東京都のとある住宅街にある一軒家、そこに達也と深雪は暮らしている。高校生2人で住むにはかなり大きいが、それは見える部分だけでもだ。二階建ての家に更に地下が存在し、そこでは主にCADの調整や魔法のテストなどを行っている。本日もまた自分の研究に入ろうとした時
prurururur・・・・
着信音と同時スクリーンに“非通知”と表示されていた。普通なら警戒しながら出るか、無視をするのだが達也はためらう事無く通話に出た。
するとスクリーンには軍服を着た男性が映る。
「お久しぶりです。風間少佐」
『久しぶりだな、特尉』
「その呼び方をするということは、秘匿回線ですか?良くもまぁ、一般家庭用回線に入れますね」
『簡単ではなかったがな。特尉、君の家は少々セキュリティが厳しいのではないか?』
「最近のハッカーは見境がありませんから。それで少佐、本日はどのようなご要件でしょうか」
『先ずは、事務連絡だ。本日“サード・アイ"のオーバーホールが完了し、いくつかの部品を最新の物に更新した。それに合わせてソフトウェアのアップデートをして欲しい』
「分かりました。では明朝、出頭致します」
『学校を休むほど差し迫っている訳では無いのだが・・・・』
「いえ、次の休みにはFLTの方へ向かわなければいけないので」
『そうか、では明朝、いつもの所へ出頭してくれ』
「了解しました」
一連の司令を聞き終えると達也は敬礼をしてそのまま終わるかと思っていたが。
『聞くところによると特尉、九校戦には君も参加するようだね?』
───代表入りしてから数時間しか立っていないはずなんだが・・・・一体どこからそんな情報を得たのやら。
「ええまぁ、成り行きで」
『そうか。――気をつけろよ、“達也”」
自分に対する呼び方が変わったことに、達也の目が僅かに細められた。それは上官ではなく旧知の者としての警告を意味し、それは軍の情報を一介の高校生に与えることを意味している。
『九校戦会場である富士演習エリアに不審な動きがある。国際犯罪シンジケートの構成員らしき東アジア人の目撃情報も出た。時期的に見ても、奴らの狙いは九校戦で間違いないだろう』
九校戦ともなれば、将来有望な魔法師が一堂に会することになるだろう。もしそこでテロ事件でも起きれば、人材的な被害は相当なものになるに違いない。
『壬生の報告によると、香港の犯罪シンジケートである“無頭竜”の下部構成員ではないかということだ』
壬生という名字に、達也は表には出さずに反応した。
その人物はおそらく、壬生紗耶香が退院するときに顔を合わせた彼女の父・壬生勇三のことだろう。内閣府情報管理局の外事課長として国際犯罪組織を担当している彼ならば、そのような情報を手に入れたとしてもおかしくない。
そしてそれを風間に話すということは、2人は個人的な繋がりがあるということを意味している。それも、機密情報を遣り取りできるくらいに深い繋がりが。
次の日
その時間は体育でフットサルに似た競技レッグボールと言う競技を行っていた。大まかなルールはフットサルとほぼ同じだが、コートを透明な壁や天井で囲み、高反発のボールをそこにぶつけて反射させながらパス回しを行うという点で大きな違いがある。目まぐるしく攻守が入れ替わるダイナミックな試合展開が多くのファンを生み出している人気のスポーツだ
「オラオラ!どきやがれぇ!!」
レオはボールを達也にパス、達也は一度そのボールを垂直に蹴り上げると、天井を跳ね返って戻ってきたボールを地面に踏みつけて止めた。ボール自体が高反発なので下手に脚で止めようとすると明後日の方へ飛んでいってしまうため、ボールを止めるにはわざわざこうして手間を掛ける必要があるのだ。
達也は一瞬で周りの状況を把握すると、壁に向かってボールを蹴り飛ばした。ボールが壁に反射して軌道を変え、突然のことで反応できなかったディフェンスの間を縫い、味方の中で唯一フリーとなっている男子生徒へと迫る。
その少年は全体的にスラリと細い体をしており、右目の辺りにほくろがあるのが特徴だ。彼は走りながら自分に向かって飛んでくるボールをチラリと見遣ると、即座に立ち止まって絶妙な足捌きでそれを受け止め、ゴール近くに居たのび太に向かってボールを蹴り飛ばした。
「へぶぅ!」
「あっ・・・・」
が、のび太は転び、体が地面に着く直前くらいに頭と同じ位置にボールが来てしまいのび太の額にあたりそのままボールはゴールネットを揺らした。
「ご、ごめん!大丈夫?」
「だ、大丈夫、大丈夫、平気だよ・・・・」
「お疲れ、吉田、のび太」
「ナイスプレーだったぜ、吉田、のび太。意外とやるじゃねーか」
達也たちの試合が終わり、現在は別のグループが試合を行っている最中である。達也とレオは、集団から少し離れた所で腰を下ろす吉田とのび太の姿を見つけ、労いの意味も込めて声を掛けた。
しかし幹比古は、若干困ったような笑みを浮かべて
「・・・・ありがと。でも悪い、名字で呼ばれるのは好きじゃないんだ」
「分かった。それじゃ、これからは幹比古と呼ぶぜ。俺のこともレオで良いからな」
「俺のことも達也と呼んでくれ」
「僕ものび太でいいよ」
「ああ、分かったよ、のび太、レオ、達也。君達とは前から話をしてみたかったんだ」
「・・・・奇遇だな、俺もだ」
傍目には筆記試験で優秀な成績を修めた2人が互いを意識していると受け取れるが、本人達の思惑はそれとは少し別のところにあった。
「特に、のび太とはね」
「え、なんで?」
「君達にはエリカの事で感謝しているんだよ」
「あの時・・・・・・・もしかして、昔のエリカちゃんの事知ってるの?」
「あぁ、前は少しの間だけど
「そうだったんだ」
幹比古の言葉に段々と思いだしてきたのび太、しかしそれ以上のことには口にしなかった。本人がいない所でする話ではない、場所的にも、内容的にも。
「幹比古、話の内容からして以前からエリカと知り合いなのか?」
「まぁね。所謂、幼馴染ってやつ?」
「「っ!」」
「エリカ・・・・」
「知り合ったのが8歳だったかな。幼馴染って呼べるかどうか、微妙なトコだけど。10歳位に今の家に住む様になったんだ。それ以来たまにあったり、メールでのやり取りばっかりだった。ここ半年忙しくって学校の外だと全く顔を合わせられなかったり、あと、『何故か』教室じゃあずっと避けられていたし」
「ぐふっ」
達也が幹比古にエリカの事を聞こうとした瞬間、本人が現れ、幹比古の代わりに達也の質問に答えた。最後の辺り、悪意を感じたが。
「エリカちゃん、なんか先生がこっち睨んでるんだけど?」
「うわっ、やばいな。美月行こ!」
「ま、待ってよ〜」
2人は元の場所まで戻って行った。
それから数日後の8月1日。いよいよ九校戦の会場である富士演習場へ向けて出発する日がやって来た。遠方の学校は早めに現地入りするのだが、会場に一番近い第一高校は例年このくらいの時期に現地へと向かうことになっている。
選手もエンジニアも機材もバスに乗り、第一高校代表組は意気揚々と現地へ向けて出発――していなかった。
「・・・・遅いな」
「ですね」
真夏の炎天下にて、予定の時間から1時間半近く経っても現れない1人の生徒を待つ摩利と達也が、疲れを紛らわすようにポツリと呟いた。摩利は額に滲む汗を懸命に拭っているが、達也は1滴の汗も掻かずに平然と佇んでいるように見える。
と、そのとき
ピトッ
「ッ!?」
「あはは、驚いた?」
頬になにか冷たい物が触れ、それに驚いた達也が後ろを振り向くとそこにはのび太が立っていた。因みに達也の頬に当てたものは自販機で買ってきたものであろうスボーツドリンクだった。
「はいこれ、汗かいてなくても喉は乾くでしょ?」
「あ、あぁ、済まない・・・・」
(今、後ろを取られた。気を抜いていたつもりは無いんだが)
「摩利さんもどうぞ」
「済まないな。ゴクゴク、ふぅ」
「真由美さんはどうしたんですか?」
「家の事情だと」
「遅れてごめんなさーい!」
サンダルのヒールをカツカツと鳴らしながらやって来たのは、真っ白なサマードレスと幅広のつばを持つ帽子を身につけた真由美だった。達也はその姿を見て、手に持っていた端末に表示されていたリストにある真由美の欄にチェックを入れた。これで全員の欄にチェックが入れられたことになり、ようやくバスは出発できることになる。
「ごめんなさい、達也くん、摩利。私のせいでこんなに待たせちゃって」
「いえ、事前に事情は聞いていましたから大丈夫です。それにこうして会長を待っていたのは、皆さんの総意でしたので」
「ふふ、ありがとう。――ところで達也くん、これ、どうかな?」
“これ”というのは、自分が今着ている服のことだろう。
達也はほんの一瞬だけ逡巡してから、口を開いた。
「とてもお似合いです」
「ありがとう。でももうちょっと照れながら褒めてくれると、言うこと無かったんだけどなー」
指を絡めた両腕を腰へと伸ばしたせいで、平均より小柄ながら平均並みの大きさをした彼女の胸がくっきりと谷間を刻んでいた。口を尖らせながら上目遣いで擦り寄る彼女の姿は、思春期真っ只中の男子ならばドキドキせずにはいられない魅力を放っているに違いない。
だが、達也はその“思春期真っ只中の男子”の範疇外だった。
「大変だったんですね、会長。心中お察しします。バスの中でも、少しは休めると思いますよ」
「え? ちょっと、達也くん? 何か勘違いしてない?」
「ほら、真由美。みんな待たせてるんだ、いい加減に乗るぞ」
摩利にそう言われながらバスに連れていかれた。
「そんなに大変だったのかな?」
「『七草家』の一員ともあればそれなりにやることが多いんだろう。それより俺達も乗ろう」
「そうだね」
そう言うと2人は“何故か”作業車に乗ってしまい、そのまま出発してしまったのだった。
「いやー何気に一緒にいることが多いから、つい・・・・」
「はぁ・・・・まぁ目的地は同じだから問題は無いか。委員長には連絡しておけよ?」
「さっき連絡したらため息つきながら了解って言ってた」
「なら、いいが」
「そう言えば、大丈夫かな。バスの中」
「何がだ?」
「いや、その、ね?出てくる時深雪ちゃんの様子がちょっとね」
深雪の名前が出て、少し不安にはなっているが今の自分ではどうにも出来ないであろうと考え確か席が近かったはずのほのかや雫が何とかしてくれるであろうと希望的観測をする。
「そうだ、着くまで暇だからトランプでもやらない?」
一方バスの中
「はぁ・・・・」
「おい、何度目のため息だ。2時間位我慢出来んのか?」
摩利のその言葉に、ボーイッシュなショートヘアを持つ凛々しい顔つきの少女――千代田花音は、彼女の言葉がスイッチとなったのか、途端に不満を爆発させる。
「私だって、2時間や3時間ぐらいは待てますよ! でも今回は啓も技術スタッフとして選ばれて、すっごい楽しみにしてたんですよ! 今日もずっとバスの中では一緒だと思ってたのに! ――なのになんで、技術スタッフは作業車なんですか!」
彼女の言う“啓”とは、現在のび太達と一緒の作業車に乗っている五十里啓のことだ。実はこの2人は許嫁同士であり、そのラブラブっぷりは校内でも割と有名だったりする。
「バスの席だってまだ充分にあるし、足りなければ2階建てでも3階建てでも持ってくれば良いんですよ! どうせ移動中は作業なんてできないんですから! ああもう、納得いかーん!」
「毎度のことながら、おまえは五十里のこととなると人が変わるな・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
前方の席、そこには深雪、ほのか、雫が横並びなっていてその場の空気は重く、とても話を掛けられる雰囲気ではなかった。
「えっと・・・・深雪、お茶飲む?」
「ありがとう、ほのか、でもごめんなさい。今はそこまで喉が渇いていないの。だってこの炎天下の中、わざわざ外で立たされてたわけじゃないんだもの」
なるべくその話題には触れないように声をかけたつもりのほのかだったが、完全に地雷を踏みに行ってしまい、隣の席の雫にも、「達也さんを思い出させてどうするの」と言われてしまった。
「誰もやりたくない仕事を率先して引き受けるのが、達也さんの良いところだと思う」
と、そのとき、今まで無言を貫いていた雫がふいに口を開いた。
そしてその言葉に、深雪がチラリと彼女へ視線を向けた。誰に向けるでもない不満や怒りで溢れていた彼女の目に、自分の兄が褒められたことへの嬉しさがほんの少しだけ見え隠れする。
ここがチャンスだ、と雫が畳み掛ける。
「バスの中で待っていても文句を言う人はいなかったと思うけど、達也さんは“選手の乗車を確認する”という仕事を立派にやり遂げたんだよ。どんな仕事でも手を抜かずに、しかもそれを当たり前のようにこなすなんて、なかなかできることじゃないよ」
「そうだよ! 達也さんって、本当に素敵な人だよね!」
と、ほのかも雫に乗っかり。その甲斐あってか先程までの重苦しい雰囲気は無くなり、深雪も上機嫌になった。
「そう言えばなんでのび太君は作業車の方に行っちゃったんだろう」
「飲み物買いに行って、いつもの癖で達也さんについて行っちゃったみたい。その時渡辺委員長と達也さんに飲み物渡してたの見たよ?・・・あっ」
「っ!!そ、そうよ、何故私はお兄様にお飲み物を差し入れなかったの・・・・」ズーン
「ほのか〜・・・・!!」
「ご、ごめーん!」
その頃、作業車では
「達也くん、クローバーの5、止めてない?」
「なんの事だ?」
「あ、僕もスペードの9が欲しいな」
ほのか達の苦労も知らず、七並べを楽しんでいた。
「お義母さん、何をやってもダメだったあの子が、学校の代表に選ばれて大会に出るんです。どうかあの子に力を貸してあげてください」
『おばさーん。迎えに来ました!』
「はーい、あ、そうだ。一応“あれ”を持っていきましょう」