるのは俺の仕事、だが、今のこの場において魔法の不適正使用は確認されていない。ならば、何も咎めることは無い。何処で、誰が、どのような食事の仕方をしていても、部活連会頭としても、十文字家当主代理としても、知るところでは無い」
「つ、つまり・・・・・」
「「ニヤリ、さぁ、お上がりよ〜」」
「ぎゃあああああああああああああ!!」
「なぁ、あれって、司一だろ?」
「そうね」
「なんであんなに鼻の周りが真っ赤なんだ?」
「さぁ、スパゲッティでも食べてたんじゃない?」
「鼻で?」